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SENA  作者: 雅号丸
第1章 CTBT:Comprehensive Tactics Beta Test

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31話 研究基地

マイローは銃を向けられたまま、ある部屋に押し込まれた。


エヴグラーフ「この施設は基礎工事の時点で鉛で囲われているわ。どこか部屋に入った瞬間……」

エヴグラーフは放射能防護服を脱いだ。半裸で、汗だくだった。

エヴグラーフ「ふぅ、こんな装備要らなくなる」


エヴグラーフは装備を脱ぎ捨てると、兵士たちにマイローを取り囲わせた。エヴグラーフは兵士の持ってきた、何らかの兵器を構える。クロスボウのようなランチャーからボーラが放たれマイローの身体に命中すると、まとわりつき、全身を固定。そのまま、地面と固定された長机に縛り付けられた。


エヴグラーフ「ミロスラフ・レヴ・シュヴィーチ、クレムリン(連邦政府)のデータベースを元にした網膜スキャンに引っ掛からないのは、おかしいわね?名前が一緒なだけかしらそれとも……いいえ、間違いない、あなたね、あなたがミロスラフ・レヴ・シュヴィーチ本人ね?」


エヴグラーフはマイローの目をじっと見た。


エヴグラーフ「ウクライナじゃ伝説の兵士とされているそうよ。たった一人で敵陣に突っ込んでは、歩兵隊・戦車隊に壊滅的被害を与え、なぜか帰ってくるバケモノ。黒海海上でも目撃されていて、遭難者にふんしてゴムボートで接近、対艦ミサイルを底部に積載し、手元の機材でゼロ距離からエンジンに発射、旧ソ(ウチ)の戦艦をぶっ壊して、泳いで沿岸から帰還したっていうバカみたいな事実。ひとたび出動が確認されたら、旧ロシア兵は相当に怖じ気づいたそうよ。最後はあっけなく、所属した部隊共々奇襲で全滅させられたって話だったけど?まさか、生きてそのまま、あの狂気じみた自殺志願者集団、ORCAに配属されているだなんて……あなた、なんでここ来たの?あぁ、暴力に出るつもりはないわよ?目的は分かってる、アノマロカリスでしょう?東西緊張の元凶、新冷戦の象徴、あの、おっっっきな機械」

マイロー(EMP兵器への言及は、おそらく意図的に避けている)

エヴグラーフ「何を隠そう、私が作ったのよ!」


マイローは目を見開いた。


エヴグラーフ「凄いでしょう?ローラー・ビットと各種アームによる、既存の兵器をもろともしない圧倒的破壊力、大地を鎧とした圧倒的防御力、インフラ・地形に左右されない機動性、何より規格外の……………ロ マ ン!!」

マイロー「ロマン?」

エヴグラーフ「今のは少し言い方が無粋かしら……ふむ、この場合、象徴性といった所かしら?ハトが平和を、十字架がキリスト教を象徴するように、アノマロカリスは新ソ連の恐怖を世界中に決定付けるわ。事実、世論はアノマロカリス一色。はぁ、世界中で私の息子が、娘が、ひのめを浴びている!」

マイロー「あんなものを、よく導入しましたね」

エヴグラーフ「あなたの目的は、まぁ確実に設計図でしょうね。でもざぁぁんねん、あの兵器に弱点はないわ」

マイロー「そう、でしょうか?」

エヴグラーフ「思い付かないから、こうして潜入してる訳でしょう?」

マイロー「核物質貯蔵の方法の観点から、原子炉の存在だけでは、放射能防護服の着用はしない。放射性物質利用、例えば装甲に劣化ウランを利用するならば、それら装備にも納得がいきます」

エヴグラーフ「そこまでは分かってるようね。じゃあ何?あなたは、アノマロカリスの装甲に劣化ウランが使われていることの確認をするために、ここまで来たの?いいえ違うわね。ソーヴァの話では、あなたはアノマロカリスを破壊しにきた。でなきゃ、折角一度しか使えない西側への裏切りという(ソーヴァ)の切り札が似合わない。ソーヴァが場面を読み違えることもないでしょうし……ふむ」


部屋に一人の医者と、台車が運ばれてきた。医者はやけににやついていた。


エヴグラーフ「うちの医者よ。まぁ、治すより壊す方のプロだけど」


台車には、各種医療用の切開の道具やペンチ、ドリルなどがあった。医者は、カメラを立て、録画を開始する。


医者「情報を必要としている訳ではないので、痛みに耐える必要はありません。これは、我が国のコケンに関わる事態、早急にこれを報復とし、我が国の権威を示さねばなりません」

マイロー「私は一応、IAEAの査察としてここに来ています。ペンタゴンなどは私の死を利用して、東側へ宣戦布告を行うことでしょう」

エヴグラーフ「それでいいのよ、それが、我が祖国のやり方だもの。それに、ペンタゴンだってその腹積もりなんじゃないかしら?あと、あなたというウクライナ人が死んだからところで、NATOの損害じゃないから、あなたの味方が動く保障はないわよ?まぁでも来たっていいわ、私たち、ちゃ~んと受け止めてあげるから」


マイローは一つ大きな溜め息をつく。台車を転がす医者は、白衣を着用している。


マイロー(私がこの潜入に選ばれた理由……まったく、こんな理由で、とは思いませんでしたよ。私なら死んでも良いという……確かに最も適任ですね。ですがエヴグラーフ、その予想は外れです)


マイローは歯軋りをするほど全力で力んで、だが無表情でボーラを全て、内側から引きちぎった。エヴグラーフや医者、兵士たちは腰を抜かしている。


マイロー(私が選ばれた理由は単純、シミュレーションで、新ソ連の使う捕縛用道具を、セナと私だけが正面から打ち破れるからです。ここからは、私にもターンがあります!)


―アタッシュケース内部にあった指示―

【作戦直前になって、ノリリスクで衛星から映らないよう動く大がかりの輸送計画を発見しました。その道はジェレズノゴルスク方面へ伸びています。アノマロカリスはジェレズノゴルスク・エニセイスキーのどこかにある。私はもう10年以上、そう、旧ロシアの頃から潜入しています。そんな私の調査ですら、マトモに内側、とりわけり両地点への潜入はほぼ不可能です。ここは他の閉鎖都市よりも、明らかに堅牢。そしてそれは逆説的に、アノマロカリスの存在をほのめかしています。そのため、事前にエヴグラーフという方およびクレムリンへ、皆さんのことは二重スパイという形で、あえて敵にお伝えしてあります。お二人には、敵の術中にハマったテイで、捕らわれる形で最深部まで潜入してもらいます。セナ様には真正面からデータ回収とマスキングの剥離によるアノマロカリスの位置の特定をお願いします。問題はマイロー様。新ソ連の戦術は、お二人を引き剥がしたタイミングで攻撃を仕掛けることになっています。セナ様にハッキングを任せ、その後二手に別れることはつまり、マイロー様が必然と、単騎でアノマロカリスと対峙するということ。ですがマザーという人物からの伝言によれば……破壊方法はある、とのことです】


マイローは台車に乗ったメスをで医者の足を切り裂き、盾として捕まえる。メスを複数取る。


エヴグラーフ「いいわよ、撃ちなさい!」

医者「そんな!?」


包囲する敵から、アサルトライフルによる射撃があった。マイローは医者を蹴り飛ばし腕を頭の前で十字に固める。マイローは医者ごと撃ち抜かれ、医者の血と弾丸が全身を覆った。鉄で弾かれるようにして、弾丸は潰れて床に落ちる。


エヴグラーフ「はぁっ!?」


裏返ったエヴグラーフの声が、部屋に響く。服を貫いて弾痕が黒く見えた。


マイロー(炭素繊維複合強化人工皮革。7.62mm弾をこうも易々と……痛い)


マイローはリロードする敵へ突撃し、顔面を強打して頭を地面に叩きつけマガジンとライフルを奪い、装填し弾丸をばらまく。部屋からエヴグラーフが逃げ出したのを追いかけると、集中砲火が来るので退避、グレネードが部屋に投げ込まれる。死体を盾にグレネードの破片を防ぐと、敵の防弾チョッキや各種装備を奪い、部屋の外へグレネードを投げる。グレネードと同時に投げたスモークが起動、煙のなかをマイロードが突っ切りながら廊下を抜けていく。腰に装着したままスモークをさらに展開し、自分の後方から追いかける敵の追跡を防ぐ。奪った無線の周波数をいじった。


マイロー(無線)「応答を」

エメラルド(無線)「よくやったマイロー。セナは今ジェレズノゴルスクからそこへ向かっている。お前はアノマロカリスへ向かえ。強化人工皮革も無敵じゃない、いくらか弾丸を防いでも、人体にダメージは通る。内出血や、骨にヒビが入るのも普通だ。被弾がかさめば骨折し行動できなくなる、気を付けろ」

マザー(無線)「破壊方法だが、そこは工場だと推察できる。組み立て用の重機を活用して、劣化ウランの装甲を引き剥がせ、内部構造を露呈させた段階でセナが来るまで待機、セナがハッキングし、冷却システムを停止させた状態で原子炉を起動、炉心融解(メルトダウン)を起こさせて機能不全にする。もしセナが間に合わない場合、貴様単独で破壊することになる。派手に破壊するなよ?なんとかして内部システムへ侵入し、さっきの手順をお前がやれ。メルトダウン時には当然放射能が発生する。車両に搭乗してそこから逃げろ」

マイロー「しかしそれではこの街が……」

マザー「ソ連の人間に忖度するのか?計算上、アノマロカリス起動による人為的な被害と破壊による被害では、前者が規模は上となっている。ヨーロッパだけではない、世界中の地中にむこう何百年と、削れた劣化ウランによる放射能汚染が広がる恐れもある。ウクライナは旧ロシア侵攻時、薬莢によるチェルノーゼム全体への土壌汚染が深刻だったはずだ。だから分かるだろう?選択の時だ」

マイロー「……了解、これよりアノマロカリスの解体を行います!」


マイローはグレネードを足元にいくつも転がして追手を完全に振り切ると、奪った端末にある地図を見ながら施設内を走っていく。視線の先にある部屋から重武装の兵士が出てきた。機関銃を構えて乱射してくる。マイローは側の部屋へ飛び込む。マガジン内に弾丸が入ってるのを確認すると、チャンバー内の覗く。


(強化装甲兵……どう倒す?)


マイローは体を傾けて部屋から銃と手、頭のみを露出させ射撃。兵士は被弾に構わず射撃をし、後ろから敵兵が展開してくる。薄い装甲の敵を撃ち抜き隠れ、リロードを行う。


(PKMの発射レートは毎分650発、毎分……なら、このタイミング!)


マイローは再び最小限の体出しを行い、敵の射撃に合わせて射撃、敵の銃口内部で弾丸同士がぶつかって弾詰まりが発生、そのまま敵がトリガーを引いていたのが原因で銃口内で更に弾が詰り銃身が破裂した。マイローは飛び出して重装甲兵を盾に周辺の敵を射殺、重装甲兵が拳銃を抜いた瞬間に組み手を行って相手を倒すと、左手で敵の拳銃を奪い相手の喉元に押し当てながら引き金を何度も引き、右手でライフルを撃ち敵兵士たちをなぎ倒した。敵が出てきた部屋に銃を向けて入ると、研究者数名が手を上げて待機していた。


マイロー「ここは!?」

研究者「こ、コントロールルーム、です」

マイロー「あのアームを動かせるか!?」


研究者たちに銃を向けて、工業用の重機などを動かしていく。

後方から銃声が響く。マイローはライフルを扉へ向けながら、視界の端で研究者たちを拳銃で捉える。研究者の一人は拳銃を抜く、その方向に向かってマイローは直視することなく弾丸を叩き込み膝へ命中させた。


???(無線)「マイロー、こちらセナ。外の銃声は私のです、今から入室します」

マイロー(無線)「セナ、来ましたか」


マイローは一瞬コントロールルームへ視線をやった。室内のカメラがマイローへ向いた瞬間、外にいる誰かが視線の移動を映像で確認、ポンプアクション式のグレネードランチャーで部屋に何発も攻撃を行う。室内は爆炎と煙に包まれた。グレネードランチャーを撃った敵と周囲の兵士に向かって、雷撃が横から浴びせられる。


セナ(無線)「マイロー、マイロー応答を!!」

マイロー(無線)「セナ、今のは……」


セナは丸腰で敵集団へ突撃し、銃を奪って残った一人へ向けた。その相手は全身に包帯を巻いており、セナはその兵士が北海道で遠方から狙撃してきた兵士に見えた。


セナ「ラダ・レーシン!」

ラダ(無線)「書記長、例のアンドロイドを確認しました。敵兵一名は消息不明、このまま戦闘を続行しますか?……了解、敵機を回収します」


ラダはグレネードランチャーを捨てると、ナイフを抜く。腰まわりに装備している複数の装置をボタンで起動しているようで、透明になった。セナはすぐにサーマルを起動するも、姿が見えない。


セナ(サーマルに反応しない!?)


周囲に転がるグレネードのような音が複数、カメラでは検知できない。周囲に複数の足音、銃声が響き、カメラで検知することなく回避した。弾丸も何も飛んでおらず、最後に響いた足音と同時に、セナは背中を上から下へ大きく切断される。出血するように漏電が

しながら大きく飛び込み、距離を取った。ラダはカメラに映り、ナイフは青く帯電している。


セナ(高周波ブレード……あの機材たち、それに)


足元にスピーカーのついたグレネードがあり、漏電している。


(足音を偽造するデコイ……機材の全ては私対策)


四方からの足音がまた来襲し、機械で見えない刃がセナを襲い続ける。四肢にダメージが入る。


セナ(壁越しにいる敵だと想定すればいい、ソナーでスキャン)


スキャンに敵は引っ掛からない。


セナ(これも対策されている!?どれ、どれなら……)


セナは周囲に放電し、デコイや敵兵士を攻撃する。敵兵士の姿が電流で追えるようになるが、電流はナイフに連れて回避される。


セナ(避雷針替わり……相手はナイフ、自分から近寄るわけには)


部屋の方角から、にじりよるような、大きな足音が聞こえセナは振り向く。


セナ「マイロー!」


ふらつき、黒いススが身体をおおうマイローが拳を握る。


マイロー「セナ、放電を!!」


セナが大量の電気を放つと、ナイフを避雷針に透明の敵兵士が突撃してくる。


マイロー「そのままお願いします!!」


マイローは放電が漂う廊下に、生身で突進した。電気が身体中を走り焦がしていく。


マイロー「うおあぁぁぁああああああ!!!!!」


敵兵士の足音が増えていくが、避雷針に導かれる形で相手に飛びかかる。おそらく相手は振りかぶってナイフを突き立てる。足元に全身で飛び込んで相手を横転させると、ナイフが転がった。倒れた位置に蹴りを全力で入れ、骨が折れる音がする。掴みかかってそこが身体のどこかを確認すると、首を掴んで拳を握り、振りかぶって何度も殴り付けた。拳の先が青ざめると、透明な相手が姿を現した。


マイロー「……これは?」

セナ「ラダじゃない、じゃあアイツは!?」


コントロールルームに足音が一つ。コントロールルームの電子機器にコードに繋がれ、端末から電子音が一つ。施設内に耳を破壊するほどの大きさのアラートとアナウンスが流れる。


アナウンス「カリキュラムに存在しないアノマロカリスの起動が検知されました。一般職員はただちに待避、セキュリティクリアランスを持つ職員はコントロールルームへ向かってください」

ラダ(無線)「こちら指揮官ラダよりエニセイスキー全体へ。アノマロカリス起動は書記長の指示であり、コントロールルームへの接近は禁止とする。総員、ただちに撤退せよ。繰り返す、総員、ただちに撤退せよ」


ラダはコントロールルームの、アノマロカリスの見える窓ガラス前方へ飛び込み窓ガラスを割って落下。マイローが銃を向けたときには、もうどこにもいなかった。セナが自分の手首からコードを引っ張り、機材へ接続を試みる。データを読み取った。アノマロカリスは側面の装甲が一枚、縦横2m程度だけ剥がれたまま起動を開始し、甲殻類の尻尾のような装甲を持つ身体で、ミミズのようにうねりながら、横たわった身体を少し立たせて、首を傾け鋏角を床へ突っ込み、地面を破壊して身体をねじ込んでいく。地面が震え上がる。


セナ「データを解析しました。遠隔で指定座標への攻撃を指示したようです」

マイロー「その座標は!?」

セナ「ポーランド首都、ワルシャワです」

マイロー(無線)「エメラルドさん、アノマロカリスが起動、ポーランドを落とすつもりです!止められません!」

エメラルド(無線)「すぐに避難を行わせる」

セナ「アノマロカリス側への干渉はできません」

マザー(無線)「セナ、アノマロカリスの軌道を計算しろ。地層によっては進行速度が低下して追い付けるかもしれん」


マイローとセナは、逃げ惑う職員をかいぐぐり外へ向かう。


セナ(無線)「追い付いて、どういたしましょう?やはり破壊ですか?」

マザー(無線)「逆にどうする?例えばお前の放電なんかで内部機能を破壊したとしても、外装にたんまりある劣化ウランは依然として脅威だ。起動を停止させたところで、我々で回収はできない、ソ連がその残骸を回収してアノマロカリスを修理するだけに留まる。完全破壊だ、回収させないためのな。今回はジョーカーである工作員を切ったわけだが、そんな手札を何度も切る訳にはいかん。作るだけでいい機械とはモノが違う」

マイロー「ほんの一部だけですが、装甲は剥離させてあります」

マザー「……」

セナ(無線)「マザー、1つ作戦が」

マザー(無線)「データを」

セナ(無線)「マザーも考えが?」

マザー(無線)「たぶんお前と同じ考えだ、お前の頭を作ったのは私だぞ」


研究者たちが押し合う階段やゲートを越え、いくつかあるエレベーターにたどり着く。セナはエレベーターの扉をこじ開ける、上にあがっていくエレベーターが真上に見えた。マイローを抱えると飛び上がり、壁を蹴りあげて上っていくエレベーターを踏み越えて扉へたどり着き、またそれをこじ開けて地上へ出た。周囲の兵士を電撃で倒すと、エンジンのかかった車を強奪した。セナが運転席、マイローは助手に座り、道路を飛ばしていった。


セナ(無線)「ワルシャワまでは、直線距離4800kmです。アノマロカリスの現在位置は振動の増減から割り出してありますが、追い付けるかどうか……」

マイロー(無線)「そんなにあれは速いのですか?直線距離とはいえ、空路とは違って常に地層という障害物があるわけですし」

マザー(無線)「セナのカメラからデータは取れた。ヤツの顎全てが高周波ブレードのようの振動している。ヤツは触れた岩肌を削って破壊するのではなく、揺れで粉上に崩している、そこに純粋な膂力(よりょく)だ。あの全身にまとった装甲の後ろ、炭素の筋繊維による伸縮運動が、驚異的なまでのパワーを生み出しているのだろう。発電した電力の大半は顎の高周波に利用されいるとされる。筋繊維の収縮は、最低限の電気信号のみ。移動速度は計測上200km、通常の車両で追い付くことは不可能だ。セナの作戦の場合、セナはこれに追い付く必要がある訳だが」

マイロー(無線)「近寄るのですか?」

セナ(無線)「はい。剥離した装甲部分から私が物理的に侵入、そのまま内部を破壊しながらコンピューター部分へダイレクトに接触し、破壊します」

マイロー(無線)「しかし、それでは身体が残ったままではないですか」

マザー(無線)「その問題は、破壊する場所によって変わる。要は、我々でギリギリ回収できる場所で破壊すれば良いのだ。直線距離の話なら確かに脅威だが、あくまでも相手は新ソ連内に限定される。まだ攻撃もしていない国の国境を越えることもないだろう。アノマロカリスはソ連領土内を通りながら、まず旧ウクライナまで来るはずだ。そして進路はそこで、ポーランドに接触するボーダーラインへ向かうはず」

エメラルド(無線)「ワルシャワの手前、ポーランドとウクライナの国境……それだけでは相手の進路を予測できない」

マザー(無線)「そこは私に任せてくれ。お前たち二人はできるだけ早急にソ連を離れるんだ。セナにデータを送る。その地点に回収用のフルトンをソーヴァが置いてくれている。ソーヴァ本人もな」

エメラルド(無線)「指定の時刻になったらフルトンを起動してお前らとソーヴァを回収しろ、飛行機に収容させる。回収後二人はアノマロカリス回収の任務に就いてもらう」


エメラルドは作戦室で、しきりに端末を操作する。眉をひそめる。


エメラルド「EU対ソ連の構図が浮かびましたね。奴らは交渉や貿易、裏工作による内政干渉を考えていない。周辺諸国を完全に領土として侵略するつもりです」

マザー「ここまで真正面から来るとはな……例えばそれが右翼であれ左翼であれ、何らか急進的姿勢を見せるものは全て、最後は暴虐に行着く」

エメラルド「奴らの目的は……古き善きソ連の再建、でしたっけ?」

マザー「いまだ、共産主義の成功を夢見るバカどもがいるのだろう。だが……ドイツのナチズム復活のこともある」

エメラルド「ナチズム復活の理由は、政策による困窮と排他的思想の蔓延。あの場合、他民族への不満がありました。まさか他にも理由が?」

マザー「さぁな。ロシアもソ連も現状は何も変わらない……だが将来的に、あるいはもう水面下では何かが動いているだろう。戦争そのものが何らかのブラフである、そんな可能性すら捨てきれん」

エメラルド「過去の危険な思想や、崩壊した体制の蘇生は、何が鍵でしょうか?」

マザー「思想など、民意という需要が作り出す流行りのようなものだ。ソ連の需要は……計画経済か?」

エメラルド「教科書で覚えがあります。世界恐慌の影響を、ソ連は受けなかった、と。計画経済という、国家内部にある土地や工場を全て国有化し,何をどのくらい生産するかを完全に計画し,国家手主導で経済活動をコントロールするというものを施行し、回避できたと」

マザー「まさか、ソ連は世界恐慌がもう一度来ると予測し、世界から縁を切った?」

エメラルド「そんなことがあるのですか?またアメリカに大きな打撃が……」

マザー「だとしてもあり得ない。昔ならともかく、現代の経済は一国への依存を回避するように成り立っている。1900年代、世界はアメリカに経済を頼り、ウォール街と共に力を失った。ニューディール、ブロック経済、ファシズムなど、あくまでも他国への傾倒無しにそれらを乗り切った世界だったが、2000年代に入ると、中国はその人口を利用して驚異的な価格と納品の素早さで世界経済の中心として台頭した。しかし現在その台頭は政府の腐敗、政治・経済の不透明性や対外的な強硬姿勢などから、チャイナリスクと俗称が与えられ、それ以前からもあったように、各国は自国で経済を完結できるよう様々な対策を強化してきた。つまる所、現在の世界経済に、中心などない」

エメラルド「ではソ連再建の一番のメリットである他国の恐慌への耐性は、各国の独立的経済からして、相対的には機能しないですよね?ソ連だけが世界恐慌の影響を受けなかったからこそ、計画経済がメリットでしたから」

マザー「そうだ、世界中が一斉に弱体化した場合にのみ、計画経済は他国の資本主義的経済より相対的にリードできる。そこばかりは要検証といったところか」

エメラルド「ポーランドへの通達は完了しました、アノマロカリスを抑える軍隊は、十分な数、配備可能です」

マザー「場所は……ここから、ここまでだ」


挿絵(By みてみん)


エメラルドの端末に地図と座標が映る。旧ウクライナの北部からポーランドのある地点に赤い線が、旧ウクライナの北部に位置する国、ベラルーシの国境線に沿う形だった。


マザー「この線は私が予測するアノマロカリスの軌道だ。この軌道なら、旧ウクライナの交通網や水道、ガス道に最低限のダメージでアノマロカリスが通れる。赤線が沿う地点のポーランド側の街、ボラ・ウフルスカ西ブーフ川周辺へ配置しろ。兵士と輸送専用部隊を集めてな」

エメラルド「精度は何%ですか?」

マザー「相手の位置はもうすぐ計測できる。この線よりよほど精密なものがな」

エメラルド「何か、そのようなシステムが?」

マザー「あぁ、アノマロカリス専用のな。あれは言ってしまえば、地面を削って爆速で動く震源地だ。日本には、地震大国である関係上発展した技術として、複数の観測点の情報から三次元的にデータを収集し、地震の震源地を深さも含めて一瞬で計測するとんでもないシステムがある。それをうちで改造して導入し、アノマロカリスという動く震源地をリアルタイムで算出、モニターに映す技術に仕立てた。このために計測器を旧ウクライナの隣国全てに、NATOの金でバカみたいに高速で設置していったんだぞ。ヨーロッパに地震が少ないこと、アノマロカリスが巨大でたった2機だからこそ、運用できるシステムだがな」

エメラルド「動く震源……確かにそうですね」

マザー「奴はここへ来る、そしてどう止めるかだが……これを」

エメラルドは端末に来た資料を読む。

エメラルド「……了解しました、手配します」

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