幹部選別闘技大会②
俺は刀を抜いた。どういう仕組で軌道をズラされているか理解した今、もうコウスケの固有術を恐れる必要などない。コイツは俺を殺すつもりでいたんだろう。急接近してきた時に、服の内側に刃物が隠されているのが見えた。そして控室で感じた殺気……容赦すればこっちが殺されるだろう。
コウスケは俺が刀を抜いたのを見ると、服の中からナイフを抜いて氷を纏わせた。
「野郎ッ! ブッ殺してやるぁぁーー!!!!」
俺は飛びかかってくるコウスケに対して、刀を完全に垂直に振り下ろす。すると、軌道をズラされずに振り上げられているナイフに当たった。
「ぐっ……テメェ、理解したな?」
「あぁ。お前の固有術、妙だと思ったんだよ。必ず下に軌道がズレる。そして、お前が冷気を使うって所でビビッと来たぜ。周囲の空気を急激に冷やして下に向かう気流を作り出してるんだな。それで軌道がズレる。仕組みさえ分かればなんてことないな」
俺はそう言って、振り下ろす刀にさらに体重を乗せた。だが、硬直状態が続く。俺は痺れを切らして刀を引くと、そのまま引いた刀を真っ直ぐコウスケの腹に向けて突き出した。だが、この一撃は下に逸らされて強烈な下降気流で刀を固定された。コウスケはすかさず氷のナイフでの刺突を繰り出す。
「ドラァ!! 終わりじゃぁ!!」
しかし、俺は燕返しでそれを弾いた。
「……!? なんで……刀は抑えたはず……」
確かに俺の刀は冷気による下降気流で床に固定された。だが、俺が使える汎用属性は水だけじゃないッ! 俺は、刀に強力な炎の術を纏わせて熱で上昇気流を作り出して下に押さえつける力を相殺したんだ。
「テメエ如きの冷気なんざぁ、俺の炎に比べりゃ無意味だぜッ!!」
俺は不意を突かれたコウスケの横腹に容赦ない炎の斬撃を加えた。MDSに守られているからか軽く血が出ているだけで終わったが、確かに奴の茜力が消費された感覚があった。
「イッテェ……」
コウスケの顔が曇る。だが、俺は容赦しない。伸び切った腕を巻き取るように身を捻って、その力を解放するように腕を振り伸ばして叩き斬った。この一撃は氷のナイフでガードされたが、重い炎の一撃を受け止めた表面の氷は粉々に砕けた。
「……!? なんだ? 今の姿勢からの威力じゃ明らかに氷の術を砕くことはできないはず……」
「俺の固有術の力だぜッ! このまま斬り伏せてやるぁ!」
俺は固有術で強化された高威力の斬撃を、絶え間なく浴びせ続ける。呼吸が続かなくなっても、何度も何度も斬り続けた。強化された超高温の炎と斬撃パワーは、もはや誰にも止められない。そして、コウスケのMDSが砕けた。しかし、奴はまだ動く。
(あそこに誘き寄せるか……)
俺は少し離れて息を整えると、戦闘開始時に立っていた場所あたりにコウスケを誘導した。
「逃げてんじゃあねえ!! 殺してやる! 殺してやるぅ!!」
コウスケはもはや理性の欠片も無い。そして、コウスケが俺に一定距離近づいた瞬間に足元を俺の汎用属性が固定した。
「はぁ!? なんだよコレ!! クソッ! クッソがァ!!」
「俺特性のトラップだぜ。最初に濫線廻廊を打った時、床下に少しだけ加速する流水を残しておいたんだよ。そして、お前が十分な距離に近づいた瞬間に床下からヌンッと出てこさせて足を掴んだ」
「……ッ!!」
俺は大きく刀を振りかぶると、斬撃エネルギーをコウスケに向けて飛ばした。
「やっぱ最後はコレだよなぁ!!」
コウスケは声を出す余裕も無く、残った茜力で必死に斬撃エネルギーを相殺しようとする。だが、炎を纏わせた俺の強烈な斬撃エネルギーは、そんなものでは止まらない。
「ぅあああぁぁぁぁーーーッッ!!!!━━」
コウスケの叫び声をかき消すように俺の飛ぶ斬撃は奴の胸部を大きく切った。胴体切断には至らなかったようで、そこまでグロテスクなことにはならなかったが、流れ出る血は確かな死を連想させた。
「さぁーーッ!! ここで勝者が決したッ!! なんと勝ったのは期待の新人! リクだぁーーー!! 見事な戦いでしたぁ! 今回の幹部選別闘技大会! 全く展開が読めない! 一体誰が優勝するのか! 次の戦いもぜひ期待しておいてくれよなぁ!!」
ヒロのナレーションと共に、大歓声が湧き上がる。殺してしまったのだから、大ブーイングも覚悟していた。少なくとも、俺ならそんな風に人の死に対して湧き上がる事はできない。異質な雰囲気に少しの恐怖を感じながら、全身の緊張が解けるのを感じて床に座り込む。
そして目線を上げると、凄い形相で俺の事を睨む十眼の姿が目に入った。当たり前の事ではある。一番有能だった部下を殺されたんだからな。だが、罪悪感は全く感じない。ハルと、今地面に転がってる元人間だったら圧倒的にハルの方が大事だ。俺はそんな事を考えつつ、フラフラと控室に入る。
すると、シンジさんがいた。
「やあリク君。お疲れ様、良い戦いだったね」
「あぁ……ありがとうございます……あの、俺は仮にも観客席にいる同僚を殺したじゃないですか……」
「ん? 確かにそうですね」
「なんであんなにもブチ上がってるんでしょうか……平和を望む者達が来る場所だと聞いたんですが」
「そりゃ、人は残酷なものを見るのが好きだからじゃないですか? 観戦するかしないかは自由に選べますしね。たまには刺激が欲しいって人に向けたものでもあるんですよ。この闘技大会は」
「そう……ですか」
(全く……つくづく、ギャングというものの怖さを実感させられる毎日だ)
俺はそんな事を思いつつ、脱力感でぼーっと天井の蛍光灯を見つめた。




