割狂の舞槍①
遅延路線との戦いから数日、また再び変わらない日常を過ごし始めた。訓練、督促、契約、営業、稀に指導。そんな業務をダラダラと過ごしていく内に、梅雨も本格的に豪雨が降る季節となった。これが終わると蒸し暑い夏が待っている。スパイ活動を受け持っている十眼隊の報告によると、十契のシマにいるレスパリの人間は全員どこかへ消えたようで、一向に姿が見えないそうだ。
俺はちょくちょく訓練も続けた。そして、改めて実感したのは出力不足と耐久力の無さ。攻撃の技術や使うタイミング等のセンスは良いらしいのだが、パワーが乏しいのと攻撃された時の耐性がほぼ無い。だから、数回頭に打撃を食らったりしただけでフラフラするらしい。そこで、五眼のサユさんに奨められたのが『MDS』という技術だ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「MDS……ですか?」
「そ、『マダーシールド』の略だね。本当はこういうのも君の隊の隊長とかが説明するべきなんだけどね……まぁいいや。まず、MDSっていうのは茜力を利用した目に見えない程薄い防護壁なのよ。で、それが破られると茜術系統の体内システムが結構ダメージを受けるんだけど……MDSがあるのと無いのとじゃぁ、生存確率は段チだね。MDSが割られるってことは、MDS無しで挑むと確実に死ぬ相手って事だから割られるのを過度に恐れなくて良い。MDSの強度と耐久性は茜力の総量に依存するから、まずは出力と総量がカスな所から直そうね」
「はぁ……」
「私は事務作業とかで結構忙しいけど、隙間時間だったら訓練の手助けできるよ。暇な時にでも声かけてねー。もしかしたら、別の子の訓練が入ってるかもだけど」
「分かりました。俺、頑張ってみます。そういえば、以前に戦った何人かの敵は使っていませんでしたが……なぜでしょうか?」
「経験が浅すぎたか、才能が無かったかのどちらかだね。」
「はえー……」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そうして約一週間、ヒロやシンジさん達に聞きまくって鍛えたことで、明らかに以前の俺より成長したと実感できた。茜力の総量も増えたし、MDSも張れるようになった。今の俺なら、古代も少しは楽に倒せたのかもしれない。俺は早速、サユさんの居る事務作業室に入った。
「サユさんすみません、訓練をお願いします」
「あ、リク君……おや、なんだか雰囲気変わったね」
「ありがとうございます」
「じゃ、闘技場行っといて。私も準備してすぐに向かうから」
「サユさ〜ん! まだこの整理終わってないんですから行かないでくださいよ〜!!」
サユさんの近くの席に座っていた俺くらいの見た目年齢な女の人が、サユさんに文句を垂れた。
「あ〜……エナごめん! ちょっと急用だから私の分もやっといてくれない?」
「え〜……嫌ですよ」
エナと呼ばれる女性がゴネ始めたあたりで、サユさんがそっと近づいて耳打ちをしていた。俺は二人から少し離れているので、何と言っているのかは分からない。だが、耳打ちが終わった瞬間にエナは真剣な顔で頷き、パソコン作業を再開した。それを見て、サユさんはクスッと笑ってからこちらに歩いて来た。
この何とも言えない二人の空気感と、ちょっとした言葉で言いなりのようになっている関係……イイなと思うのはきっと俺だけじゃないはずだ。そんな事を考えつつ俺は闘技場に向かった。そして軽い準備運動をしてサユさんを待つ。
「ごめんねー、ちょっと迷ってて」
サユさんは前回の訓練とあまり変わらない感じだ。ただ、一つ変わっているとすれば矛の刃にカバーが付いていないということ。
「カバー付けるか外すか迷ったんだけどさ……やっぱ真剣に訓練して挑んできてるんだからこっちも真剣にやらないとダメかなーって思ったのよ」
ヤバい。あんな身のこなしができる人に、勝てるのだろうか……?
「さあ、位置について」
「はい」
サユさんの事務的な淡々とした声が俺の耳に届く。訓練を頼んでいる手前、あまり文句は言いたくないし言えない空気感なので、俺はそのまま刀を持って開始の位置に立った。
「今回は私も固有術を使うね……」
「えぇ……!?」
「『割狂の舞槍』それが私の固有術だよ」
サユさんがそう言うと、持っていた質素な矛の見た目が変わっていき、棒の部分が長くなったマウスカーソルのようになった。
「じゃあ、準備完了と思ったらそっちで始めの合図出してねー」
俺は冷静に深呼吸をして覚悟を決める。いくら固有術を使うと言っても、殺されるわけじゃない。そう考えれば、少しは気楽に戦える気がした。
「じゃあ……始め」
俺はそう言った瞬間に走りだし、刀をすぐに切り出せる位置で持った。だが、サユさんはこちらへ攻撃してこず、矛をグルグルと回し始めた。最初は防御か何かの目的で回しているのかと思ったが、どうやら違うようだ。手元で回しながら、腕で後ろを通したり上を通したりもしている。戦いにおいて、完全に無駄な行動。
俺は嫌な予感を感じつつも、斬り掛かった。だが次の瞬間、俺のMDSは粉々に砕け散っていた。
遅れて申し訳ない!




