相棒は爆死する
大急ぎでテントに戻るとテントは大きく揺れており、何者かの攻撃に晒されているように見える。
しかし、小森ちゃんの悲鳴は断続的に聞こえてくるものの、遠目には肝心の何者かが見当たらない。
「小森ちゃーん、生きてるかーーー!?」
「来てくれたんですね山城さん! お願いです、助けてください~!」
テントから小森ちゃんが慌てて出て来た瞬間、犯人がその正体を現す。
草むらの中から現れたのは、巨大な鼠であった。
巨大といっても鼠にしてはの話で、体高40㎝ほどで尻尾を含めない体長は60cmほどだろうか?
その丸っとした身体は草むらに隠れて、俺からは見えなかったようだ。
こいつが噂の大鼠という奴に違いない。
その姿を見つけた瞬間、情けなくもビクッと身を竦ませてしまう俺。
しかしそれも一瞬のことで、飛びついてきた少女の重みと温かさが、俺の心身に活を入れ動き出させる。
ビビっている場合ではない! 俺は何をすればいい? まずは何が必要だ?
まずは武器だよな、武器、武器か……これだ!
俺は両手に持っていた高枝切りバサミを構えて、巨大な鼠に立ち向かう。
腰に下げてるショートソードはどうしたのかと言えば、正直そこまで頭が回らなかっただけの話だ。
しかし結果からすれば、この選択こそ正しかったと言えよう。
武器の射程というのは、それだけで生物を害する事への恐怖と忌避感を薄れさせてくれる。
剣よりも槍、槍よりも飛び道具だ。銃に至っては引き金一つで命の灯を消せる。
だからこそ一般人をお手軽に兵士に変えられる銃は――っと、今はそんな場合じゃないな。
とにかく、高枝切りバサミの凡そ3mという射程は俺の恐怖を薄れさせ、逃げずに踏みとどまることを可能にした。
両手で構えた得物を前に突き出して左右に振ると、それだけで大鼠は警戒してその場に止まり牙をむく。
口元から覗く前歯は鋭く、噛まれたらきっと痛いだろうなぁ。
頼む、どうかそのまま逃げてくれ!
その願いが通じたのか、数時間にも思える対峙の末に――実際には数分だろうけど――大鼠は草むらの中へと撤退していった。
「ふう、なんとか逃げてくれたか……もう大丈夫みたいだよ小森ちゃん」
「ほんとですか? もう怖いのいないです?」
おっかなびっくり俺の背から顔を出して確認する小森ちゃん。
「ふぃ~、良かったです。あのまま私、死んじゃうのかと思いましたよ」
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟なこと無いです! あのまま見捨てられてたら私きっと死んでました!」
「俺達は一蓮托生じゃなかったのかよ? キミが死んだら俺も死ぬ、なら見捨てるわけないじゃないか」
「え……? あぁ、そうですそうです。そういえばそうでした!」
一瞬キョトンとしたものの、すぐに思い出したように慌てて肯定する小森ちゃん。
まったく、自分で言っといて忘れるなよ。
まあいいか、それよりも問題なのは魔物だ。
正確に言うなら俺達に有る。
ついさっきまで俺は、拠点領域内でスキルで強化された状態なら、ゴブリンや大鼠くらいは倒せそうだと軽く考えていた。
しかしそれは甘かった、それこそ餡子に砂糖をかけて練乳を垂らした位に甘々だ。
実際に対峙してみて分かった。
きっと今の俺では魔物と戦うどころか、傷つける事すら出来ないかもしれない。
あんな大きな生物をこの手で刺し殺すのかと思うと、それだけで手が震えるのだ。
さっきは相手が逃げてくれて助かったが、次もそうとは限らない。
うーむ、これは困った。このままでは身を護ることすら覚束ない。
取りあえずテントに戻った俺と小森ちゃん。
俺は禁断の行為に手を出す決心をした。
「なあ小森ちゃん、悪いけどやっぱり『収納上手』をレベル2に上げてくれないかな?」
「良いですけど? 少し待ってくださいね――――はい、上げましたよ。これで150kgまで収納できるみたいです」
本当はSPを温存しておいて、次のレベルで『内助の功』のレベルを上げるつもりだった。
しかし今すぐにでも戦力強化が必要なので、背に腹は代えられない。
こうして収納量を上げることで、俺もアレにチャレンジすることが出来るのだ。
「よし、これから俺は『警備要員ガチャ』回そうと思う。回数はブロンズ・シルバー・ゴールドの11連を各1回ずつだ。だからその……もしもの時は頼む」
「はあ? もしもですか」
実のところを言うと俺は、こういったガチャを回すのは初めてだ。
ガチャの恐ろしさを聞き及んでいた俺は、今まで意識して封印していたのだ。
俺のメンタルはお世辞にお強くできてはいないため、ガチャの沼にハマり込む事は目に見えていた。
さて、規定回数で止められればいいのだが……。
まずはブロンズ11連ガチャを100ジェム支払い実行する。
スマホの画面には工場らしき場所が移り、ベルトコンベアから虹色に光る球が流れて来て、画面に光が溢れる。
派手な演出が終わった後には、排出されたアイテム一覧が表示されていた。
★1:9個
・たわし×2
・スポンジ
・ほうき
・雑巾
・モップ
・石鹸
・洗剤
・石礫
★2:1個
・特殊警棒
★3:1個
・魔導拳銃
あとは★1はなぜか掃除道具で、★2が警備用品っぽいアイテムだな。
そして、最初からブロンズでは4%の★3が出た!
魔導拳銃は全体的に丸っこいフォルムの拳銃だ。
魔導っていうくらいだから魔力を込めて放つのだろうな、今度試してみよう。
これは幸先がいい。次はシルバー11連ガチャだ!
1000ジェム消費して回すと、今度は画面上で流れて来た球が金色であった。
結果は――、
★2:10個
・タクティカルペン
・カイザーナックル
・ペティナイフ
・木刀×2
・ブーツ[F]
・グローブ[F]
・エルボーパッド
・ニーパッド×2
★3:1個
・タクティカルグローブ[M]
――とまあ、シルバーでは16%のはずの★3は確定分の1個だけで、★4は一つもなし。
★2のグローブと★3のタクティカルグローブが出たが、グローブは日常的に使えそうで、タクティカルグローブは戦闘用と思える頑丈なものだ。
タクティカルって付くとなんか強いみたいだな。
微妙な結果だが、こんな事もあるよね……気を取り直して次だ次!
10000ジェムでゴールド11連ガチャを回すと、今度の球も金色であった。
つうか10000ジェムってよく考えると実質100万円か……。
結果はこんな感じで、喜んでいいのか悲しんで良いのか微妙なところ。
★3:9個
・タクティカルヘッドセット
・タクティカルベスト[M]
・タクティカルブーツ[M]
・タクティカルポーチ
・フリッツヘルメット×2
・迷彩服(上下)[M]
・防護盾
・サバイバルナイフ
★4:2個
・魔導ライフルType-A
・魔導ライフルType-S
やはり排出率4%の★5は出ない。
しかし出た★4の魔導ライフル2種はいい感じだ。
ちなみにType-Aは威力と連射性のバランスに優れた小銃で、Type-Sのほうは射程と命中率に優れる対物ライフルだ。
高レアこそ出なかったものの、これで最低限の装備は揃ったと言えよう。
これなら、ガチャはここでストップでも良いだろうけど……。
「ま、待ってください! 何でまたガチャろうとしてるんですか!?」
「はっ、身体が勝手に!?」
「回すのは良いですけど、まずはこの惨状をどうにかしてからにしてくださいよ~」
無意識に再度ガチャろうとしていた俺は、小森ちゃんの訴えにやっとこ周囲の惨状に気付く。
よく見るとテントの中は、ガチャで出たアイテムで溢れていたのだ。
おぉう、確かにこれはどうにかしないとだ。
それにしても、ガチャ恐るべしだな。
ガチャ破産する人達の気持ちが少しわかってしまったよ。
小森ちゃんと一緒にガチャ品の山を崩しつつ、使わない物は収納へと放り込んでもらう。
取りあえず魔導拳銃とサバイバルナイフだけを残して――護身用に装備しておく――残りは収納の中だ。
そして何故か山の中から姿を現す、下着や靴下、タオルにティッシュ類。
これはいったい……?
「なあ小森ちゃん「ごめんなさい!」……分かってるなら良いんだけどさ、説明してくれるよね?」
問い詰めたところ、俺が各種11連を3回ガチャる間に小森ちゃんもブロンズ11連を3回ガチャったらしい。
んで、その成果だが――、
★1:29個
・ソック[M]x2
・ソック[F]x2
・二―ソック[F]x3
・白ブリーフ[M]x3
・トイレットペーパーx3
・ポケットティッシュx4
・箱ティッシュx3
・ハンドタオルx3
・ハンカチx2
・軍手x2
・ヘアゴムx2
★2:4個
・縞々下着上[F]
・縞々下着下[F]
・トランクス[M]
・バスタオル
――とまあ結果は散々な物、見事な爆死だ。
まったく何をしてるのだか……。
気の抜けてしまった俺達は結局この日、荷物を整理してすぐ街に帰るのであった。




