魅了する光と遅延路線①
レスパリの根絶を誓って数週間が経ち……気付けば季節はすっかり梅雨だ。
「なんか暇っすねー……」
俺は雨の香りに満ちたスラムを巡回していた。横には同じ隊に所属している、食堂でショウタさんの横にいた術者のシンジさんが付いている。
「良いことじゃないですか。潜伏しているレスパリの幹部に関してもリク君とショウタが戦って以来、特に動きは無し」
「ジェイキーの野郎……どこに隠れてんだ」
人通りも少ない街を、大雨が包んでいた。溺れそうな程に湿気を放つ午後三時、俺達の巡回任務もそろそろ終了だ。俺は変わらずボーッとした顔で歩く。だが、徐々に横を歩くシンジさんとの距離が開いていく。妙だ。ずっと変わらない速度で歩いていたはずなのに……
俺は少し速歩きでシンジさんに追いつく。だが、やっと追いついたと思った瞬間に俺は急加速した。
「おっと……」
「何やってんのリク君。独特な暇潰しだね」
「いえ、違います。俺は急に自分の足が遅くなったと思ったんで小走りで追いついたら、その瞬間に体が勝手に加速したんです……!俺もよく分かりません」
「……一旦この場を離れ━━」
「そうはさせない」
雨音が響く中で、背後から知らない誰かの声が聞こえた。振り返ると、レインコートを着た中性的な人が一人立っていた。
「あなた誰ですか? 私はここら辺をもう数十年近く見回りしていますがあなたを一度も見ていない」
「そりゃあ、私は『高潔の紅華』の偵察隊の人間ですからね……」
目の前の人がそう口にした瞬間に、シンジさんが結晶の付いた指輪をハメた右手を伸ばして、高圧の汎用属性ビームを放った。見事に頭部を捉えたが、ビームが頭に触れた瞬間にソイツは姿を消した。
「危ないなぁ、もう」
再び背後から声がする。俺は刀を抜きながら振り返り、そのまま後ろに見える奴を斬ろうとした。だが再び、歩いていた時のように全身の動きが遅くなった。今回はあの時よりもさらに少し遅い。シンジさんもそれは同様なようで、攻撃にキレがなく、あっさりと避けられてしまった。
「足元見なよ」
奴のその一言で俺達はチラリと足元を見た。
「レール……?」
足元には、俺達二人を囲うようにして幅五十センチ程のレールが敷かれていた。コレが奴の固有術らしい。だが、どういった内容なのかは全く検討がつかない。
「自己紹介させていただきましょう。私は清水 嶺乃。高潔の紅華の幹部候補員です。そして私の固有術『遅延路線』であなた達を始末するように命令を受けて顔を出しました」
「何から何までペラペラ話すなぁ……なんだお前?」
「これは確実にあなた達を殺せるという自身の現れ。そして、私自身があなた達を絶対に殺すという覚悟を持つ為でもあります」
と、ここでシンジさんが耳打ちをしてきた
「リク君。俺の固有術は戦闘に向いてないので、援護に徹します。それと、この際だから伝えておきます。俺の固有術『魅了する光』は、目が合った相手の五感を一秒だけ遮断することができるんです。水面や鏡に反射した状態で目が合ってもそれは同様です。ただ、絶対に目と目を合わせる必要があります」
どうやら相手はレスパリの幹部候補。俺達二人で力を合わせないと勝てないだろう。全力でやらないと……
「何をコソコソ話し合っているのですか? 既に戦いは始まっています」
俺はその一言で走り出す。だが、思うように速度が出ない。まるで、夢の中で走っているような感覚だ。
(また動きが遅れている……!)
「私の固有術の効果は『遅延』。つまり、あなたの行動は今遅延され引き伸ばされている。」
(そういうことか……! だが、流石に何か術を使う条件があるはずだ……何だ、何か…………)
俺が考えていると、急にレノが茜術を打ってきた。単なる汎用属性を使った術だが、行動が遅れている今の俺にとっては脅威だ。必死に刀を振って斬り落とそうとするが、ダメだ。やはり行動が間に合わない。
(ヤバいぞ、相手の手数が多すぎる。何だきっと何か制約があるはず……そうだ、今レールはどうなってる?)
ふと地面を見てみるするとやはり、俺を囲うようにしてレールが敷かれていた。一か八か、俺は攻撃に対処するのではなく、線路の囲いからの脱出を選んだ。
「へぇ、気付きましたか」
レノの残念そうな声が聞こえた。と言う事は、解除方法はこれで正解という事か!
「まあ、それで終わりじゃないんですけどぉ……」
その言葉が聞こえた直後、線路の輪から出た俺は急加速して壁に激突した。
「線路内で溜められた遅延の分の速度エネルギーは、輪から出た瞬間に発散されます……あなたの場合は五十秒程動きを遅延させたので、それなりの加速が伴ったという訳です」
レノは余裕ぶって能力の説明を始めた。完全に勝つ気でいやがるが、俺達だって負けちゃいられない。レノが俺から目を離してシンジさんの方を見た。
「え……? は……?」
なんとも間抜けなレノの声が聞こえた。どうやら、五感を遮断された事に気付いていないようで腰を抜かしたように後ろへ倒れた。それと同時に感覚が戻ったようで、目の焦点が合う。
「妙な感覚……これが後ろの方の固有術ですか」
「そうです。どうでしたか? 俺の魅了する光は。俺達もあなたを倒せる自信がある。敬語ギャングのキャラが被っているので即刻この世界から退場いただきたい」
俺は刀を構え直してレノの方を見た。
最初らへんの話の修正もしたいので、若干投稿頻度落ちるかもです……




