Madder Lesson!!②
「……大闘技大会 九月二十五日 旧臨海ドーム闘技場にて開催予定…………?」
俺は旧職員室……現在の事務作業室の前に置かれてあったポスターに見入った。だが腹の音が朝飯を催促していたので、同じ内容のビラを一枚手に取り一人で飯を食いながらそれを眺めていた。
(全国地区から参加者を募集……予選の後にトーナメントにて勝敗を決する。優勝者から五位までには賞金と、十契の招待が与えられるのか。既に十契だったらどうすんだ……? あ、書いてあった。なになにぃ……? 十一番幹部以上の者を誰か一人指名して戦い、もし勝利すれば地位を奪える……? マジかよ。これって人集まるんか?)
俺はそんな事を考えつつ朝飯を完食し、そのまま武器を持って闘技場まで行った。そこには、入念にストレッチをするヒロの発現通りの女性がいた。
「ん……? あぁ、今回の訓練の相手は君か。私は霧島 叉唯、十契の五眼だよ」
知的な雰囲気に少しだけザラつきを感じる大人の女性の声が俺の耳に届く。細いフレームの丸メガネと、その奥にある隠しきれない隈やジト目が俺のウブな脳内を刺激する。すまない、ハル。俺、ずっとこのままでいたいかも。まともに目も合わせられないが。
「お……俺の名前はリクです。よろしくお願いします!」
「はいよろしくね。じゃあまず、君の汎用属性と固有術の概要、そこら辺を教えてくれるかな?」
「あの……汎用属性って何ですか?」
俺がそう言った直後、サユさんは何かを察したような顔をして溜め息を吐いた。
「君……もしかして何も知識無いまま起用されてそのままって感じかな?」
「そう……ですね」
「やっぱりか……ボスもマイカさんもいい加減すぎるのよね」
サユさんは再び溜め息混じりでそう言い放つと、ゆっくりと立ち上がった。
「まず、全ての『茜術』を手に入れる引き金になるのが『固有術』というのは知ってるかな?」
「はい。それは身を持って体感しました」
「じゃあ知らないのはこの先かな……まず、『固有術』を手に入れるのと同時に『汎用属性』というものが魂に刻み込まれるの。固有術以外を使用した茜術による攻撃は、『汎用属性攻撃』に分類されるわ。そして、固有術、汎用属性、汎用属性攻撃、その他あらゆる術式攻撃をまとめて『茜術』と呼ぶの」
「へぇ……そうなんですね。知りませんでした」
「マッジでアイツら……いや、もういいや」
かなり呆れている様子だ。どうやら、こんな状態で指導だけ任されたことが以前にも何回かあるみたいだった。しかもこの人どこかで見たことがあるなと思っていたら、初めてここに来た時に少しだけ書類の関係で立ち寄った事務作業室で、目ぇカッ開いて必死に何か作業してた人だ。ヒロが書類をくれと言った時、明らかにストレスの限界みたいな顔してたけど、客人の手前何も言えなかったのか死んだ顔して書類を渡してくれたんだったな……
「その……なんかすみません」
「いや、良いんだよ。君に落ち度はない。アイツらがアホなのが悪いんだ。アホなのに一番強いから困ってるんだけどね……ま、こんな話しても何も始まらないや。早速訓練に取り掛かろうか。」
サユさんは軽く首を鳴らすと、床に置いてある飾り気の無い矛を手に取り構えた。刃の部分にはカバーが掛けられている。
「君にはまず、何かを相手取る事に慣れてもらうよ。君も私も、本気で戦う。ただ、怪我をさせる心配があるから、私は矛にカバーを付ける」
「はい。分かりました」
「さあ、準備は良いかな?」
その一言で、サユさんの気配が明らかに変化した。さっきまでは仕事に疲れた休日の若めのOLって雰囲気だったが、今は違う。まるで古武術の師範のような威厳ある雰囲気だ。
俺もそれに応じるように刀を手に取ると、鞘は外さずに構えた。
「準備OKです」
俺のその一言が終わった瞬間に、恐ろしく速く鋭い一撃が俺の頭に向かって飛んできた。必死に回避するが、無理に体を反らせる姿勢となってしまった。そこから反撃できるわけもなく、これまた速いサユさんの蹴りで足元を掬われて、俺は地面に背中から倒れ込んだ。そこに、サユさんの矛の先端が突き立てられる。
「もしこれが実戦で、矛にカバーがついてなければ、これで終わっていたね。君は確かに経験以上の敵と戦って勝ってきた。だけど、それは実力や才能だけで成り立っている勝利じゃない。君には運があったんだよ。こうやって、自分と似た系統の格上と戦えばすぐに崩れ落ちる。」
悔しいが、全てその通りだろう。俺だって、完全に自分の実力で勝っただなんて思っちゃいない。だけど、さすがにこんな速く雑に片付けられちゃ気が滅入るってもんだ。負けっぱなしは性に合わねえ。
「もう一回ぃ!」
俺は立ち上がると刀を構えた。
「良いね。事務仕事のストレス発散にもなる」
一瞬そんな私的な事を言ったサユさんは、また同じ様に顔に向けて突きを放ってきた、今度は冷静に刀で受け流しつつサイドステップで避ける。茜術による基礎身体能力強化と、動体視力向上が無ければ今のでまたやられていただろうがな……そして、流すために左下へ傾けている刀をそのまま少し後ろに引きながら前進し、サユさんに向かって勢いよく斜めに振り上げた。だが、サユさんは矛の長い柄の部分を突き立ててガードし、それを軸にポールダンスのように回転しながら蹴りを頭に叩き込んできた。
これはさすがに予想外でまともに食らってしまい、脳が少し揺れる感覚があった。だが、そんな状況でも敵は待ってくれないのが現実だ。それを体現するが如く、サユさんは足を引っ掛けてきて、そのまま引き倒された。再び俺の首に矛が向けられる。
「……次、やる?」
自分で作り出した設定だからしょうがないんだが、十一人も幹部考えるの大変やな。
修行編は、まあまあ続きます。ただ、退屈な展開にならないように工夫していく予定ですので、ぜひ楽しみに待っていてくださると嬉しいです!




