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ウミユリ海底譚①

 俺はある日、ヒロに呼ばれた。どうやら、個別で要注意人物の報告をしているようだ。

「━━って事で、注意すべき人物は紅蜘蛛 華、観蛇 刻、ダン・レストレード、天代 叶依、明平 ジェイキー、それとお前達と戦った後に幹部へ昇進した清水 嶺乃。あと…………」

 ヒロが少し言い淀む。

「……もう一人、製作所の人間で注意するべき人物がいるんだ。今回、個別で要注意人物の通達をした理由もこの人物が原因だ」

「へえ、誰?」

「通称『ジェーン』と呼ばれている。正式な名前は定かではないが……諜報部の話によると、石川という苗字らしいんだ」

「石川……え、石川って」

「そう。行方不明となっているシンジの母親である可能性が高いんだ。これをシンジが知れば、行動を制御する事が難しくなるだろう。だから、絶対に伝えないようにしたいんだ」

「なるほど……事情は分かった。だけど、シンジさんは真剣に母親の事を想っている……隠したままってのは酷じゃねえか?」

「そうだが……お前だって、敵側にハルがいるってなれば正気じゃいられないだろ?」

「そりゃあ……」

「事が全て終わればしっかりと伝えるつもりだ。だから、今は黙っておいてくれないか」

「分かったよ……じゃ、俺は見回り任務行ってくるぜー」

「おう」

 俺は刀を持って拠点を出ると、普段見回りに行く区画とは違う場所に見回りへ行った。レスパリ側の怪しい動きに警戒して、配置換えを行ったようだ。

(海沿いか……任務終わりにハマ爺の店まで行くの遠いな。っていうか、普通に行くのさえも遠い……)

 俺がダルそうに歩き出すと、後ろから風を感じた。振り返ると、固有守護獣(ガーディアン)であるオウルベルドに乗っているショウタさんが立っていた。

「リクも八百道らへんの見回りだろ? 乗ってくか?」

「あぁ! ありがとうございます!」

(よかったぜ……これで往復の面倒くささがマシになった)

 俺はオウルベルドの背中に乗ると、ショウタさんも乗り込んで飛び始めた。オウルベルドに運んでもらう時は、毎度毎度足で掴まれて雑に移動してたからな……背中で安定して乗れるのは久しぶりだ。

「八百道って……ドーム跡とかタワー跡がある場所ですよね?」

「そうそう、タワー側は誰のシマでもないから立ち入らないけどドーム側はしっかりと警備しないとね」

「そうですね……気合い入れて行きましょう!」

「そうだな」

 しばらくオウルベルドの上から景色を堪能していると、ドームがハッキリと見えてきた。

「あそこの上で一旦止まるよー。ドームの屋根は少しだけ開いてるから、その隙間から入ってドームの出入り口から出てね。」

「分かりました!」

 そうして、別行動が始まった。俺は廃墟を化したドームの出入り口から外へ出ると、閑散とした広い空間が広がっていた。ここら一帯は、普段行っている街のようなビル群が無いため、スラムの中でも人が寄り付きづらいようだ。

(さて……どっから見ようかね)

 俺はひとまず、ドームに併設するショッピングモールの地下駐車場に入った。すると、ほとんど真っ暗な場所の中に数十のテントや焚き火跡があった。

(ゔぅ……この香り…………絶対ここでヤクのパーティーでもやってたんだろうな。最悪だ)

 アウトローな薬物の香りを誤魔化すために、俺はポケットからタバコを出して汎用属性で火を付けた。軽く鼻に通して煙を吐くと、少しだけマシになった。そこで、奥の方に光る何かがある事に気がついた。

(……なんだアレ。蛍光灯? いや、こんな所に電気が通ってるわけないもんな。どうなってんだ?)

 少しずつ歩いて近づくと、ヒュッという風切り音が聞こえて俺のタバコの火種を何かが打ち消した。

「……ッ!?」

 俺は急いで刀を抜いた。そして、後ずさりしながら明るい方まで向かった。

(何だ……!? 全く見えなかった……火種を攻撃されたってことは…………相手も見えてないのか?)

 俺は正面に集中しすぎてしまい、つい足元の空き瓶を倒してしまった。カランッという乾いた音が地下駐車場内に響いた。その瞬間、先程と同じ風を切る何かが俺の方へ飛んできた。俺は反射神経を極限まで強化して、刀で弾いた。

 そして、気付くと蛍光灯のような何かが消えていた。

(どこだ!? さっきのやつはどこに……)

 ふと横を見ると、蛍光灯のようなものはすぐそこまで迫って来ていた。そして近づくとやっと、その正体が分かった。クラゲだ。

「あなたは……もしかして一般人? いや、私の守護獣(ガーディアン)の攻撃を弾いたしそんな事は無いか……」

 クラゲが放つ淡い光に照らされて、うっすらと本体の姿が見えた。女性だ。しかも、目が完全に白一色のように見えた。

「あなたは、この私の守護獣(ガーディアン)。『ウミユリ海底譚(かいていたん)』が始末する」 

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