4話 マトモであれることは幸せなことだ
雨の降るイギリス海峡を、一機のヘリコプターが海面スレスレで通っていく。ORCAの面々は、各員が持つ銃や装備ををチェックしている。エメラルドから無線が入った。
エメラルド(無線)「各員、装備チェックは入念に行え」
ベネット(無線)「エメラルド、このヘリってよ」
エメラルド(無線)「Sikorsky AH-60L Arpia III、アメリカが機体を輸出、コロンビア空軍が改造したヘリ、それを特別に取り寄せてもらった逸品だ。対地支援攻撃を前提としてヘリボーンも視野に入れるなら間違いなくこの機体だな。本機は無誘導ロケットポッド2機、空対空長距離誘導ミサイル4機、左右のドアに30mmチェーンガンが搭載されている。最近性能が上がったMANPADSも後方に積載してある」
ベネット(無線)「これかき集めて襲った方がはやいだろ……」
エメラルド(無線)「それでは時間がかかりすぎる。積載過剰だが、まぁ全部使えば帰りは速い。運転席から撃てるM2ブローニングもある、サーモはないが、私の目ならいけるぞ」
ベネット(無線)「私ってお前」
エメラルドが操縦席から顔を出した。
エメラルド「私も同席しているんだぞ。パイロットは別だがな」
ベネット「オペレーターだろお前……!?」
エメラルド「馴れろ、たぶんマトモなのはキサマだけだ、ネイビーシールズ」
ベネット「変わっちまったなぁお前も」
エメラルド「この時代、この環境、マトモであれることは幸せなことだ。ネジを外した方が幸せなことだってある……まぁ、マトモだから私は……今さらだがそのエメラルドという呼び方やめろ」
ベネット「いいじゃねぇかよぉ」
エメラルド「私たちは昔のような関係ではない」
ベネット「えぇ~悲し」
那東「隊長と指揮官は、恋人か何かなのでござるか?」
ベネット「そうだぜ、昔はな」
エメラルド「違う、あれは……その……」
ベネット「遊びだったのか?にしては」
エメラルド「やめろ、墜落させるぞ!というか、那東は自己紹介したのか」
那東「そういえばしてないでござるな、拙者は」
ヴェロニク「はいは~い、私フォロワーに聞いて回ったよ~。那東っていう人は分からなかったけど、ドイツの侵攻の際して、フランス各地でサムライの目撃情報があったんだって~。何故か壊滅してるUHKの補給地点の数々、兵士のほとんどが斬撃で殺されている、そして狙撃の痕跡も複数。晴翔くんって狙撃もできるんだってねぇ」
那東の手には狙撃銃があった。隣に座るミロスラフが銃を見ている。
ミロスラフ「……アリ、ゲーター?」
那東「少しは話せるようになったでござるか?どれ、この銃を説明してみせてくれないか?デかくゴツいから、支給品を置いてきぼりにして、つい持ってきてしまった。言葉が話せる程度に元気になったのであれば、安心して前を任せられるのでござるが」
ミロスラフ「アリゲーター。スナイペックス社が開発した14.5×114mm弾を使う対物狙撃銃。ウクライナには7.62mmのドラグノフ狙撃銃しかなかった関係上、狙撃が弱かったために製造された銃で。確か2025年では、ドローンによる支援やスポッターを使った狙撃で、4000mくらいの射撃に先輩方が成功していたような。全長2mくらいですかね、キャリーハンドルを使わないとマトモに運べない、一人で運ぶのは難しかった印象があります。防衛や長距離でのにらみ合いには最適ですが、こちらからうって出る作戦では難しい動きをすることになるかもしれませんね」
那東「それだけ喋れるなら、作戦に支障はないでござるね。安心したでござる」
ミロスラフ「今は、抗うつ薬やカフェインで頭を動かしているだけです。とてもマトモな状態ではありません……でも」
ミロスラフは銃にサプレッサーを取り付けた。
ミロスラフ「手持ちの銃の最大射程範囲で、負けることはありません」
ヴェロニク「ねぇミロスラフくん、マイローって呼んでいい?」
ミロスラフ「……?」
エメラルド(無線)「フォネティックコードのkiloと少し被るな、オススメはしない」
ヴェロニク「いいじゃん、可愛いし。ミロスラフって、長いし。作戦中名前で噛みたくないんだけど~?」
那東「ココア飲料……」
ヴェロニク「断らなかったから、決定~」
マイロー「……まぁ、はい……」
ベネット「ちゃんとNOって言えるようになれよ?」
エメラルド「降下5分前、各員装備の最終チェックだ。私から口頭で作戦の確認を行う。本作戦は、第二次ノルマンディー上陸作戦を成功させる上で最も重要な位置にある。装備にある爆薬を使って、できる限りの航空戦力を破壊してまわれ。現場にあるものは全て生かせ、私の方からも可能な限り援護を行う。基地内部のレーダーを破壊した場合、味方ステルス戦闘機が空域に侵入できる。それで滑走路を破壊してもらう算段だ。第一目標はレーダー設備、兵器も破壊して回れ」
空軍基地のレーダーに一機のヘリコプターがうつった。空軍基地は厳戒態勢に入り、多数の対空兵器が起動していく。ヘリは地平線に隠れてロックオンを外す。
ヘリのミサイルポッドから多数の小型ミサイルが飛んでいく。山なりに飛んでいくそれは、空軍基地の側面にあるフェンスに一発、それ以外は全て、レーダーで発見できる対空設備に命中していった。
エメラルド「かましてこい!!降下開始!!」
部隊は地面スレスレで滞空するヘリから飛び降りるようにして降下。空軍基地からのサイレンが耳を覆うかのように響く。那東を除いた3人が、4眼のナイトビジョンを起動した。雨風のなか、那東はアリゲーターを伏せて構えると、監視塔のような場所にいる兵士を吹き飛ばした。立て続けに監視塔にいる人員を狙撃で倒すと、マガジンを交換しながら走る。マイローはかなり上向きに銃を構えると、アンダーバレルのグレネードランチャー発射。破損したフェンス付近にいる兵士に着弾し、爆破した。マイローは走り込んでいく。
ベネット「マイロー、行ってこい!」
中距離で遮蔽も無しに突っ込んだマイローは、片手でアサルトライフルを構えながらスライディングし、横に凪払うように照準して敵を倒す。窓から覗く敵兵士を那東が狙撃で倒すと、マイローとベネットは並んで走った。
ベネット「空軍基地がコンクリートに囲われてないから、狙撃の援護で大胆にいけるな」
マイロー「えぇ、敵の数も後方だから少ない。確かに現在の最前線はスペインにあるんだとか?」
ベネット「あぁ、そもそもイギリスが介入してくるって警戒してないっぽいんだよな。おかしな話だ、第二次大戦のときは商船を破壊したことがイギリス介入のきっかけでしたが、今回は相手に何もしてないからって、あの植民大好き国家が戦争に来ないとでも思ったのか?NATOのピンチに駆け付けないバカはいねぇよ、HAHAHA」
そうした会話をしながら、段々と兵舎や管制塔に接近していくマイローとベネット。流れるような射撃、矢継ぎ早のリロード、STANAGマガジンと5.56mmの薬莢が足跡のようにコンクリートの地面に落ちる。マガジン1つ30発あたり8~9人の敵を排除しながら、那東の援護ありきで到達した建物には既に、大量の兵士が銃を構えて待っている。窓から機関銃が発射され、2人は置かれている資材の裏に隠れる。
ベネット「残り弾薬はどれくらいだ?」
マイロー「この調子だと、マガジンが尽きるまで1分とかからないでしょう。セミオートで節約してもこれです……敵はドイツ軍、NATO式の装備を持っているはず。私の薬が切れる前に終わらせたいところです」
ベネット「現地調達か、キツいねぇ、HAHAHA」
ベネットは無線を入れた。
ベネット(無線)「エメラルド、座標を送る。航空支援を頼めるか?」
空軍基地の対空設備は、ヘリに対してミサイルをロックオンする。地平線に一瞬隠れてロックを解除すると、ヘリは上空へあがってロケットを発射。兵舎や管制塔にロケットが命中する。崩壊する建物に、スモークグレネードを投げながら突撃し、ナイトビジョンを解除して内部へ入っていった。
室内に入って直後、マイローは扉の影にいた兵士を扉ごと撃ち抜くと、落としたショットガンを左手で広いながら、右手でアサルトライフルをフルオートで兵士にばらまく、弾が切れたタイミングでショットガンを連射しながらしゃがみこむと、しゃがんだ足で挟み込むようにしてアサルトライフルを固定し、胸元のベストからマガジンを取り出してリロード、ショットガンを撃ち尽くして捨てると、アサルトライフルを構え射撃、前身していく。
マイローが弾丸を撃ち終わるタイミングでベネットが廊下をフルオートの射撃で制圧し始めると、マイローがアサルトライフルを捨てて、ナイフと拳銃を抜いて走る。扉を蹴り飛ばし中辺へ入る。ベネットはアンダーバレルからグレネードを放つ。静かになった。部屋のなかで銃声がなり響いて駆け付けようとする。銃口を奥へ向けながら廊下を歩くベネットは、マイローが入った部屋から覗いてきた銃に驚いて、ロッカーの後ろに隠れて半身をさらし構える。
マイロー(無線)「部屋から出ます。誤射しないで下さい」
マイローは機関銃を持って、ドラムマガジンを腰に差していた。廊下の奥、階段から上がってくる兵士に、腰に構えて横に一閃するような弾幕が兵士を遅い、胴体が別れを告げる。
ベネット「MG3?さっき俺らを撃ってきたやつか」
マイロー「最近は後継機のMG5にとって変わられていますが、まだあるところにはあるようです。マガジンでリロードができるなら、一人でも使いようはあります」
ベネットは、マイローが拳銃とナイフで、突撃していった部屋を見た。なかにある兵士の死体は、全部で15。ロッカーなどには銃が数々並んでいた。
ベネット「……武器庫か、こんな何でもねぇ場所に」
マイロー「よくあります。目立たない、一見普通の部屋や建物をあえて武器庫にして、爆撃や空挺降下の標的にならないようにする。でも機関銃が撃てるような体勢を立てられるとなれば、その部屋こそ、もっとも攻め落とす価値のある部屋」
ベネット(無線)「ここをやったのも、意図があったんだな……にしたってさっきの両手で撃つの、ありゃなんだよビビったぜ」
マイロー「まぁ、腕が二本あるうちは火力の底上げも可能なので。ロシア兵は、多かったですから……」
ベネットは死体をどけ、爆薬を回収した。
ベネット「少し別動で動きたい。一人でも歩兵の相手、いけるか?」
マイロー「一人はなれています」
ベネット「帰ったらビールやるよ」
マイロー「はい、まぁ……」
ベネット「酒は嫌いか?ならNOって言えよな、HAHAHA」
5発のミサイルが上空へ上がっていった。地平線に消えてロックオンを外しても
ロケットが向かってくる。
エメラルド「トップアタック!?鹵獲したジャベリンか。パイロット、機体側面をミサイルへ!」
パイロット「はぁ!?」
エメラルドは引き付けたミサイルをドアガンで破壊した。破片が頬をかすめる。
エメラルド(無線)「ヴェロニク、那東、あの地対空ミサイルを黙らせられるか!?」
ヴェロニク(無線)「私じゃ無理。携行式でしょジャベリンって」
那東(無線)「任せるでござる」
那東が発射煙から敵を探り、狙撃し倒す。ヴェロニクは射手を援護していた兵士を射撃し仕留める。奥から増員が来るので、少し引いて那東の狙撃に合わせて銃で牽制。稼働する対空ロケットを乗せた車両に向かって、背中に背負った無反動砲を発射し、破壊した。
ヴェロニク「一両目撃破、これで81だね~。いい子じゃんこれ、M3E1」
ヴェロニクは担いでいる砲弾を装填しては、距離などお構い無しに放物線を計算して発射し、次々と対空兵器を破壊していく。
ヴェロニク(無線)「残弾残り4かぁ、もっと筋トレしなきゃなぁ。」
那東(無線)「ロケット弾を15発持っていって10発当ててまだ4発あるのは異常ですよ」
ヴェロニク(無線)「ロケットじゃないよ、無反動砲だから砲弾。推進材なんて1gもないよ~。エメラルドちゃん、対空設備はほぼやったっぽいから接近してもいいかもあぁ待って、またジャベリンみたいな携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)来たらどうしよ?」
那東(無線)「あらかたなら、拙者が仕留めた」
ヴェロニク(無線)「わーお!」
空軍基地の格納庫が徐々に開いていく。
ヴェロニク(無線)「本命来たっぽいねぇ~。ちょっと男子ぃ?格納庫にあるうちに爆弾で吹っ飛ばすんじゃなかったの?レーダーもまだっぽいし~」
ベネット(無線)「空軍基地の広さナメんなって、まぁマイローがかなり兵士をやってくれてるから、俺はレーダーぶっ壊しにいく、外は任せた!」
ヴェロニク(無線)「えぇ~!エメラルドちゃん、どうする?もう格納庫開いちゃうよ?」
エメラルド(無線)「ヘリで接近して飛ばれる前にやる。お前も狙え、滑走路にいく前なら勝機はある」
ヘリが上空から接近していく。
エメラルド(無線)「ん?待てヴェロニク、外に戦闘機はなかったのか?破壊したか?」
ヴェロニク(無線)「なかったよ~一機も」
エメラルド(無線)「もう少しはやく言って欲しかったな」
ヴェロニク(無線)「えっ……マズい?」
エメラルド(無線)「とてもな」
ヘリのレーダーに飛行物体を確認すると、ミサイルアラートが鳴り響いた。エメラルドが発射を確認し、パイロットがフレアを展開、空軍基地方向に飛ばしていき、ミサイルがかすれて空中で炸裂する。風圧で滑走路に激突しそうになりながら旋回すると、その側面で開いていく格納庫から、銃弾が飛んできた。急上昇してそれを回避すると、起動した戦闘機の頭がヘリに向いていた。さらに上空で旋回する戦闘機がある。
エメラルド(無線)「上の戦闘機は私たちがやる。ヴェロニク、一機やれ!」
ヴェロニクは格納庫から出てくる戦闘機に無反動砲を当てて破壊する。
ヴェロニク(無線)「他の格納庫も続々と開きはじめてるよ!こっちに飛んでくるやつならやれるけど!?でもやれてあと3機!」
マイロー(無線)「こちらマイロー、基地内部の兵士はほぼ無力化した。これより戦闘機の破壊を行う。尋問の結果、現在ここにある戦闘機は合計10機だそう、どうやら最前線にかなりの数を送っているようだ、少なくて助かりますね」
格納庫が一つ吹っ飛んだ。燃え盛る炎が空へ上がっていく。また同時に管制塔が無くなった。
ベネット(無線)「爆破した!液体燃料があって助かったぜ、あとレーダー施設もな!破壊したのは4機、あと6機か!?マイロー、俺と合流しろ、次の格納庫へ向かうぜ!」
エメラルド(無線)「格納庫一つで4機、こちらで確認できるのは2機。ベネット、マイロー。そっちにまだ4機あると思え!」
パイロットは、旋回する戦闘機にミサイルをロックオンする。発射する直前にフレアが焚かれ回避される。再度ミサイルをロックオンして放つと、相手も同時にミサイルを発射した。互いのミサイルが擦りあわせるようにすれ違う。ミサイルアラートが鳴り響く。急速にヘリは高度を落とす。
エメラルド「どうした!?」
パイロット「しっかり掴まってください!」
パイロットは方向を転換し、斜めに降下しながら急停止、ミサイルが着弾する直前に機体を格納庫内部に突撃させる。ミサイルが格納庫の屋根に突っ込んで爆発した。内部で消火活動を行う兵士を銃撃で制圧し安全を確保する。
エメラルド「良い機転だ!」
パイロット「でも、さすがにヘリで戦闘機は難しいかと」
エメラルド「いいや、ある。あの機体はドロップタンクが3つも取り付けられた痕跡がある。長距離を移動してでの航空支援を行った、その任務を終えた機体だ。おそらくスペインに夜戦を仕掛けた帰りだろう、パイロットも消耗が激しいはず。何よりあれは単座型、コックピットに1人しか乗っていない」
パイロット「見ろって、この夜中に無理だろアンタ……何より単座が何だって話だ」
エメラルド「単座型の弱点は、ミサイルアラートが2種類ない限り、後ろを見れない関係上フレアのタイミングが難しいところだ。アラートには、ミサイルロックオンのアラートと、ミサイル接近のアラートがある。そして奴はこちらのミサイルを撃った直前にフレアを展開した。奴のミサイルアラートロックオンを知らせるものだけで、接近を知らせない安物、そのせいか戦術には、アラートに対して反射的にフレアを展開する戦術、ディストラクションが叩き込まれている。これらを踏まえた結論、分かるかパイロット」
「……そういうことか」
「格納庫を出ろ、次でケリをつける!」




