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茜術の神

 工場地帯での戦いからもう五十年が経った。レスパリは、今までの事が嘘のように全く動いていない。ヒロやカイセイさん曰く、この状態が普通らしいのだが……どうにも落ち着かない。ハルの捜索はずっと続けているが、やはり見つからず。本当なら俺はもう初老になっているはずだが、茜術者の不老効果のおかげで二十代前半程度で成長も老化も止まった。そして、大した争いが起きないため当然幹部の席も空かない。

 今日も変わらず訓練と任務をこなして、ハマ爺の店で呑む。

「リク君も十契に入ってから五十年以上経つのかね」

「はい。目的が達成されるか組織が潰れるまではずっと続けるつもりですよ」

「じゃ、今日は契約半周年記念として一品無料にしてあげよう」

「マジっすか!? ありがとうございます!」

 こんな変わらない日々も嫌いじゃない。一万杯以上は飲んだだろうこの酒と、付け合せのツマミ。最近は一人で飲む事が多いんで、飲みながらここ五十年の出来事をぼーっと振り返る事が増えた。

(もう歳かなー……)

 最近の激務も重なって、俺はカウンター席に座ったまま眠ってしまった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 無限に続く桟橋が掛かった、完全に凪いでいる海? のような場所で目を覚ました。空は雲一つない晴天だ。上下を空に挟まれているような感覚になる。

(アレ? 俺、ハマ爺の店で飲んでてそれで……あ、コレ夢だわ)

 目線の方へ続く桟橋は無限に奥まで続いていて歩いて行く気が起きないので、俺は振り返って反対側も見てみる事にした。すると、俺が倒れていた場所のすぐ近くに銀髪の少女が座っていた。桟橋から足を垂らして、凪いだ水面を見つめている。

「うおッ!? え、誰??」

「やあ、リク君」

「え、ちょ誰? なんで俺の名前を」

「私? 私は、この世界に茜術を与えた神だよ」

「……は?」

 状況が全く理解できない。なぜ俺の名前を知っているのか、仮に神だとしてなんで俺をピンポイントで呼び出したのか。

「私は、この世界に茜術を導入した神様だよー。今回は君に伝えておきたい事があってね、こうやって夢に入り込んだ。夢に入れるだけで、こっちの裁量で殺したり脳みそイジったりはできないから安心してねー」

「ここは……?」

「ここは、魂の行き着く場所。本来ここは死んだ人だけが通る場所だよ。そして、この桟橋の先に行き着くべき場所が見える……でも君は生きているから、なんにも見えない。どこまでも道が続いているだけ」

「……そうか、分かった。じゃ、伝えたい事ってのは?」

「うん、伝えたい事は二つ。まず一つ。平行世界に飛ばされた君の両親は昨日、二人とも安らかに旅立ったよ」

「え……」

「君のご両親は、茜術者の争いに巻き込まれる事も無く大病で苦しむ事も無く、安らかに旅立った……安心していいよ」

「そう……か。じゃあ、二つ目ってのは?」

「そうだね、こっちが本題。二つ目は、君が狂ったように探している友人ハルは……今も生きている。茜術者になってね」

「え……!? 今なんて……」

「君の友人、ハルは生きている。と言ったんだよ。とは言っても、私は茜術の管理をしているだけだから詳細な事は知らないけどね。ただ、そうやって伝えるように生命に関する事を管理している神に頼まれただけだよ」

「なんで俺にそんな事を……」

「私が個人的に、君の躍動を気に入っているだけだよ。だから、いい感じのタイミングで希望を与えようと思ってね」

「ハルは…!! ハルはどこにいるんだ!」

「さあ? それは知らないねぇ」

「頼む! 教えてくれ!」

 俺は桟橋に深々と土下座して懇願した。

「知らないものはどうしようもないって……それよりさ」

「へ?」

「逃げたらどう?」

 俺はその一言で顔お上げる。見ると、奥から桟橋がガラガラと崩れて来ているのが見えた。

「タイムリミットみたいだねー。じゃ、精々頑張って楽しませてくれよ」

 俺はその一言を聞き終わるよりも前に全速力で走り出した。

(やべえやべえッ!! 落っこちたらどうなるんだ!?)

 俺の全速力の走りも虚しく、桟橋の崩壊に巻き込まれて俺は水面に落ちた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 俺は眠りから覚めてガバッと起き上がった。見回すと、ハマ爺が店仕舞いの用意を始めていた。もう朝日が登りかけているようで、窓の外に見える道は少し白みだしていた。

「おぉ、起きたねリク君。ちょうど良いタイミングだ。もう閉店だから、また今夜来てくれなー。お代は……半世紀記念でタダにするよ」

「あぁ、ありがとう! それじゃまた今夜来るよ!」

「ん、気を付けてねー」

 店を出ると、街には帰宅する風俗嬢やホスト達がゾロゾロと歩いていた。ここ数十年で気付いたのは、ここら一帯はスラムと言っても治安が悪いだけでインフラもそれなりに整っているので、住心地はそこまで悪くないんだろうなという事。

「んーーーッ、じゃ、今日も任務頑張るかー」

 俺は小声でそう呟いて、まだ若干の寒さが残る春の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 いきなり五十年飛んでびっくりした人もいますかね? この先でも多分、めっちゃ時間が飛ぶ事があると思います。300話程度の物語ですが、かなり長い年月が流れる予定です!


一日二話投稿したのは、ちょっと現実逃避するためです()

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