魅了する光と遅延路線③
「リク君、あの瞬間移動の謎がほぼ確定で分かりました。攻めましょう」
「マジですか!? それは一体」
「……まだ百パーセントとは言えません。ですが恐らく、『ラグを利用した残像の固定』ではないでしょうか」
「ラグの残像……ですか。確かに筋は通っていますが…………」
「よく観察すると瞬間移動の直前の時、奴の体は一切動いていません。そこでリク君、危険を承知でお願いしたいのですが……」
「なんですか?」
「もう一度だけアイツに攻撃をしてみてくれませんか? できるだけいろんな方法で。それで判断が付きます」
「……分かりました」
俺はレノから目を離さずそう言った。何だかよく分からないが、俺よりも経験のあるシンジさんが言うのだから、ここは信じるしかない。
俺は腰にある鞘を手に取ると、巻くのに使っていた紐を手首に巻いて鎖鎌のように遠心力を付けてレノの腹に飛ばした。だが遅延の術を受けてしまい、体が思うように動かなかったせいで狙いがずれてしまった。急いで紐を引いて鞘を手元に戻そうとすると、加速させられてしまい鞘が俺の頭に直撃した。強く衝突したせいで、俺はのけぞるように倒れそうになった。
そしてレノは俺の横へ回り込みながら俺の足を引っ掛けて倒してきた。刀を手離してしまったうえに上を取られてしまった。まずい……だが。
「捕まえたぞ……」
俺はレノの足首をがっしりと掴んだ。どんなに遅延されようが、力の強さは変わらない。俺は、レノの次の一撃が来る前に背中で回りながらレノの片足を絡め取ると、引き倒した。そして、顔に思いっ切り拳を叩き込んだ。だが、遅延を受けてしまい大した体力にはならなかった。
そしてレノは急に腰のあたりに手を入れたかと思うと、ナイフを俺に突き立ててきた。慌てて転がり、回避しながら落とした刀を拾い上げる。さらに流れるようにレノの方へ走り出し斬り掛かった。だが、この攻撃は瞬間移動のような術で避けられてしまう。そして、加速したレノの拳が俺の側頭部にヒットする。バランスを崩しそうになった所で、シンジさんが肩を貸してくれた。
「リク君、これで確信が持てました。後は任せてください」
俺はその一言で安心し足の力が抜けていくのが分かり、適当な屋根の下までフラフラと歩いていった。
「レノとか言ってましたね」
「はい。あなた達が聞く最後の名前です。よく覚えておくことですね」
レノがそう言い終わる直前程に、シンジさんは手を振り上げるように動かして地面に川のように流れている水を操って大波を起こした。だが、レノにヒットする前に減速してしまった。遅延の能力はやはり強いな。
「いい加減学習したらどーですかッ」
半分呆れたような顔のレノが加速し波を突き破ってシンジさんに殴り掛かる。だが、レノの腕はあっさりと掴まれてしまいそのまま背負投げに繋げられた。
「アナタ……ネイルに結晶の粉を混ぜて杖の代わりに使っているんですねぇ…………」
腕を掴んだままのシンジさんが余裕そうにそう言い放った。レノの顔に若干の苛立ちが見て取れる。だがシンジさんの方が戦い慣れているのか、再び遅延が発動する前に炎の汎用属性を纏わせた拳でレノを殴り上げた。レノはバックフリップのように吹き飛んだが奇跡的に足から着地して、そのまま立ち上がった。
シンジさんは少しの休みも与えぬようにレノへ右から巻き込む様に殴りかかった。レノの顔はなぜか口元が少しニヤついている。だが、シンジさんはレノにヒットする直前にその拳を引っ込めて左足に汎用属性を移すと、左から広く薙ぐように蹴りを放った。
「うぐあぁっ!」
すると、レノはさっきまで居た場所から少し左に寄った位置に瞬間移動したようにズレて蹴りを食らった。
「やっぱり……アナタのレールを使った遅延と合わせて考えれば、瞬間移動のカラクリが解けましたよ。アナタの固有術は、『遅延』という概念を物事に付与すること。自分をレールの枠で囲んで、その見た目の情報だけを動きが分からない程とても遅い遅延で固定する。何かしらの制約なのか、その固定された像は触れられると消えて本体に情報が戻る。いやー、これはなかなか手強かったですね。しかも、自分に遅延をかけて帳尻合わせの加速までも利用するなんて……アナタが幹部候補となり得る理由が少し分かったような気がしますね。まあ……アナタのキャリアもここで終了ですが」
シンジさんはそう言うと、まだ倒れ込んでピクピクしているレノにスッと手を向ける。
「さよならだ。『アクアジェット』ッ!」
容赦なく放たれる、周囲の水を利用した茜術。だが、それはヒットしなかった。見覚えのある男が邪魔に入ったからだ。
「ふぃー……あっぶねぇー」
「お前は……ッ!」
「ん……あぁ、そこのお前、前に俺の部屋に凸ってきたザコか」
目の前に立つのは、あの時取り逃がしたレスパリ幹部。ジェイキーだった。




