停戦?
十契の拠点に帰ってきた俺は、ずっと正門に立ってヒロの帰りを待っていた。俺を拠点に届けた後、すぐにワイバーンがまた工場地帯に戻っていったが……どうにも連れて帰ってくるのが遅いように感じる。
(まさか……いや、あの人数を相手に勝つ方がおかしいよな。…………でも……もしかしたら生きて帰って来るんじゃ……)
「リク、お前いつまで待ってんだ。もうすぐ夜が明けるぞ」
シンタロウが後ろから話しかけてきた。振り返ると、どうやらシンタロウもそれなりに怪我をしているらしい事が見て取れる。
「シンタロウ……いや、俺は最後まで待つぜ。例え死体で帰って来ても、暖かく迎えてやるつもりだ」
「そうか……俺は明日も警備の任務が入ってるから、先に休んどくぜ」
「おう、おつかれー」
「じゃあなー……あっ」
シンタロウは急に驚いた顔をして、俺の背後の正門を指差した。不思議に思って振り返り、朝日に照らされ出した正門を見るとそこに立っていたのは……
「よう、リク……ちょっと医務室まで運んでくれねえか…………もう動けん」
「ヒロッ!! 生きてたのか!」
血だらけでぐったりとしているヒロを乗せて立っているワイバーンが立っていた。昇り行く朝日に照らされて、滴る血さえも神々しくも感じる。まさか本当に生きて帰って来るなんて……。俺はヒロを背負って医務室まで全力で走った。チラッと後ろを見ると、もうワイバーンの姿は無かった。
━━━━━━━━━━━━━━数日後━━━━━━━━━━━━━━━━
「あ、リク。今日は拠点横の展望台には近づくなよ?」
「なんで?」
俺はすっかり回復して元に戻ったヒロと、任務終わりにハマ爺の店へ寄っていた。
「今日は、半年に一度の最上幹部会議があるからな。毎回あの展望台で開かれるんだよ。ボス、マイカさん、コウさん、ユイさん、カイセイさんの五人が出席する。その時だけは、ボスも姿を隠さずにそのままで話すらしいんだ。だから、近づいちゃいけない」
「なんで展望台なんだろうな?」
「ボスの思い入れのある場所らしい。なんでも、茜術が世界に広がる前の頃に友達とよく集まっていた場所なんだとか……だからあの展望台まで敷地に入れてるんだ。言ってしまえばあそこは拠点Bだ」
「じゃあ、会議中に近づいたらどうなんの?」
「契約違反だから、普通に処罰対象だぜ」
「……そういや、処罰ってどんな事されるんだ?」
「一番軽いやつだと一ヶ月の減給処分とかだったかな? で、本当に一番重い罰だとマイカさんに処刑される。」
「何したらそんなになるんだ?」
「内通行為とかだな。一度、レスパリから内通者として入り込んであれこれと下らん事をチクってたカスがマイカさんに直接処刑された」
「怖ぇ……」
「そうか? まあリクは実績と信頼が結構あるから別にちょっとやらかしたくらいじゃお咎めなしじゃねえか?」
「だと良いけど」
「あ、俺は今からちょっと前の任務で知り合った女と飲んでくるぜー。じゃ、くれぐれも展望台を覗かないようにな」
「はいよー」
俺は追加の酒を注文すると、天井の淡い照明をボーッと眺める。
(…………ボスってどんな人なんだろ)
「リク君。ボスってどんな人なのか考えているんだろう?」
「あ、ハマ爺……そうですね。この前一度命を救ってもらいましたし。俺に生きる希望を与えてくれたんだ。だから、尚更どんな人なのか気になる」
「そうかいそうかい、まあ儂の口からは詳しい事は何も言えないがな。悪人ではないと思ってはいる。出会った当初、彼はまだ十九歳だった……あの時とは、彼も随分と変わってしまっているがな」
「へぇ……」
「気になるなら、頑張って三眼以上の幹部になる事だな」
「そうですね〜……頑張りますか」
「とは言っても、三眼以上は組織結成以来ずっと入れ替わりが無いがな。もう組織が出来上がって五百年くらいになるが……」
「そう……ですか」
(そんなん、三眼以上になるとか無理ゲーじゃねえか……)
時計の針は午前零時を指している。客が一通り捌けた店内では、ハマ爺のぶっといシガーのリッチな香りのする煙を吸い込む換気扇の音だけが静かに響く。
━━━━━━━━━━━━━━━その頃、展望台━━━━━━━━━━━━━━━
俺は展望台の階段を登り、寂れたフェンスに囲まれる最上階に立つ。そこから見える夜景は、いつ眺めても綺麗だ。スラムの外にあるオフィスビルの一色に統一された白い照明と、スラムの中にある飲み屋や風俗店のカラフルな電灯。その対比が実に美しい。
そんなことを思いながら、俺はフェンスに足をかけて展望台の最上階の上にある屋根を支える柱に掴まった。そして、グイッと体を引き上げて平たい屋根の上に登った。
「カイセイ、遅かったじゃーん」
「いやー、わりぃわりぃ」
「まあ良いだろ、まだ零眼も来てないんだし」
「これで……一眼から三眼は揃いましたね」
このメンツで集まるのも久しぶりだ。組織が結成される前は割とよく集まって話してたんだけどな……。今屋根上にいるのは、ボスの直属隊員マイカ、一眼のコウ、二眼のユイ、そしてこの俺、三眼のカイセイだ。もう少しで零眼も来るだろう。
しばらくダラダラと最近の事を四人で語っていると、下から足音が聞こえてきた。そして、ズズッという音が聞こえたかと思えば一人の男が姿を現した。
「すまないね皆、ちょっと遅れた。久しぶりだなぁ、こうやって五人で集まるのは」
「そうだねぇ、前回はアタシが緊急任務入っちゃってて来れなかったから」
「久しぶりに集まれて嬉しいよ。今日の議題は皆もう分かっているとは思うけど……最近レスパリの動きがかなり大きくなってきた。それに加えて、『アマシロ・レストレード製作所』という所と組んでサイボーグとやらを作っているらしい。七眼も、そのサイボーグに殺されたようだ。対策をどうするか……それに、工場地帯での戦い以降、本当に全く動きが無いのも不気味だ」
「やはり、私と零眼がもっと積極的に動くべきではないですか?」
「そうしたい所だけど……俺もマイカも居なくなったら、誰がこの拠点を守るのかっていう不安が出てくるんだよな。アッチの組織よりも規模がかなり小さいし」
「……俺に任せてくれないか? 俺の凶星なら広範囲攻撃ができる。それに、四眼以下の奴らも幹部じゃない奴らも……もっと信用したらどうだ?」
(零眼は、なぜだかこの場の四人以外をあまり信用していないからな……俺達でさえも完全に信頼されている訳じゃなさそうだし)
「それだけはできない。カイセイには説明すると長くなるが……無理なんだ。マイカなら分かってくれるだろ? 紅蜘蛛華と俺の間に何があったか知っているマイカなら」
「……はい。ですが、やはりこのままでは」
「まずいとは俺も思ってるよ。でもなぁ……」
零眼は困った顔をしている。長年、これは議題に上がってきた事だからだ。俺だって確かに、紅蜘蛛華との出来事を全く知らない訳じゃないし、それが原因で人をあまり信用できないっていうのは理解できる。
このまま会議は、平行線を辿っていった。
本当はこの話を50話に持っていきたかったんですがね……そう上手くは行きませんでした。
第一部の中間は、実質ココです。




