古代③
「何驚いた顔してる、俺は本気だ。一応リクは俺の部下っていう扱いだし、部下の成長を助けるのは上司の役割だろ?俺は邪魔しないようにこのフェンスの上から見てるぞー」
「ヒロ……? 何冗談言ってんだよ……」
「だから本気だって。ほら、後ろ……」
そう言われ慌てて振り返ると、ティラノサウルスがすぐそこまで来ていた。急いで足元に飛び込んで、噛みつき攻撃を回避する。そして全力で走り刀を拾うと、後ろから風を切る音が聞こえた。
俺は尻尾攻撃を察知して、スライディングで限界まで姿勢を低くして逃げる。頭上に一瞬尻尾が通った。やはり、俺の読みは的中していたようだ。
(あんなのに当たったら……次はマジで気絶するぞ……)
スライディングしながら振り返り、立ち上がる。少し背中が痛むが、刀は無事だし骨折もしていない。これなら、なんとか戦えるだろうか……
(考えろ……いくらなんでも強すぎるだろ……この守護獣は……何か弱点があるんじゃないか……? 本体だ! 忘れていた。弱点は本体なんじゃないのか? これだけ強いんだから、本体は弱いはず……試してみるしかないな。俺の前方七メートル程にはティラノサウルス、右十五メートル程にチャーリィがいる階段入口。賭けるしかないか)
俺は刀を背負い全力でチャーリィの方へ走った。同時に大きな雷が轟く。
「やっぱり気付きますよね……、これだけ強いんだから当然本体はバランスを取るように弱いって……。アタリですよ。僕は茜術に目覚める前は、事あるごとに入院するほど体が弱かった……唯一の娯楽は読書でした。そこで図鑑を読んで、初めて出会ったんです。恐竜に。僕は強く憧れました。強い体で過酷な世界を生きる彼らに。神様が僕に茜術を与えてくださった時、夢見心地でした。そして、こんな僕を拾って面倒見てくれたジェイキーさんのためにも、負ける訳にはいきません」
チャーリィがそう言うと、俺の足元を何かが高速で追い抜いて行った。小くて華やかな淡水魚のように見える。
「小さいでしょう? これが『古代』の本来の姿です。想像次第でどんな姿にだって成れる……」
(しまった!! 先を越された!!!)
淡水魚はチャーリィの足元まで着くと、半分地中に埋まった状態でまた姿を変え始めた。
「…………ッ!!」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
フェンスの上に大きなフクロウが止まった。
「ヒロさん……大丈夫でしょうか?」
「ショウタ、着いたか……大丈夫、何も心配する事はない。リクならきっと、あの守護獣を倒せる。」
「なぜそう思うんです?」
「さぁ? なんとなくだよ。ただ……少しヒントを与えようか。勝つためのヒントを」
ヒロはそう言うと、銃のレバーをガチャリと引いて空の薬莢を排出した。落下した薬莢は屋上の地面に落ちる。
“キイイィィィンィィン”
透き通った金属音は、大雨の中でも鮮明に響いた。
「これがヒント。これ以上は何も言えんな」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
背後で軽い金属が落下する音が聞こえた。恐らくヒロの銃だろう。と、落下する音が響いた瞬間に古代が一瞬動きを止めた。だが、またすぐ変身を続ける。今回は少し長いみたいだ。今のうちに斬りかかりたいが、何が起きるか分からないので突っ込めない。
「これは古代の持つバリエーションの中でも最強格。水陸両用、パワー十分、サイズも完璧。コイツに勝てた術者はいません」
小さな淡水魚は急に膨れ上がった様に姿を変えた。大きな恐竜だ。十三……いや、十五メートルはあるように見える。ワニの様な形状の頭部が俺を睨む。
「スピノサウルス……これが『古代』の究極体だ」
(コイツはまずい……どうする? さっきのティラノサウルスよりもデケえし、パワーじゃ当然勝てそうにない。水陸両用っていう紹介から、潜行できる可能性も高い。建物内に逃げるのもダメだ。考えろ……思い出せ。弱点になりうる要素を…………)
考えているうちに、スピノサウルスはゆらりと建物内部へ潜行した。
「次は外しません。僕がここで見ながら狙いを定めます」
(もう避けられない……迎え撃つか?いや、俺の刀だけじゃどうにもならねぇ……弱点……弱点…………あっ、そういえばさっき、何かの金属音で動きが一瞬止まってたような……それだ。試してみる価値はある)
俺は周囲を見回す。今は電線も切れていて使われていない金属製の送電筒のようなものが目に入る。
(アレだ……!)
俺は大雨と羽織っている黒の上着を使って、チャーリィの視界から抜けた。
(あれ……、見失っちゃいましたね。大雨ですし黒い上着着てたからそれ使って隠れてるんですかねぇ……無駄な事を。僕の古代は聴力にも優れている。わずかな雨音の反響で位置を特定できます…………見つけた)
再び建物がゴゴゴゴゴゴッという音と共に少し揺れ始めた。そして、俺の目の前にスピノサウルスの頭部が出てきた。覆い被さるように噛みつこうとしている。
「これで終わりです……リク君でしたっけ……?まあ、新人にしては頑張った方ですよ」
俺は余裕な顔をしているチャーリィを尻目に、送電筒を斜めに切断して地面に叩きつけた。
“ゴイイイイィィィィィィンィィンィィン”
と、大きな金属音が屋上全体に響き渡る。
“ウ゛ッ…!ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!!”
スピノサウルスは苦しそうに吠えている。本体のチャーリィも同様に大きい音は苦手なようで、地面に伏せていた。俺はゆっくりとチャーリィに近づき、刀を突き付けた。
「遺言は聞いてやる、言い」
本日も、僕の作品を読んで頂きありがとうございます!この『古代』とチャーリィ…個人的に気に入っております。チャーリィのイメージとしては、細身で男女どちらとも言えるような優しい顔立ちの人です。
『古代』の本来の姿のイメージは、ちょっとデカい鮮やかなグッピーです。




