乱入、逃亡
俺は再び走ってレストレードに斬りかかる。奴は雷で反撃をしようとしたが、俺の背後のワイバーンが炎のブレスを飛ばしてそれを抑えた。防御に必死になっていた奴の腹に思いっきり斬りかかる。確かな手応えはあるが、決め手には欠ける。
(コイツ……細い身なりして、俺より茜力の総量も術のパワーも断然上だッ! ボスのワイバーンが助けに来てくれなかったら死んでたかもしれねえな……)
レストレードは雷を球状にして生成すると、自身の周りをグルグルと回し始めた。ワイバーンが空色の炎ブレスを放ったが、電球に防御されてしまう。
「零眼を相手にするのは割に合わない……アンタだけ殺してさっさと逃げるわ」
レストレードの冷たい殺意を含んだ視線が、俺に突き刺さる。すると、ワイバーンは電球に走って突っ込んでいき、翼脚に空色の雷を纏わせると電球を掴んだ。バチバチッという弾ける音が響いた後、電球はワイバーンが纏う空色の雷に吸収された。
「その空色の汎用属性……一体なぜそんな色になるのか…………その威力はどこから出るのか……解明したいもんだねぇ」
レストレードは軽口を叩くが、余裕が無いのが容易に感じられる。これなら勝てそうだ。そんな事を考えていると、俺達とレストレードの間にヒロが滑り込んできた。滑り込んだというより、吹っ飛ばされて滑ってきたという方が正しいか。
「おっと、すまねえなリク。邪魔しちまったか?」
「ヒロ! 大丈夫か?」
「ちとまずいな……このジャックとかいう野郎、他のサイボーグ共とは訳が違うぞ」
「そぉの通りぃ!!!! 俺はこのキャノンさえあればお前らなんて余裕で粉微塵だぁ!!」
(コイツ、また俺と戦った時と同じような状態になってやがる……やっぱ雷で頭トンでるな)
「ジャック、アンタあんまり調子乗ってっとそのブラスターはオミットするよ?」
「あ……すみません。レストレードさん」
(うわっ、急にスンッってなったな。不気味だ)
そして、沈黙が流れる。全員が、動くに動けない状況のようだ。その硬直状態を打ち破るように、乱入者が現れた。コンテナ群を吹き飛ばしながら現れたのは先程俺を逃がした二人。崩れるコンテナからは、強く視界を遮る砂埃が上がっていた。
「……あ! ヒロ……ごめんけどこっち手伝ってくんない? それと、リクは逃げな」
「クリスさん……!? それに、コウさんまで……どうしたんです?」
「どうにも、コイツが思っていたより強くてな……」
そう言ってクリスさんとコウさんが見つめる砂埃の中に、細長い影が現れる。雨に打たれて晴れた砂埃から姿を現したのは、神獣が如き一対の毒牙。バジリスクだ。
「……ジャック、何をしている。お前が幹部をも超える自身があると宣ったから、一時的に製作所へ移籍することを許可したんだぞ。早く仕留めてくれ」
「キザミさん……すみません」
(ジャックのやつ……上司には強く出れないんだな。ま、そりゃそうか)
バジリスクとそれに乗っているキザミはゆっくりと蛇行しながら迫ってくる
「どうします? コウさん」
「……落ち着きな。俺とクリスはこのままバジリスクを遠くに誘導しよう。俺の固有術の関係で、混戦は避けたいからな。そして、ヒロとリクが相手にしているコイツらはそのまま二人に任せよう。とりあえず、俺達はこのままアッチに逸れるぞ」
「了解」
二人は、そのままバジリスクに攻撃しつつ誘導してフェードアウトしていった。
「リク……ちょっと状況が思ってる以上にまずいんで、お前は先に逃げててくれねえか?」
ヒロの予想外の提案に困惑する。
「は? なんでだよ。俺ぁ十分に戦えるぜ! このワイバーンと一緒ならあのレストレードとかいう女にだって……ッ」
「いや、それでも超危険な事に変わりはない。成長性のあるお前に死なれたら困るんだよ」
「死にゃあしねえよ! お前らに鍛えてもらったんだからな」
「ダメだ」
「じゃあ……仮に俺は逃げたとして、お前はどうすんだ? この二人相手に勝てるのか?」
「…………」
「お前が死んだら俺が困る。だから俺は残るぜ」
「……ワイバーン! リクを安全な場所に連れていけ!」
ヒロのその声で、俺の体は宙に浮かんだ。片足で掴まれているようだ。
「待て! おい! 待ってくれよ! 俺はまだ戦えるぞ!」
しかし、ワイバーンは俺の方を見ることさえもせずに上昇していく。
「いいのか? リクの野郎を巻き込まなくてよぉ。お前、孤独死したい派の変わった人間か? まあいい。もう既にお前は包囲されてる。生きて帰れるだなんて思うなよ! 勝ち目があるとでも思ってんのか!!」
「…………ッ」
そうれもそうだ。かなり消費してるヒロと、ピンピンしてる改造体ジャックではどちらが勝つかなんて考えなくとも分かる。そして少し高い位置から見て初めて気づいたが、物陰からサイボーグ達が様子を伺っているようだ。俺はなんとか逃げれるようで、サイボーグ達は俺を気にも留めずヒロを凝視している。益々、ヒロの勝ち目が無くなっていく。
上昇する俺とワイバーンをレストレードが止めようと、コンテナの上に登って飛びかかってきた。だがワイバーンは、グルッと回って尻尾でレストレードを野球ボールのように打った。
レストレードは、そのまま海の方へと飛んでいった。そして海ポチャしたように見えたが……どうせあの程度じゃ死なないんだろうな。今はほとんど夏だから、凍死もありえない。そして俺は抵抗する事もやめて、刀を鞘に収めると大人しく連れ去られた。十体程のサイボーグに囲まれて必死にジャックと戦うヒロの姿が見えるが……もう、俺ができる事は無事を祈ってやる事くらいだ。
━━━━━━━━━━━━━━━数時間後、工場地帯━━━━━━━━━━━━━━━
俺はタバコに火を付けて、ゆっくりと煙を吸い込む。そして、椅子代わりに使っている死体の山に吹きかけた。ざっと十三体か……ジャック以外は大したことなかったな。
(リクは無事に逃げられただろうか……ま、ワイバーンが付いてるから問題ないだろうな。)
気づけば天気雨もほとんど止んで、眩しい三日月が揺らめく紫煙を淡く照らしている。
(銃も結構傷んだな……帰ったら手入れしよう)
静かな海沿いの、冷ややかなコンクリが敷き詰められた工場地帯にスマホの着信音が響く。
「はい、こちら十一眼。はい……はい。無事に任務完了致しました。ご安心ください、マイカさん」




