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幹部選別闘技大会⑤

 俺はゆっくりと呼吸をして手元に意識を集中させた。そして、床下に濫線廻廊(らんせんかいろう)によって生み出した加速する水流の一部を隠した。

「おっと……その手には乗りませんよ」

 シンジさんはそう言うと、地面に手を当てた。すると、床板の隙間から俺の水が逆流して湧き上がってきた。不意の一撃で俺は受け身を取れずに浮かび上がり、地面に叩きつけられた。つい起き上がろうとして焦って身を起こすと、シンジさんと目が合ってしまい五感を遮断される。俺はなんとか起き上がるように体を動かして、一心不乱に蹴りを放った。

「人のもがく姿は実に美しい……リク君。君もそうは思いませんか?」

 感覚が戻った瞬間に、背後からシンジさんの声が聞こえた。必死に振り返って蹴ろうとしたが、濫線廻廊(らんせんかいろう)を強制解除されたうえに急な出来事に対応できる訳もなく頭部に水を纏った拳を受けてしまった。

 寸での所でなんとか転がり受け身を取ったが、刀はまだ遠いうえに確実に茜力を削られている感覚があった。一息吐く暇もなく、シンジさんが走って来る。俺はもう一度濫線廻廊(らんせんかいろう)を地面に張った。

「バリアのつもりですか? それは効かないと言ったでしょう」

 シンジさんは走りながら床に軽く手を伸ばすと、高速の水圧ジェットを放った。それは床板の隙間にスッと吸い込まれるように消えて、俺の術とぶつかりあった。すると、同じように床下から水が湧き上がって俺を押し上げる。これが俺の狙いだ。

 俺は術を相殺され崩される前に解除して、湧き上がった水の勢いに乗るようにジャンプした。すると俺は観客席の一番上に届く程に飛び上がり、シンジさんの頭上を超えた。回転受け身を取って着地し、そのまま刀の方へダッシュして拾い上げる。

「……なかなかやりますね。二度も水を床下に張った時は、焦って間違った判断をしたのかと思いましたが…………やはり君は強い」

 そう言うと、シンジさんは俺が初めて汎用属性を開花させた時のように水を螺旋状に纏った。そして、それに指先で軽く触れるとビリビリッという弾ける音と共に水に黄色い電気が広がった。

「しっかり限界まで性能を上げて相手をしましょうかね」

「第二形態……ってとこですかねぇ」

 軽くジョークを飛ばすが、状況は全く笑えない。俺の持つ汎用属性は水と火だけだし、それで雷に対抗できるとは思えない。

(もうこうなったら、刀だけで勝負するか……? せめて、魅了する光(メズマライザー)さえ無効化できれば戦えるんだが……何かシンジさんの視覚を乱す方法は……それとも、俺が目を合わせずに頑張って戦うか? いや、不可能だ。視線をズラして斬る方法なんて、仮に成功しても決定打に欠けるだろう……となれば、やっぱり現実的なのはシンジさん側の認識をズラす方法か?? 俺の持つ手札でどう攻略するか……水、火、この二つで乱す方法……蒸気を使うか? いや、それでもシンジさんは距離を詰めて来るだろう。それに、蒸気に電流を流されでもしたら今度こそ俺のMDSは砕け散る……)

 そう考えているうちに、シンジさんはすぐそこまで迫ってきた。俺は電流を纏った拳を斜め下から斬り上げようとしたが、ヒラリと避けられてビリッと来る蹴りを頭に叩き込まれた。視界がグラグラと揺れてきた……

(やっべぇ……これじゃあ本当に負けるぞ。視界が揺れる……ハッ!! そうだ、視界の揺れ。作れるじゃあないか!! 希望が見えたぜ)

 俺は距離を取りつつ、水の術を雑に放って床を湿らせた。

「スリップを狙っているのですか? 無駄ですよ。水の術は私も心得ている。当然、その弱点も」

(そうじゃあないぜッ!! バレないなら、このまま突っ切る!)

 俺は床に手を当てて、放った水を床板に浸透させた。電気を流されて範囲攻撃をされる可能性を考慮した保険だ。そして、床板の下に協力な炎の術を発動させた。幸い、床板は水でかなり湿っているので火災が起きることは無かった。

「……? 何か暑いなぁ……これは一体…………??」

 シンジさんがそう言ったあたりで、床板から陽炎(かげろう)が立ち始めた。逃げ水とも呼ばれる。強力な熱によって立ち上る陽炎は、嫌な湿気と熱を放つと共に両者の視界を不安定に揺らがせた。

 一か八かで、そのまま突っ込んで斬り込む。シンジさんから目を離さずになるべく離れて斬ると、俺の感覚は遮断されずにシンジさんの脇腹を捉えた。軽く血が出るが、まだ致命傷には至らない。俺はそのままどんどん斬り込んでいく。途中で雷を含んだ拳や蹴りが当たるが、最高にブチキマってる俺の脳には響かない。俺は止まる事無く斬り続けた。だが、まだシンジさんは倒れない。だが、電流で強制的に筋肉を伸縮させることで強烈な脚力を引き出してバックステップをした。さすがに効いているみたいだ。

「驚きました……ここまで追い詰められるなんてねぇ……」

 シンジさんは、斜め上へ遠い目をしながらそう言った。独特な空気感を纏うシンジさんは、かなり恐ろしく感じる。

「こうなったら最後は小細工なんて通用しませんね。掛かってきなさい。正面勝負です」

 そう言ってシンジさんが取ったのは、防御を捨てた構え。本気のようだ。俺もそれに呼応するように刀を大きく振りかぶって、分かりやすすぎるフォームで斬り掛かった。シンジさんの電気を纏った水は、電気の黄色と水の青が混ざり合ってエメラルドグリーンに発光していた。対する俺は、何も纏わせない素の斬撃に魂と茜力を乗せる。もう言葉すら必要無い。俺とシンジさんは無言で全身全霊の一撃をぶつけた。

 パリンッという軽やかな音を立てて砕けたのは……シンジさんのMDSだった。

「ッシャォラアアアアァァァァ!!!!」

 闘技場に俺の叫び声が響く。

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