2話 鉄分
マザー「品種改良、という線はまだ消えないがな」
学者「しかし、少し怖い結果です」
マザー「増えた栄養素は……鉄分だけ、だったな」
学者「はい。消えた鉄原子という点から考えると、一度見えなくなった鉄が、肥料を経由して、植物内で顕現?しているように見えます」
マザー「その、植物に含まれる鉄は二価鉄だったそうじゃないか。植物や土壌に含まれる、至って普通の鉄分。だが確かに恐ろしいのは確かだ」
学者「経緯や、マザーの言っていた食品への、関与?も踏まえると、何か恣意的なモノを感じます」
マザー「新ソ連は、何らかの目的で……我々にこの鉄を食わせようとでも思っているのか?」
学者「成分としては本当にただの二価鉄です。身体に影響があるとは思えません」
マザー「鉄の身体への悪影響か。消化器官への影響から、酸化ストレス、臓器へのダメージ……鉄過剰症の人間の場合は主食が毒になるな、鉄を摂りすぎてしまう」
学者「ですがその病気は遺伝的なもので、欧米ではメジャーですが人類全体への影響はあまりないかと。しかもその欧米でも、割合としては300人に一人です」
マザー「欧米を狙い打ちするには、影響が少ないな」
学者「意図が不明です」
マザー「つまり、症状を引き起こすことは目的ではない」
学者「となると……摂取させること、それ自体が目的?」
マザー「そうなるとまた疑問だ。新ソ連が手札を晒すこともあるまい」
学者「目的がありそうですよね」
マザーは目を少し大きく開けると、端末を開いて検索をかけていく。
マザー「新ソ連へは、どれくらいデータを送った?」
学者「アノマロカリスの回収が完了するまでの間ですので、昨日までです。データの範囲は、植物に栄養価の向上が見られたということをまでで、それ以上の連絡は、アノマロカリス回収完了と共に取り止めました」
マザー「……変なことを何かの記事で読んだことあって、今調べた。推測だが、もしや奴ら、自国で開発された技術が検証不可能なんじゃないか?」
学者「……えっっっ、と??」
マザー「そんなことあるか?って顔だな」
学者「えぇ、だって開発できてるんですよね?データバッチリ、実験も完了してて」
マザー「その技術を運用するのは?」
学者「えぇ?まぁ、経営者とか国の偉い人か……あっ」
マザー「奴らは、またやらかしたんだ。絶対権力、その果ての腐敗。スターリンと同じ轍。自国で開発した技術のデータが、信用ならないのだろう。新ソ連を知りたいというNATO側の敵対心から来る逆説的な信憑性こそを求めたもんだ」
学者の一人が、端末で検索をかけた。
学者「……あった。ヨシフ・スターリン、最も他人を信用しなかった指導者」
マザー「私のAIが要約したものもあるが?」
学者「そっ……ちの方が良さそうです」
学者は端末で要約を拝見した。
質問【セナ、SNSなどから新ソ連の現行体勢と反乱分子への対処などを、古ソ連時代と照らし合わせ、またそれら情報から、社会全体あるいは政府内で疑心暗鬼になっている可能性を調べあげろ。キーワードは新ソ連、体制、虚偽の報告、情報の改竄だ】
学者(こんなアバウトな指示を?)
解答【社会全体では中程度、政府内では高確率で疑心暗鬼、互いに信用しなくなっている可能性は存在します。
公式見解上、現在の新ソ連の体勢は、旧ロシア時代から更新され、半大統領制から、評議会による直接民主主義からなる共産党国家体制に変化しています。長い名称の裏には、分かり難くすることで実態を把握させない魂胆があると指摘する学者がいます。その学者はこの政治体制を、共産党支配と翻訳しています。国家元首は存在しますが、共産党一党のみが国内にある関係上、党内の序列によって全て決まっている可能性は十分あります。
新ソ連に関する公開情報は限定されており、SNS上での関連の投稿は平均1分で削除されています。その間に分析できる情報は、白票や反対票を入れた友人と連絡が取れない、外で5人以上集まると集会と見なされ警察が逮捕する、家屋に宅配業者としてベルを鳴らしドアを開けると兵士が雪崩れ込んでくる、書記長と名乗る人物が常にテレビで紹介されている、公開裁判がある、強制収容所がある、外資系SNSが禁止になる、などがあります。実体は定かではありませんが、SNSという多様な意見の流れ着くものが、全て国を恐れ怖がる内容の投稿で埋め尽くされているならば、それは独裁政権である可能性は否めません。
白票や反対票を入れた友人と連絡が取れないなどという投稿が過去大多数存在する可能性を、新ソ連在住ではないアカウントから目撃情報として複数確認したため、反対意見そのものが粛清されている可能性があります。よって、国家や人権の上に共産党があり、党内の序列確保や保身のために反対意見を発する理由が無くなっている可能性があります。
反対意見を発する理由が無くなると同時に、過剰なまでの賛成意見や他者へ対する過大広告、自分に都合の良いよう情報の改竄、虚偽の報告などが頻発しているの可能性は大いにあるでしょう】
質問【では、我々に例の鉄の情報を研究させ情報を寄越させた理由は、党内での虚偽の報告などが頻発していることに起因したものである可能性は大いにあるのだな】
解答【可能性としてはありますが、全て推測であり、また私のAIの開発者はあなたであり、影響を強く受けています。そのため、私があなたの思想に強く共感させるような答えを、ただ入力しているだけである可能性は、絶対に捨てないで下さい。またこれらの情報を、ORCAの皆様やペンタゴンに共有しても宜しいですか?】
質問【忠告は助かる。共有を許可する】
解答【かしこまりました】
セナの連絡がORCA各員やペンタゴンへ送信される。




