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Drunk Fire

「ヒロ!?」

 俺は偶然、任務を終えたヒロに出会った。ヒロは少し疲れた様子で、ウイスキーのボトルを片手に街を歩いていた。お互いに軽くここに来た経緯を話す。どうやらヒロは、取り立て任務が思ったより長引いてしまい……というか、親身に話しを聞く内に意気投合し二軒ハシゴで呑んでいたらしい。そして、無事に払う約束を取り付けた後に飲み足りないということで、拠点に帰るまでにウイスキーを直飲みして帰っていたらしい。

「そうか……リク、小腹が空いてるなら良い店があるぞ。ここから近いから、付いて来な」

「マジィー!? どんな店なん?」

「ウチとは長い間契約している、茜術使いが運営してるバーだ。落ち着いた雰囲気だし、良い感じの酒のつまみが出るぜ。俺の奢りだ、呑みながら食おうや」

「お、いいねぇ。じゃ、案内してくれよ」

 意気揚々とヒロに付いて行くと、明かりの少なめな場所に出た。そして、暗い舗装路の中で一つだけ灯りの点いている店に通された。

「よう……久しぶり、ハマ爺。」

「んん…………?? おぉ、ヒロ君か。いらっしゃい。ボスは元気かな?」

「はい、元気ですよ。マイカさんも同じく」

「そうかそうか……それは良かった。横の子は新入りかな?」

 バーのマスターらしい老人が、俺の方を向いて言う。中を見てみると、客は俺達以外に男女のペアが二組いた。

「はい。つい最近十一眼隊に配属になりました。リクって言います」

「おぉそうか……リク君、よろしくね。私の事は好きに呼んでくれて構わないが……皆はハマ爺と呼んでいるねぇ……」

「そうですか……では改めて、はじめましてハマ爺」

「うんうん。じゃ、お好きな席に座ってね。注文はどうするかな?」

「いつものセットをリクに頼む」

「了解」

 すると老人は黙々と料理を作り始めた。香ばしいベーコンとニンニクの匂いが漂ってきて、俺の腹はそれに呼応するように強く鳴りだす。と、少しだけ店内を見回しているうちに俺の前に皿が置かれた。

「酒の方はすぐにお作り致しますので、少々お待ちください」

 机に置かれたのは厚切りベーコンをオリーブオイルで軽く炒めたものに、外側が炙られたチーズを乗せ、上には香り付けのパセリが添えられている実に美味そうな料理だった。すぐにでも食べ始めたい。

「リク、待ちな。出来上がった酒とセットで味わう方が格段に美味いぜ。すぐに持ってきてくれる。」

 腹の音を必死に抑えて一分ほど待つと、そこそこなサイズのグラスに注がれた青い酒が来た。

「こちらは、果実の酸味と色を活かしたウチの店オリジナルのカクテルでございます。口当たりも甘すぎずサッパリしていますので、初めての方でも美味しく呑めると思いますよ。深海の様な青色から、C-ABYSSと名付けています。」

 深みのあるブルーキュラソーのような色の酒だ。少し炭酸が入っているのか、グラスの内側に泡が立っている。俺は失礼にならない様に気をつけながらも、美味そうな酒と料理にがっついた。料理の方は見た目通りに腹持ちが良く、軽く振りかけられた黒胡椒が良いパンチを出している。酒の方は濃いラムネの様な味わいで、上方の海のような青色と鼻から抜ける懐かしい香りは忘れかけていたあの頃を思い出させてくれるようだった。それでいて、しっかりと酒を呑んでいると分かる程度に度数もある。ここ数日で擦れていた俺の心が静かに癒やされていき、自然と笑顔になっていた。

「あぁ……すまないハマ爺。俺もC-ABYSSを一杯くれないか?」

 ヒロの注文にハマ爺はハイヨッと明るく答える。ヒロがこの店を推す理由がなんとなく分かった様な気がした。俺は最期のベーコンの欠片とチーズを見る。

(このチーズ……もう少し炙られてたらもっと美味いだろうにな……そういえば、俺の汎用属性はまだ未確定なんだよな……)

 俺はなんとなくチーズに手をかざして、炎を出すイメージをしながら手に茜力を集中させてみる。すると、俺の手から鮮やかなオレンジ色の炎が一瞬出た。

「……本当に出ちゃったよ」

「なんだ?リク。危ねえなぁ……火力高ぇって」

 ヒロは笑いながらそう言った。俺としてはかなり驚いているんだが、何人もの部下の成長を見てきたヒロにとっては大したことじゃ無いのかもしれない。そう思いつつ最期の一片を食べるためにフォークへと手を伸ばした。ちょうどその時だった。

「おい爺さん。昨日のアレ一つね」

 明らかに碌でもない男が店内に入ってきた。静かで落ち着いた雰囲気をブチ壊すように注文をする男を見ると、無性にイライラしてきた。

「お若い人……昨日は結局代金を払われなかったでしょう?前回の代金をいただけない限りはあなたをお客さんとして扱う事はできません」

 ハマ爺は強気でそう言った。歴戦の茜術使いなのだろう、自身がまるで違う。体格は入ってきた男の方が大きいのに、明らかに小男に見える。

「んだとジジイコラァ! 月末に払うっつっただろうが!!」

 男は強気な態度を崩さない。こいつをなんとかしない限りは残りの酒と飯を美味く食えないだろう。

「おい、表に出ろ」

 俺は気付くとそう言って立ち上がっていた。

「こういう輩から店を守るのもウチの組織の役目……ですよねぇえ? ヒロ」

「そうだな……思いっきりブチカマして来い」

「ちょっとコレ借りるぜ」

 俺はそう言って半分程中身の入ったウイスキーボトルを手に取って店を出た。さすがに、こんなアホをいちいち斬り捨てるつもりは無いので刀は持っていかない。数秒の後に、やけに怒った様子の男が出て来た。その様子を見つつ、俺はウイスキーを少し口に含む。

(うわっ……消毒用アルコールを口に入れてるみてえだなこりゃウイスキーって全部こんな感じなのか?)

「なんだぁ? テメエ。酒瓶なんか持ってよぉ。それで俺を殴るつもりか? それとも酔拳気取ってんのかよ」

「なんだ時間稼ぎか? 出て来といて本当は怖いのか?」

 俺は容赦なく煽る。バカにはこれが一番効く。

「野郎ッ!! 自分が十契だからって俺を舐めるなよ!!」

 ダバダバと走って真っ直ぐ突っ込んでくる。本当にバカなのかコイツは。俺は手に再び炎を出すと、その炎を俺の顔と男の間に置き、さっき口に含んでいたウイスキーを思いっきり吹いた。当然度数の高いウイスキーは炎に引火して、俺が口から火を吹いたようになる。通りが一瞬明るくなった。

「あづッッ!!」

 男は驚いたように顔を手で覆った。そこに俺は膝蹴りを入れる。何かが曲がる感触と一緒に、男は崩れ落ちた。

(鼻骨が折れたか? まあいいや)

「オイ、次ハマ爺の店で調子乗った事やったら片目を取るからな」

 俺は意識が有るか無いか分からない男にそう言い捨てて、バーに戻る。

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