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紅い蜘蛛

「ここまで逃げてきたけどよぉ…どうする?」

「どうするって言ったって、襲撃された時の避難訓練じゃあ帰ってただろ? そうすればいいんだよ」

「マジかぁ…俺の家遠いからさ、リクの家寄っていい?」

「まあ…良いけど」

“ウーウーウーウー!!!”

 商店街から見える大通りにパトカーが何台も走っているのが見える。

「なあリク、あの黒いランプついてる車両ってさ、対術特化機動隊じゃねえの?」

「うわ……マジじゃん。てことはやっぱ教室のアレって茜術の攻撃だったんだな」

「あの車両が動いてんの初めて見たかも……」

「とにかく行こ……」

“ドーーン!!!!”

 轟音が商店街に鳴り響く。慌てて振り返ると、そこに居たのは…

「ハル、見ろ! 術者か…!? 武器持ってるぞ……」

 先端に紅い炎が灯っている抜き身の刀を持った女が立っていた。よく見ると刀身も真っ赤だ。それに、彼岸花のような模様が浮かび上がっているように見える。そこから上に視線を移すと、商店街のアーケードが骨組みごと破壊されていた。

 あの女は天井を突き破って入ってきたのか…!

「ねぇ」

 女が口を開く。身長は俺達と大して変わらないし、細身な見た目をしている。歳は20代前半くらいだろう。にも関わらず、その声には理屈じゃ説明できない威圧感があった。首元に毒牙を突き立てられてるみたいだ。俺達の額に冷や汗が伝う。

「この辺でさぁ、身長175センチくらいの若い男を見なかった? ちょうど君達くらいの年齢で、空色と黒色の茜術を使っている男なんだけど……」

 何を言ってるんだこの人は。誰かを探してるのか……?天井ブチ抜いておいてそんなこと聞かれたって知らねえよ……誰だよマジで。

「見て…ない? どっち? 答えてくれないとさぁ、分かんないよ」

そんなこと言われたって…ただただ怖い。強い言葉や敵意は向けられていないはずなのに。

「ぁ、あ、えーっと…見てない…です?」

「なんで疑問形だぁ。」

 そりゃあそうだろう。答え方をミスったら即死してもおかしくない状況だ。緩い喋り方をするし見た目もなんというか…綺麗な感じだが、奥に狂気を感じる。自分の回答に自身が無くなるのも分かる。それはそうとして、よくぞ答えた。ナイスだハル!

「んー…まあいいや。それじゃあさぁ━」

「おい、その場を動くな!!」

 女の言葉を遮るように俺達の背後から声がした。振り返ると銃を持った二人の警官と、その少し後ろに先端に赤紫色の宝石が埋まった杖を持っている一人の警官らしき人がいた。アレが対術特化機動隊の人かな?     とにかくコレで助かる。安心だ。

「はぁ……立ち方からして戦い慣れてない。練度も低い。そんなんでよく税金貰ってるねぇ」

 女が一歩前に出る。

「動くなと言っているだろ!!」

 怒声の後、俺達二人の左右に並ぶまで進んでいた警官二人が有無を言わさず発砲する。普通じゃあ考えられない光景だ。いくら危険とはいえ、こんな町中で堂々と撃つのか。と、考えた刹那。女の後ろから蜘蛛の足? のようなものが急に現れて銃弾二発を受け止めた。背中から生えているようにも見える。

「コイツ…強いぞ!」

「ビビるな!撃てぇーーー!!」

 少し怯えている警官達だったが、震える手で弾倉に残っている全ての弾を女に放つ。だが、それは意味を成さないようだ。最初の二発を受け止めた蜘蛛の足が、引っ込むと同時に商店街の壁に蜘蛛の巣状のネットを張った。そして銃弾は全てそのネットに受け止められる。

「面倒くさいなぁ、もう」

 真顔でそう言い放つ女は、より一層恐ろしかった。

「邪魔だし、ごめんけど片付けさせて貰うねぇ」

 そう言うと女は、片手を俺達から見て右の警官へ伸ばす。そして、手のひらから何かを飛ばしたように見えた。警官も何が起こったのやら分かっていない様子だ。すると次の瞬間、右の警官が急に女の方へ引き寄せられる。訳も分からず飛んでいった警官は、無惨にも女の振った刀に斬り捨てられた。

「化物かよ……」

 そう呟いた左の警官も瞬く間に女の方に引き寄せられた。そしてこちらも、スパッと斬られる。

「お前……やはり。特別指名手配術者の紅蜘蛛(べにぐも) (はな)だな?」

 対術特化機動隊員らしき男が口を開く。その隙に俺達は一瞬目を合わせて、壁の方に避ける。

「あれ、もしかしてアタシってぇ……この地区でも有名人?」

「スッとぼけるんじゃあない! 術者犯罪組織『高潔の紅華レッドスパイダーリリー』のボスとして名が通ってるんだよ! 分かってるんだろ!?」

 そう言うと同時に機動隊員の男は杖を構え、杖にハメられた石と同じ色の浮遊する氷の塊を生み出した。

「お前はここで仕留める!!覚悟はしているんだろうな!?」

「ゴチャゴチャうるさいんだよ、さっきからぁ」

 女がそう言い終わる直前に、機動隊員の男は杖を振りかぶり、野球のバッターのようなフォームでスイングして氷の塊を叩き割った。綺麗な色の破片が宙を舞う。それに見惚れていると、男は振った勢いで上がった杖をスッと下ろした。すると、上に舞っていた無数の氷の破片が女の方へ飛んでいく。

「無駄なんだよねぇ……ホント」

 と、女は冷静に言い放つ。それと同時に女の目の前の地面から大きな紅い蜘蛛が出てきた。地中から這い出てきたというより、地面から生成されたように見える。これが守護獣(ガーディアン)ってやつなのか。そして、その蜘蛛は氷の破片を打ち落としながら男の方へ向かっていく。

「『氷結界(フィヨルド)』!!」

 男がそう唱えて軽く杖を振ると、薄氷のバリアのようなものが男と蜘蛛の間に現れる。発動後、男はなぜか羽織っていたコートのフードを被った。それと同時に蜘蛛は男の方へ突進しながら容赦なく氷のバリアを叩き割った。そして男に覆い被さる。

 この後何が起こるかなんて当然想像がつく。俺達は静かに目と耳を塞いだ。人が咀嚼される音なんて聞きたくない。

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