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SENA  作者: 雅号丸
第1章 CTBT:Comprehensive Tactics Beta Test

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8話 チョークポイント

イージス艦の管制室の中、ホログラムが浮かぶ長机に、セナはORCAと共に座る。

エメラルドが室内に入ると、タブレットを操作して、ホログラムの地球儀の国境線が赤く描かれ、凸の字が複数展開される。


エメラルド「セナ、私はエメラルド・アップルビー、指揮官を務める。では次の作戦の概要を説明……したい所なのだが、問題が発生した」


フランスの海岸線沿いに凸の字のホログラムが移る。赤色の凸の字より数が少ない。


エメラルド「第二次ノルマンディー上陸作戦は、こちらの計算より数段少ない損害で成功を収めた。しかし、UHKのナチどもの持つ陸軍戦力はこちらの計算する数倍は存在することが、港にあった兵站計画から算出された。ここル・アーヴル港から即時展開しフランスを進んでドイツに向かう頃には、現在前線で奮闘するスペインが占領される。そうなれば、ドイツの国防部隊とスペイン帰りの軍によって我々は包囲殲滅を食らう。本部であるベルリンを落とす前に、スペイン方面から撤退してくるドイツ軍と挟まれるならば、スペインに全力を持って加勢しにいくか……あるいはやはりベルリンを攻めるか、ということになっている。ベルリンを攻める場合スペインには籠城戦などで時間を稼いでもらう必要はあるが、そのような命令を7ヶ国から出しでもすれば、スペインがUHKに寝返る可能性も出てくる」

マイロー「では、スペインに加勢を?」

エメラルド「そうするべきだ、なぜならそれこそ最善手だからだ。だが……どうやら上のパワーゲームではそうはいかないらしい」

セナ「予測……第二次ノルマンディー上陸作戦ほどの規模の作戦を行って、もしスペインに加勢するだけとなると、それは作戦のコストパフォーマンスの大幅な低下となる。ただスペインに戦力を回すだけなら、【モザンビークやポルトガル経由で普通に戦力を送れば良かったじゃないか、もっと安く戦争ができたはず】という批判が、第二次ノルマンディー上陸作戦を、作戦として通した人間に降りかかる。それを恐れた上層の特定の誰かが、自分の保身のために、より大胆な作戦の立案を求めている」

エメラルド「はぁ……セナ、100点だ」


那東が舌打ちをした。


ヴェロニク「結果論出して批判するって、簡単だよねぇ。ドイツ軍の戦力、ノルマンディー来る前にまで、分からなかったのになぁ」

ベネット「俺が掛け合うか?ちょっとくらいなら、顔が利くぞ?」

マイロー「私も、ウクライナ首相やイギリス王室にかけあいましょうか?」

エメラルド「それから、大胆さを必要とする理由が追加で2点ある。まず良い方で1点目、ミロスラフが持ち帰った情報のなかで、電子的にロックがかかった情報が数あった。サウジアラビアの協力を元に、それらを解読した結果。UHKには、ある技術があることが判明した」

ヴェロニク「頭をおかしくする方法、とか?」

エメラルド「……そうだ」

ヴェロニク「えっ当たってるの!?」

エメラルド「過去の研究によって病的科学(Pathological science)、錬金術同様、存在し得ない科学とされた科学技術、ESPだ」

ベネット「ESPって……」

那東「PSI(サイ)や念力、魔法とかそういう類いでござるか」

エメラルド「情報元がデータであることによって、送付されたサーバーへ逆探知を行い、成功した。つまり裏打ちは取れている。そして結論としてペンタゴンが出したのは、ESP技術によりアデリナを基点として、国民全体にマインドコントロールを行っているということだ」

ベネット「そりゃつまり、アデリナをブッ飛ばせば戦争が終わる?」

マイロー「もう1つは……何か悪い情報ですか?」

エメラルド「上層の、もう1つのパワーゲームを止める必要があるということだ。Seven Nation Armiesは7ヶ国による多国籍軍」

セナ「予測。第二次ノルマンディー上陸作戦成功後、7ヶ国による地図上での【ドイツというパイの奪い合い】が発生している?」

エメラルド「アデリナ・ヒトラーの言う通り、ドイツの地理的脆弱性は深刻で、時代がどれだけ変わろうと、かの国に怪物は現れる。弱さに裏打ちされた生存本能という怪物がだ。ビスマルクなどに列する天才外交官が来るまで待つわけにもいかず、遂にヒトラーを冠する化け物は2人となった。ドイツという国家、ゲルマンという文化圏……上層はそれらを一切消し去るつもりらしい」

ベネット「そりゃつまり」

エメラルド「ドイツは7ヶ国によるNATO直轄の共有植民地となる。だが……」

マイロー「そんなことになれば、ドイツ占領の配分を求めて、各国がこぞって我先にと軍を動かし地域を勝手に占領していってもおかしくはない。7ヶ国は個別で軍隊を動かし結果、スペインへの加勢すらままならず、占領は遅れ、想定されるように、スペインから帰還するドイツ軍に挟撃される形となる……」

エメラルド「それにあたって1つ、サウジアラビアから提案があった。セナ、SSDの内容を確認しろ。ファイル名はPだ、ダウンロード箇所がズレている場合、学習AIのモデルファイルに移動させろ」

セナ「……確認しました。では、しばらくお待ち下さい」


セナは帯電し、目を閉じた。


ベネット「……おい、まさか」

エメラルド「今、ペンタゴンやイギリス軍、他多数国家の今までの戦略や戦術、現存する兵器のデータを、ファイルに入れてセナに読み込ませた。セナには今、この状況を打開する作戦を立案してもらっている」

ベネット「AIに戦争の戦略を立てさせるって……マジで言ってるのかおい」

エメラルド「マザー曰く、上のパワーゲームを一切考慮しない、安全かどうか可能かどうか、そんな人間らしさの欠片もない作戦立案には、こうするのが一番、ということらしい。セナ、プロンプトはこうだ。アデリナ・ヒトラーを暗殺する作戦を立案せよ」


セナは帯電が収まると、目を開ける。


セナ「作戦名、オペレーション・スターウォーズを提案します」


セナはホログラムをいじると、地球儀のノルウェー西側の海に1つ、青い凸の字のマークが浮かんだ。そして日本にも凸の字が浮かび、アメリカ、イギリス、ノルウェー、スウェーデン、デンマークを経由するようにして、ノルウェー西側の凸の字に被さっていった。


セナ「この作戦は、2035年に完成した、日本の大口径ステルス砲撃システム、35式レールガンユニット【不鳴神(ならずがみ)】を5機、アメリカ経由でイギリスに空輸、イージスシステム搭載の原子力巡洋艦に積載、ノルウェーやフィンランドといった、ドイツに未だに戦争を仕掛けられていない国の海軍に守ってもらいながら、イギリス東側の海域、北海を越えデンマークまで向かい、ドイツのブレーゲまで向かいます。そして、積載したレールガンの砲弾に我々ORCAを装填」

ベネット「装填ッ!?」

セナ「首都ベルリンに向かって、レールガン砲弾として我々を発射し空輸、空挺降下しベルリンへ侵入、ドイツ首相にしてUHKトップ、アデリナ・ヒトラーを殺害します」


会議は静まり返った。


マイロー「……あの、もっと詳しく聞かせてもらっても?」

セナ「まず、日本からアメリカ、イギリスまでの空輸ルートは何も問題ありません。SevenNationArmiesの7ヶ国には日本も参加しており、自衛隊装備の供与を主な任務としています。アメリカの戦略防衛構想(SDI構想)を基点としたレールガン開発は、アメリカが研究を断念しても日本だけはやめませんでした。そして2035年に少数量産を実現し、大出力のレールガンユニットは戦術に組み込めるほどに開発が進みました」

那東「レールガンの特徴は主に2つ。1つ目はステルス性能、2つ目は鉄材ならば弾丸を選ばない、この2点でござる。おそらくセナ殿が興味を持ったのは、その1つ目であるステルス性能。レールガンの射撃にはミサイルのように推進剤を利用しない、そのため発射時に熱源として衛星や各種アラートに観測されず、撃ち落とす必要ありと計器が測定することはなく、そうして様々なレーダーの探査にひっかかることはない。知る限りで、2030年まで最大射程であった距離は有効射程となり、そのレンジはおよそ300km……ブレーゲからベルリンまでは一直線で、ちょうど300km程度。原子力艦なら発電に必要な電源も十分に確保できるでござろう。そして、我々を担ぎ込んで、人間大砲としてレールガンを利用する、と。原子力艦こそ捕捉されようと、レールガンから発射された砲弾が何を意味するか、UHKが分かるはずもなし、ということか」

ベネット「だとしても、所々穴空きであることに間違いはない。もっとしっかり詰める必要がある」

ヴェロニク「まずその作戦さ、たぶん3段階に分けられるよね。空輸、北海突破してブレーゲ、レールガンで突撃。一番難しいのは、北海を突破してブレーゲに到着することよね?」

ベネット「ベルリンに降りてアデリナを殺害するには簡単だって言いたいのか?HAHAHA、いいぜその気合い」

セナ「北海は現在、UHKによる領海侵犯が横行しています。第二次ノルマンディー上陸作戦の直後、UHKによる商船の破壊も観測されました。ここからさらに海域は戦場になることは間違いありません。なのでノルウェー、フィンランド、デンマークの領海を通り道として利用し、防護も任せることで、進軍であることを悟らせないようにします。手っ取り早く、デンマークなどがイージス艦を購入したという書類でも作成し、運搬という目的で海域を横断することを提案します。北海を越えてスカゲラク海峡に入りデンマークの海域に移動。バルト海に南下しブレーゲに向かう。迂回は多いですが、ルート自体はこれで構築できそうです」

エメラルド「ノルウェー、フィンランド、デンマークは共にNATO加盟国だ。快く、とまではいかずとも、交渉は素早く終わるだろう。だが問題があるとすればデンマークだな……すぐ近くにドイツがある関係上いつ戦争状態になってもおかしくない。海域にイージス艦など配備すれば、ドイツはバルト海への警戒を高め、ノルウェーなどにも戦争を仕掛けてくるかもしれない」

セナ「今の最前線はスペインにあり、第二次ノルマンディー上陸作戦の影響で北海南部に海軍艦艇が終結しつつあります」

ベネット「なんというか……防衛を捨てがちなだ、UHKは」

エメラルド「7ヶ国の海軍をノルマンディーに駐留させているからこそ、相手も相応の防御が必要になってくるというもの。新ソ連にも警戒を怠らずに最前線を作り、デンマークなどのNATO加盟国にも警戒を……UHKは今、戦力の運用に迷っているはずだ。そして過去、現在において、軍部は常に大胆さが求められる。臆病者は前線に送られる。防御を薄くしてでも、守りたい自分が、軍部個々人にはあるのだろう」

ベネット「結局どこの軍隊も上のパワーゲームって訳か」

エメラルド「潜水艦で偵察を出そう、案外すぐバルト海までは抜けられるかもしれん」


セナが首を横に降る。


セナ「……1つ、懸念が存在します」


面々がセナを見た。


セナ「バルト三国やフィヨルド周辺国家のうち、NATOサイドであるにも関わらずドイツと関わりがある国家が、おそらくですが存在します」

ヴェロニク「えぇ、本当に~?」


面々は驚きの表情を見せる。


セナ「……ノルウェーは、ドイツと取引をしていると考えます」

エメラルド「続けろ、セナ」

セナ「その関係を利用して、北海のUHK海軍戦力に対する盾となってもらいましょう。そして数少ない後方のドイツ海軍戦力を縫うように移動、スカゲラク海峡を通りデンマークのコペンハーゲン、そしてブレーゲへ向かいます」


エメラルドが、息を飲んだ。


エメラルド「なぜ、ノルウェーがドイツと関係している?第二次世界大戦では占領下にあったあのノルウェーが?あり得ない、ナチどのもにやられた過去を忘れたのか?反ナチは国歌だろうに」

セナ「訂正。結託があるではなく、経済的な取引をしていると考えます。ドイツが旧ロシアから格安でエネルギー資源を購入したように、ノルウェーから石油資源を購入していると考えます」

エメラルド「根拠は?」

セナ「状況による推察でしかありません、お聞きになられますか?」

エメラルド「頼む」

セナ「事の発端として、2つの事柄が挙げられます。1つ目、ディーゼルゲート事件。2つ目は……ノルウェーの保有する北海油田の、可能性としての、枯渇です」


ヴェロニクは頭を傾げた。


ヴェロニク「うん、一個も分かんないや。でも油田ってさ、枯渇するものなの?」

那東「ディーゼルゲート事件。ドイツのフォルクスワーゲン社が犯した、ディーゼル車の排ガスの試験で不正なソフトを使用し、排ガス規制を偽装した事件だ。世界中の車をリコールすることになったフォルクスワーゲン社は、エンジン性能に対する圧倒的な不信感を消費者に植え付ける形になり、その後会社は主力をディーゼル車からEV車の販売へ大きく舵取りした。っという話があったでござる」

ヴェロニク「詳しいねぇ」

那東「日本はEV車や太陽光パネルなど、エコに関する利権によって、随分と国民が煮え湯を呑まされたでござる。しかし何の関係があるかは毛ほども理解できないでござるな」

セナ「情報はまったく確定していませんが、おそらく基点はディーゼルゲート事件。これにより、2015年からフォルクスワーゲン及びドイツの自動車産業は、EV車が売れないとどうにもならない状況に陥り、そして2017年、ノルウェーは議会で2025年までにすべての新車乗用車やバンをゼロエミッション車、つまりEV車にすることを規定しました。そして2025年にはノルウェーのEV車は国内車の90%を占めることになります」

ベネット「ノルウェーが謎にフォルクスワーゲンの危機、ドイツの国難に援助をしたと見える、こともなくはないって話か」

セナ「しかし、税金を使ってでもEV車購入に際して様々な補助金を出したり、逆にガソリン車に多量の課税を行うなど、かなり強引にEVへの転換、俗に言うEVシフトを行った結果、国内では充電施設が圧倒的に不足、石油輸出によって得られた財政黒字の貯蓄をほぼ使い果たすという結末を迎えました」

マイロー「フォルクスワーゲンの養分にされ、結果ドイツの1人勝ち……ということですか」

セナ「ここで疑問になりました。なぜノルウェーはそこまでしてEVを導入したのでしょうか?そして国を犠牲にしてまで、どうして普及させ続け、ドイツの餌になったのでしょうか?」

エメラルド「何かしら、国営に際してのチョークポイント(弱点)をドイツに握られていたか……利権か?」

セナ「ノルウェーは石油産出国とは思えないほどの民主主義を会得していました。社会学には、資源のある国ほど利権による独裁や圧政が敷かれやすいという法則を意味する【資源の呪い】というワードが存在し、しかしノルウェーは民主主義により政治的地盤は磐石でした。ハッキリ申し上げれば、利権を育むのに最も難しい国家だったと言えます」

ヴェロニク「じゃあ、セナちゃんが考えるにドイツはノルウェーの政治的弱点を握ってるって考えた訳だ。でもそんな弱点……あぁそれが」

那東「それが、先ほど言った北海油田の枯渇という訳でござるか。何故、枯渇しているのではという発想を?」


エメラルドはタブレットでデータを見る。


エメラルド「……可能性の外には出ないな。だが2点、理由としてありそうなものがある。セナ、2022年の旧ロシアによるウクライナ侵攻の時の石油産出量、そして2038年~2040年現在の、ノルウェーが持つ北海油田の稼働率……それを見たな?」

セナ「はい。2022年の旧ロシアによるウクライナ侵攻では、大量の物資がウクライナに、NATOによって渡されました。その中には当然石油などのエネルギー物資もありました。ウクライナのパイプラインは旧ロシアに大元が存在し、付近にあるセヴァストポリ海軍基地周辺の港は、旧ロシアが実効支配。海運による石油運搬も難しいなか、であれば必然的に陸路や空輸で石油や天然ガスを届けることになります。そしてイギリスなども北海などにある石油プラットフォームを稼働させ石油を取り出し、ウクライナへ送っていった」

エメラルド「だが、そんな大事であるにも関わらず、ノルウェーの石油産出量は増えていなかった。これは意図的に石油を取り出すことを嫌がっていると捉えることもできる?」

セナ「はい、ですがこれだけではまだ分かりません。ノルウェーには、石油採掘量の上限を年間で9000万tに制限する法律があります」

エメラルド「どこが怪しい?」

セナ「ここ数年の、北海を撮影した衛星写真を動画化し60FPSで動かした場合、今年は油田の稼働時間から考えて年間採掘量が既に9000万tを越えています。今は5月です

エメラルド「ドイツはNATOであるノルウェーから石油資源を買い取り、それでポーランドを攻め落とし、フランスを打倒し、スペインを攻めているということか。だが、ノルウェーは石油を取りたくないのだろう?」

セナ「きっと、ドイツに貯蓄させられたのでしょう。ウクライナ侵攻のときも……石油資源の枯渇を、ノルウェーはおそらく隠蔽し続けてきた。輸出品の40%が石油であるノルウェーにとって、石油枯渇の情報が他国に渡ることは貿易における死を意味する。外貨は入らず外資系企業は撤退、失業率は大幅増加、ドイツに金を持っていかれた手前、もう福祉に税金もかけられない。ドイツはどこかで石油枯渇の情報を盗み、脅しをかけてEV車両を導入させ、ノルウェーが黙って言うことを聞く国に仕立てた……だからノルウェーは、ドイツに命令される形で、残り少ない石油資源をドイツへ輸出している。あるいは無償提供なのかもしれません」


ヴェロニクは全身に力がこもる。


ヴェロニク「何それ……何それ!」

ベネット「嬢ちゃん、落ち着け」

ヴェロニク「奪ってばっかじゃないドイツ……!しかもそれ、UHK絡みじゃないところから!なんで?変な思想が蔓延してる訳でもなかったじゃん、ドイツ!2015年って

めちゃくちゃ前じゃない!」

セナ「パイは取り合うもの、と書籍には書かれています。人類はパイを増やすことはできず、現存する量以上のパイを取り合うことはできない、とも」

ベネット「こりゃ、不味いな」

エメラルド「ペンタゴン、CIA、MI6にも連絡を送る。上手くいけばノルウェーをドイツから……」

セナ「いいえ、我々がその事実を逆手に取り、ノルウェーにドイツに対して宣戦布告を行ってもらいましょう。フィンランドやデンマーク、バルト三国にも掛け合い、敵の戦力を分散させれば、作戦の成功率は大きくあがります」


エメラルドはセナのまっすぐな瞳を見た。


エメラルド「いいや、そこまで大事にする必要はない」

セナ「しかし、作戦の成功確率が……」


マイローが席を荒々しく立ち上がる。


「私……は……っ!」


悶えるマイローの頭に、悲鳴、砲弾、ドローンの羽根の音、銃弾が耳を掠める音が響き始めた。建物が崩れ、中から人が落ちて地面で潰れた。


「ダメだ、ダメだダメだ、ダメだ……!」


マイローはふらつき、目を大きく開け、頭をかきむしる。一瞬動きが止まったかと思うと、長机を飛び越え、セナに飛びかかる。


マイロー「ダメだぁぁぁぁっ!!!」


セナは帯電し襲いかかってくる拳をはね除けるも、飛びかかった勢いで足で腹部を蹴り飛ばされ倒れる。拳から流れる血液は多く、呼吸も荒く、押し倒したセナの首もとを絞めるように持つと、帯電し続けるセナを揺さぶり、頭部を床に叩きつけた。


「キサマのような机上でしか物事を考えない大バカ者が!!命を取り合う場の本質を知らない愚か者が!!命の価値を知らない狂人が!!人の上に立ち、駒のように人間を扱うから!!我々兵士は常に地獄に向かわされるんだ!!キサマらのような人間がなぜか俺たち兵士より旨い飯と屋根のある寝床で寝て女を抱いて、我々はなぜ死んだ友とウジと汚泥の中で、銃火器を支えに眠ねばならない!!犬死という言葉が、人的資源という言葉が、キサマらのような存在の恐ろしさを露呈させる!!人の命は1つしかない、二度と命を数えるな!!我々兵士は、この世界に生きる全ては、その内に秘める心ってのはなぁ!!変わりのきかない1つの文化だ!!各自の生きる内に作り出す、形のない文明だ!!それを粗雑に、あまつさえ成功確率などのために、やたらと死を呼び込むんじゃない!!この悪魔めがぁぁぁぁ!!!!」

血液と唾液を撒き散らしながら、マイローはひたすら叫び、拳を振るった。誰も彼を止めることはできなかった、帯電したセナに近寄れなかったのだった。マイローが息切れと吐血と電圧で倒れ、セナに覆い被さった。エメラルドが注射器を持って近寄るが、注射器を片付けた。


エメラルド「……気絶してるな。ベネット、医務室へ運べ」

ベネット「おっ、おうよ」


那東が刀を抜いてセナの腕を背中部分でトントンとする。刀を持ち上げ、ヴェロニクにゆっくり向ける。


那東「ほれ、触ってみよ」


ヴェロニクは刀を指で触る。


ヴェロニク「何もないけど?」


那東「帯電は収まっておるようでござるな」

ヴェロニク「私で試したの……!?」

那東「セナ殿、大丈夫でござるか?」

セナは、ボロボロになった顔の人工皮膚を触る。剥がれたそれをひっぺがすようにする。

セナ「理解……不能……」


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