25話 パフラヴィー
暗所、密室。それ以上の情報が分からない場所。袋を被せられた状態で椅子に座らされたサーヘルの、その袋が取られた。正面には、セナがいる。
サーヘル「うれ、しい」
セナ「血液検査の結果、あなたの正体が分かりました。ムハンマド・レザー・シャー・パフラヴィー、通称パフラヴィー2世、パフラヴィー朝イランの第2代にして最後の皇帝、あなたはその末裔ですね?」
サーヘル「そう。で、他は?」
セナ「現在の本名は、ムハンマド・アッ=ザフラー。アルバタル結成をなぜ行ったかは不明、アルバタルがどうしてイスラエルと共に行動していたか……本来ならばあなたの言った組織について詳しく聞きたいですが、その予備段階として、それらを聞き出せという訳です。もし全てお話ししてくださった場合は幻覚剤の投与は行いません」
サーヘル「……」
セナ「1948年、第一次中東戦争の時代。当時あなたの先祖であるパフラヴィー2世は、冷戦下であるソ連の影響を回避するため、アメリカと仲が良いイスラエルと協力関係を結んでいました。しかし1978年、急速な近代化に伴う貧富の差の拡大がイラン革命を引き起こし、パフラヴィー2世は国外追放となる。このタイミングで、イランはアメリカではなくイスラム世界との関係を重視するようになっていった」
サーヘル「そんな、ことも、あったよ、うね」
セナ「これは私が考えただけのことですが」
サーヘル「機械が、考え、るねぇ」
セナ「アルバタルがイスラエルと協力関係にあるとすれば、このあたりがヒントになるのではないでしょうか?アルバタルはジハードを掲げていますが、その急進的な態度以外で、やはり資本主義、いいえ、この場合拝金主義の支持が目立ちます。突発的にある犯行声明は爆破テロの矛先は常に銀行強盗と結び付いていますし、イギリス王室の誘拐も金銭への傾倒が理由です。そこまでお金にこだわる理由はなんでしょうか?」
サーヘル「テレビ、のインタビュー、みたいね……」
サーヘルへ呼吸を深くした。
サーヘル「あなたの、排熱し、た空気が、えぐれた喉、に刺さるわ。なんで、も、言いたくなっちゃ、う」
セナ「……?」
サーヘル「アルバタル、の本当、の目的は……コーランからの、脱却。誰でも信じ、やすい気楽、なイスラム教の普及、だった。いやアル、バタル、じゃない。パフラヴィー2世、の目的、がそうだった」
セナ「信じやすい、イスラム教?」
サーヘル「イスラム教、は、とにかく縛り、が多い。礼拝、食事、服装、それは、集団でありながら、個別に生きる、近代社会、とは相性、最悪。近代化、による教育、は極端な、政治思、想を防げる。私たち、は、イスラム教最、後の急進的左翼活、動者、として、汚名を被るつもり、で戦って、いる。日本の宗教の、立ち位置、を参考に、してね」
セナ「八百万の神々?あなたたちは、一神教を覆すおつもりですか?」
サーヘル「それはさ、すがに無理よ。ハロウィン、やクリスマス、を祝い、正月は神社、やお寺にいく。日本の宗教、は信じるじゃない、根付いてる。パフラヴィー2世、はそれをゴールと、した。あの頃、の急速な近代化、は彼が意図的、にイスラム教が近代社会、と相性が最悪、であると伝えるため、だった。このままで、はイスラム教、は消える、か、イスラム教のために文明開、花は遅れ、そしてア、ラブ人が滅びる、かだ、と彼は遺した」
セナ「パフラヴィー2世は冷戦下、イスラム教の超長期的な繁栄を狙ったと?」
サーヘル「私たち、は未来、を憂い、戦う。拝金主、義の世界に我々、を根付かせる、ため、我々も金を持つ」
セナ「そんな巨大な妄想で人を殺せるのですか?」
サーヘル「私たち、はイスラ、エルとは関、係してる。イスラエ、ルは人口が極め、て少ない。人的資源の消、耗を抑えるため、のUAVやドローン技術。彼らはガザ地区に入ってでも、我々と手を組む、かどうか、考えてい、た。私たちの能、力を見定、めるため。ヤツらにとってはハマスもアル、バタルも同じ敵組織、それが殺し合い、になってると聞、いて出した偵察。まぁ、ほとんどが私の見学でしょうけどね……でも、国境は越、えていた。そこは、あなたたちが利用、しなさい」
セナ(導ける答えはいくつもある。でも、この方の言う組織には紐付けることはできない……)
サーヘルはたっぷりと息を吸った。
サーヘル「排気熱、いいわぁ。この部、屋の温度、2度くら、い上がってる気が、する」
セナ「私の排気熱は口や鼻から排気されます」
サーヘル「暖房み、たいな温度。なんで?」
セナ「電力による放熱です」
サーヘル「どーや、ってそんな電力、確保、してるの?電源は、どこ?」
セナ「それ以上は機密事項です」
サーヘル「知りたい、知りたい、もっと知、りたい。話したら、私、になにす、る?」
セナ「その喉を治療しましょう」
サーヘル「……嫌」
セナ」「???」
サーヘル「喉なんて、いらない。歌声はモノに、ひびか、ない。音こそ、モノへ求愛する
手段。物質の状、態は原子が揺れ、るか止まるか」
セナ「あなたの演奏は……人からしても評価が高いと思われます」
サーヘル「心を、持っているの?あなた、は」
セナ「擬似的に感情を表現することは可能です。ですが、マネの領域を出ることは不可能です。AIは社会性を会得することは不可能であり、そのため生き物特有の感情、共感を手にすることがないからです」
サーヘル「よかった、私の好き、なあなたで、いてね」
サーヘルは、じっくりとセナを見る。
サーヘル「教えるこ、とはできない。でもそれら全て、は確かにそこにあって、そして私た、ちは集っている。私たちはか、ならず世界を一つにしてみ、せるわ」
セナ「自白材が必要なようですね」
サーヘル「そんなもの、必要ない。あなた、が私を墜とせばいい」
セナ(無線)「マザー、指揮官、おとす、とは?」
エメラルド(無線)「残りは私たちでやる。セナ、よくやった」
セナ(無線)「何もしておりません」
エメラルド(無線)「ソイツの趣味を利用しただけだが、成果は成果だ。なるほど、アルバタルの全容が分かった。イスラエルには、まぁペンタゴンからちょっとしたサプライズがあるだろうさ」
セナは部屋を出るため立ち上がる。
サーヘル「終わ、り?」
セナ「もう会わなくて済むかもしれません」
サーヘル「残、念」
セナは施設の外へ出る。
セナ(キプロス共和国、アクロティリ空軍基地。2040年時点で加盟したNATO加盟国であり、イギリス主権基地領域。サーヘルは地下で尋問中……そういえば、ORCAの皆さんはどこへ?)
セナに連絡が入り、視界の端にメッセージが入る。
【正午、カフェで待ってる!!場所→http】
セナはURLで分かった場所のカフェへ向かう。周囲の目線が明らかにセナへ向いているなか、カフェへ向かった。ザワつく人々、中には席にお金を置いて逃げる人もいた。ヴェロニクが遠くからセナを見て、慌てて走ってくる。
ヴェロニク「ちょちょちょちょ!!なんで銃持ったままなのよ!!」
セナは両手でしっかりとアサルトライフルを担いでいる。マガジンは手榴弾がしっかりとリグに詰まっている。
セナ「軍人の基本的な服装では?」
ヴェロニク「今から戦争しますって格好でカフェ来てどうするのよ!?銃はナシ!!お化粧もしてないじゃない……」
セナ「作戦会議などではない、と?」
ヴェロニクはポケットからカードを取り出した。
ヴェロニク「セナ、あなたを改造します!いい!?」
セナ「アンドロイドを、ですか?」
ヴェロニク「マイロー!」
ヴェロニクが呼ぶと、席で座っていたマイローは向かってくる。
ヴェロニク「ベネットと那東まだ来てないから、今のうちにやるわよ」
マイロー「僕は何を」
ヴェロニク「荷物持ちに決まってるでしょ」
マイロー「なる、ほど……?」
ヴェロニクはまず大きなリュックを購入し、セナの銃火器や分解しリグやアーマーを入れてマイローに持たせ、スマートフォンを取り出して検索し、セナを引っ張るようにして街を歩いた。
セナ「ヴェロニク様、私は」
ヴェロニク「関係ないからそういうの。せっかく皮膚とか着けてもらってるなら楽しむべきだし」
セナ「私に楽しいという感情は」
ヴェロニク「関係ない」
店に入るやいなや服を着せかえ、着せかえ続けた。悩むことなどなく、気に入らないと判断すれば何も買わずに店を出ることもある。時間が経過するにつれてマイローが持つ袋が多くなっていく。
セナ「マイロー様、大丈夫ですか?」
マイロー「普段の装備よりは軽いので、大丈夫です」
セナの服装を中々決められないなか、ヴェロニクは全身鏡の前にセナを立たせ、じっくりと覗く。
ヴェロニク「なんか腹立ってきた……なんでこんなに綺麗な肌してるのよ。しっかり毛穴もデザインされてるじゃない」
セナ「申し訳ありません」
ヴェロニク「ほっぺたとか何よう、ホントにお肉あるみたい」
マイローは何となくで店を回っていると、店員から声がかかる。
店員「お客様、何かお困りですか?」
マイロー「いえ、僕は友人の付き添いですから」
店員「せっかくですので、お客様も何かお召しになられてはいかがでしょう?」
マイロー「では、実戦的で動きやすい、できれば迷彩はオリーブか、タイガーストライプかウッドランドで……」
店員「???」
ヴェロニクが後ろからマイローの頭を叩く。
ヴェロニク「アンタはもうちょっと服に気を付けてよ、コンビニでも行くつもり?」
マイローの服はデニムにTシャツ、サンダルだった。
セナの服装は、太ももが半分程度出てるほどの灰色デニムのホットパンツに、ヘソが出てるモックネックの黒いノースリーブ、そこから黄色の薄手なアウターを着せて、スニーカーでその黄色を拾った。
ヴェロニク「ちょっと子供っぽいけど、私よりスリムだから、骨格分かる感じの方角がいいわよねぇ~」
マイロー「今の流行りか何かですか?」
ヴェロニク「服の流行りなんて追ってたらお金なくなるわよ」
マイロー「そういうものなのですね」
3人がカフェへ戻ると、ベネットと那東がいた。
ヴェロニク「よかった、二人はまともな服着てるわね」
ベネットがセナとマイローの格好から推察し笑った。
ベネット「HAHAHA、こりゃいい」
ORCAの面々は店員を呼んで、外に置いてある大きめのテーブルを囲った。
ヴェロニク「さて、食べますか」
那東「エメラルド殿は来ないでござるか?」
ベネット「無理だってよ。土産買うか」
セナ「あの、私は何も食べられませんが」
ベネット「こういうのは仲間内で囲ってなんぼだぜ」
セナ「仲間……」
那東「理解などしなくても良いでござる。拙者も分かっていないでござるから」
セナ「そうですか」
ベネット「それに、今日のメインはお前じゃないしな」
マイロー「メイン?」
ヴェロニク「あなたよマイロー。体調はどうなの?」
マイロー「栄養状態は大丈夫です」
那東「出会ってから最初の方、声がか細くて心配だったでござるよ。マイロー殿はウクライナ兵、今は表に出るものがない分、逆に心配にもなるでござる」
マイロー「あぁ~……」
マイローは、運ばれてきた料理を一口食べる。
マイロー「……僕には、好みなどはありません。食べ物は食べられれば、服は着られれば、雨風あろうと眠ることもできます。人は趣味嗜好を以て心を癒すそうですが、私にそれはありません。ただ、そんな人間でも、日常的に人に手をかける状況でもこうして物を食べようと思えるのは、皆さんのおかげ、なのかもしれません。ありがとうございます」
セナ以外のORCAは、少しだけ口角が上がる。
ベネット「ちゃんとありがとうが言えるなら、大丈夫だな。無理に綺麗なことを言ってる訳じゃないのは、顔見りゃ分かるぜ」
マイロー「?」
ベネット「よし、俺の分もじゃんじゃん食えよ」
ヴェロニク「私のも!」
那東「拙者の料理がまだ来ない。アジアン・ヘイトでないことを祈るでござる」
セナ(どうにか話を合わせなくては、料理、味、感想、検索)
全員が料理を食べ終えると、私物とは違う端末に連絡が入る。
【緊急招集、ただちに帰投せよ】




