33話 第140特別目的センター
ベネットはトラックから降りて、ライフルはショルダーストラップにかけている。武装はしているが、二人だけ降りてくるのを見て、活動家たちは一層睨んでくる。
ベネット「すみません、英語が話せる方はいますか?」
座り込む活動家たちは、背中に手を伸ばす。ベネットが一歩下がりセナが前に出る。活動家たちは、横断幕を掲げ始めた。
【KEEP THE EARTH】
無言で、ただ大きく座って抗議を始める。しばらくして、ベネットは話始める。
ベネット「皆さんは、この工場で生産されているものが何なのか御存じですか?」
???「地球を汚すものだ!我々は、世界を愛する義務がある!」
ベネット「えぇ、それは分かっています。だからこそお伺いしているのです。ここで生産される予定のものは何なのか、と」
???「そんなものくらい知ってるさ。ハーバー・ボッシュ法により作られる、肥料だ。お前たち、あの製造方法がどれだけの石油を使うのか、分かってるのか!?正気じゃない!」
ベネット「えぇ、確かにハーバー・ボッシュ法によって製造される肥料であり
ここはそういう工場です」
???「お前たちは地球を汚している、その自覚をなんで持ってないんだ!?」
ベネット「えぇ、それにつきましては大変ご迷惑であることは存じております。ですので、もう少しお聞かせ下さい。ここで作られている肥料は、どのような生産行程を以て作られるものなのですか?」
セナはベネットの会話を聞いていた。
セナ(そうか、この人たちは触媒の件を知らない可能性がある。ベネットさんは相手がどれほどの情報で動いているか確認したいんだ。従来の非効率なものだと誤認しているなら、話し合いも可能……)
???「何を同じことを言っているんだ。お前みたいな愚か者たちがいるから、地球は汚れるんだ。気持ち悪い、これだから黒人は」
セナはその音声を録音した。
ベネット「工場のことをどれくらい御存じなのか、私は知りたいのです。おそらくですが、我々の間には誤解があるようですので」
???「お前は本当に何も知らないな。ハーバー・ボッシュ法は大規模な装置の稼働させるが、化学反応を引き起こすために製造機の内部は常時500度・300気圧の超高熱・高圧にする必要がある。家庭にあるような暖房とは訳が違う」
ベネット(よし、ある程度知識をひけらかせたな。大切なのは主張を話させること。これは会話じゃない、俺が聞いて相手が喋る。ターンが常に相手にあるように立ち回り満足感をまず与える。喋らせて喋らせて、後に引けなくする必要がある。言い訳させないために)
ベネットはセナより前に出た。
ベネット「はい、そのと通りです。ハーバー・ボッシュ法には大量の熱が必要です。しかし私はなぜそれが必要なのか分かりません」
???「はっ、化学も知らないのか?熱は化学反応を引き起こすために必要なものだ」
ベネット「はいっ、ですが……ハーバー・ボッシュ法にはまだ別の化学反応があったような……?いえ、私も詳しくは知らないのですが」
???「……触媒の話しか?はっ、お前はどんだけバカなんだよ。お前、ORCAなんだろ?ここに来るって聞いてる。ネットは今、お前らの話でいっぱいだ」
ベネット「……」
???「人を殺す訓練ばかりして、いったい何を守るつもりだ?バカみてぇに薄汚い、泥まみれになって、火薬使いたい放題、戦車でエンジン回して、戦闘機でミサイル撃って、有線のドローンがどれだけの光ファイバーを自然に置き去りにしている?どれだけの弾丸が自然に残っている?鉛汚染、劣化ウラン汚染、お前らただの人殺しが、何偉そうにしてる?お前らはもっと頭下げるべきだろうが!!人でなしごときが、地球を愛する俺たちと同等の扱うを受けると思うなよ!!」
ベネット「あぁ、えっと」
ベネットは困った。
ベネット(地球を愛する俺私素敵って、完全に自己陶酔に陥ってる。そうだ、自分が正義だと思って行動すると、記憶に残るのは、なんかすげぇ活躍してる自分という印象。正義は主観だけで動くだけでも気持ちがいいのに、同じ主義主張として集団になって行動している。ここにいる全員が、自分を英雄だと疑っていないんだ……不味いな、これじゃ会話どころじゃないぞ)
???「お前らみたいなのがいるからこの世界は良くならないんだ!我々は未来のために戦っている、お前らが薄暗くみじめに戦っている、銃弾の飛び交う戦場とは訳が違うんだぞ!お前らみたいな穢れた連中に、俺たちの何が分かるっていうんだ!?さっさと失せやがれ!!」
トラックのコンテナが、拳によってう抜かれる。きしんだ音が響いて、まるでカーテンでも開けるかのようにコンテナを引き剥がし、マイローが荷台から降りた。
那東「マイロー殿、いきなりどうしたでござる!?」
ベネットがマイローに走っていく。
ベネット「おいおいどうした!?」
ベネットが勢い良く退けられる。マイローはゆっくりと、拳から血を流して歩き、活動家たちに寄っていく。セナは止めなかった。
???「お前……ネットで見たぞ!殺し屋め、お前みたいな奴が一番、社会にいらないんだよ!」
マイローは活動家たちの目の前まできて、立ち止まる。
マイロー「触媒の件は、御存じですか?」
ベネット「おい、あまりこっちから情報を与えるんじゃない!」
座り込む活動家に、見下すように視線を当てる。
マイロー「……御存じですか?」
活動家のなかの1人が、手を上げた。
???「そんなもの知ってるさ。反応をさせるための素材だ」
マイロー「そうですか、でしたら」
???「この工場では、効率を最大限高める触媒を使ってるって話?当然、全員そんなもの知ってる。いや?興味がないのよ」
活動家の1人が立ち上がり、マイローの隣に来る。
???「私たちはね、システムを変えろって言ってるの。効率がいいからって、咎めない理由にはならない、私たちは尺度じゃない、概念の話をしてる。あなたロシア系?ねぇ、社会の敵と同じ人種のあなたが世界の為に戦ってるって、どんな皮肉?話もしたくないわ。社会から出ていきなさい」
マイローは少しうつむき、そしてもう一度活動家たちを見た。マイローは自分の鼻をつまんで、引っ張り始める。少しずつ強くなっていき、鼻が千切れそうになっていって、活動家たちが驚嘆していく。
???「あ、あなた何がしたいの!?」
マイローは顔を引きちぎった。顔の半分が正確にめくれていき、頭皮も、唇も、耳もめくれていった。顔の半分が肉の焦げた骸骨のように見えるマイローがそこにいて、セナは何が起きておるのか判断する。
セナ(マイロー様は、私と同じで人工皮だった……!?じゃあ、あの傷は)
マイロー「私とは旧ウクライナで、旧ロシア軍と戦闘をしていました。空挺降下、基地制圧、軍艦撃滅、戦車隊撃破、市街地防衛、狙撃任務、塹壕突破、山岳での伏兵……4日寝ないで敵の攻撃を凌いで、私は特殊部隊に配属されました。私はただ、故郷で寝ている妹や両親を守るために戦ってきました。ですが、私の故郷はドローンによる集団に爆撃にみまわれ、妹は両親共々瓦礫に潰れました。私もまた、作戦中に敵の奇襲を受けて部隊が壊滅し、怪我を負ってこの顔になり、旧ロシアに捕縛され拷問の数々を体験しました」
???「……へ、へぇ。何よ、ふ、不幸自慢?」
マイロー「戦場は、確かに薄暗くて気持ち悪い、自然も汚します。でも……そんな戦場の後ろにいたのは、皆さんですよね?」
マイローは、ゆっくりと拳銃を取り出して活動家たちに向ける。
マイロー「我々軍人の中には、顔も見たことない人間を、愛する祖国を守るために戦った軍人も多い。命は1つなのに、弾丸一発で失われるんです。平和とは、もっとも享受し難いもの。そんな世界で生きている皆さんなら、当然私何かより賢く素晴らしい人格をお持ちなのではと期待していました……私たちは皆さんという後方を背負った、時代の最前線で戦いました。我々の命を以て得られた平和を享受しておいて、なぜ高らかに自らの愚かさを叫ぶのでしょう?我々は皆さんを守って戦っているのと同じような状態でした。我々は皆さんを助けました。ではなぜ皆さんは私の家族を、部隊を、守ってくれなかったのですか」
???「う、撃ってみなさいよ。私たちの命は、あんたたち兵士と違って守られてるんだから!」
マイロー「何に、守られていると?」
???「私たちの身分は知ってるでしょう!?あなた、もう終わりだからね?録画するんだから」
活動家たちはスマホをマイローに向けている。
マイロー「人は何に縛られているか、それは法律です。法律が罰則を与え、人は自分を律する。ところで、私に適応される法律は何でしょうか?」
???「はぁ?軍規とか、あなたの責任を背負ってる団体の法律でしょ?」
マイロー「そうですね……セナ、私の所属はどこですか?」
セナはデータを確認する。
セナ「……あれっ?マイロードのデータが、データがありません!」
マイローは拳銃のセーフティを外した。
マイロー「最初から上はこのつもりだったのでしょう。エメラルドさんは無駄な犠牲になるところでした……私はこの部隊で唯一、故郷がない人間なんですから」
???「あなた、何を考えているの!?落ち着きなさいよ!私たちを殺したって、あなたに何も」
マイロー「何もないんです、私には。故郷も家族も無くなり、政府はイギリスへ亡命した。ウクライナは新ソ連直轄地区キーウとして、名前を変えて存在しているだけ。皆さんは気を使って旧ウクライナと呼んで下さいますがね。その着ているジャケットは石油製品でしょうか?火葬がお望みですか、良い燃料になりそうです」
拳銃の銃口が光る。
ベネット「マイロー、やめろ!」
マイロー「私の現在の所属は、未だウクライナ特殊作戦群、第140特別目的センターです。部隊の皆さんにも、最初からそう自己紹介していました。私はもうない故郷の、もうない部隊所属です。政府はありますが、もうあそこは誰かを裁き律する機能を失っています。失感状態の現大統領と夫人のみ、秘書はイギリスが用意している。また、ORCAの責任はNATO各国に分散されるような構造になっている。この部隊は、はなから責任がどこも背負えない部隊ですし、私個人を罰する法律もありません。その法律はもう、故郷と共に無くなりました」
セナごしに音声を聞くエメラルドが答える。
エメラルド(無線)「……まぁ、そんな側面もあるな」
マイロー「では、私の最後の守るべき法律はなんでしょうか?」
???「こ、国際法。そう、国際法よ!私たちは、じ、人権が」
マイロー「国際法は、刑法や民法とは違って、罰する組織なんてありませんよ?」
???「なんて言ってるの?こ、国連があるじゃない」
マイロー「国連は、各国の保安組織に、その人物を処罰しなさいという促進を行うことしかできません。つまり、絶対的なものじゃない。何より、この工場で生産される肥料がなければ、各国は脱ロシアを許容できない。損得という相対性は法律と非常に相性が良いです。数億人の目下の飢餓と、極少数の筋違いの主張。自由主義とはつまり自由に伴う責任を背負う主義です。あなたたちは現在、数億人の命を握った、大規模殺人を企てているヒトラー越えの悪人です。神の対義語に人権はありますか?ありません。それに、国連はスイスから本拠地を変更した関係上忙しくしています。きっと雑務はできないでしょう」
???「雑、務?何をごちゃごちゃ。いい?あなた今、人を殺そうとしてるの!?何してるか、分かってるの!?」
マイロー「そうですね……ごちゃごちゃ言ってますが要はこうです。私はあなたたちを殺せて、殺したくて、社会的に淘汰されない立場にあります」
???「や、やめて!銃ならもう捨てたわ!」
マイロー「非戦闘員になるには、何も持っていないことを証明してもらわなけれないけませんよ。怪しませ、相手を不快にさせた時点でそちらの落ち度であり、こちらは銃を握る資格があります」
???「ご、ごめんなさい!」
マイロー「では、あなたの好きな地球に埋まって下さい。石油になるまでは1000年くらいですか?脂肪を積み上げたんですから、きっと良い燃料になれますよ」
マイローは引き金に強く力を込めて発砲。直後セナが腕を殴り飛ばして、高圧の放電をし、気絶させた。倒れるマイローをゆっくりと抱えて、セナは下がっていく。
ヴェロニク(無線)「言いたいことぜーんぶ言ってくれたねぇ」
那東(無線)「というか、相手はしっかりと医者に診てもらうべきでござる」
活動家たちはその後一切の抵抗をすることなく、バリケードを自ら撤廃していった。内部にいる活動家たちは無線で連絡を受け、抵抗をしなくなった。ORCAの面々はすんなりと内部へ入り込んでいき、触媒の素材となる鉄インゴットを倉庫で発見、指定されたインゴットと交換した。




