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相棒は筋肉痛が治る

3/17) 「ネット通販」⇒「通販生活」

 拠点撤去を実行すると目の前のテントと手元のスマホが消え、テント内に置いたはずのトイレットペーパーだけが残される。

 透けるような薄紙が虚しくひらひらと草原にたなびいていた。

 どうやら、拠点内の荷物は外は一緒に回収されることなく、外に放り出されるようだ。

 これ、後々大きな拠点を取れたとして、家具が大量にある状態で撤去するとヤバい事になるんじゃ……?


「むぐぅ……ふんぬ! ……うぅ、やっぱり起き上がれません……」


 苦しそうな声に我に返って振り向くと、小森ちゃんが地面に這いつくばっていた。

 食事中に倒れたのか、潰れたオニギリが顔と髪にべチャッとへばりついていて痛々しい。


 うわぁ、あれ取るの大変そうだなぁ。


 等と同情する余裕は俺にも無かったようだ。

 地面に崩れ落ち四つん這いで耐える俺。


 くぅ、腰に来たぜ。


 この身体の重さは、インフルエンザに罹った時のあの辛さに近いかもしれない。

 原因はまあ、俺が拠点を撤去したせいだろうな。

 拠点を撤去することで、『内弁慶』の効果が切れてパラメータがダウンした所為に違いない。

 一度楽を覚えると、元に戻った時がつらいってのは本当みたいだ。

 もしかしたら月面から帰って来た宇宙飛行士とかも、こんな辛さを感じるのかもしれないな。


 しばらくすれば歩くことくらいは出来るだろうけど、とてもじゃないが荷物を担いで帰るのは無理そうだ。

 一旦、拠点を出して作戦を練り直そうと思う。


「拠点をまた出すから、ジッとしててな」


 脳内のステータス表示から『拠点設置』スキルを起動し、テントを再設置する。


 ふぃー、やっぱり楽になった。


 小森ちゃんも起き上がって、ハンドタオルで顔を拭く。

 髪についてご飯粒も取ろうと努力していたが早々に諦めたようだ。


「これは結構きついですね……。なんでしたら、このままここに泊まっていっちゃいます?」

「いや、さすがにそれは危険だろう。夜の魔物とか狂暴そうだしさ」

「そうは言いますけど、どうやって帰りましょうか?」

「そうだなぁ、確かまだSPが残ってたよな? それでどうにかならないか考えてみようか」

「ですね。――――なら私はこうしてっと」


 小森ちゃんはタブレットを操作すると、自分の荷物をポイポイと何も無い空間に放り投げる。

 不思議な事に荷物は落ちることなく、何処かへと消えていった。


「『収納上手』を取って見ました。これで30kgまでの荷物は入れておけますよ」

「いいね! あっでも、一応なんだけどさ、拠点を撤去しても中身が消えない事を確認しときたいな。さっきも拠点撤去したら、テント内の荷物がそのまま外に放り出されちゃったしな。俺らのスキルって結構、融通利かなそうだよ」

「そうですか、山城さんて慎重なんですね。そういう所とても良いと思います。それでは私も、失くなって良いものだけ収納に入れておきますので、準備が出来たら試してみてください」

「了解、俺はそうだなぁ……これを上げるか」


 俺もスマホを操作し『領域拡張』のレベルを2に上げる。

 これで拠点領域が拠点から半径60mから、半径120mに広がった。

 どうやら『領域拡張』のスキルは1レベル毎に2倍になっていくようだった。


 そしたら、テントから街の入り口の方へと100mほど歩いて離れる。


「この辺でいいかな。これから撤去するぞー!」


 100m後ろの小森ちゃんに声を掛けると「どーぞー」という声が小さく聞こえて来た。

 スマホから拠点の撤去を実行する。

 途端に手元からスマホの重みが消えて、逆に身体の重みは何倍にも感じるようになった。


 成功だ。

 後はここで再設置すれば……。


 その場でテントを設置すると、拠点の位置はさっきよりも100mだけ街の入り口に近づいたことになる。

 後ろを見ると、小森ちゃんはさっきまでテントが有った位置に座り込んで、タブレットを再召喚して画面をチェックしているようだ。


 彼女の元へと歩いて戻り、声を掛ける。


「どうだった?」

「はい、収納の中身はちゃんと有りましたよ。これで他の荷物も入れといて大丈夫そうです」

「そっか、じゃあちゃっちゃと帰ろうか。急がないと完全に陽が沈む」

「そうですね、では帰りもオンブをお願いしますね!」

「いいからちゃっちゃと歩け!」


 街に出た時に持っていた荷物以外を全て収納スキルに放り込むと、小森ちゃんの手を取り無理矢理立たせた。

 おっと、俺のショートソードも拾っとかねばな、どうせ俺は使えないが無いよりはマシだろう。


 そのままテントを通り過ぎ、街の入り口側まで100m進んではテントを撤去・再設置をする。

 同じことを何度か繰り返し、どうにか街の入り口近くまでたどり着くことが出来た。


 さすがにこれ以上は目立つため、後は自力で進むしかないだろうな。


「で、やっぱり無理そうかな?」

「うぅ……すみません。えと……やっぱり……お願いして良いですか……?」


 スキルのチート効果が切れた彼女は、生まれたての小鹿のようにプルプルしており、今にも崩れ落ちそうだ。

 正直言って俺も苦しい。立っているのもギリギリだ。

 しかし俺も男だ。意地ってものもある。

 涙目で頼まれちゃうと断るに断れないのだった。


「ようしわかった! 俺に任せとけ!」


 完全いやけくそである。


「あの……ありがとうございましゅ」


 あ、噛んだ。真っ赤な顔を手で押さえて俯いていると、何故か可愛く見えるから不思議だ。

 目の下のくまは前髪で隠れてるし、荒れた唇が手で隠れてるのが良いのかもしれない。

 美人に見えるのは、夜目遠目笠の内って言うくらいだからな。


 俺が背を向けると「……失礼します」という蚊の無くような声と共に、柔らかさの欠片も無い感触が背にもたれて来た。

 あとは俺が持ち上げるだけなんだが……これは勢いが必要だな。


「ふんぬーーーっ! くっ、重っ……」

「あぅ…………重くてすみません……」


 ごめん、今はフォローする余裕すらないわ。


 気合と根性、あとはなけなしの意地で立っているだけの俺は、そのまま街へと向かい歩くのだった。



 俺はそこから宿に着くまでの間、意識が朦朧としていたのか記憶が定かでない。

 途中、門番さんに身分証を見せたはずだが、どうやって見せたのかすら覚えていない。

 たぶん、小森ちゃんが見せたのだろう、俺の手は塞がっていたはずだし途中でおんぶを解除した記憶も無い。

 覚えているのは、宿に着いた時には既に外は真っ暗であった事と、部屋に戻ってベッドに倒れ伏している時に、女将さんが夕飯の時間だと訪ねて来たことくらい。

 もちろん夕飯など食う気力も無いのでお帰り願った。


 そして、気付いた時にはもう朝だった。


 俺が目が覚めると、ベッドの横には小森ちゃんが立っていた。


「あの……おはようございます。えと……おかげさまで、その……筋肉痛が治りました……」

「そっか、それは良かった」

「それでですね、あの……朝ごはん、食べに行きません……?」

「…………行ってきていいよ。俺はここで待ってるからさ」

「いえ、その……街の外に行きたいのですが……お付き合い頂けませんか?」


 外かあ、行きたいのはやまやまなんだけどね。


「すまん…………動けないんだ」

「うえぇ……じゃあ、朝ごはんは……?」

「『通販生活』で菓子パンセットとか買ってなかったっけか?」

「…………収納に入れちゃいました」

「あ……そうだったね、じゃあ宿の飯で我慢するしかないな」

「そんなぁ……」


 小森ちゃんも涙目だけど、俺だって泣きたい。

 手に入らない物を我慢するのと、そうでない物を我慢するのでは、後者のほうがキツイ。

 かといって動けないのはしょうがない。腰がね、もう限界っぽいのよ。


 そんな悲壮感漂う空気を打ち払うように、部屋の扉がノックされ女将さんの声が聞こえて来た。


「おはようお二人さん。朝食を持ってきたから開けとくれ! それとも昨夜と同じで要らないのかい?」

「いえ、今開けますので少々お待ちを! 小森ちゃん悪いけど開けて来てくれるか?」


 自分のベッドに逃げようとしていた小森ちゃんに声を掛けると、しぶしぶながらも扉を開けてくれる。

 食事は女将さんが俺の元まで運んでくれる。


「なんだい、今日はあんたのほうが足腰立たないんかい? 無理させるなとは言ったけど、あんたも良い歳なんだろうから無理しちゃ駄目じゃ無いか」

「はぁ、もうそれでいいですよ……。昨日はこの子にどうしてもと頼まれたもので、彼女を乗せて力尽きるまで頑張っちゃいまして」


 もう自棄だ、どうせこの世界には未成年に手を出したからって煩く言う人も居ないだろうしな。

 まあ、嘘は言っていないよ。

 ほんとに記憶が飛ぶくらいに頑張って運んだんだしな。


「へ~、大人しそうな顔して結構やるじゃないかい」

「え……いあ……ちがっ、くて……」

「それよりこの部屋なんですが、あと5日ほど延長できませんかね? あ、食事は無しで良いです」

「それじゃ一晩銅貨40枚で5日だから……銀貨2枚だね」


 狼狽える小森ちゃんを無視して、俺は痛みを我慢しながらどうにか銀貨2枚を取り出して渡す。


「まいどあり、じゃあほどほどにするんだよ!」

「はいはい、どうせ何もないって分かっててからかってるんでしょう?」

「あら、バレちまったかい。ハハハ、なんだったらほんとにしても良いんだよ」


 冷静に考えれば分かる事だった。

 お楽しみだったかどうかなんてシーツ見ればだいたい分かるだろうからね。

 昨日あんなに焦ってしまったのが恥ずかしい。


 案の定、バツの悪い表情を浮かべて女将さんは去って行った。


 部屋に2人残された俺は、小森ちゃんに向かって思い切って切り出す。


「さて、食事なんだけどさ、悪いけど食べさせてくれないかな?」

「…………え?」

「昨日のお返しと思って頼むよ。ほんと動けなくてさ」


 等と、脳の処理が追い付かずフリーズしかけてる小森ちゃんに、更なる追い打ちをかける。


 まあ無理すれば食えそうではあるけど、これも役得ってやつだよね?

 


 

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