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ギャングになるということ

本日は戦闘描写無しです。

 俺はサユさんに挨拶をして闘技場を出た。

(俺、勝って喜んでるけどサユさんは茜術を一切使ってないんだよな……そりゃ俺が勝てて当たり前だ)

 少し気を落としつつも昼飯を食うと、ヒロに会った。

「おぉ、お疲れヒロ」

「ん? リクか。」

「これから任務か?」

「そうだ。組織に金を出すのを渋り続けてる契約法人を脅しに行く。」

「……今何て?」

「組織に金払わないアホを脅しに行くって言ってんだ。俺達のやっている事は慈善事業じゃない、命の掛かったビジネスだ。俺達は定期的に金を貰って街全体を守っている。金を納めている団体や個人なら、昨日リクが受けたような依頼を格安で出せたりもするんだ。そういうメリットもあるし、もちろんこうして無理矢理取り立てられるデメリットもある。契約をする際に、ギャング組織にはそう頼るもんじゃあないって言う説明もちゃんとする。それも理解した上での契約だ。だから取り立てに行く。幹部が出向くことで事態の重さを認識させるんだ。一番下の位の幹部である俺の役目だな」

 ヒロは真顔でそう言った。思えば、初めて会った時からヒロの目にはずっと光が灯ってなかった。訳アリに見えるマイカさんの目でさえ、奥には光るものがあった。でも、ヒロは真っ暗。「適材適所」という言葉が脳裏に浮かぶ。ボスは、ヒロのこういう一面も見抜いていて取り立て役を任せているんだろうか……

 俺はこの組織に入って多くの人に暖かく迎えられたから勘違いをしていたのかもしれない。スラムは、自由気ままに生きられる空間じゃない。現実はいつだって残酷だ。俺はその残酷な世界に飛び込んだ。だから、ヒロの目もヒロの行いも責める資格は無い。俺はただ、作り笑顔で見送る事しかできない。

「そうか、頑張れよー」

「……リク」

 ササッと振り返って立ち去ろうとした俺の背中に、ヒロの鋭い声が刺さる。

「なんだ?ヒロ」

 俺は振り返らない。きっと今の俺の顔は、何か酷く落胆したように見えるに決まっている。俺をここまで導いてくれたヒロに、こんな顔を見せられない。だってヒロは何も悪くないのだから。必死に自分の使命を果たそうと働いているだけなのだから。

「分かってくれとは言わない。だが、ギャングなんて所詮はこんなもんだ。十契もレスパリも、これが主な収入源。違法なモノを取り扱っているかそうじゃないかの違いさ。十契はレスパリよりかは幾分クリーンな組織だと俺は思う。だが、どんなに崇高な目標を掲げても、どんなに高潔な組織を望もうとも、突き詰めればどっちも深淵。真っ暗闇だ。」

(そうだ……分かっている。俺にはもう家族に迷惑掛ける心配が無いから、ヒロを探すためにギャングになる道を選んだ。トドメは刺していないが人も殺した。もう後戻りなんてできやしない。)

「ヒロ……」

「なんだ?」

 俺は振り返った。ちゃんと向き合おう。自分が犯した罪にも、殺した命にも。全部受け止めて受け入れてやっとハルにたどり着ける気がする。

「すまなかった……俺が甘かったぜ。」

 真っ直ぐな目でヒロを見つめる。後悔は無い。例えハルが見つからなかったとしても、俺の選んだ道に後悔は感じない。こんなに渾沌とした世界だ。きっと神様だって許してくれるはずだ。というか、こんな風にしたのは神様だしな。

「あぁ。じゃあ、行ってくるぜ。」

 俺は階段を降りて行くヒロを見送った。そして、ふと自分の就寝スペースに戻りスマホを見る。通知が来ていた。見ると、それは翌日の訓練の予定を伝える物だった。

(もう次の訓練かよ……ちょっとは休ませろよな。なになに、[2720年 4月26日 送信者:霧島叉唯 翌日の訓練の内容をお知らせ致します。 明日は、午前九時から旧第二グラウンドにて、三眼:伊那伏(いなぶし) 海星(かいせい)がお待ちしております。対奇術師(マジシャン)の戦闘訓練を行う予定です。頑張ってくださいね。 ※追記 この方は男性なので、年齢に関する話題も問題ありませんよ。良かったですね。]…………まだ根に持ってるのかサユさん。怖ぇ……)

 背筋に軽く冷たいモノが走る。俺はスマホをベッドに置くと、ボーッと天井を眺めた。

(今更だけど俺……人殺しをやったんだな。つい数日前までは普通の男子高校生だったのによぉ…………なあ、ハル。俺のこの行いを、お前は許してくれるか? いや、許してくれなくたって良い。お前が話しかけてくれたから俺は毎日が楽しかった。お前とだけ関わっていた訳じゃないが、お前がズバ抜けて信頼できる奴だったよ。大切なお前のために、俺は手を汚す。どこかにお前が居るこの街を守る……それが、俺の使命ってことだ。使命を背負い込んで悪にだってなる。それがきっと、ギャングになるってことなんだ!)

 流石に疲れていたので、俺は仮眠を取った。そして、目が覚めると午前一時程になっていた。もう建物も殆ど電灯が消えている。部屋を出て窓から食堂を見下ろすが、電気が消えていた。そりゃそうだろう。だが、そんな状況とは反対に俺の腹は大きく鳴った。

(しゃーない……街まで降りて飯を食うか)

 俺は重い足取りで組織の敷地を出て、真っ暗な道を歩き出した。念の為に、刀を所持して。宛もなく歩いて向かった街は、深夜とは思えない程の賑やかさだった。だが、一つ通りを抜けてディープなスラムに行くと、明かりは一つも見えない。所々に座り込む人々の煙草の火が弱々しく彼らの口元を照らすだけだった。俺は視線をネオン街に戻して、周囲を散策する。組織の決まりとして、とくに酒や煙草や深夜外出の年齢制限は設けていないそうだ。薬物をブッキメなければそれで良いんだと。俺は二十四時間営業の小さな商店……恐らく大昔はコンビニだったであろう場所に立ち寄って、歩きながら飲む用の酒を買った。度数は低めのレモンサワーだ。

(不良行為とは無縁だった俺がまさか未成年飲酒するとはな……)

 そんな事を思いながらグイッと人生初の酒を飲む。てっきり、少し飲んだだけでも最初はクラクラになるのかと覚悟していたが、そうでもなかったようで、味も相まってゴクゴク飲めた。飲みながら歩いたが、特に良さそうな店は無かった。もうコンビニで済ませてしまおうか……なんて思っていると、背後から声を掛けられた。

「よぉリク、どうした?こんなド深夜に……」

「ヒロ!?」

 今回は珍しくバトルシーン無しでしたね…………たまにはこういった回も良いかと思いまして、書いてみました。持論として、作品に深みを持たせたいなら戦闘描写だけではダメだというのがありまして……今後もちょくちょくこういう回が挟まると思います。

 戦闘描写アリの話の割合の方が多いのでご安心ください。


※投稿がやけに早いのは、シンプルに今日暇で書く時間があったからです。

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