26話 ハードキル
ポツポツと乾いた土の家が、不規則に並ぶ小さな村々。その周辺に車両が数台止まり、麻布を運び込んでいる。それらが一望できる隆起した地形に1台のヘリコプターが旋回。ORCAの面々は木製のストックが目立つ銃火器を装備して、無線を聞いていた。
エメラルド(無線)「イラク南東、アバダーン北方、イラン南西、フーゼスターン州。イランのGDPを支える油田地帯だ、今回はイラクとイランの国境線付近が舞台となる。数日前、フーゼスターン州の複数の部落や兵站拠点などで、複数の集団自決が発生。イラン側は関与を否定しているが、このことを隣国のイラクが、イランの中央集権的政治による民への弾圧だと主張、国境線沿いに軍隊を展開、同時にフーゼスターン州に存在する残存の軍事基地で武装蜂起が発生。おそらくフーゼスターン州への侵攻・分離独立を狙ってのイラクやイスラエル、アメリカの差し金(裏工作)だ。国連などによりイラクへ経済制裁などをちらつかせてどうにか侵攻を遅らせてはいるが時間の問題。このままではフーゼスターン州は独立、あるいはイラクの属国となり、長年の干ばつもあってイランの経済は完全に経済は崩壊、中東のパワーバランスはイラクに片寄る形になる。また既にレバノンにいるヒズボラ、つまりイラン側のテロリストがこの一件をイスラエルやアメリカのユダヤ人によるによるイラン侵攻と決めつけイスラエルへ攻撃を開始、イスラエルはアルバタルと共に反撃に出た。事態は刻々と変化している。キサマらの目標はまず第一にイラク側の機動部隊の偵察。フーゼスターン州独立の手助けになりうる敵戦力が現れた場合報告、戦闘機開始より前の段階で、持ちうる全ての爆薬・兵器を利用してそれらを撃滅しろ」
ヴェロニク(無線)「降下地点は予想されるイランの前線からかな~り後方、地雷があるなんて思わないだろうし、奇襲などはかなり効果的だと思うわ」
ベネット「セナ、敵の位置は?」
セナが帯電し目をつぶる。異様に長い。
ベネット「セナ?」
セナ「反応無し、です」
ベネット「レーダーに反応がない?」
ヴェロニク「ECMの可能性は?」
セナ「ありません」
那東「まさか敵は無線機すら持っていない……電子機器を使っていないと?」
セナ「その可能性が高いです。ですが、そんな部隊がまともに動けるでしょうか?」
マイロー「電波そのものを発する位置に見境なく砲撃を行うなどであれば、ウクライナではよくあった前線を突破する方法ですが……何も電波を発することのない部隊ですか、ある意味、電子戦の最強戦術ですね」
セナ「衛星写真から敵位置を特定しますが……電波状況が悪く、情報の入手が遅れる可能性があります。我々も目視や、ドローンによる斥候で対処していきましょう」
山岳部にORCAは降下した。すぐさま那東が伏せて、山岳部の盛り出た岩肌に隠れて、キルフラッシュを抑えたスコープで村や道路を確認している。
那東「目視で見える範囲にはいないでござる」
セナは衛星写真から道路を発見、端末の地形データを更新し、ポイントをつけた。
セナ「端末に、地雷を敷設すべき箇所をマークしました。道路の舗装にコンクリートでなく土や砂利で作られているのが、救いですね。簡単の仕掛けられます」
ベネット「いい位置だと思うぜ。あとは、ドローンの配置だな」
マイロー「地雷で動きが抑制されることを予測して、地雷原の傍に潜伏させたほうが良いと思います。また、道が重なる地点がいくつかありますので、そこにも地雷を仕掛けるべきです。輸送車や装甲車対しては、C4一つで破壊はできません。ですが曲がっている最中に車軸を爆破すれば横転し、C4一つで敵機動力を無力化することができます。地雷以外でも破壊方法はありますので、肉薄された場合に実践してみてください」
ヴェロニク「事前に地面を隆起させて、地雷の有無が分かりにくいようにしたいところだけど……」
セナ「そこまで時間をかけるわけにもいきません……目視で発見できる距離に敵がいないうちに、全員個別で、一斉に罠を仕掛けてまわりましょう」
ORCAの面々は個別に動いて、次々に地雷やC4を地面へ設置していった。マイローとベネットが集落を訪れる。麻袋に包まれた死体を片付ける人たちがいるのを確認すると、指向性マイクで会話を聞いた。
ベネット「何か情報が得られるかもな」
指向性マイクは声を拾う。
人1「なぁ、これやっぱ変だよな」
人2「中央のやることに変だじゃないことがない訳ないだろう」
人1「そうじゃねぇ……なんで全員、血が出てないんだよ。集団自決」
人2「何かを喉に詰まらせた……とかか?あるいは毒を飲んだ、とか」
人1「村中の人間が一斉に?あり得ないだろ」
人2「気を付けろよ、こういうのは深く考えるものじゃない、関わらないことだ」
人1「だが……」
ベネットは即座に無線を入れた。
ベネット(無線)「エメラルド、集団自決に関して、どこまで情報がある?」
エメラルド(無線)「こちらが持っている情報は少ない」
ベネット(無線)「集団自決の方法は?」
エメラルド(無線)「情報はない、あくまでもイランによる調査だ」
ベネット(無線)「1つ、追加で任務を受けたい。」
エメラルド(無線)「何を?」
ベネット(無線)「死体の回収だ」
エメラルド(無線)「こちらでも検死を行えという訳か……1分待て」
マイロー「隊長?」
ベネット「きなくせぇ、ってどうしても思っちまうんだよ。あの感じじゃ、検死なんてせずに土葬がいいところ。もし何らかの新しい感染症だった場合は最悪だし、ヤバい場合は生物兵器もあり得る」
エメラルドから返信があった。
エメラルド(無線)「書類と根回しはした。お前の直感を信じる。念のためだが
直接死体には触れるなよ?」
ベネット(無線)「麻袋にもう包まれてるから、大丈夫だ」
ベネットとマイローは運び屋の2人に近付き銃を向けた。
マイロー「忠告です。辺り一帯を地雷原にしています。道路を車でいくのは推奨できません。我々で保護しますので、ご同行お願いします」
トラックから遺体を1つ回収。そのまま運び屋も連れて山岳部まで向かった。山岳部で運び屋を解放すると、ベネット、那東、マイローが待機。
ヴェロニク(無線)「ごめん、ちょっと時間かかってるけど、そっちどう?」
ベネット(無線)「俺マイロー那東はOKだ、セナの調子は?」
セナ(無線)「反応無し、ですが地面が少し揺れていますね。敵集団自が近いかもしれません」
セナはヴェロニクを抱えると、猛スピードで走る。
ヴェロニク「車より速いかも!」
ORCA全員が合流し、セナとマイローが端末をスワイプしドローンの操作画面を起動。建物や地形の隆起で分からない場所を監視する。
風が吹き、砂が舞い上がる。地面が大きく揺れる。その瞬間、セナのドローンに道路を進む戦車が映った。ヴェロニクがセナの端末で相手を確認する。
ヴェロニク「T-90……旧ロシアの戦車よ。たっかいの持ち出してきたわね。相当ホンキじゃない」
セナ(無線)「マザー、パッシブレーダーに反応がありません。イメージングレーダーを使用します」
エメラルド(無線)「マザー、説明しろ」
マザー(無線)「説明ったって、セナの言った通りさ。相手は無線、電子機器、インターネット、それを一切積んでない部隊、司令部なんだろう。電子戦は機械あってのものだが…この時代に全ての指示を紙でやろうってことなんだろうが、はたして成功するのかどうか」
エメラルド(無線)「セナではどうにもならないと?」
マザー(無線)「セナの強いところは、AN/ANQ-239バラクーダという英国製の電子戦システムを元に開発された、最新鋭の複合型システム戦闘AIだ。無線・ネットみたいな各種通信の電波から情報を識別し、位置を特定・追尾すること、そして入手した情報から最善の一撃を、前例データ無しで弾き出し、実行できること。ただバラクーダは元はステルス戦闘機の戦闘システムだ、対空ならともかく対地上は難しい、目標が電波を出している可能性が高くないからだ、生身の人間だったり、砲弾だったりとな。そこでさっきセナが言った、イメージングレーダーだ。相手の音、あるいは自分が発生させた電波や音声の反響をセンサーで拾って、予測される脅威を立体映像でマップに示す。エンジン音やキャタピラの音なら戦車としてマッピングし、足音と弾の擦れる音がすれば、弾帯を装備した機関銃兵としてマッピングする」
セナは腕を周囲にかざし始めた。
セナ(無線)「地雷の辺りで止まってはいますが、随伴歩兵が多いです。何台かACPもいますが……地雷を撤去しようとしている?」
ベネット(無線)「時間が稼げてるならいいじゃねぇか。その間にイランに動いてもらおう。じゃ、俺らはここでまずじっと待機。そこからゆっくり敵司令を探すことになる、か。そんな感じでいいか?エメラルド」
エメラルド(無線)「通信方法を一部変更する。衛星写真をできる限りリアルタイムで送れるから、完全にソナー頼りになることはないだろう」
マザー(無線)「あとは任せるよ、シャチども」
ヴェロニク(無線)「シャチ(Killer whale)?」
マザー(無線)「ORCAってのはシャチの学名さ。デカイ奴相手でも一撃喰らわしてぶっ倒す。お前ららしい名前だよ」
エメラルド(無線)「所属を明らかにするものは身に付けさせてはいないが、一応シャチを模した部隊専用のワッペンもあったりするぞ」
ヴェロニク(無線)「そうなの!?欲しい!」
エメラルド(無線)「帰ったらな」
夜、星たちが流れるのを、伏せながらマイローは見ていた。那東は道路を通る車の光を避けて照準を合わせ、車両の構造を確認。
那東(無線)「トラックが一台通過、おそらく、物資でござるな」
エメラルド(無線)「おかしいな。イランからの情報だが、フーゼスターン州に奴ら侵入しようとしていない。あくまでも国境線ギリギリで軍隊を待機させているだけのようだ」
過ぎ去っていくのを眺める。ヴェロニクとベネットが鞄のマジックテープを閉じると背負う。
ベネット(無線)「セナ、時間だ、進捗はどうだ?」
セナ(無線)「北東距離2キロの地点をマーキング、イラク軍の兵站拠点を確認しました。部隊長とおぼしき人物は、紙の指示書を読み上げ、部隊を動かしているようです……ん?」
ベネット(無線)「どうした」
セナ(無線)「鳩です、イラク軍が鳩を飛ばしています。鳩の足に紙が」
ヴェロニク(無線)「伝書鳩ね。セナ、それを追いかけて。鳩が止まる地点が、きっと司令部よ」
セナは1人、山岳を走って鳩を捉える。敵兵站拠点を縫うように移動していき、山を1つ越えて、その遠方に見える村に入り、特定の住居の窓へ入った。
セナ(無線)「司令部を確認、マーキングします」
マイロー(無線)「かなり奥地ですね」
マザー(無線)「いっそセナ1人で潜入したらどうだ?」
セナ(無線)「了解です」
セナが村へ近寄ろうとする。セナの視界に、トラックが映った。そのトラックは大型で、貨物の最大積載量が並大抵ではないことが伺える。
エメラルド(無線)「ORCA各員へ通達。たった今、イラクがイランへ宣戦布告した」
その貨物の上部が突然開けられ、段々と内容物が露になった。貨物はハッチのように開けられ、たたずむように首をあげる一発の弾道ミサイルが発射体勢を整える。排気煙がまっすぐ星を隠して空を渡り、急速に方向転換。まっすぐイラン方面へと飛び立った。
セナ(無線)「指揮官、弾道ミサイルの発射を確認。弾頭の種別は不明、管理体制の脆弱性やマークの不在から核弾頭ではないと推察。方角と速度から、目標はフーゼスターン州中央都市アフワーズと予測します」
エメラルド(無線)「アフワーズのレーダーがミサイルを確認した。地対空ミサイルによる対空装備が既にミサイルを捕捉、ハードキル(直接迎撃)まで間もなくだ。セナ、そのまま敵を監視し他のミサイルがないか偵」
前方の山岳部後方より、多数のロケットが発射される。白煙が山を包み込むほどの発射残渣を残して射撃が終わる。セナの腕から放電があり、カメラや全身の挙動が不審になり、倒れ込んだ。風が吹き、足音が1つ。斧を背負った兵士が、倒れたセナに近寄った。
トマホークはセナのチェストリグを掴み取ろうとする、まったく動かせない。
トマホーク「これは中々……俄然、中身が気になるではないか」
トマホークは無線に接続する。
トマホーク(無線)「書記長、こちらトマホーク。例のアンドロイドを確保」
トマホークは自動注射器を取り出し、首に向けて使った。一呼吸置いて、注射器を懐へ片付けると、セナを背負い歩いていった。
トマホーク(無線)「これより帰投する」




