酔いどれ知らずの溢れる心
ヒロと一緒に闘技場へ行くと、天井に大きな穴が空いていた。夕日が既にかなり傾いているので日光が入らず薄暗い。瓦礫を並べて机と椅子を代用していて、中には幹部も含めて九十人程の契約者達がいる。
「あぁ! リク君生きていたんですね! 良かった……」
「ショウタさん、ありがとうございます!」
俺は促されるままに近くの卓についた。すると、俺の前に見慣れた酒が置かれる。
「これ……C-ABYSS?」
「そう。今日は祝勝会としてハマ爺に厨房に来てもらってるからね」
「そういや大丈夫なんですか? 各地でバトってたって聞いたんですが……警備とかは誰も出てないんでしょうか?」
「その点は大丈夫。レスパリの人間はかなりの人数を殺したし、街中に潜伏してたヤバい犯罪者も抗争に乗じて出てきてた。そっちも全員殺したよ」
「そうですか……なら大丈夫ですね」
俺は酒をグイッと飲むと、瓦礫が多めに積まれたステージのようになっている場所へ目をやった。ヒロが立っている。ミニボトルに入ったC-ABYSSをゴクゴクと飲んでいた。
(ヒロ……姿を全く隠してない…………しかもメガネを掛けてないから十一眼を装う訳でもなさそうだ……ついに正体を明かすのか……)
ユイさんに目配せすると、きっと俺と同じ事を考えているであろう顔をしていた。そして酒もそこそこに入った頃に、ヒロがヤニに火を付けてから大声で呼びかけた。
「すまない! 皆聞いてくれ!」
盛り上がっていた飲み場が一瞬で静かになった。
「皆、今回の一件で零眼の戦いぶりや術を見ただろう。その上で一つだけ、皆に伝えたい事がある!」
当然、あちこちからザワザワとした声が上がる。契約書には、『本組織統括の固有術やその他能力や素性に関する事象の探求を一切禁ずる』とあるのが一因だろう。何か処罰でも下るんじゃないかと思ってる奴が大半だ。
「今回の戦争で、三眼、伊那伏 海星。六眼、武満 聡。七眼、近重 真太郎。八眼、山居 圭。その他大勢の大切な”仲間達”が殺された!」
(今、”契約者”じゃなくて”仲間達”って言ったよな……ヒロがそんな事言ったのは初めて見るぜ……)
「この結果を受けて、一つ俺は決心をした。重大な事を明かす決心を……!」
その場の全員が、ヒロの一挙手一投足に注目していた。不思議と引き込まれてしまうスゴ味がある……
「この俺、十一眼の三津井 寛は……本当は零眼なんだッ!! 俺こそが、零眼だ! 証拠を見せよう!」
ヒロはそう言うと、煙を大量に吸って吐いた。そして吐かれた煙にバチバチッと空色と黒色のグラーデーションのかかった電撃が走ったかと思うと、煙はみるみる内に龍の形へとなった。そうして実態化した小さめの影龍は、ヒロを囲むように体を曲げて地面へと降り立った。
「すまない……! 今までずっと隠していたッ! 俺がわざわざ下っ端幹部に変装したのは、俺が部下を信用できなかったからだ! そして絆を裏切られるのが怖かったから、”契約”という呼び名で意図的にお前達と距離を置いていた! 本当に申し訳ないと思っている!」
会場の皆は、まだ状況を飲み込めていないようだ。揃いも揃って放心状態のようにして、黙ってヒロを見つめている。
「俺が急にこうして変わろうとしたのは、他でもない! 今回の戦争で死ぬ気で戦い、生き延びても尚この組織にいる皆! そして、組織の為に勇敢に戦い散っていった皆を見て自分の愚かさに気付いたからだ!」
夕明りが消えてよく見えないが、ヒロの目には涙が浮かんでいる。声も少し震えているようだ。
「こんな……こんな事になってまで、言って良い事じゃないのは分かっているつもりだ……だけど……だけど、皆に最後。お願いしたい事があるッ!!!!」
ヒロは泣きながらも会場全体を見渡して、ハッキリと言った。
「これからも……!! 仲間でいて欲しいッ!!!!!!」
そうしてまた、痛い程の静寂が流れた。ハマ爺だけは淡々と調理をしながらヒロを見つめている。すると、ショウタさんが声を上げた。
「当たり前だろぉッ!!!! 俺達はずっとずっと! アンタに着いていくぜ!!」
その一言を皮切りに、あちこちから賛同の声が上がった。それと同時に天井の穴から月明かりが差し込み、ヒロの顔を明るく照らす。
「みんな……ありがとうッ……あ゛りがとうッ!!!!」
ヒロはボロボロと大粒の涙を流して笑った。
「ヒロ! こっち来いよ! 今夜は俺達皆で飲み明かそうぜ!」
俺がそう叫ぶと、ヒロは混獣化で翼を生やして俺の所まで飛んで来た。
「おう! 今夜は全員で飲むぞーーーッ!!!!」
そうして俺達はお祭り騒ぎで夜通し酒を飲んだ。ヒロは冗談抜きで十リットルは飲んでいただろう。そして、俺が酔い潰れて日の出と同時に寝たのは言うまでもない。




