行方不明①
夕焼けに照らされた暑さで俺は目を覚ます。
(何が……あ、そうだ。あの女に斬られて、気を失って……え、俺生きてる?)
ゆっくりと立ち上がると、倒れていた地面に乾いた血が広がっていた。夢ではなかったみたいだ。でも変だ。確かに俺は深く袈裟斬りにされて倒れたはず。なのに、四尺刀も手元にあるし何かされた様子もない。
(もしかして……殺す気が無いっていうのは、もし殺してしまうような傷を付けても回復させる。って意味だったのかな。イカれてやがる……とにかく、俺の家に行かないと。ハルが待ってる)
少し痛む体を動かし、家まで帰る。だが、その道中から既に違和感があった。人が全くいない。しかも、地面や塀が所々抉られていたり壊れている。嫌な予感が頭の中に満ちるにつれて、家に向かう足が少しずつ速くなる。
(ここ曲がれば家……え?)
家があったはずの場所には、沢山の瓦礫だけがあった。
(母さんは!?ハルは!?どうなってんだ)
よく見ると、瓦礫の上には半径二メートル程の紐のような形状の物を引きずった痕が残っていて、家屋を壊しながら進んでいったのが分かる。蛇か……? それにしても大きすぎる。日本にこんなデカい蛇はいないはず……
「お前ぇ……生き残りか?」
呆然と立ち尽くしていると、後ろから声を掛けられる。振り返ると、三十センチ程度の指揮棒のような杖を持つ男がいた。
「ここの家の人間か? お前は」
「え、ああ。この家にいた人達はどうした……?」
(コイツも術者なのか……? だとすれば味方とは思わない方が良いな)
「達?報告によると家には学生の男が一人いただけみたいだぞ」
「え……母さんは……父さんは……」
「ん?お前……気配からして茜術使いだろ?知らねえのか?この世界に茜術をお与えになさった神がまた動いてな。世界がイマイチ想像してた展開にならないから試しに術持ってない人間を何人か間引いて並行世界に飛ばしたんだとさ。アンタの母親もその対象だったんだろうさ。」
「そんなアホらしい話……誰が信じるかよ!! お前が連れて行ったんだろ! 返せよ!」
「話の通じねえカスが! しゃしゃってんじゃあねえ!」
俺が刀を抜くのと同時に謎の男が杖を振って青い雷のようなものを杖の先端に纏わせた。
(何か来る!)
霞崩しの構えのようにして少し姿勢を低くした所で、男が腕を真横に伸ばすように振って先端の小さな青い雷をバネのような形にして飛ばした。勢いよく宙を滑る雷のバネは、壁に当たると跳ね返り電線まで飛んだかと思うと電線の弾力と雷のバネそのものの弾力で勢いよく俺の方へ飛んできた。
(まずい、避けきれない。となれば……)
俺は雷のバネから目を離さずに、前に踏み込むと刀を上に振り上げながらスライディングして雷のバネを縦に切断した。そして即座に立ち上がる。
「へえ。俺のコレに初見で対応するのか。大体のザコは今ので感電して気絶か麻痺か死ぬんだけどな」
「危なかったぜ……」
「でもなぁ……お前、戦い慣れてないだろ。一回切っただけでもう油断してる」
「は?」
そこまで会話をした所で、俺の背中に激痛が走る。
「い゛った゛ぁ!!」
「俺のバネはまだ消滅してないぜ! そのチンアナゴみてえなチンケな細刀を振り回しただけで満足してんじゃねえよ! 木偶の坊がぁ!!」
クソッ…攻撃はまだ続いていたのか。
「俺の固有術『反発双裂雷』は相手に命中するか15回障害物にバウンドするまで消えない強烈な雷撃を生み出す! 防御ばかりのチキンじゃあ一生俺には勝てねえぞ! 次は外さねえ、その刀でテメェを串刺しにした後に俺の雷で焼いてグリルドチキンにしてやるぜ!」
(今の雷のバネを切ったのも一応は斬撃のチャージにカウントされてる……だけど、たった一回分の斬撃を飛ばしたって避けられちまうし相手に奥の手がバレる。この雷で頭がラリってる野郎を切り抜けるためにはどうするか……)
そう考えていると、男は三角を描くように杖を振った。その角に当たる部分に一つずつ雷のバネが作り出されていた。
(嘘だろ……これってもしかして……)
「お前の考えてる通りぃ! 三つ同時までなら生成できるんだよぉ! さて、これに対してどう動く! どう切り抜ける!!」
男の叫びと同時に、雷のバネが射出される。速い。しかも動きが見えない。どうするか……俺の頭の中に運任せだが勝算はあるフロウが降りてくる。
(ここは、三つ賭けてみるか。)
跳ね回る雷を少し目で追っていると、急に三つ同時に俺の方へ飛んできた。左右と前、これならやれる! 俺は前のバネに、さっき溜めた一回の斬撃を放つ。そして、俺は少し後ろに下がる。俺の飛ばした斬撃と正面から向かってくるバネがぶつかりあった。次の瞬間。バネは切断されたが、斬撃は弾かれて俺の方へ戻って来る。
(よし!一つ目の賭けは勝ちだ。そして次…)
そして、次に俺へ着弾するはずの位置で重なった左右二つのバネを飛ぶ斬撃が切断した。そのまま流れで俺の方へ向かってくる。
(これが二つ目の賭けだぁ!)
俺は自分で放った斬撃に対して刀を振る。
「うおぉぉぉぉ!!!!!」
気合を入れて刀に体重を乗せると、高速回転した飛ぶ斬撃を見事に弾き返すことに成功した。向かう先は当然、雷でトリップしてやがる野郎だ。
(そして最後の賭け……)
俺は勘で後ろの方へ刀を何度か振った。背後から襲ってくるはずだったバネは、俺の背中には命中しない…威力の下がったバネを全て斬り落としたのだ。この戦いじゃあ余所見が命取りになる。後ろを見ずにやるしかない。
(ヨシ! 全部の賭けに勝ったぜ!!)
ほっとしたところで、男の方を見る。ちょうど、俺の斬撃が男に当たろうとする瞬間。男は杖を突き出して、ギリギリで斬撃を受け止めている。だが、何度も弾かれた俺の斬撃の回転エネルギーはそんなもんじゃ収まらない。
「どうだ? 俺の妙案。お前のバネから着想を得て試してみたんだ。次のバネは撃たないのか? おぉ、どうしたそんなに踏ん張って。ここは便所じゃないぜ。野糞は勘弁しろよなぁ。」
「野郎……!! 調子に乗りやがってぇ!!!」
必死に堪えているようだが、限界だろう。一度正面から受けてしまったからにはあんな小さい杖で弾き返したり上手く流すのは無理だ。そうなると必然的に……
「があ゛あ゛あ゛あぁぁ……!! う゛……」
予想通り! 流しきれずに半端に体ごと避けたせいで、奴の左腕に斬撃が直撃して吹っ飛んだ!! この勝負、俺の勝ちだぁ!!!




