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訓練と拷問

 俺は両手に全神経を集中させて、床に近づける。そして、手のひらと床の間に濫線廻廊(らんせんかいろう)を生み出す。両手の間よりも幅が広いため、今の俺にとっては茜力がかなり大きい。だが、今この瞬間だけに命を賭けて次の一撃に繋げる。その覚悟が俺には足りなかった。

「覚悟を持つのは結構だが……技術が無ければ意味無いぜ」

「ヒロ……お前のその機敏な動き。茜術だろ? 妙だったんだよ。なんか、自分で動いてるっていうよりも引っ張られてるみたいだ」

 俺はそこまで言うと無限に流れ続ける濫線廻廊(らんせんかいろう)を解放して、数本の鋭利な水のレーザーを放つ。さっきよりも数段と速く、威力も高い。

「……ッ!?」

 三本のレーザーがヒロに当たった。だが、MDSを剥がすには至らない。

「やるなぁ、さっきのでかなり確信を得たみたい━━」

 そこでヒロの声が途絶える。それは、外したレーザーが反射をしてヒロの背中をまっすぐに捉えたからだ。ジャックと戦った時の、反射する雷のバネに着想を得て開発してみた。

 ヒロは、喋るのをやめて茜術を撃ってきた。水滴を一粒出すと、それをグッと掴むように軽く手を閉じた。その瞬間、水がサッと蒸発して俺の全身を熱波が包んだ。

「熱ッ……!!」

 思わず目を閉じてしまう。そして目を開けると、ヒロの姿が見えない。

(後ろか……!!)

 そう思い振り返ろうとした瞬間、俺の背中に手が当てられて軽い爆発が起きる。俺はよろけてしまい、そこに側頭部への蹴りが入る。そこでもまた爆発が起きて、俺は倒れた。

「俺の汎用属性は水と、炎系の一種である『熱』だ。さっきの爆発とか熱波は、水を急激に蒸発させることで生み出してる」

 俺を見下ろすヒロの顔は、少し余裕が見える。だが、ヒロはもう俺の罠に掛かっているッ!! 俺は地面に手を当てると、ヒロの足元に強い水流が流れて足を掬った。そう、俺が床と手で濫線廻廊(らんせんかいろう)を作った時に、加速する水流の一部を床下に忍ばせておいたのだ。

 そして急いで立ち上がり、手を合わせてから引き伸ばすように手を離して太い水のロープを作り出した。さらに、その水のロープの端を持ってムチのように振ってヒロの首へ巻き付ける。それを引っ張ってヒロを近づけると、水を纏わせた拳で殴る。水の拳と言えども、クッションのような役割はせず水流でMDSを形成する茜力をゴリゴリと削っていく。

「チッ……」

 ヒロは、少し焦ったように俺の水のロープを掴むと熱を加えて蒸発させていった。だが、完全に蒸発させられる前に次の一手を放つ。

 俺は、ロープを掴むのと反対の手に水の回転する丸いカッターのような物を作り出し、ヒロに強く押し当てる。

「『廻翠刃(かいすいじん)』……コレもヒロ達に教えてもらったっけなぁ」

 押し当てられた水のカッターは少しずつ刃が鈍くなっていったが、先に砕けたのはヒロのMDSのようだ。ガラス片のようなものが砕けて散る。

「ふぅ……やるなぁ」

「え……なんでMDSを割られたのに平然としていられるんだ……!?」

「そりゃあ、大した茜力を込めてないからだよ。俺が今の戦いで使ったのは、実力の三分の一程度」

「マジかよ……お前のMDS割った瞬間に超嬉しかったのに……」

「いやいや、大した進歩だと思うぜ?」

「そうか……? ならまあいいや」

「さーて……腹も減った事だし飯食おうぜ、飯」

「お、そうだな」

 俺達はそんな会話をしながら訓練スペースを出て食堂へと向かった。

━━━━━━━━━━━━━━一方その頃、某所地下室━━━━━━━━━━━━━━━━

“ピチョン……ピチョン……”

 椅子に縛り付けられた俺の額から滴る血は、木製の椅子の足を確実に赤く染め上げていた。一体何時間ここで拘束されているのだろうか。冷ややかなコンクリートの壁、部屋を照らす薄暗いランプ、足元の血溜まり……地下室に入ってから、俺はこの世の地獄を味わい続けている。眼前のこの男……三間によって。

「なぁ……さっさと吐けよ。知ってんだろ? ボスの詳細を」

「……だから…………知らないって━━」

 俺がそこまで言うと、三間の蹴りが俺の腹に刺さった。

「う……ウエェ…………」

「おぉっと……ゲロ吐くなよぉ? 血溜まりの片付けは何度もやってきたから慣れてるがよぉ、ゲロとクソと小便の処理だけは最悪な気分になるんだ。吐くんならボスについて吐くんだな」

「本当に俺は……何も知らねえ」

「お前はボスを恨んでるんだろう? なら因縁があるはずだ。何っかしら知ってんだろぉ? あぁ?」

 まずい……もう意識が薄れてきた。俺はどんな死だって受け入れるつもりだった。山程の人を騙した。何人も殺した。女子供だろうが殴った。スッた金の金額なんて数え切れやしねぇ……だが。このスカした野郎に殺されるのは我慢ならねえ

「はぁ……なんかお前を痛めつけるのも飽きてきたな。正直、テメェがボスの情報を持ってるなんてあまり期待してなかったよ。ただストレス発散に使ってたんだわ」

 三間はそう言うと俺の額に銃を突きつけた。予想外の展開にさすがの俺も焦る

「待っ━━」

“パァンッ……!!”

「もう少し遊んでた方が良かったかな……いや、明後日にはもう一人殺せるからいいや。名前は確か……リクだったかな」

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