7話 第二次ノルマンディー上陸作戦
揺れ黒いる海、雨模様の曇天に高くそびえる積乱雲。多数の戦艦や駆逐艦に守られた空母の甲板に向かう階段に、深々とフードを着た者が一人、メカノイズを響かせながら歩いている。甲板へ向かう最中、腰ほどまでのフェンスに身体を預けてタバコを吹かす男がいた。義足の者は、通りすぎようとする。
???「……アンタが、俺の替わりのパイロットか?」
返事はしない、だが立ち止まった。
???「HMDを忘れているぞ、大丈夫か?」
返事はしない。
???「俺は死にたくない気持ちと、戦いたいという気持ちで溢れている。フランスは俺の故郷だ、家族は逃げ遅れて、ナチどもに蹂躙された。Ain’t the Airforce Fucking Awful、いいか、空を甘くみるな」
甲板に上がってきた者はフードを取った。雨粒がフードに弾かれ、ツルツルと滑っていく。胸元を掴んだ義足の者は、そのフードを脱ぎ捨てる。舞い上がっていくフードの陰から、その身体が見えた。
青白いネオンが所々放たれる鋼鉄のパーツ群、肩や腕に着いた追加の装甲、ヘッドセットから伸びるマイク、胸元にあるオレンジ色に目立つ機械は内部で回転しているように見える。黄色い服を着たサポートやメカニックが驚きを隠せずにいた。
メカニック「アンド、ロイド……!?」
そのアンドロイドは、戦闘機向かってくる手を伸ばす。眼のフレーム内側に機体性能や動作確認の項目が並ぶ。戦闘機のキャノピーが開き、フラップやスタビライザーなど翼部分が動いた。
アンドロイド「オートパイロット機能掌握、同期完了。フラップ、スタビライザー、左右共に動作問題なし。HMDとセンサー接続開始、各種計機、フレア含み兵装異常なし。マザー、指示を……乗り込みます」
アンドロイド立て掛けられた梯子を、軋ませながら登る。
アンドロイド「マザー、ハシゴが不安定です。……私が重い?理解しました。搭乗します」
アンドロイドが戦闘機の搭乗する。操縦桿を握ることなく、動作無しでキャノピーが閉じる。
アンドロイド「スタンバイOK、同飛行隊の行動に合わせ発艦します。マザー……はい、鳥になってきます。ですがアンドロイドはどのようにして鳥になるのですか?……冗談を覚えろ?……冗談という言葉の検索結果を要約。分かりました、笑えば良いのですね?ははは」
隣の戦闘機がアフターバーナーを起動、けたたましい音を立てながら滑走路を突っ切り、飛んでいった。無線が入る。
コントロール(無線)「コントロールよりホーク1-4、発艦を許可する。滑走路から5km先でガスト(突風)を確認、ギアアップの際は留意せよ」
アンドロイド(無線)「了解、留意する」
メカニックから発進を許可するハンドサインが出る。
アンドロイド「発艦」
アンドロイドは操作することなく、アフターバーナーを起動し発艦していく。空母を一周するように旋回しながら加速。空母から離れた。アンドロイドは機体内のスイッチを入れた。
アンドロイド(無線)「マスターアームON(安全装置解除)、繰り返す、マスターアームON(安全装置解除)。鳥になってきます」
コントロール(無線)「御武運を」
機体の動きが安定すると、加速し部隊へ合流していく。
線のような雲を作り、扇子のように展開する部隊の端に到着すると、連絡が入った。
???(無線)「こちらホーク1-1、ホーク1-4応答せよ」
アンドロイド(無線)「こちらホーク1 -4、何か問題が?」
ホーク1-1(無線)「あまりに直前のことだったから部隊内に紹介するのを忘れていた。総員聞け、今日のホーク1-4はアレックスとは別人だ、ペンタゴンとイギリス王室、サウジアラビアのなんたらっていう機関、色んなところからの指示なんだとっさっ」
???(無線)「えっじゃあ隊長、アレックスいないのかよ?」
ホーク1-1(無線)「同じことを言わせるなホーク1-3。次あったら大学病院いかせるからなぁ?理解力のないパイロットなどウチにはいらん」
アンドロイド(無線)「ホーク1-4代理、名前は明かせません。最善を尽くします」
???(無線)「うわぁ、なんかカッケぇ!つか女?XとかFacebookやってる?」
ホーク1-1(無線)「気を抜くな。空軍基地が一個吹っ飛ばしてあるからっていっても、空軍が全部吹っ飛んだわけじゃない。爆撃のため、あるいは俺たちの爆撃を阻止するため、精一杯で来るだろうな。ここ20年でドイツは、新ソ連に対抗するために軍拡をちょうど良く行ってきた。きっとUHKのナチどもが戦力として利用するための、布石だったんだろう。奴らがスペインに侵攻してる関係上総力戦になることはないが、それでも気を付けろよ?元NATOの戦力、つまり俺たちと同じような機体に乗ってる。しかし奴ら、ノルスドリームもないのに、どうやって燃料を確保しているんだ?」
アンドロイド(無線)「ノルスドリーム、旧ロシアとドイツをバルト海で繋ぐ天然ガスのパイプラインですね?2022年に1本目、2040年に2本目、アメリカが爆発解体を行ったとか」
ホーク1-1(無線)「いや、1本目は結局誰がやったのか分からない。だが2本目はアメリカとイギリスだな。ドイツがUHKになって戦争仕掛けるって分かった瞬間に爆破してた。元から爆破の計画があったんだろうなぁ」
アンドロイド(無線)「NATOであるにも関わらず仮想敵国であるロシアと格安で燃料の取引をしていた、いわば独り勝ちだったドイツは、50%以上もの天然ガスをロシアに頼っていた関係上、エネルギー問題により国難となった。普通なら、最初に狙うとしたらルーマニアかノルウェーなどの資源産出国ですが……ガソリンなど各種液体燃料は、自国内で賄っている可能性も?」
ホーク1-1(無線)「おかしな話だぜ、ほとんどの天然ガス・石油パイプラインの根元を新ソ連に握られてる関係上戦車動かす燃料もないだろうに、なんで戦争してんだか、ってな。ひょっとしたらドイツは新ソ連からエネルギー資源を買ってるのかもしれねぇ。まぁ俺はそういうマクロな戦争は分からない。でも素人の俺でも分かる、輸入に頼った石油資源で戦争なんて愚策だ、UHKの判断はわかりかねるよ」
眼下に広がる広大な海の全てが、船と輸送艦に覆われている。
アンドロイド(無線)「敵戦力として予想できるのは、EF-2000でしょう。最も導入数が多いです」
ホーク1-1(無線)「F-35にも気を付けろよ。2020年あたりのどっかしらで、大量に導入していたはずだ。ステルス性は完全に負けてる。だが戦闘で負ける訳にはいかない……湾岸戦争では1ヶ月に渡る爆撃により、陸戦部隊の作戦時間僅か100時間でクウェートからイラク軍を壊滅させた。ベトナム戦争でこそ上手くいかなかったが、それでも爆撃は戦争の全てを決める手段だと言える。絶対にサンダーボルト(爆撃機)を守り通すぞ。対地戦も忘れるな?ドロップタンク(増槽)外してまでブリムストーン(3連装空対地ミサイル)を2機も積んでんだ。航続距離は短い、昼飯までに帰らないとイギリス海峡のサメの昼飯になるからな、いいか?」
アンドロイド(無線)「2022年にこの辺りで、ウバザメによる人間への負傷事案が報告されています、御注意下さい」
ホーク1-1(無線)「お前、AIみてぇな喋り方するよな」
アンドロイド(無線)「敵機を確認。F-35が3機、9時の方向から接近しています」
ホーク1-1(無線)「何だって?」
アンドロイド(無線)「ホーク1-4、部隊を離れ戦闘を開始します。勝率97.66%。支援は要りません」
端の戦闘機が離れていく。ホーク1-1は二度見してしまった。
ホーク(無線)「HQ、こちらホーク1-1。ホーク1-4が戦線を離れた!」
HQ(無線)「AWS(イージス武器システム)に反応はない。後方から1機そちらに合流させる。ホーク1-4の処遇は……まて、上から指示があった。心配するな、そのままいけ、とのこと……繰り返すが、レーダーに敵機の反応はない」
一機の戦闘機が曇天に消えた。遥か遠くの雲の中、3機の戦闘機が水平に飛んでいる。
敵パイロット1(無線)「イージス相手だってのに、側面取っちゃってるよ。こりゃ鉤十字の勲章でもいただけるかもな」
敵パイロット2(無線)「そんな勲章ねぇよ。なんでも、かなり凄腕のハッカーがいるらしい。噂じゃソイツがウクライナの軍事基地ハッキングして、そのままサーバーダウンさせて連絡網全部破壊したとか?」
敵パイロット1(無線)「えっ、じゃうちって新ソ連と」
雲のなかから出てきた大口径の銃弾の弾幕と、1発のミサイル。先頭の機体を残して、2機の戦闘機が落ちていった。
敵パイロット1「はぁ!?!?」
雲を突っ切るなか、1機の戦闘機とすれ違った。
敵パイロット1「いやがった!くっそ、レーダーに反応はない、ミサイルアラートだって……お前らもなんか、小細工入れてるなぁ!」
追いかけるように飛行し、雲から出る。太陽光が一瞬遮られ、戦闘機が上にいることを確認すると、ミサイルが飛んできていた。フレアを発射し軌道をずらす。後ろを取られていることを確認すると、急速に機種を持ち上げ急減速し、後ろを取った。
敵パイロット1「FOX2!(赤外線ミサイル発射の合図)」
ボタンを押しているいも関わらず、ミサイルが発射されない。HMDにOFFと表示された。
敵パイロット1「安全装置!?外したはず……!?」
スイッチを確認すると、ONになっている。その瞬間相手は機種を上げ減速した。キャノピーが空いている、中に誰も乗っていなかった。パイロットの後ろで、鉄が軋む音がなる。パイロットは振り返ると、飛行中の戦闘機のキャノピーが開いていき、拳銃を貼り付けている少女のような機械があった。
敵パイロット1「お前、何者だよ……!」
穴の空いたHMDとパイロットが空に捨てられ、落ちていった。座席についた少々の血液。アンドロイドが乗ってきた機体が、旋回して飛んでいく。
アンドロイド(無線)「F-35の操作マニュアルをダウンロード、オートパイロット機能およびIFF(敵味方識別信号)のハッキング完了。マザー、指示を……はい、敵地へ突撃します。装備はサイドワインダー(空対空ミサイル)6機、ドロップタンク2機、ハードポイントにAGM-84(空対艦ミサイル)1機。はい……では、ル・アーヴルへ向かいます」
キャノピーが閉じると、戦闘機を動かしていった。雲海を突っ切り雨の降る海へ到着巡洋艦からミサイルが発射され、戦闘機を追尾する。1機の戦闘機が撃墜されていく。
ホーク1-1(無線)「奴ら対艦ミサイル積んでるぞ!!突っ込んでくるのはそういうことか!イージスを守れ!レーダーが終わったら空戦は負けだ!」
ホーク1-3(無線)「敵機が高速で接近中、ロックします!……IFFが、青と識別!?味方だって!?」
アンドロイド(無線)「それは私です、お気になさらず」
ホーク1-1(無線)「なんだって!?お前、どうやってそんな……乗ってきた機体はどうした!?」
アンドロイド(無線)「オートパイロットをハックして、同時に操作しながら帰還させています。……今、空母に到着しました。私はこれからル・アーヴル向かいます」
ホーク1-1(無線)「おいおいおい、何の冗談だよ!」
アンドロイド(無線)「では御武運を」
1機の戦闘機が戦場をまっすぐ、高高度でアフターバーナーを起動して直進していく。ドロップタンクを2本切り離し、海へ捨てる。ほとんど燃料を使いきって、ル・アーヴルへ到着。
アンドロイド(無線)「FLIR(前方監視型赤外線装置)モード起動。マザー、高価値目標を複数確認。巡洋艦にミサイルを発射後、敵陣へ突撃。敵戦車を鹵獲し戦闘データを収集しながら戦闘。歩兵としてのデータも集めながら、敵司令へ突貫、作戦情報を抜き取ります」
雲の上から急降下していき、ロックオンして真上からミサイルを発射。カウンターで発射される対空ミサイルをバルカン砲で撃墜していき、直上から操舵室へミサイルを命中させる。機関砲を翼に受けながら機体を操作し、港にある格納庫に突っ込んだ。火事で煙が上がり、格納庫が崩壊していく。
アンドロイド(無線)「射撃統制システムへの侵入に成功。無人化砲塔、姿勢制御システムおよび各種主要コンポーネント、アーキテクチャ掌握完了。擬似的にUGV(完全無人運用)化に成功、敵を制圧します」
格納庫から出てきた1台の戦車は、砲の側面に備わったキャニスターから自爆ドローンを4機発射。付近で稼働中の戦車や装甲車、対空兵器に突進していき破壊。高速で港を回り巡り、建物、兵器、固まった歩兵を続々となぎ倒し、負傷兵を惹いて潰してまわった。迫り来るミサイルやロケットを機銃で破壊して防御に回りながら煙幕を展開、建物に突っ込んだ。
車載の地図からその地点が指令部であることが分かり、積載されている12.7mmの弾帯を携えると、身体から放電し始める。戦車から降りると同時に弾帯を投げる。直線に放電して弾帯を爆発し四方に弾丸を飛ばし、接近してくる兵士を仕留め、落としたアサルトライフルを拾うとマガジンを引き抜いて弾薬があることを確認し装填、一度チャージングハンドルを引いて薬莢を排出すると、スモークごしに弾丸を浴びせながら先へ進んでいく。
部屋から出てきた兵士が拳銃で応戦してくる。身体に命中するも、アンドロイドは表面が削れる程度で姿勢を崩さない。そのまま仕留めて部屋に入る。多種多様の通信機器がある。タブレットを発見し、自身の腕から生えてくる格納されたコードで接続。
アンドロイド(無線)「マザー、敵司令の指示および作戦・補給・兵站計画書を複数確認。データを送信します」
無線「良くやったセナ。そろそろ爆撃が開始される、早く戻ってこい」
アンドロイドは帯電しながら部屋の窓から飛び出て、建物を飛び越えて屋根やコンテナ伝いに港を脱出用。海へ飛び込んだ。投下された爆弾は空中で1度炸裂すると、大量の小型の爆弾が飛び散る。そうして余多の爆撃機により、爆弾が港に降り注ぐ。地面や建物を粉にして燃やし、物資ごと消し飛ばし、港は火事を知らせるサイレンで染まった。海面にも爆弾が投下されるが、帯電しながら高速で泳ぎ、爆破を逃れて岸を離れる。正面には、側面を向いているあまりに巨大な輸送艦が2つもあった。
アンドロイド(無線)「これは……マザー、この作戦は危険です。被弾面積が広すぎて、これでは撃沈されてしま」
ギアが段々と上がっていくような爆音と同時に、側面を向いているにも関わらず、輸送艦たちは港にまっすぐ向かい始めた。あきらかに速度がはやい。
アンドロイド(無線)「マザー、物理法則の無視を確認」
無線「無視を確認ってっ。後ろを見な、セナ」
輸送艦の側面に、戦闘機に使われるようなジェットエンジンが何十と取り付けられている。港に残る残存の兵力が砲撃を浴びせるも、動じるこなく巨壁となって、港に突撃していった。港を削り、物理的に地面に固定された輸送艦の側面が突然発火する。
アンドロイド(無線)「テルミットによる溶接……なぜ?まるで金庫を破るような」
船体側面が一枚の鉄材になり、倒れるように展開。鉄材を踏み越えるようにして、船体内部から横列になって戦車が出てくる。後ろには歩兵が並び立ち、迅速に港を制圧していった。
アンドロイド(無線)「マザー、ダウンロードした作戦概要にこのような動きは記載されていませんでした」
無線「第二次ノルマンディー上陸作戦はね、港を電撃戦で落とす作戦なんだよ。まず空で勝って、爆撃。次に、陸戦。でも問題は歩兵をどう守るかだった。戦車の制圧力を、運搬の時間を掛けないで展開する、しかも大量に。じゃどうするってなって、思いきって輸送艦ごと歩兵も突撃させちまえってことになった。劣化ウラン合金の鉄材で船体の片側だけ強化、速度は、引退して倉庫に眠ってた戦闘機を片っ端から解体してエンジンくっ付ける。バカな作戦だなと、我ながら思うよ」
アンドロイド(無線)「マザーがこの作戦を?」
無線「そうさ。発想の勝利。本音を言えば、この作戦通したアメリカがおかしいがな。港3つ同時に攻める物量は、さすがにアメリカじゃなければ思い付かない」
アンドロイド(無線)「マザー、私はどうすれば?」
マザー(無線)「帰っておいで」
アンドロイドの頭上に、2機のドローンが飛んでいた。カメラはアンドロイドに向いている。アンドロイドは首を傾げた。
イージス艦の管制塔のなか、ORCAの面々は1人の科学者と一緒に、アンドロイドの動きを観察していた。
ヴェロニク「何っ、この子……?」
那東「機械、いや人間か、はたまた」
ベネット「これが、ウチに配属だって?」
マイロー「……戦争が変わりますね。この映像は何もドローンだけで撮影された映像じゃない、彼女の視界を中継している部分もありました。室外、室内ともにかなり埃やスモークなどが舞っていても、動作1つ1つが滑らか。生物兵器は元より、肉体ではない以上核物質にも一定の抵抗を見せるはず。耐水性もある……マザー、中東などでも動けますか?」
科学者「砂にも泥にも雪にも弾丸だって耐えるよ」
マイロー「……問題は費用ですね」
マザー「あらゆる地域で戦闘行為が可能な、自立思考AIを持つ電子戦最強の最新鋭戦闘用アンドロイド、その零号機。量産は全面協力。個体識別コード、SeNA。彼女のことは、セナと呼ぶがいい」
艦隊後方のイージス艦、甲板に向かってイルカのように飛び上がり転がり込んだセナは、兵士と科学者に囲われる。
アンドロイド「あなた方は……」
ヴェロニクが飛び付いて、びしょ濡れのセナを抱き締める。
ヴェロニク「うわぁぁ!可愛いぃぃ!」
セナの顔が、ヴェロニクの胸部で埋まる。物凄い勢いでヴェロニクが頭を撫でる。
ヴェロニク「この髪の毛、どう作ってあるんだろ~!サラサラ~!」
セナ「耐熱・対腐食の金属と炭素繊維で合成されています。いくら触ろうと千切れることはありません」
ヴェロニクはセナを持ち上げようとするも、まったく動かない。
ヴェロニク「……あれっ?」
マザーがヴェロニクの後ろから歩いてくる。
マザー「ソイツの重量は、まぁ伏せるよ。設定は女の子だ」
ヴェロニクを振り払いマザーの元へ駆け付ける。
セナ「任務でしょうか、マザー」
マザー「そうだ、早速任務だ……ここにいる連中に、自己紹介を頼む」
セナ「本日付けでORCAに配属になりました。戦闘用アンドロイド、セナです。宜しくお願いします」
ORCAの面々が四方八方からじろじろと見る。甲板の人が集まり始め、鑑賞会のようになっていった。
那東が人混みの後ろ手で、両手を組んで砲台に背を預けていた。ベネットがコーヒーを持ってくる。手渡された。
那東「……おや、ありがたい」
ベネット「お前が一番飛び付くような見た目してるが、行かなくて良いのか?」
那東「ロリコンは1日にして成らず……彼女の成長を見たい、だがしかし彼女の成長に拙者はいらぬ。ならば、腕組みでもして後方から見守るのが、務めというもの……」
ベネット「お前、結構厄介なんだな。HAHAHA」
マイローが映像を確認しながら、セナに近寄る。
マイロー「あの、セナ、さん……?」
セナ「ミロスラフ隊員ですね?」
ヴェロニク「マイローって呼んであげて」
セナ「マイロー、何か?」
マイロー「映像を確認した限りで、歩兵としての動きに関していくつか修正しなければいけない動きがあります。まず、KF51 パンターの鹵獲お見事でした。格納庫内に存在していた、状態の良い戦車で、尚且つ1人で操作可能なものを一瞬で判断……しかし戦車を降りた直後、車載の弾丸を炸裂させて攻撃しましたが、あれはなぜ?」
セナ「全方位に向かって牽制するためです」
マイロー「やはりそうですか。全方位に牽制しなければいけない状態は、できる限り作らないでください。どこまでいっても、人間の腕は2本、眼球は2つ。同時に狙えるのは2人までです」
ORCAの面々はマイローの言葉に耳を疑った。
ベネット「おい、今……」
那東「とんでもないこと言ったでござる」
ヴェロニク「つまり、両目両腕別個で動かせるってこと?マルチタスクなんてもんじゃなくない?そりゃあ1人で空軍基地の歩兵相手できるわけよね」
マイローはデータをセナに見せる。
マイロー「あなたはスモークごしでも敵を発見できる性能がある、そして乗り捨てを前提とする関係上、車載の発煙システムをもっと多量に利用するべきだと考えます。普段から相手の視線を反らす、スモークグレネードやデコイ関係、ミスディレクションを狙えるガジェットを装備した方がよろしいでしょう。ガスを利用するのも手ですね」
セナ「私の装甲はAKのような7.62mmのアサルトライフルでもそうそう撃ち抜けません。ある程度リスクを背負って戦うことで、最短で作戦を完遂できます」
マイロー「死ぬことは怖くないのですか?」
セナ「私に命はありません。バックアップを取れば、何度でも機体を変えて戦線復帰が可能です」
マイロー「えっと……ですが、それでも被弾は抑えて下さい。前線ならともかく、特殊部隊というのは常に敵地奥深くへ入っていくのです。兵站は期待できないのですから」
セナ「死ななくても、ですか?」
マイロー「はい、被弾は最小限に」
セナ(無線)「マザー、AIが持つ優先順位に対して、異議が申し立てられました」
マザーがセナに近寄り、頭をポンポンと触る。
マザー「そうだね、確かにこの子の優先順位は、死すら厭わない兵士と同じように構成されている。命が複数あるから大丈夫な戦術をセナには叩き込んであるのさ。でもそれでいったら、君も結構危ない戦い方するんじゃないか?空軍基地の戦闘データ見たよ、突撃突撃、やり過ぎだ」
ベネットが笑いながらマイローの肩を叩いた。
ベネット「HAHAHAHA、言われてんじゃねぇか!まぁでも実際ちょっと前出すぎかもな、俺も大概だが……そうかぁ、命が複数あるときの戦術かぁ、中々面白いことになりそうだ。でマザー、コイツの凄いところ、もっとあるんだろ?」
セナ「私に備わる兵装は大きく別けて3つあります。1つ目、兵器の電子機器や誘導機能を攪乱し無力化するといったソフトキル性能。ドロ―ンや戦闘機の操作権限を奪取したり、相手のオンライン環境を利用して即座に敵ネットワークにマルウェアやウイルスを仕込むこともできます。先ほども敵戦闘機や指令部経由でUHKのネットワークに対してマルウェアを仕込みましたが、途中で追跡ができなくなりました。遠隔から相手のレーダーに移らないようにハックするなどもできます。2つ目、大量のセンサー機器による敵の検知。動体探知、C4を筆頭とした火薬や燃料に反応する探知、FLIRによる高価値目標の探知、赤外線センサー、ナイトビジョン、戦闘の主導権を握るためのあらゆる探知機能を備えています。3つ目、学習思考AIの搭載。NATO各国が保有する世界中の戦闘データをモデルとした、常に成長していくAIを持っています。弾道計算は元より、各種兵装の運用方法や手当てにも理解があります」
マイロー「ではセナさんは、歩兵であり工兵であり衛生兵でもあり、砲兵でもありパイロットでもある……と?」
セナ「はい。ですが私には欠点があります」
面々が首を傾げた。
セナ「ジョークが分かりません、ジョークに対する笑いも作っているように聞こえるようです。話し方もぎこちなく、内面に人らしさは微塵もありません。鳥になってこいというジョークは、さっぱり意味が分かりませんでした。私はどうすれば鳥になれるのでしょう?」
マイローを除いた全員がクスっと笑っていく。ヴェロニクが再び抱きついて、ほっぺをつまむ。
ヴェロニク「やっぱ可愛い~!!わぁ~ほっぺプニプニ!人工皮膚?シリコン?」
セナ「もう1つ欠点があります。このように」
セナがいきなり帯電し始め、ヴェロニクが帯電に巻き込まれ痺れる。
ヴェロニク「nsoTxhdfhRodwm5pqrndi~!!!!」
那東「自動生成のパスワードのような悲鳴でござる」
セナ「機体性能を上げようとすると、放電が発生します。歩兵として動く場合は、味方や武装から離れて戦いたいです」
マイロー「電力はどう確保を?」
セナ「現存する各種バッテリーの全てに内蔵するコードが対応していますし、内蔵バッテリーは、最大1週間の活動を可能にしています」
ベネット「1回の充電で1週間……テスラもビックリだな」
マザー「私は戦争を変えるためにこの子を作ったんだ。彼女がもし量産できるようのなった場合、戦争で命が奪われることは大幅になくなるだろう。PTSDになる兵士は事実ゼロとなる。無論、この兵士を購入できる金銭がある場合に限るがな」
ベネット「金を持った国、徴兵令がない国、兵士の士気が低い国。そういうところこそ、このアンドロイドは欲しいだろうな。兵士の質を固定化できるなんて、夢のようだろうからな」
マザー「何も戦争だけが利用方法じゃない。訓練すれば様々な人間活動をサポートできるだろう。工事現場、看護、介護、料理、車の運転、ウェイトレス、パーツをこだわれば性産業、風俗もいけるだろうな。売春法スレスレの運営会社は、こぞって買うだろう。無論、セナにそんなことはできないから、分かるよなORCAの男ども?間違ってもいやらしい命令はするな、ていうかさせるなよ入れ慈恵もだぞ分かったか!?」
ヴェロニクはまたセナに抱きついて、耳元でささやいた。
ヴェロニク「ねぇ~、恋バナしようよ~。部隊が男ばっかでさぁ~」
セナ「了解しました。恋バナでの検索結果、関連書籍や動画をダウンロード、要約します……機械に心はないようなので、恋バナはできません。ですが、機械が恋心を持つストーリーは多数、娯楽作品で存在するようです」
ヴェロニク「そうじゃなくてぇ~!もっとこう、なんかさぁ~」
マザー「セナ、SSDに海賊版のラブコメ漫画が20GBもダウンロードされたがこれは?」
ヴェロニク「げぇっ……!」




