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SENA  作者: 雅号丸
第2章 RDI:RemeDyarchIst

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10話 遥か彼方で座視する安寧

スターリン「脱炭素の思想が世界的に広まる前から中東でのエリート層にはその思想が存在していた。我々は警戒を強化し情報網を貼っていた。技術的革新が中東で広まり、もしその中心が親米政権であったらマズいからだ。1989年、旧ソ連はクウェートで、ある会社を発見した。株式市場に陰も形も存在しない、ただ外資にサウジアラビアの企業を持つ研究機関だ。内部調査を独自に行った結果、あるAIが発見された。それこそがイクシールだ。イクシールは、アラビア語を基準に構成された独自言語で学習を重ねるAIだ。情報を入力すれば、情報から情報を導き出す。リンゴが木から落ちるという情報をだけを入力すると、イクシールは重力に関する原理を計算し、我々に情報を提供した。ゼロからイチを産み出す、イクシールにはそれができる。アラビア語は抽象的な言語で、ニュアンスの違うだけの言葉が大量に存在する。また新しい言葉や概念的の拡張を入力しやすい関係上、科学への即応性さえ克服すれば、日本語かそれ以上の表現の自由度を誇るAIを創造できた。欠点である言語的な障壁、科学への即応性を克服した故イクシールは、卓越した頭脳を持つ天才学者のような存在になった。想像力と論理的思考を同時に持ち合わせ、既存の物理学の矛盾点すら導き出し、新しい技術を考案するほどの性能であったのだ。シンギュラリティを自らを産み出し、それを更に越えていくAI。それこそ世界の中心となる技術だ。そうしていくつもの超越的科学は産み出さていく……はずだった」

マイロー「はずだった?」

スターリン「イラクだ。1958年イラク革命時点から、旧ソ連はイラクと交友関係を深めていた、中東への足掛かりとしてな。だが奴らはその打算的行動を見抜き、スパイを紛れ込ませていたんだ。旧ソ連がイクシールの関する情報を収集・分析しているタイミングで、イラクにもそのことが伝わる。当時から強く強硬的姿勢を持つ政権は、8年のイラン・イラク戦争を経て中東最強の軍事大国となったことでその姿勢をより顕著にしていた。そこに、世界を牛耳れるかもしれない技術の情報が渡ったのだ。何をするかは一目瞭然、石油価格での対立や歴史論まで持ち出して軍部を説得、クウェート侵攻を即座に行い、技術の奪還を計画した。そこで、我々はその後の湾岸戦争のタイミングで、イラク経由でイクシールに関する情報を引き抜き、同時にイラクとの友好関係を切り捨てた。米国との関係ができる理由を作ってやる国など支えてやる義理もない、事実クウェートには今も米軍基地がある。イラクもアメリカも驚いただろう、旧ソ連が湾岸戦争を黙認したのだから」

那東「それだけでは、アメリカと新ソ連が持つ技術が同じ祖先を持つという言葉とは辻褄が合わないでござる。真実は伏せたままであるか?」

スターリン「イクシールから出力される科学技術は、アメリカでも使われている。最重要機密へ使われる暗号処理の技術が、我々新ソ連がイクシールに出力させた技術とまったく同じ形式を持つのだぞ?だからこそ情報を盗み出せているのだ。確かめたければアメリカに聞くのだな。そしてペンタゴンの情報処理技術がそれに更新されたのは、アメリカがイラクへ攻撃を開始した2003年、そう、イラク戦争だ。奴らもまたイラク経由でイクシールを盗み出したのだろう。イラク経由で我々は情報を引き抜いたといったが、イラクも情報は握ったままだった、利用できる環境はなかったようだがな。ソ連は解体されロシア政権内は混乱、経済や軍事の観点からしても、ロシアはイラク戦争を放置するしかなかった。無論イクシールの件もあったが、イクシールの運用については当時意見が分かれていた。AIである都合、出力される情報には必ずどこかで偏りが発生する。モデルが全自動で更新されるとはいえ、AIもまた思考という時間を必要とする人間そのものだからだ。過信は禁物。そして他国にも同様の技術が盗用されている恐れから、当時の運用は限定的であったそうだ。だが、イラク戦争直後からアメリカの機密情報はすんなり手に入るようになった。情報の入ったファイルさえ手にすれば、暗号解読は本国でいくらでもできた。アメリカが日本を本気で守る気がないことも、ウクライナを攻め落としても戦争を仕掛けてこないことも、ドイツで暗殺計画がアメリカ主導で実行されていたことも、Seven Nation Armiesが計画されていたことも、2040年時点でのウクライナの配備状況も……おかしなことに、イギリスが独自に行っていたはずのテロに関する情報や、更に欧州各国での右翼活動家への金銭的援助の情報までも入手できた。これらは、ドイツの弱体化と列強の蘇生をアメリカ主導で行っていることを意味し、それは帝国主義の復活と欧州での戦争を、アメリカが望んでいるという根拠に他ならない」

ヴェロニク「アンタら、中国に情報売ったの!?」

スターリン「売っていない、あれは中国が独自に動いたまでのこと。諸悪の根元に我々があるとでも?いいやむしろ我々はもっとも浅いところにいるだけだ、この世界の諸問題へは、ほぼ関与していない。ありきたりなリフレインだが、世界の問題は、世界の問題なのだよ。都合良く一つの問題点・悪に帰結するなどという淡い期待はしないことだ。等号で繋げてしまえるほど世界の闇は浅くないし、誰かのせいにできるほど世界は優しくない。いいか、アメリカはドイツという、大戦の根元を望んでいる。そしてアメリカの味方は世界中にいるのだ。本来ならアメリカを叩き潰したいところだが、アレはもう強すぎる。だがアメリカを最小単位まで切り分けたとき、それは情報でありただの意味だ。私の計画をが完遂されれば、アメリカという意味もまた失われ、奴らの計画も終わる」

ベネット「アメリカは何を計画していた?ペンタゴンは……まさか、本当に戦争を?」

マイロー「もう……いいです。なんか、真実とか、どうでもいい、私は求めていない」

スターリン「?」

マイロー「なんで、ウクライナを……俺の妹が死んだ理由は、なんですか?」

スターリン「日付を言われても作戦の概要は説明できないぞ?」

マイロー「お前は戦争の意味を、どう考えている?いや、何を言おうと貴様に苦しみを与えてやる。利益の最終段階とは生存であるとお前は言ったな?貴様でも、貴様の大切な人でも、愛する人でも全てだ、それらが害された瞬間、どんな思想も残らない、頭にある辞書に、たった一つの言葉以外何も残らない……殺す、ただそれだけだ。私の絶望を貴様にも与えてやろう。お前の頭から、殺す以外の文字を全て消して、その上で殺してやる……ガキが」

スターリン「私の望む世界とは、私を否定する世界だ。拒みたくば拒みたまえ、ただし意見には力を伴わせなければならない。私にとって意見とは平和であり、そのための力として戦争を当てはめた。そう……戦争とは、平和である」


ORCAを乗せる車両の中から、音楽が漏れてくる。10秒、20秒、1分、3分。背景が代わる代わる、音楽は流れる。静寂ではない時間のなか、ひたすらマイローはスターリンを睨み続けていた。


スターリン「人に意味は過剰である。過ぎたる物を持つならば、その代償は重たいものとなる。私は意味という重荷を人類から取り除き、規範を新たに埋め込む。価値判断を思想と自己に同一化し、仮に思考を停止したとしても尚、正義は実現されるのだ。際限なき正義と、際限なき平和と、際限なき福祉……そう、世界は共産化される。人類は目撃するだろう、遥か彼方で座視する安寧が、目前に迫るその瞬間を。もう10分もすれば設備は稼働を始め、世界中から言葉の意味は消え、新しい意味が保存される。思想と機械の二頭政治(Diarchy)により我々は人を傷付けるを克服し、また互いを克服させる治療法(Remedy)そのものへと至るのだ。世界は最初にして最後に残る共通のアイデンティティ、人類であることへの信奉者(ist)となる。Remedyarchist計画は、ここに完了する」

マイロー「この手錠が外れた瞬間が、貴様の最後だと思え」

スターリン「では最後に教えておこう。アメリカの計画を……君らのがひょっとしたら信じているかもしれない正義は、根幹から崩れているのだよ」

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