相棒は外で滅多に喋らない
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願いします_(._.)_。
生乾きの洗濯物を取り込んで収納に突っ込み、荷物をまとめて王都へと帰還した俺達だが、日没まではまだまだ時間が有る。
このまま宿へ戻るのも時間が勿体ない為、情報収集にと商人ギルドへ向かう事にした。
せっかくなので、後で処分しようとリュックに突っ込んでいた竹水筒――オニギリセットとかについている麦茶や緑茶の容器――と、白いアレを買い取ってもらおうと思う。
竹水筒は5つあった、もっと有った気もするがポイ捨てしてしまったよ。良い子は真似をしちゃ駄目だ。
ちなみにティッシュやトイレットペーパーなどは、紙類が貴重品な可能性を考慮し、買取ってもらうのを自重するつもりだ。
はてさて、どのくらいに額になることやら。
商人ギルドに入り『商品の買取・相談』窓口へと足を運ぶと、偶然にも登録時に対応してくれた女性が営業スマイルを浮かべて座っていた。
「いらっしゃいませ。あら、貴方様は先日の……。ヤマシロ様、本日はどういったご用件でしょうか?」
「はい、先日は大変お世話になりました。今日は品物の買取と、この辺りの地理について教えて頂けないかと思いまして」
「そうでしたか、ではまず商品のほうをお見せ頂いて宜しいですか? 担当の者が査定致しますので、その間に地理に関して説明させて頂きますね」
リュックから竹水筒を5つと白いアレを5つ取り出し、カウンターに乗せる。
「これは水筒と……もしかして、下着ですか? 随分と肌触りの良い下着ですね。このスリットは獣人用かしら?」
「えーっと、そちらは男性用ですので……」
「え、あー……それならそうと早く言ってください!」
「す、すみません……」
「えーとそれでは、2種類計10点、確かにお預かりしました」
仕方ないじゃん、尻尾穴と勘違いされるなんて思わなかったんだからさ。
それより獣人もいるのか、これは断然もふらねばなるまい!
俺の決意を尻目に、渡した商品を査定担当者らしき職員が持っていき、受付嬢が話を続ける。
「では、この辺りの地理についてでしたね。具体的に何を知りたいのでしょうか? 情報によっては別途料金が掛かりますので、その点はご了承ください」
「そうですか……。では、この国と周囲の国々の位置関係を知りたいです。もし地図があるのであれば欲しいですね」
「それでしたら、こちらの地図が銀貨5枚とお安くなっておりますよ。更に詳細な金貨3枚の地図もありますが……」
「銀貨5枚のでお願いします!」
代金を支払い地図を受け取る。
ヤバい、これで残金がなんと銀貨1枚だ。
後で小森ちゃんにも負担してもらおうかな……。
地図には、この国を中心として周囲の国の大雑把な記載があった。
記載についての説明を聞くと、だいたい人口10万以上の都市と、大きな森や山だけが書かれているそうだ。
上が北で、時計回りに東南西となる位置取りも日本と同様。太陽は東に上って南を通り、西に沈むのも日本と同じだった。
周囲の国々については、地図の端っこに「~国」みたいな記載があるだけで、その国内の地理は記載されていない。
まあ、無いよりはマシだな。
現在地はサモナ王国の王都――どうでも良いけど、サモナ王国って言うんだなこの国――で、東にウオリア帝国、西にクラフタ皇国、北に魔王領があるらしい。
因みに王国の西と南は、永久の森という大森林に覆われており、西のクラフタ皇国とは森を切り開いて作った街道で繋がっているようだ。
王国で記載のある都市は5つ。
まずは現在地の王都、次に南の端にある迷宮都市、3つ目と4つ目が北端と東端の辺境伯領の都市、最後が王都の南西にある公爵領の都市らしい。
少なくとも戦争の最前線では無いようでホッとした。
ちなみに永久の森については、いくら伐っても森の木々があとからあとから生えてくる為そう呼ばれているそうだ。
やはり森には魔物が多く生息しており、開拓したくとも現在の領地と街道を維持するだけで精一杯で、次から次へと生えて来る木々は悩みの種らしい。
まあ、木材や森の恵みは取り放題なため、有難い面のが多いらしいけどね。
この王都から直近の永久の森までは徒歩で半日くらいの距離らしいので、もう少しレベルが上がったら行ってみようと思っている。
取りあえず必須な情報を聞き終えた頃に、査定が完了したとの知らせが入った。
「査定の結果、水筒は一つ銅貨1枚、下着は1つ銀貨1枚で宜しければ、買い取らせていただきます」
「ふむ、なかなかの額ですね……それで構いませんので、買取お願いします」
「承知しました。それではギルドカードをご提示ください」
まさか白ブリーフ一つが銀貨1枚になろうとはね、ハズレアイテムなんて言って正直すまんかった。
ギルドカードを渡すと、魔法的な何らかの処理を済ませた後に、代金の銀貨5枚、銅貨5枚と一緒に返してくれた。
カードをよく見ると貢献値が増えているのが分かった。確かギルドへの利益供与が銅貨1枚分で1ポイントだから……。
「貢献値が1010になってますね……」
「はい、今回買い取った商品は、水筒は一つ銅貨5枚、下着は一つ銀貨5枚で販売される予定です」
「か、買い取り額の5倍ですか!?」
「はい。そこから、王都の商店で販売する場合、売り上げの約4割が税として国に納められます。そうしますと、買い取り額を引いたギルドの利益が水筒は銅貨2枚下着は銀貨2枚で、各5つを合計しまして銀貨10枚の銅貨10枚となります」
銀貨1枚が銅貨100枚で、銅貨換算で1010枚で1010ポイントの貢献値となったわけか。
それにしたって、ぼったくられた気がしてならない。
「納得がいかないご様子ですが、交渉をされなかったご自分の責任ですよ。今回の場合、交渉されれば2倍までの買取額にはなったはずです。ギルドでの買取交渉の難易度は優しいくらいですので、貴方様の商人として今後が心配ですよ」
「うぅ、仰る通りで……」
ぐうの音も出やしねぇ。
日本の店ではどこだって値札が付いてるから、値段交渉なんてしたこと無かったけど、他の国ではそうじゃない事もあると聞いた事が有る。
商人としては安く買って高く売るのが当然で、良い値で売り買いするなんて殿様商売じゃ、叱られて当然だ。
むしろ叱ってくれる事を感謝しないとだ。
等と反省しかけた瞬間、背後の小森ちゃんから「ふぁ~あ」という小さなあくびが漏れた。
彼女が商人ギルドに入ってから発した第一声であった。
うん……なんか反省する気が失せて来たな。
よく考えれば、俺達って商人になる必要なんて無かったじゃんね。
よし、適当に流して宿に帰ろう。
「ご忠告痛み入ります。今日はありがとうございました、私どもはこれで失礼します」
「またのお越しをお待ちしております」
受付嬢の丁寧なお辞儀に押されるように、俺達は商人ギルドを後にした。
その後はさっさと宿へと帰り、夕食を摂ってベッドに横になる。
精神的には疲れているのだが、身体的にはそれほどでは無い為、なかなか眠りにつけない。
それに最近あれをしてないせいか、ぶっちゃけムラムラしちゃって眠れない。
そろそろ、処理しとかんとヤバい気がするし…………やるしかないな!
俺はチートアイテムを準備し――ティッシュもトイレットペーパーも選り取り見取りだ――、薄い毛布に包まりゴソゴソと動き出すのであった。
小森ちゃんにバレないように注意だ、頼むから気付いてくれるなよ。
~~~~~~
一方その頃、商人ギルドのある一室では、神妙な顔をした男女が向かい合って話をしていた。
「どうかね、例の2人組は?」
「あの2人は商人に全く向いていませんね。あれなら、そこらの孤児を連れてきた方がマシなくらいですよ」
「それでも今日は、珍しい物を持ち込んだそうじゃないか?」
「はいギルド長! 一つはこの辺りには植生していない植物で作られた水筒で、もう一つは恐ろしく縫製が細かい下着です。下着の方は、最近皇国で出回り始めたゴムと呼ばれる素材が使われているようでした」
受付嬢の詳細な報告に、ギルド長が満足の頷きを返す。
「なるほどな、ではその2人がどうやってその商品を手に入れたのかは「不明です」……だろうな」
「とはいえ素材自体は手に入らない物でもありませんし、作ろうと思えば作れなくもありません。王城からの通達の通り異界の者であるならば、自身の持ち物を売ったという可能性もあります」
「……ならば今回の件、王家への報告は保留としよう。今は王城も何やら騒がしい、このような些事で忙しい王家の方々の手を煩わせるわけにもいくまい」
受付嬢の言葉を吟味し、ギルド長がそう判断を下した。
「監視を付ける必要はありませんか?」
「今は他に監視すべき者達がいて、手が回っていないのでは無かったか?」
「はい確かに、既に王城から出た異世界人が17名、現状はその者達の監視だけで手一杯な面はあります」
「であれば不要だ。王都で生活する限り金は幾ら有っても足りないだろうし、遅かれ早かれ生活に困ってギルドに来るはずだ。その時にまた、異界の優れた品々を持ち込んでくれる事を祈ろうでは無いか」
「ははっ! 仰せのままに」
跪いた受付嬢は音もなく姿を消して部屋から出て行き、
「もし次の商品が驚きに満ちた素晴らしい物であれば……その時は縄と手枷足枷を持参で、お出迎えせねばならぬな。……グフッ、グフフフフ、グッフッフッフッフ!」
部屋には1人、気持ち悪い笑みを浮かべるギルド長だけが残される。
しかし、肝心の異世界人2人が――
もう二度と商人ギルドなんて良くか! さっさとレベルを上げて夢の通販生活を送るんだ♪
――等と考えていようとは、夢にも思わないギルド長であった。
1/10)「時計回りに東西南」⇒「時計回りに東南西」に訂正




