3話 万歳を、恒久の万歳を捧げよ!!!!!
アデリナ「ロシアを締め出し、アメリカを巻き込み、ドイツを抑え込む……これは、NATO(北大西洋条約機構)初代事務総長、ヘイスティングス・イスメイが掲げた、NATO設立の理由だ。我々は2度の大戦を敗北し、今や新ソ連に対するNATOの防波堤の1つでしかない。国難は続いている、まずウクライナ侵攻の結果だ、アメリカやNATO加盟国は旧ロシアをEU圏に入れる結末を選び、NATO設立理由であるロシアを締め出すという目標を達成しなかった。我々はNATOの要求に応えてきた……軍備は最小限、核武装は禁止され結果国防は常にアメリカ軍による援護を待つのみ。ユーロ導入による実質的な経済成長の抑止、第二次世界大戦までさかのぼれば、ソ連の軍事的撤退の費用まで負担させられている。だが、NATOは約束を守らなかった……着々と、ウクライナの圧倒的な食糧生産能力と希少金属を手に入れ、新ソ連は本質的に黒海を支配、2039年に新ソ連は大々的にウクライナを攻め落とした。その結果の、軍の消耗により、新ソ連が弱くなっている今こそ打倒のチャンスだろう……にも関わらずアメリカ・NATOはポーランドへの軍事的支援にとどまっている。世界のグローバリズムが進んでいるにも関わらず、同情こそすれど軍事的支援に止まるこの世界の姿勢が、我々に答えを与えた……世界の中心としてふんぞり返る西側諸国は、我々ドイツ民族が、ゲルマン人が滅ぼされる様を、今か今かと待ち望んでいる。諸君もそう思っているからこそ、私に、この齢14の私に投票してくれた!!我々は常に地理的な脆弱性に蝕まれている。周囲は強国に囲われ、山や川などマトモに強い地形もなく、それ故ただただ強国に喰われぬ為に必死に努力して喰ってきた。そんな先祖たるゲルマン人と現代に生きる我々を、ナチズムだと中指を立て、国際的非難を呼び込み圧力をかける日々。もううんざりだろう!?国際連合や人権団体は人道的支援として中東からの移民を取り込めと我々を脅しにかかり、今や国内の外国人は人口全体の34%にまでなった。3人から4人に1人の割合でドイツ語が話せない、そんな国をドイツと呼べるか!?いいや、呼べるものか!我々は次の平和を、次の平穏を、次の安寧を勝ち取らねばならない!かの指導者は言った。民族の復興は自然にできるとは約束できない、国民が手ずから努力するものだ、自由と幸福は突然空から降ってくることはない、全ては国民の意思そして働きにかかっていると!!そうだ、かつてと何ら変わることなどない、変わったことなどしなくていい。自らの勤勉で、自らの動機で、自らの決意で、自らの意地で、自らの根気で、我々は勝利を納める!!誇り高き、強大な、1つの民族、1つの国家、唯一無二たる我らの存在に、万歳を、恒久の万歳を捧げよ!!!!!」
総立ちの敬礼とハイルという言葉の合唱が、会場を包み込んでいた。映像は切られる。
エメラルド「アデリナ・ヒトラーは2040年1月の緊急的な首相当選時のこの演説を世界に拡散。その後、彼女の命令により移民に対する軍事的虐殺行為を開始、アウシュヴィッツも再稼働が確認された。死傷者数は観測できる限りで、既に200万人を突破している」
ベネット「ホロコースト復活といったところだな、クソだぜ」
エメラルド「いや、今のところユダヤ人に対する迫害は確認されていない。だが社会学者たちや各メディアはナチズムの復活、そう報道している。なぜ現代に、この学習機会の盛んな時代に、ナチズムなどという悪夢が復活などできたか……」
那東「極右正当の暴走をナチズムという場合もあるが、このケースの場合はナチズムというのだろうか?国難をどうにかしたいという感じが、演説には表れていたと思う。無論肯定などしないが」
エメラルド「移民の受け入れは確かに、先進国内で上手くいったケースがゼロなのはそうだ。だが、結局のところドイツは移民を受け入れて、勝手に困って、勝手に殺すなどというバカをやらかしている。これはマッチポンプ以下の何かだ、そしてその代償は今殺されている人々が払うべきものではないと、私は考える」
エメラルドはタブレットを見て、部屋の前に人が数人いるのを確認する。
エメラルド「我々ORCAの初任務に際して、飛び入りでもう一人、部隊に配属になる人物がいる。入れ」
2人の兵士に連れられて、一人の白人が入ってきた。目は青く虚ろで、短い茶髪。手錠のかかったその人物は、気迫がその場にいる誰よりもあった。ベネットは息を飲む。
???「……あんた、は?」
エメラルドは手錠を外す。男は、思い出すかのように息を吸った。
??「ミ、ロ……えっと、その……」
那東「MILO?」
エメラルド「ウクライナ特殊作戦群、第140特別目的センター所属……ミロスラフ・シュヴィーチ」
ベネット「2039年の侵攻で、ウクライナ軍は壊滅したはず。そうか、あんたは生きていたんだな……!」
ベネットは立ち上がり、ミロスラフに近寄る。ミロスラフは数歩下がって警戒する。
エメラルド「2039年、ビデオ判定によって彼は特殊部隊であることが確認され、ウクライナからロシアへ連行され拷問を受け、しかし情報を持ち帰り西側へ逃亡、約1年かけてドイツに占領されたポーランドとフランスを渡る。イギリスへ到着したことはまだ辛うじて言葉を話せたのだが……海岸に漂着した段階で警察に連行され……拷問が開始された」
ベネット「それって……」
エメラルド「完全にイギリスがやらかしたんだ、うちの国も大概バカしかいない。さすがは3枚舌外交ども、七つの海を欲深さのみで奪い取って、エルサレムをミートパイにしただけのことはある。自分たち以外の人種は一律ゴミだとでも思ってるんだろう。イギリスに亡命していたウクライナの首相は激怒し、イギリスに抗議を開始、理由は知らんがアメリカが責任を背負うことになり、彼はORCAで診ることになった。さっきの情報は自白材でイギリスが吐かせた情報であって、事実かどうかは分からない。薬剤の影響で、記憶は混乱、今はなんとか抗不安薬などで安定させている。だが……」
エメラルドは一挙動でミロスラフの後ろへ回ると、捕まえて手錠を掛けようとした。ミロスラフは足をかけてエメラルドの体勢を崩すと、肩を脱臼させて長机に突飛ばし上から押さえて拘束、手錠を掛けた、2秒で。エメラルドは机に押さえつけられた勢いでシャツのボタンが2つ外れ飛んでいき、那東は目の前に来たボタンを刀で弾く。開け放たれた胸部と黒いブラジャーが目立つなか、ミロスラフは引いた。
ミロスラフ「……あっ、あの、えっと……」
エメラルド「気にするな、キサマを試すような真似をした私の落ち度だ。この程度の恥など軍に入ってから何度も経験している」
エメラルドは手錠を引きちぎると、自力で脱臼を治して立ち上がる。
エメラルド「とまぁこんな具合で、オペレーターだったとはいえNATOの特殊部隊程度なら体術で凌いでしまう。射撃実績や運動能力はベネットや那東以上、兵器に対する理解度や語学ではヴェロニクを越えている。公式に記録されているどの兵士よりも強いと言っておこう。まぁ狙撃はシモ・ヘイヘ(白い悪魔)には劣るし、兵器の操縦技術で魔王を越えることはない」
エメラルドはそのままの服装で、タブレットを使いホログラムを展開した。3Dの地形図はフランスの空軍基地を現している。
エメラルド「ORCAの初となる任務は、UHKにより占領されたフランスの空軍基地、エヴルー=フォヴィル空軍基地の破壊だ。この任務は、近々大々的に行われる大規模軍事作戦、Seven Nation Armiesの第一作戦、第二次ノルマンディー上陸作戦を成功させるための作戦だ」
ヴェロニク「すごぉい、どれが何の作戦か分からなくなっちゃった~」
エメラルド「Seven Nation Armiesは、総勢7ヵ国の軍隊からなる混成軍隊による、ヨーロッパからUHKおよび新ソ連の脅威を打倒するための作戦である。第二次ノルマンディー上陸作戦は、その作戦の第一段階の作戦……ノルマンディー地域圏の港町、ル・アーブル、ウイストルダム、シェルブールの3ヶ所を、空母や戦艦を含む海軍戦力によって同時に叩き、かき集めたアルゴル級車両貨物輸送艦(SL-3)により陸軍を一斉に運搬、フランス国内で物量による電撃戦を展開する。我々の任務は、その準備段階となる任務だ。キサマらの任務はそれら作戦の障壁となる、空軍基地の破壊だ。どれほど重要な任務か、理解できたか?」
ヴェロニクはネイルをいじっていた。
ヴェロニク「はーい、じゃあ空軍基地の地図とかないの?」
エメラルドは地図を展開した。
那東「周囲に存在する敵の数、内部の警備も気になるでござる。基地というのは、分隊一個人程度で易々と制圧できるものではないはず」
エメラルド「衛星写真や空撮で発見できる限りは発見した」
那東「狙撃兵がいそうな地点はここか、ここでござるな。装備は?」
エメラルド「後日改めて供与するの、各員訓練しておくように」
ヴェロニク「対空設備があるとしたらここねぇ……陸戦の防御力が薄いのを祈るしかないかなぁ。戦車とか出たら、無理かもねぇ」
各員が各々地形を確認し、データをファイリングして共有していく。ベネットはミロスラフを見ていた。
ベネット(大丈夫かなぁ~)




