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SENA  作者: 雅号丸
第1章 CTBT:Comprehensive Tactics Beta Test

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21話 マッチポンプ

ヘリコプターを降りていたベネットは1人、ハンヴィーを操作してガラガラの道路を突っ切り、ロンドンから南西に向かい続けキャンバリーという町の下道を通って、サンドハーストという場所の士官学校へ到着した。テロリストの襲撃がロンドンにあり、学校は閉鎖され、警備もいなかった。その門は開けられており、うっすらとピアノの音が聞こえてくる。弾かれている曲はカノン、ややゆっくり演奏されている。


ベネットはアサルトライフルのボルトをゆっくりと後退させ、銃弾が薬室に入っていることを確認すると、学校へ入る。


学校内の閉ざされているはずの扉たちは音の方角に向かって開けられており、ベネットは銃を構え、角を徹底的に確認しながら進んでいく。そして階段をゆっくりと登って廊下を歩き、ある1つの教室のたどり着いた。半分開けられた扉からホロサイトで覗き、手を使って扉を開ける。そこには、ピアノを演奏する1人の兵士がいた。ガスマスクとサーマルビジョンをつけた兵士が、そばの机には斧が置かれており、装備はどこか黒く、図体が大きい。


???「トマホークか……中々面白い呼び名ではないか」

ベネット「アンタをどう呼ぶか、そんな所まで分かってるのか。この前警察に扮していたのもアンタだな。で、俺を呼んだのは理由があるんだろう?端末に連絡があるとは、思わなかったが」

トマホーク「我々は全てを掌握している。我々の目的は世界だ」

ベネット「夢が現実になりえると?アンタの目的は、人種差別の根本的撤廃。人類の完全支配に、いつ変わった?」

トマホーク「白人種は、あまりに多くの人間を殺しすぎた。だがそれに隠れて、黒人も黄色人種も、ユダヤ人もゲルマン人も、漢民族も縄文人も。ネグロイド、コーカソイド、モンゴロイド、オーストラロイド……我々はなぜ区分されている?」

ベネット「自然環境により交流が遮断された地域と、現在の主要人種の居住地域が重なることから、自然への適応として人種が生まれている」


トマホークは演奏を止めた。


トマホーク「……では、今のこの社会において、交流が遮断された存在とは?居住地域とは?」

ベネット「貧富の差別からくる行動範囲を除けば、遮断はされていない」

トマホーク「故に、現代社会に人種など必要ない」

ベネット「極論だと俺は今でも思う。人種ってのは人類を多様化させるために必要なものだ」

トマホーク「多様とは、一様という存在との対比により発生する価値観だ。人類みな一様という現代社会の価値観には、そぐわない。だというのに、人々はその矛盾した価値観に酔いしれている」

ベネット「アンタは一様と平等を間違えている」

トマホーク「平等など、価値を取り合うという生命の宿命から考えれば、あり得ない話だ。金を持たない者と持つ者とでは価値が違うのだよ。そして、差を感じたその瞬間、区別という名の差別の苗床が芽生える。区別は人種の存在を容認する。私の求める世界は区別なき、例え偽りであっても一様な世界」

ベネット「それを……アンタの仲間なら実現できるって話か?先生」


トマホークはピアノの鍵盤蓋を閉じて、立ち上がる。


トマホーク「撃たないのか」

ベネット「これが幻覚か、現実なのか分からない。アンタほど優秀な人間でも、過激な行動に出るなんて信じられないんだ」


トマホークは斧を持つ。懐に納めると、懐からなにかを取り出した。


トマホーク「呼び出した理由は1つだ」


トマホークは書類を1つ、ベネットに差し出す。ベネットはそれを受け取った。ベネットは書類を読んでみると、危うく銃を落としそうになる。


ベネット「……これを、信じろって?」

トマホーク「イギリスはまた他国を騙しているようだ。今回は独り勝ちではなく、独り負けを回避するつもりのようだが」

ベネット「だがこれが真実となれば……」

トマホーク「この国は、終わりを迎える。なんら正統性などない国として、未来永劫、国際社会からの孤立は免れんだろう。今のドイツより酷くなることも有り得る。それでも公表しろ。しなくとも構わん、我々がじきに公表する」

ベネット「イギリスを潰すことが、目的なのか?」

トマホーク「いや、本質はそこではない。ただ、今はあらゆる国が弱体化していなければいけない時期である。我々は墓穴を掘る人間を後ろから蹴り飛ばしている、そうであるだけだ」

ベネット「……で、こんな情報と何を交換する気だ?先生」

トマホーク「簡単なことだ、あのアンドロイドを警戒しろ」

ベネット「アンドロイドって……」


トマホークは斧でベネットに襲いかかる。ベネットは体を捻らせ横に飛び込み、すかさず銃をトマホークへ向けた。扉は開け放たれ、歩くような足音だけが響く。ベネットは立ち上がり、無線を入れ、端末を操作し位置座標を送信し始める。


ベネット(無線)「エメラルド、犯人が分かった。だが」

エメラルド(無線)「どこ行ってたんだ!!!」

ベネット(無線)「位置座標は送って」

エメラルド(無線)「下手したら軍務違反だぞ!!」

ベネット(無線)「事実大丈夫だった、そうだろ?」

エメラルド(無線)「まったくいつもお前はムチャばかりだ」

ベネット(無線)「ムチャってなんだよ、ナンパどもをぶん殴ったときの話か?」

エメラルド(無線)「……で、犯人とは?」

ベネット(無線)「この連続テロの犯人は、イギリス政府だ」


ベネットはエメラルドのいる部屋へ入った。本と書類が、目立つ。


エメラルド「報告は受けた……だが、どうする?これを公表したところでテロは止まらない」

ベネット「セナは使えないのか?」

エメラルド「セナに情報を入れれば自動的にアメリカとサウジアラビアに情報源がいく。私たちだけで、少なくともセナを使って良いか、その是非を判断する必要がある」

ベネット「俺はアリだと思う」

エメラルド「私はナシだと考える」

ベネット「理由は?」

エメラルド「仮にこの情報をアメリカとサウジアラビア側に渡したとする、この場合情報が入るのはペンタゴンとKACST(セナの所属する機関)だ。確実に我々より早くイギリスに連絡が入り……そして最悪、イギリスはアメリカのものとなる」

ベネット「だが、俺たちでどうにかできる問題じゃないのは確かじゃないか?」

エメラルド「だがやるしかない……!」

ベネット「何か案はあるか?俺は……1つある」

エメラルド「私もだ」


エメラルドは引き出しから本を取り出し、シャープペンで文字を書いていく。ページを渡すと、ベネットはそこに加筆していった。


ベネット「こう、じゃないか?」

エメラルド「お前の案はどうなんだ?」

ベネット「これとほぼ同じだ」

エメラルド「そうか……」

ベネット「……報告は読んだんだよな?」

エメラルド「トマホークは、お前の先生だったってな」

ベネット「敵がOBで、かつ士官学校の教員だとはな」

エメラルド「連絡の着かない教員か。どうやって連絡してきた?」

ベネット「分かるわけないだろ、あぁここは……こうじゃないか?」

エメラルド「それでは話に整合性がない」

ベネット「じゃあ、こうか?」

エメラルド「ここをもう少し詰めたいが……」

ベネット「こう、だな」

エメラルド「……かなり良さそうだ」

ベネット「これなら、いけそうだな」


エメラルドとベネットは、手書きの計画書を書いては消してを繰り返す。無線が入った。


ヴェロニク(無線)「隊長、結局どうなのそっちは?」

ベネット(無線)「今は……まぁ色々やってる」

ヴェロニク(無線)「全然相手来ないから、暇なんだよね。別の任務受けたほうがいいと思うんだけど」

エメラルド(無線)「ずっと暇かもしれんぞ」

ヴェロニク(無線)「何か分かったのね?」

エメラルド(無線)「セナ、最終調整だ。夜、私の部屋にこい」


数日後、雨天。ヒビの入った窓ガラスの目立つ街中を、黒塗りのバンがバッキンガム宮殿の正面にある噴水の前に揃っていく。バンからいくらもの暴徒が降りてきて、全員が銃で武装している。遮蔽に隠れている1人の兵士が携帯を取り出す。


暴徒「配置完了、指揮官、号令求む」

指揮官「作戦開……、待て、動くな?いいか動くなよ?」

暴徒「……?」

指揮官「作戦、中止……作戦中止、中止だ、即時撤退せよ。繰り返す、作戦中止、即時撤退せよ!!」

暴徒「なぜだ!」

指揮官「ニュースを見ろ!イギリスの連中、俺たちとの計画をマスコミにリークしやがった!!俺たちが宮殿に来ることも、その時間も人数も配置もバレてる、しかも事前の段階で打ち合わせしていた時の数倍の戦力が揃ってる!!」

暴徒「はぁ!?!?」

指揮官「そこから逃げろ、機械化部隊が後ろからいってるぞ!!」


バッキンガム宮殿の正面より先の道路に、車を粉砕して突き進んでくる戦車の部隊がいた。暴徒たちはバンに乗りこもうとすると、バンに主砲が命中し爆発した。暴徒の1人がロケットランチャーを構え発射する。命中するが、戦車の装甲を貫徹できていない。そして大口径のマシンガンで暴徒たちはなぎ倒され、雨で血液が下水路に流れていき、道路に臓物が撒き散らされた。


電気屋のテレビ、街頭映像、SNS、携帯のSMSなど全ての情報伝達のサービスで、同じく情報が流れた。

放置されて電源の入ったままのカーナビの映像に、ニュースが映っている。


キャスター「緊急速報です。現在イギリスで発生している連続テロは、イギリス政府の元で実行されている、自作自演のテロであることが発覚しました。イギリス政府はこれについて公式に認めており、現在行われている記者会見で、イギリス王子・王女の計6名の誘拐計画もあったことが分かりました」


映像のなかで、記者会見を行うイギリスの大統領や軍部・警察関係者たちに、大量のストロボがたかれている。バッキンガム宮殿のなかで、大型のテレビで中継を子供と見ているヴェロニクがいる。王女がヴェロニクにくっついており涙を流している、その頭を撫でていた。


ヴェロニク「大丈夫だよ~」


ヴェロニクが無線を入れる。


ヴェロニク(無線)「で、結局何がどうなの?戦ってもないのに色々終わりかけてるんだけど」

ベネット(無線)「事の発端は、Seven Nation Armies に戻る。UHKによるヨーロッパ支配により、多数の難民がイギリスへ押し寄せた。元からヨーロッパに大量にいた中東からの難民も続々と逃げてイギリスへ入ってくるなか、イギリスはある問題に直面した……それは、現在ヨーロッパにおける移民は、イギリスが最も多くなってしまっている点だ。知っての通り、移民・難民は先進国の間で世界平和の為に受け入れを続けていた。だがコロナウイルスやウクライナ侵攻による不景気、民族的・宗教的違いによる治安維持の難しさにより、結果として移民・難民受け入れは難しくなっていった。そんなあおりのなかUHKによる自国民以外の人種の強制排除により、ヨーロッパ圏内の移民・難民は戦争から逃げるためヨーロッパから出ていった。すると、ヨーロッパで移民・難民という問題を抱えるのはイギリスだけとなった。周辺諸国は社会問題を解決したにも関わらず、自国だけが移民・難民問題を持つ、そんな、いわば割を食うハメとなったイギリスは、それをどうにかしようと、アルバタルと新ソ連に計画を通した。それは、自国内でアラブ系の人種によるテロを引き起こさせ、イギリス人全体に、移民・難民の主軸となるアラブ人に対する嫌悪感を稼ぎ、あくまでも民意として自国内の移民・難民を追い出す算段を作ろうとしていた……という訳だ」

那東(無線)「マッチポンプ……」

ベネット(無線)「もしテロが激しくなっても、最新鋭の対テロ弾頭サジタリウスによってすばやく片付けることが可能であるとして、踏み切ったようだ。アルバタルは新興のジハーディスト組織、弱小だ、金がいる。だからこそイギリスは、計画の段階で王子・王女の拉致を推奨した。これに成功すれば確実に多額の保釈金をイギリスから搾り取れる、とな。イギリス政府はどうやら、同時に王族イギリス王室そのものも潰す予定だったらしい。このテロを引き起こした集団は、イギリス極右派閥だ。現在のイギリス王室へ嫌気がさしていたとか。王室の血統はドイツ人・デンマーク人・アメリカ人であり、イギリス人の血統はない。故に民族的な団結が不可能であるという判断の元、多民族主義のイギリスを終わらせるべく、行動したらしい」

エメラルド(無線)「私とベネットで、どの組織にリークするか吟味した。まぁ結果、黙ったままだと嗅ぎつかれたら終わりとして、シンプルにイギリス王室関係者の公式SNSを複数クラックして、同時にこの事件の真相を暴露させ、首根っこを潰される前に自分で潰させたわけだが。こんな情報が秘密裏に他国へ渡れば、一生ものの生傷となり、あるいはイギリスは政治的に、どこかの国の操り人形となるだろう。この一件は……弱点が過ぎる」

那東(無線)「あの新型弾頭は?」

エメラルド(無線)「2005年、ロンドン同時爆破テロ。そのタイミングからイギリスは、テロを防ぐにあたって最も大切なこと、未然防止策の敷設を迫られた。だがそのタイミングから、世界で民族多様性というものが流行りはじめた。イギリスもまた多様性の潮流に巻き込まれ移民政策を実施するが、イギリス軍部はこれこそテロ対策を無効化する手段として認識した。人種による差別・区別をする政治家は選挙で勝てず移民政策を推奨する方向に向かい、移民を受け入れればそのなかにテロリストを混ぜることは簡単になるという具合にだ。イギリスはそこから、テロを未然に防ぐことを裏で放棄、対処に焦点を合わせて、そうして新型弾頭サジタリウスが開発された。実戦投入をする前の試運転として、新ソ連との契約があった。新ソ連は中東のいざこざに関与している部分があり、実戦データが採れる。まぁその実戦データの標的となったのが我々だったというのは、イギリスも考えはしなかっただろうが。そうしてデータを回収した後、いけると踏んでテロを起こしたというわけだ」

マイロー(無線)「自国で解決できると踏んで、お膳立てしてあえて起こすテロ……」

エメラルド(無線)「ムハンマドという奴らの分かりやすい活動名も、大いに利用していただろう」

那東(無線)「印象は人の全てといっても過言ではないでござる……ベネット殿が、赤子の名前がどうたらと言っていたような」

ベネット(無線)「そこに関しちゃ何も分からねぇ。だが街じゃアラブ人やイスラム教徒を殴り付けている瞬間を目撃したことだってある、効果はあったんだろうさ、とんだヘイトスピーチだぜ。今回のテロの計画がイギリス主導だったことから、具体的なテロの内容はイギリス側が決めていた。そのことから、今後起こるテロのほとんどの場所や配置を先回りして潰せるってよ。アドリブでアルバタルがどこまでやれるかは、はっきり言ってゼロだ。残るアルバタル残党兵はイギリス軍がなんとかる」

マイロー(無線)「ここからの我々の動きは?」

エメラルド(無線)「いや、指示はない」

ヴェロニク(無線)「イギリスのご飯美味しくないって聞いたよ」

那東(無線)「最近のものは美味しいらしいですよ。衣をつけたチーズの揚げ物とか」

マイロー(無線)「油がスゴそうですね……フィッシュアンドチップス越えてます」

エメラルド(無線)「マイロー、お前は何か好物はあるのか?」

ベネット(無線)「日本だとテリヤキっての食ってたよな」

マイロー(無線)「レーションは20000kJ(約4000kカロリー)くらいは欲しいですね」

ヴェロニク(無線)「そうじゃないよ~」


全員の端末に連絡が入る。


エメラルド「……という訳だ、全員装備を整え指定の基地に集合だ」


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