バジリスク②
バジリスクの鋭い瞳孔が俺を捉える。そのままユラユラと蛇行しながら迫ってきた。
「貴様は……あぁ、ジャックの腕を斬り落とした若造か」
「……ッ!」
「まあ、そう焦るんじゃあない。俺はお前に可能性を感じている。どうだ? 俺達の組織に来ないか? 今よりもずっと良いポジションに就かせてやろう」
「ん? ジャック? ジェイクじゃなかったか?」
「それは奴の自称だ。ウチの幹部のジェイキーに憧れているんだと。愚かな奴よのぉ、憧れたって成れるわけじゃない。呼び名を変えても偉くはなれない。結果だけが己をのし上げるものだということが理解できていない。だから新参者に負けるのだ」
「お前ぇ、そのジャックとかいう奴を連れて帰る時は今みたいな喋り方じゃなかったよな? 無駄にキャラ作りして結果を後回しにしているのはお前の方なんじゃないか?」
「……なんだ、あの時は多少イラツイていてな。奴の無茶振りに耐えるのもしんどいもんだよ」
「奴? あの怖え女に奴なんて言って大丈夫なのか? 蜘蛛の糸で部下とSMプレイしてそうな見た目してたけどよお。幹部になるとシゴイてもらえるのか?」
「ん? 何を言ってるんだ。俺等に司令を出してるのはハナ様では……いや、これは言わない方が良いな。で、時間稼ぎはもういいか? そろそろ返事を教えてくれよ」
(やっべー……コレさすがにレスパリに入る訳にはいかないし、かといってNOと言えば絶対に殺される…………どう切り抜ければ良いんだ)
「……迷っているか? まあ、それも良いだろう。答えは次会う時にでも……」
そう言うとバジリスクに乗った幹部は、そのままバジリスクを操って建物の奥の方へと引っ込んで行こうとした。だが、螺旋状に進む三連の弾丸がバジリスクの顔を撃ち抜いた。
「チッ、死にぞこないが。貴様はそこで横たわっている上司の介抱でもしていれば生き残れたものを……愚かだな」
見ると、満身創痍でもショットガンを構えているシンタロウの姿があった。額から伝う血で片目が開かないようだ。左足も痛めているのか、片膝立ちだ。
「恩人が殺されたってのに引き下がれるかよッ! お前は相打ちでも殺してやるッ!」
「相打ちでも……だと? せめてなんとか相打ちに……の間違いじゃないのか?」
(……悔しいが、確かにその通りだ。俺達じゃ明らかに戦力不足だし、お互いにどんな固有術を持っているかも知らない即席の相棒だ。勝ち目なんて無い。)
俺は静かに刀へ手を掛ける。やるしか無いのか? ここで。地形的には相手が遥かに有利だし、戦力も断然相手の方が上だ。だが、ここ数ヶ月で散々世話してもらい面倒を見てもらった恩義を簡単に斬り捨てる訳にはいかない。
「うるせえ! お前は絶対にここで殺す!」
「ならばここで葬ってやろう」
幹部の男はバジリスクを操って自身を吹き抜けの三階まで飛ばさせた。
「貴様の処理などバジリスクだけで十分。俺はここで観戦させてもらうとしよう」
(さらに良くない状況になったな。これじゃ本体が攻撃できないから相手の茜力が尽きるのを待つか、この守護獣を破壊するしかない。現実的に考えてその両方とも不可能だ。となれば逃げるか……シンタロウはそれを良しとするのか? 絶対に戦おうとするんだろうな。止めても無駄だ)
俺はヒロに助けを求めるメールを送り、意を決して刀を抜いた。
「シンタロウ、俺も戦うぜ」
「良いのか……? お前はなぜだかアレに関心されてるみたいだし、ここで黙っておけばひとまずは助かるのに…………」
「そんなの情けなくってできねえよ」
「……そうか…………ありがとうッ!!」
シンタロウは噛みしめるように感謝の言葉を俺に掛けると、ノールックでバジリスクを撃った。不意打ちの散弾にはバジリスクも対応できないようで、当たって少し痛そうにしていた。そして俺はその隙に尻尾へ全体重を乗せた一撃を叩き込む。
振り下ろされた刀は、バジリスクの太い尻尾にそこそこ深く入った。さらに刀を引いて骨まで断とうとしたが、体を拗られてしまい刀が外れてしまう。
「とても残念だ! 貴様はたった今死への道を選んだ! 我がバジリスクの怒りに触れたな、もう助からんぞ!」
「チッ、この守護獣自律型だったのか……なら本体を叩いても意味無えな」
「自律型って……?」
「多少の意思を持っている守護獣のことだ。そのタイプだと顕現された状態で本体を殺しても守護獣は消えずに残る。つまり、なんとかして上の尊大なガキを殺してもこのデッケエ蛇はそのままってことだよ。アイツの口ぶりからきっとそうだ」
「マジかよ……」
だが、ビビっていてもしょうがない。さっきヒロにメールを送ったから、アイツが助けに来てくれれば逃げる事くらいはできるだろう。時間を稼がなくては。
“シュルルルルル”
バジリスクもやる気満々のようだ。俺達も本格的に気合い入れなくちゃなぁ!!




