5話 スターストリーク
パイロットはヘリを格納庫から出して、レーダーで敵を見つけミサイルを放つ。敵機はアフターバーナーで回避する。正面からミサイルを銃撃で破壊したタイミングで、無誘導ロケット弾丸が発射された。
敵機が旋回を終えてまっすぐ向かってくる。地面と反対になって迫ってきた。敵機のミサイルにフレアで対抗したヘリは、ミサイルをロックオンする。反転したまま戦闘機は急上昇、敵機パイロットはミサイルアラートによりフレアを発射。反転を返して進路を見る。
敵パイロット「旋回してすぐまたミサイルを……ん?」
ミサイルアラートは止まっていない。
エメラルド(ディストラクション、ミサイルアラートとほぼ同時にフレアを発動することで、自分ではなくフレア自体を追尾するようにさせる戦術だ。ミサイルに対して反射的に放つだけで良いこれは、一瞬の判断が命取りの戦場ではよくやる手法。欠点はフレアを複数回使う可能性があり消耗が激しいこと、もう1つは、反射的にフレアを放つことによる、対処したという安心感がパイロットを襲うことだ。戦場で最も持ってはいけない感情は安心だよ。一瞬だ……無誘導ロケット弾で攻撃による対空兵器がないかもしれないという安堵、ミサイルを避けたことによる安堵、進路を確認する必要がある視点の変更、その一瞬のみ、キサマは気を抜いた、確認できなかった、ミサイルの発射を見れなかった。何より人はマルチタスクを苦手とする生き物だ、仕方ない)
ヘリのドアをエメラルドが開いて、スコープのような照準で敵を捉える。トリガーを引くと、ミサイルは10m程度飛び出し急加速する。
エメラルド(アフターバーナーは遅れ、フレアを焚くのも一瞬忘れ、既にミサイルは発射されている。そんな攻撃するための低高度飛行で、マッハ2.6のミサイルからいったいどうして逃げられようか?)
ミサイルが照準器から発射されるレーザーにより誘導されていく。3つの子弾に別れた次の瞬間には、戦闘機はエンジンから爆破し、操縦者は離脱装置で上空へ飛び去っていった。鉄くずが大地に散らばり、燃料が雨をもろともせず燃えている。
エメラルド(スターストリークHVM、レーザービームライディングSACLOS搭載の次世代近距離防空ミサイル。スティンガーより誘導性能は劣るが、照準器で目標を追い続け、速度でぶち当てる。スティンガーのマッハ2.6を大きく上回る速度は、新世代の戦闘機相手にも十分通用する。ヘリから撃たれるとは思わなかっただろうがな)
パラシュートを開いた座席に座るパイロットの、既に機能していない被っているだけのヘッドマウントディスプレイが、燃え盛る空軍基地を反射していた。那東はその反射光で気付いて、パイロットに銃口を向ける。パイロットは座席ごと空へ散り、パラシュートだけが地面に降りていった。
顔の整った老人が、エメラルドの前で慌てるふためいている。
???「えっとぉ、あのぉ」
エメラルド「だぁぁからぁ!!なんで私が一番評価されているんだ!ミロスラフとかベネットは、誰よりも歩兵を倒したんだぞ!目標である敵を航空機の破壊数はベネットだし、対空設備はほぼヴェロニク破壊、那東は狙撃で、対空、対歩兵に勤め、スティンガーミサイルが私たちに飛んでくることがなかった。まぁジャベリンは飛んできたが……なんで私が一番報酬が多いんだ!」
エメラルドの座る長机には、酒が大量に置いてあった。空いている。
???「そう言われましても、ヘリで戦闘機落としちゃってますから」
エメラルド「私は機体の性能を計算して、勝てる戦いを勝っただけだ!もっとリスクの高い、歩兵相手の戦闘をどれほども勝った彼らはどうなる!?キサマらの評価は、爆破シーンが多いほど星をつけるアクション映画の評論家のようなスタイルだ!私は今回の功労者は、私でははないと考えるんだが、どうだね!ステイツマン!!」
ステイツマン「上が判断したものですから、なんとも」
エメラルド「キサマには自主性とかないのか!?いますぐ評価を書き換えろ!」
ステイツマン「いや中間管理職が評価勝手に変えちゃダメでしょ……」
部屋にベネットが入ってくる。酒をたんまり持っていた。
ベネット「はいはーい、次の作戦までに機嫌直せよー。差し入れなーこれ」
エメラルド「うぅ……ありがと!!!!!」
ベネット「うわぁあ!うるさいなぁ急に!お前酔う度これだよなぁ。あぁすみませんうちの指揮官が、HAHAHA……」
ステイツマン「ま、まぁ」
ベネット「コイツ、これでも他人を慮るんですよ、これでも。一回スイッチ切れると、まぁこうやって可愛いところ見せてくれるんで。あぁところで、宜しかったらお名前伺っても?俺はベネット・ブラック。ORCAの隊長です」
ステイツマン「あぁ失礼を、私はアメリカ国防情報局(DIA)、イギリス在住職員、通名をステイツマンと言います。本名が言えない立場でして、申し訳ない」
ベネット「DIAって……うちの諜報機関の」
ステイツマン「此度の空軍基地強襲お見事でした。そして……彼にはなんとお詫びすれば良いか」
ベネット「マイローですか。さっき本人が言ってましたよ、ロシア系の顔と訛りの人間がいきなり現れたなら、新ソ連のある今の時代、怪しむのは当然だって」
ステイツマン「ウクライナの方々は、その訛り方によって、ロシア人と勘違いされる。彼に許可なく自白剤を打ったのは、私の部下です。私の責任なのです」
ベネット「本人も納得している、それだけは覚えていって下さい」
ステイツマン「……ありがとうございます」
ステイツマンは部屋を出ていった。
エメラルド「……行ったか」
ベネット「うおぉ、急にスイッチ入るじゃん」
エメラルド「いや、すまない。なにぶん徹夜でな」
ベネット「ドイツ空軍戦闘機、EF-2000。あんなのよく落とせたよ。さっき知ったんだが、一機あたり9000万ユーロなんだってな、俺らが吹っ飛ばしまくった機体。ネオナチどもの財布もだいぶ焼けたなこれで、HAHAHA」
エメラルド「明日には艦隊が揃い、第二次ノルマンディー上陸作戦が発動する。私も準備、しなくては……頭、痛い」
ベネット「明日までに回復できるかこれ?」
エメラルド「はぁ……ステイツマン、分からない男だ。どれだけ調べようとも情報が出てこない」
ベネット「聞かれてても知らないぜ?」
エメラルド「どうせ小型のマイクとかがこの部屋にもあるだろうな」
ベネット「ノルマンディーには俺らもいくのか?」
エメラルド「いくことにはなっている。行く必要があるかは不明だがな。航空支援をバカみたいに使って、ミサイルと爆撃で浜を港区画以外は吹っ飛ばすそうだ。空母にはA-10サンダーボルトをこれでもかと担ぎ込んで、AC-130(ガンシップ)シリーズは全機投入するとかなんとか」
ベネット「金使いすぎだろ。てか、港の再利用は考えてないのか」
エメラルド「それから、新兵器がORCAに組み込まれるらしい」
ベネット「ステルスヘリ、とか?」
エメラルド「いや、ステイツマン曰く、国防高等研究計画局(DARPA)とキング アブドゥルアズィーズ科学技術都市(KACTS)の合同研究結果とか?」
ベネット「あの異様に名前長い、サウジアラビアの研究機関か」
エメラルド「どうなのか知らんが、何だろう……嫌な感じだ」
ベネット「何が?」
エメラルド「……戦場が、最新技術の展示会や実験場のようになっていくのが、堪らなく怖い。ウクライナ侵攻をニュースで見たときの、父の反応もそうだった。子供だったから分からなかった、だが今、私もそう思う」
ベネット「兵士は科学がなければただの肉塊だ。俺たちが怖がって良いのは、敵兵士の殺意じゃなく、敵によって市民が蹂躙されることだ。俺たちは暴力装置だが、装置だからこそ、暴力には意味が生まれる。悪を滅ぼす力は正義だが、力そのものは悪になり得るし正義も定義が曖昧。それに俺たちが戦うときは、もっと身近なモノを大切にするような感情で動いている、友達とか好きなあの子とか。何を言いたいのか自分でもまだまとまらないが、つまりあれだ……思ってるよりお前は優しいってことだ。軍人っぽくはないが、そういう奴がいたっていい、誇れよエメラルド」
マイローが付き添いの兵士と自販機で飲み物を買っている。
マイロー「あなたは、私のことを見ても怒りを覚えないのですね」
兵士「まぁ怖いなとは思いますよ。でも、任務ですから」
マイロー「素晴らしい心がけです、ありがとうございます」
兵士「ノルマンディーには行かれますか?」
マイロー「だそうですね、まぁ任務ですから」
兵士「……私の言う任務とは、桁の違うよほどのリスクがあります。それでも?」
マイロー「任務ですから」
兵士「……私は、もう戦いたくはないですね」
マイロー「前線帰りですか?」
兵士「スペイン防衛にて少々」
マイロー「……もうすぐ、戦わなくてよくなります。でも忘れないで下さい」
兵士「……?」
マイロー「もうすぐ、戦わなくてよくなります。そう信じて戦って死ぬ人がどれほどもいて、そして繰り返されるのが戦争です」
兵士「……つまり、戦えと?」
マイロー「恐怖が、私にはあまりないので。だから誰に何を伝えようとも、私は話上手ではなくなってしまう。恐怖が分かりそうな人全員に、これを話すよう決めているんです」
兵士「……分かりました」
マイローは作戦会議を行う部屋にやってきた。青白い光が暗いなかを照らす。誰かがいる。
マイロー「私が一番ではないようですね」
ヴェロニク「あぁ、マイローくんだぁ!」
マイロー「お疲れ様です」
ヴェロニク「……ねぇ」
マイロー「はい」
ヴェロニク「マイローくんって、とっても強いよね」
マイロー「歩兵相手はたくさんしてきた。ただそれだけです」
ヴェロニク「歩兵相手って、戦争じゃ目立たないよね。評価もされにくいし」
マイロー「まぁ、よほどカッコつけない限り、歩兵の戦闘は先に撃ったら勝てるので……勝ちやすく、地味ではあります」
ヴェロニク「昨日、私や春翔くんのところにまったく兵士が来ないの、驚いた」
マイロー「ベネットさんも凄かったですよ、装備重量無視で敵の武装を担いだと思ったら、管制塔を制圧してC4を設営、したかと思えば私への援護を行う……仕事がはやすぎて驚きました」
ヴェロニク「どうして、強くなったの?」
マイロー「どうでしょう、私は強いのでしょうか?まだ分かりません」
ヴェロニク「……そっか、まぁいいや」
マイロー「……???」




