12話 レシーバー
マイローは腹から血を流して、腸すら出始めて、そう見えながら立ち上がる。床に垂れる赤いのが、染み込んでいく。
マイロー(情報、情報、これはただの情報。奴らは私たちを殺そうとしている訳ではない、私のこの出血も臓物の流出も、臭いも何もかも、全てただの情報、ナノマシンが私に送り出す、事実に見せた幻覚っ……)
流血するORCAの仲間たちも、何とか動こうともがいている。
那東(情報だと知っている、分かっている、だというのに……!)
ヴェロニク(動かない、動けない。痛い)
ベネット(身体が、骨折してると勘違いしているんだ。動かせないと錯覚している……くっそ!!)
マイロー(際限なき正義と、際限なき平和と、際限なき福祉。奴らの目的に殺生は本来なら含まれない……あるいは)
マイローが出血し寒気が強くなるなか、よろよろとベネットに近寄る。倒れているベネットに跨がると、首を絞め、力を強くしていった。
ベネット(おいっ、どうしっ……ぁ……!)
ベネットの唇が青くなっていくなか、マイローは出血の幻覚がひどくなっていく。腕が弾け飛ぶような幻覚を見てもなお、腕に力が入り続ける。
マイロー(腕が無くなった訳じゃない。私は生きている)
ベネットは息がまったくできていない。もはやマイローから見て自分は何か肉塊にしか見えていなかった。身体から槍が生えるようにして、痛みが全身を襲い、死んでいるといっても良いほどに身体が欠けている。
素早い足音があり、部屋の一室へスタングレネードが投げられる。衝撃と音と光がORCAを包み込む。倒れるマイローに、兵士とラダが駆け寄った。
ラダ「システムのエラーは?」
兵士「分かりません。いきなり仲間の首を絞め始めたので」
ラダ「鎮静剤の投与を」
マイローは即座に立ち上がると、近くの兵士のナイフを奪って刺し殺し、拳銃を奪って連射、兵士たちの小銃を破壊し、ナイフで切りかかり、ラダ以外の兵士を壊滅させた。
ラダ(無線)「書記長、ORCAが戦闘を開始しました」
スターリン(無線)「……宜しい、だが我々に殺生は許されん」
ラダ(無線)「全体へ。捕虜が戦闘を開始。武装レベルを2から1へ。非殺傷兵器を装備し、B4へ移動を……際限なき正義に、殺生は許されないぞ!」
拳銃の弾丸が尽きたタイミングでラダは走り去っていった。ORCAの全員が立ち上がる。
ベネット「いやぁ驚いたし痛かった。だがなるほどな。相手の兵士たちも、絶対的正義が植え付けられている。だからこそ、仲間同士殺し合うというタブーを無視はできなかったって訳か」
マイロー「殺しが嫌いならば、我々は堂々と殺せます。敵は不殺を謎に掲げています。奴らの信念が折れない前に、全て仕留めてしまいましょう」
ヴェロニク「洗脳を解く手段って、何だろうね」
那東はスタングレネードを見る。
那東「起動にも停止にも、同様の信号を使っている?」
ベネット「トグル式か?なら、同じ周波数で通信をしたら」
ヴェロニク「世界中の洗脳を解除できる」
マイロー「施設内に制御設備があるはずです。皆さんで探してください、私は」
ヴェロニク「やるの?スターリンを」
マイロー「まずセナを探します」
ベネット「あぁ、それがいい」
死んでいる兵士の装備は、防具以外は壊れている。ヴェロニクが銃をかき集めると、解体し始める。
ヴェロニク「AK12M2ね。これ、凄いわよ」
ヴェロニクは素手で銃を解体し、壊れていない別々の銃の部品を取り外して、2丁の銃を完成させた。
ヴェロニク「素手で解体してそのまま組み直して、撃てるの」
ベネット「おいおい、そんなことあるか?」
ヴェロニク「2丁しかできないわ。一丁は……マイロー」
マイロー「私ですか?このナイフがありますが」
那東はナイフを持つマイローの手を握った。
那東「刃物ならば、拙者の方が一家言あるでござる」
ベネットは死体からグレネードを剥いだ。
ベネット(コンカッショングレネードか……)
敵の端末から地図を発見し、各員に見せる。
ベネット「銃はマイローと、お前が持てヴェロニク」
那東「この施設は4階構造になっているでござるか。しかし最下層はなんというか……駅に見えるような……」
「この端末もマイローに持たせる。単独行動だからな。ほら」
マイローは端末を受け取った。
ヴェロニク「じゃあ、いきましょうか」
マイローが半身で部屋の外を監視し、まだ敵がいないことを確認。端末の地図を思い出す。
マイロー(セナがこの部屋に来ていたのを覚えている。捕らえられているとしたら、解体設備がある部屋か、それに類似する……手術室があったはず、もしや)
マイローが走って廊下を曲がり、各員の視界から消えていった。残されたORCAの面々も、廊下に出る。
ベネット「俺たちは制御設備だ。メインフレームか何かを探す」
ヴェロニク「それっぽい設備はなかったわよ?」
那東「あやつ、ラダーといったか?B4に兵士を集めるとかなんとか?」
ベネット「B4は俺たちのいる場所から3つ階層が下だ。そこまで全部捨てるってのか?」
ヴェロニク「じゃあもう、B4しかなくない?」
那東「守りを固めるとはそうであるが……」
ヴェロニク「嫌な予感するなぁ」
那東「例えば?」
施設内が突然揺れ始める。
ヴェロニク「地震!?」
ベネット「走れ!!」
ベネットは地図を思い出す。
ベネット(部屋の位置は施設内最南。先の廊下を曲がれば北へ行ける)
廊下を曲がって北へ進む。
ヴェロニク「階段こっちじゃないよ!」
ベネット「そうじゃねぇ、さっきの部屋から離れるんだ!新ソ連、地震、思い当たるのは一つ」
先ほど曲がった角から先ほの構造物が、巨大な蛇のような構造物に押し潰され、跡形もなくなった。
那東「今のは!」
ベネット「アノマロカリスだ、まだあったとはな!」
アノマロカリスが通ったところが真っ直ぐ空洞になっており、階下の施設がまるっきり見えるようになった。まだ多数残ったの照明で照らされるなか、全て有蓋貨の列車に乗り込むスターリンたちが見えた。
ベネット「ヴェロニク、狙え!」
ヴェロニクは銃を構える。撃ち出した弾丸が斧に斬られた。弾かれた弾丸が列車に当たる。フルオートに切り替えて射撃するが、敵は乗り込んでいった。直後、無数の注射針が正面から迫ってくる。跳弾した注射針がORCAに襲いかかるが、那東がナイフで切り払った。
ヴェロニク「ねぇ、あの列車に制御端末あるとかじゃない!?」
那東「スターリンたちが一斉に逃げるということはそういうことであろう。建物も壊して逃走を図るなら、然り。しかし、ここから降りないと間に合わないでござる」
列車が動き始めた。
ヴェロニク「骨折れちゃうわ」
ベネット「よし、いくぞ」
ヴェロニク「えぇ!?」
ベネット「同時に降りろ、いいな?せーの」
3人が同時に降りる。ベネットはグレネードのピンを抜いて、階下の着地点へ投げた。爆発を浴びた全員が少し吹き飛び、5点で着地した。車列の窓からトマホークが見ている。
トマホーク(爆発の勢いで着地の反動を和らげたか)
兵士の全員が乗り込んだ列車が進んでいくなか、3人は走る。注射針の射撃が襲ってくるが、倒壊で降ってくる建物の瓦礫を遮蔽に突っ込んでいき、貨車と貨車の間にある扉から乗り出した兵士を射撃で倒し、3人がそこへ乗り込んだ。人が一人乗れる程度の隙間に3人が入り、片方の扉を開けようとするのをベネットが塞ぐ。ヴェロニクが敵の死体からアサルトライフルとマガジンを剥いでベネットに渡す。
ベネット「もうちょっと列車の速度が乗れば……!」
列車の速度が上がっていく。駅からトンネルへと入っていき、切るような風が流れ込むのをしがみついて耐える。
ベネット「二人、どっちか俺と一瞬変わってくれ!」
ヴェロニクが、ベネットが抑えていた扉を抑え、ベネットはまたコンカッショングレネードを取り出した。貨車の連結部にグレネードを仕掛け発破し連結を破壊。ヴェロニクが前方に飛んで、移り、扉を開けた兵士に銃を放って仕留める。距離の離れていく貨車に銃を向け、顔を出す度に射撃する。距離が空いていった。
ヴェロニク「で、どうする?」
那東「この先に、トマホークとラダがいる」
ヴェロニク「ラダって狙撃兵よね?壁貫通してくる」
ベネット「でも撃ってきてない。ならあのイギリス製の弾丸は使ってないってことだ」
那東「思うに屋根上を見ているのでは?」
ヴェロニク「かもね。で、列車のなかはトマホーク率いる何十っていう兵士。狙撃を防げる装備じゃないから貨車のに登って前にいくのは無理。でも貨車のなかは物量で無理」
那東「デカイ穴一個空いて死ぬか、蜂の巣になるか」
ベネット「前提として、おそらく敵は殺傷兵器じゃない」
那東「……貨車の上を通るのを提案するでござる」
ベネット「狙撃はどうする?」
ヴェロニク「私が撃ちまくる?そんな弾ないわよ?」
ベネット「狙撃主は場所がバレてる時点でアウトだ。一撃、あと至近弾。それを叩き込めれば反射で場所を変えるために動くはずだが……守りに徹するなら動きはしないだろうな」
那東(初撃を回避して、次弾までの間に照準を定め射撃をする。レベルを2から1へと言っていたが、我々に向けた銃自体は東側製の標準的なアサルトライフルだった。そして確かラダの狙撃銃はセミオートのロシア製狙撃銃PTRD、装弾数は5発。最初の5発を……五発……いや?1発で大丈夫でござる。登るために1発、あとは構えて、さすれば)
那東はヴェロニクから実弾のアサルトライフルを受け取る。レシーバーに備わったセレクターでフルオートをセミオートに切り替える。ベネットに担がれ、屋根上に手をかけるフリをする。射撃は来ない。
那東(さすがに引っ掛からなぬか……)
一瞬だけ顔を、額や口まで出して相手の位置を確認する。1mm程度の大きさしか見えない位置にラダが伏せて見えた。間にある貨車の数は数えられない。
那東(距離感およそ50m。相手の攻撃手段は注射器、おそらく麻酔薬の類い、首を狙うはず)
那東はベネットを足場に思い切り飛んで屋根上に落下していく。落下に合わせて照準が胸元に合わさり、トリガーが引かれる。注射器の弾道は真っ直ぐ、落下して着地した那東の首元を捉えていた。
那東(こちら側の動きを制限すればするほど、弾丸の軌道は素直になる。下手に動いて見えなくなるくらいなら)
発射された弾丸を、裸眼の目視で捉える。懐のナイフを右手に逆手で構え、刃に注射器の針を沿わせた。小ぶりの鍔でエネルギーを受け止め、振り払って弾いた。左手で脇を閉めて、ゼロインの刻まれたリアサイトと飛び出たフロントサイトで、まったく見えない相手のに狙いを定めた。
那東(銃は良い。距離も、力も、これを手にすると何も気にならなくなる。倒せないモノが倒せて、守りたいモノが守れるようになる。守りたい者を守れず、あまつさえ他者を羨み殺した。こんな紛い物にも、さぶらう暇を与える。守れないという恐怖はもう知っている。外したら何も守れない、ならどうする?日々のその自問が拙者にはあって、なら)
左手だけで構え、トリガーを引いて実弾を発射。次のラダの射撃は破壊され注射器を破壊。銃口から銃身内部へ飛び込んだ実弾がラダの銃のレシーバーを貫通し、ラダ自身の肩を貫いた。壊れた銃が吹き飛び、列車の外へ落ちていった。
那東「二人とも、今でござる!」
両手で構え那東が射撃。ラダが列車を降りて下がっていく。ベネットとヴェロニクが貨車に上がる。上がると同時に、窓から曲がり込むようにして飛んでくる斧。那東が銃撃で落とすと、窓からトマホークが登ってくる。着地を狙った銃撃も弾かれ、斧が3人に向けられる。
トマホーク「止まれと言って、止まるとは思っていない」
ベネット「じゃあ退いて下さいよ」
トマホーク「もう死は不必要なのだ。訪れることはなくて良い」
ヴェロニク「あっそ、那東やっちゃって!」
那東が引き金を引く瞬間、通行中のトンネル側面から飛んでくる弾丸が命中し銃が破壊された。那東がナイフでトマホークの斧に応戦、ナイフも破損した。那東が素手で止めるなか、ベネットがライフルでトマホークを射撃、回避される。また攻撃があり、ベネットの銃も破壊された。落ちる薬莢が2つ。大口径のリボルバーの弾倉へ弾丸を入れて、回転しながらリロードを済ませるスターリンは、列車最前列で立っている。
ベネット「今、弾丸が壁から……まさか、トンネルの壁で跳弾!?走ってる列車の上でか!?」
トマホーク「下には複数の兵士、正面からは狙撃。貴様ら全員がこの上に上がった瞬間に、勝負は決まっている」
那東が腰を溜めてトマホークに丸腰で仕掛ける。跳弾が襲いかかり、脚を撃たれて倒れる。被弾した那東は太ももを大きく削がれ、列車から転げ落ちる。
ヴェロニク「晴翔!!」
落下していく手にヴェロニクは届かなかった。羽音が列車を包み込むなか、列車全体が白煙に包まれる。トマホークが白煙のなか突撃。
トマホーク(必要最低限……君にも、死でもらうしかないか)




