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魅了する光と遅延路線④

 目の前に立つのは、あの時取り逃がしたレスパリ幹部。ジェイキーだった。武器は持っていないようだ。杖も。

「ったくよぉー……困るぜ? レノちゃん。お前は俺の隊の人間じゃあないんだから助ける義理なんか無いが、わざわざそっちの隊の隊長にお願いされて助けに来たんだぜ? せっかくエロいネーチャン口説いてたのによぉ……」

 この軽薄な感じ、やっぱり本物だ。俺が会った敵の中では紅蜘蛛華に次いで二番目の実力だと感じているが……ここで戦り合わないといけないのか…………?

「嘘……ですよね? ウチの隊長はそんな風にアナタに頼んだりせず、自分の守護獣(ガーディアン)を使って助けに来るか、幹部候補の私を疎んで見殺しにするはずです。助けてくれたのはアナタの独断……そうでしょう?あと口説いてたんじゃなくシコってたの間違いでしょう……」

「レノちゃんも言うようになったねぇ……勘違いすんなよ、別にそんな……って、お前口の中が切れてメッチャ血が出てるぜ? しかも頬骨にもヒビが入ってるな……少し腫れてる。まあ、立てて喋れるならすぐ治るか。さて、コイツをさっさと始末するぜぇ。こんな可愛い子をこんなに痛めつけやがって。ま、コイツらが成長したって事なのかね。正直ちょっと驚いたぜ」

 なんだかとてもまずいことになった様な気がする。少なくとも、一気に不利な状況になったのは確かだ。こっちはボロボロの新入り一人とそこそこ元気な一般構成員一人。相手は、ボロボロの幹部候補員一人と元気な幹部……最悪だ。

「それじゃあ行くぜぇ!」

 やばい。そう思った瞬間、既に戦いは始まっていた。ジェイキーが俺に殴りかかってくる。必死に刀を振ってカウンターを試みるが、レノが即座にレールを張り遅延を発動させた。そのせいで、動作は一手遅れて防ぎきれなかった。殴り飛ばされるのと同時に枠の外へと出てしまい、加速しながら地面に叩きつけられた。

(クソ……こうなったらシンジさんにも前に出てもらうか。……アレ? シンジさんがいない?)

「ジェイキーさん! 後ろ!」

 レノがそう言い終わる頃には、既にジェイキーの後ろに大波ができていた。コレは絶対に避けられないッ!! そう直感した。だが現実とは残酷だ。

「で、この薄っぺらい波で俺を倒そうってか?」

 まただ。家に向かった時も同じように、瞬間移動されて避けられたんだ。シンジさんを守らないと……! いや、シンジさんどこだ? 波の周辺にはいないが……

「そこまでですよ、ジェイキーとか言う人」

 声がする方を見ると、レノの首にナイフを突き立ててもう片方の手でレノを抑えているシンジさんがいた。波の攻撃はブラフで、そっちに意識を集中させてからレノを人質にする作戦だったのか。

「お前ッ……! その子を離せ!!」

 なぜだか、ジェイキーは今までに見たこと無いくらいキレてるな。こういうやり口は嫌いなのか? レスパリのくせに。

「離すかどうかはアナタ次第です。今すぐ、横にいるリク君に大人しく殺されるというのなら、この方を離してあげてもいい……」

「舐めんなッ……! そんな要求誰が呑むかボケッ……!!」

「なら、交渉決裂ということで……」

 シンジさんはそう言うと、冷酷にもナイフをレノの首元でスッと引き首元に通る血管を切った。崩れ落ちて意識を失うレノの首元から、真っ赤な血が吹き出す。

「なッ!!? お前、何しやがるッ!!!!」

 本当に切るのはジェイキーにとって予想外だったようだ。もちろん、俺も予想外だ。 

「さあ、この方はすぐにアナタ達の領土に帰って治療すれば間に合うんじゃないですか?そこまで深くは切っていませんよ」

「なんてことしやがるッ! ド畜生野郎が! お前それでも人間かよ!」

「甘ったれた事言ってんじゃあねえ。これはギャング同士の抗争だ。卑怯だとか言ってちゃ収まりがつかん。お前は頭脳戦に負けた、それまでよ」

 シンジさんが敬語を崩してサラリと言い放つ。瞳は、その思考のドス黒さを物語るように深い穴が空いているようだった。底が見えない闇……

「さあ、どうしますか? この哀れな子を救うために今すぐここから立ち去りますか? それとも個人的な情を優先して私達を殺しますか?そうなれば全力で抵抗するので、まず間違いなくこのレノという子は死ぬでしょう」

「…………」

「あーぁ、今この瞬間にもレノの首からどんどん血がー」

「……ッ!! 畜生ォォォォーーーッッ!!!!」

 ジェイキーは突然走り出すと俺達を素通りしてレノを担ぎ、そのまま雨で軽く冠水して、まるで大海原にも感じられるネオン街の溟渤(めいぼつ)へと姿を消した。視界から消える直前に、一瞬だけ俺達を見た奴の目は恨みに満ちていた。

「……大丈夫っすかね?」

「さぁ? まあ助かったから良いじゃないですか」

「そう……ですね」

 俺はこの一件でシンジさんのことが少し怖くなってしまった。

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