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古代②

「じゃあ……始めましょうか。十分も逃げれると思わないでくださいね? あなたは五分で仕留めます。飛び降りて逃げれば翼竜に追跡させますし、建物内に逃げても打つ手があります。」

「おいアンタ……」

「チャーリィです。」

「チャーリィ。お前はなんで、俺が逃げ回る前提で話してんだ?」

 俺は霞崩しの構えを取る。

「あなたは……この僕と戦うつもりなのですか? 僕よりも歴が浅いし、能力も……僕の『古代(エンシェント)』を倒せるレベルとは思えません。」

 チャーリィは真顔でそう言った。そして、言い終わると同時にトリケラトプスが走り出した。俺に向かって突進してくる。

(どうする!? 真正面からじゃ受けられない。乗り越えるか? いや、角に刺されて終わりだ。避けるのも現実的じゃない。相手の横幅が広すぎる。となると、もう……)

 重質な三本角が俺に触れる直前。俺は半身を引いて刀を角に沿わせ、軽く脱力して受け流す。大きく逸らすことはできたが、左腕に角が少し引っかかり、浅いが大きな切り傷が刻まれた。止まりきれなかったトリケラトプスは転落防止のフェンスを突き破り、チャーリィと一緒にそのまま屋上から落ちた。

(操作をミスって落下死か……!? いや、違う。古代(エンシェント)をトランスフォームさせる気だ。)

 俺は冷静に周囲を見回す。雨は、状況の悪化を示すように強くなっていく。月は大きな雨雲に隠れて出てこず、視界を照らすのはジャンキーなネオンの明かりだけだ。俺の立っている足元の水たまりに、『Night Dream kingdom ~the best of sex place~』という下品なピンクの文字が浮かぶ。

“ゴゴゴゴゴゴロロロロォォォォ”

 遠雷が響き、足元を揺らした。にしてもよほど近くで雷が鳴ったのか、揺れが収まらない。

(いや、コレは……雷の揺れじゃあない!!)

 本能的に危機を察知した俺はその場から飛び退いた。その直後、つい先程まで俺の居た位置の地面から大きな牙を持った生物が出てきて、バチンッと音が鳴る程に強く口を閉じた。

「あれ、残念。気付かれちゃった?」

 背後から雨音に混じって声がした。振り返って見ると、階段に繋がるドアを開けてチャーリィが再び屋上に上がって来ていた。

「モササウルス。白亜紀最大にして最強の海棲爬虫類です。古代(エンシェント)のモササウルスは海で動く事はもちろんのこと、地中や建物に潜行することができます。ただし、建物に負荷が掛かりますし地上で潜行させるのは僕自身も疲労するので、そう長くは使えませんね。」

 チャーリィがそう言うと、モササウルスが建物に潜った。そして、地面からトリケラトプスの時と同じ様に恐竜の姿へ変身した『古代(エンシェント)』が現れる。

「もう搦め手は使いません。あなたには見抜かれそうですしね。ここからは正々堂々、正面から行きますよ。この“ティラノサウルス”でね!」

 俺の目の前に立つのは恐竜の王、ティラノサウルスだ。

(デカい……!! 十二……いや、十三メートルはあるぞ!!)

「僕はここで見ているだけです。遠隔操作だけで、十分にあなたを始末できる。」

 ティラノサウルスは俺に鋭い視線を向けて唸ると、走って向かってきた。

(相手の頭の位置が高い……!! 恐らく相手が使うのは噛みつきか頭突き、上から来られると受け流せない!)

 俺は全力で走って向かい、足の間に飛び込んですり抜けた。そして後ろから斬りかかる。だが、背後から襲っているとはいえ司令を出してるのは客観的に見ているチャーリィ。俺の体に正確な尻尾の攻撃が飛んできた。

「しまった━━」

 俺は咄嗟に腕でガードして骨折は避けたが、強い一撃でフェンスに叩きつけられた。金属製の網フェンス特有のガシャァンッ!! という音が屋上に響き渡る。

(やべぇ……無事なのは良いが、刀を落としちまった……遠い。それに、気付かれて破壊されたら終わりだ…)

 そう不安がよぎるが、幸運にも強い雨と暗さから武器が落ちたのは見つからなかったようだ。ティラノサウルスはこっちを向いてゆっくり歩いてくる。

「脳震盪で動けないでしょう。古代(エンシェント)は、質量そのものを再現できません。ですが、打撃を受けた際の衝撃は本物と遜色ないレベルの強度です。まあ、本物の一撃を受けることはもう不可能ですが。古代(エンシェント)、そいつを食べて吸収してくれ。」

「吸収だぁ?守護獣(ガーディアン)は食事の必要なんて無いだろ……」

「なんだ、そんな事も知らないんですか。守護獣(ガーディアン)は食べた相手の茜術を吸収できます。他の二種類の術者みたいに片玉魂になるまで待つ必要は無いんですよ。まあ、どの種類の術者でも相手の固有術を完璧にコピーできる訳では無いんですがね。」

「俺の固有術を取り込んでも意味ないぜ? 刀がある前提の特性だからよぉ……お前のそのモヤシみてえな腕じゃあ刀は振れないだろ。間違えて自分のモヤシ腕でも落としちまうんじゃあねえか?」

「……無駄話はここまでです。」

 チャーリィの一言で、ティラノサウルスが急加速した。

(もう股下を避けるのは無理だ……どうする?)

 迷えども答えは出ない。それでも目の前に巨大な牙が迫ってくる。もうダメだ……という言葉が頭を掠めた時、まさかの救済が入る。何者かがフェンスの上から銃でティラノサウルスの頭部へ撃った。

「リク……無茶するんじゃねえよ…………」

「ヒロ……!」

(助かった……!これでなんとかなる。)

「邪魔が入りましたか……というか十契の幹部ですよね。こりゃ助からないかもしれませんねぇ……」

「リクとそこの恐竜野郎……何か勘違いしてる様だが、俺はお前らにこれ以上近付かない。それはリクのためにならないからな……お前は一人でこの恐竜野郎を倒すんだ。」

(へ……?)

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