めんどくさがり、国民になる。
王城から転移しようものなら大騒ぎになるので、人に見られないように空にでも飛んで転移しようと思っていた矢先のこと。
「すみませんっ」
さっきの王女らしき少女、というか王城の敷地に平然といる時点で王女だろう。
「王女様で合ってます?」
「はい、イルミナ・フォン・アルトと申します。」
「それで、何の用で?」
「あなたに、冒険者、特に迷宮の探索者になって欲しいのです。」
冒険者。商人の護衛や魔物の討伐を生業とし、特に迷宮と呼ばれる構造物で主に活動する者は探索者と呼ばれる。
…目が輝いている。断ったら泣かれそうでめんどくさい。泣かれなくてもここは人が通るところに近い。今は見られてはいないが通りがかられて断るところを見られたら噂になる可能性もある。
「いいですよ。」
「いいのですか!?…理由は聞かないのですか?」
「話していただけるなら、ぜひ。」
変な狙いがあるようなら即逃亡。
「最近、迷宮が活発になっていまして、魔物の処理が段々と切迫しているのです。」
「それ、一般人に話していい内容ですか?」
「ええ。もうきっと噂で流れていることでしょう。探索者も張り詰めた様子で、人々は察しているはずです。」
「…身元が保証できるものは必要ですか?」
そういえば、何も持っていない。
「はい。探索者になるための冒険者ギルドへの登録の段階で、身元の保証が必要になります。」
この王女に保証してもらうというのも可能ではあるだろうが、禍根が残る可能性がある。
「私、世捨て人のようなものでして。何も身元がわかるものを持っていないのです。」
「でしたら、我が国の王立アルト学園に入学して、そこの在校生という身元を持つのはいかがでしょうか。」
すぐにそこに頭がいくあたり、よく勉強しているか、地頭がいいか。どちらにせよ仲良くしておかないとめんどくさそうだ。
「入学試験は明日になりますが、申し込みはこちらで手配しておきますし、あなたの強さを見れば筆記試験がたとえぼろぼろでも合格にはなると思いますので、ご安心ください。」
明日か…
王都上空10000m。この体は水も栄養も酸素も必要ない。だからこうして遥か上空の死の世界で浮かんで夜を越すことだってできる。
雲と遠くに海が見えるのみで、空は地上から快晴の空と何ら変わらず、地上にいるのか空高く浮いているのか、空だけを見ているとよく分からなくなることもある。
色々と削ぎ落としていった俺に、何が残るかといえば、五感、思考、言語、知識くらい。
貧しいと思う人もいるのだろうが、煩わしい思いをしなくて済むので結構だ。
…学園。嫌でも人間関係に身を投じることになる。
自分が異常者であるのは百も承知だし、けれどもどうにか溶け込もうとするのはめんどくさい。
まあ、お互い慣れるのだろう。
…魔法の開発でもするか。
入試当日。筆記は、神様がくれた知識で楽勝だった。どうやら天使として仲裁できるようにするために歴史の知識なども必要だと考えたのだろう。
実技は、的当てと模擬戦。
的は、とりあえず魔法で灰にしたら試験官が驚いた顔をしていたのでよかったのだろう。
他の人は何やらやけに荘厳な詠唱をしていて、それを省いたのと、的を破壊できていたものは少数だったのでそれとで二重に驚いたのだろう。
模擬戦は、速度を相手に合わせたのにすぐ勝ってしまった。誘いや罠を仕掛けたらざるだった。
試験官に勝てた者は自分以外いないようだった。1人2人、追い詰めていた者はいたが、押し切れなかったようだ。
…もしかして噂になる可能性があるかもしれないな、やらかした。
合格発表兼入学式の日。
なぜかごちゃ混ぜに張り出されている受験番号から自分が合格していることを確認し、入学式をぼんやりと過ごし、学園へ入る。
俺は1-Aに割り振られている。無事に国民になれたらしい。




