22話 そんな曲で俺たちを弔おうってか
鉄臭い大きな幅の道。一般者、軍用車両、戦車、歩兵の装備が肉ごと燃えている。溢れ出る燃料のなか、這いずって血を吐く兵士が、後ろからの炎に追い付かれそうになっている。虚ろな視界のなかで顔を上に少し上げた。雲はなく晴れ渡っており、だが黒い点々が周囲を埋めつくし、蚊のような羽音が流れる。
兵士「……魔女、め」
その奥からバイオリンを持つ女が現れ、弓弦を持って演奏をはじめた。男はその楽曲に怒りを覚え、女を凝視した。ハッキリと女の喉に傷跡が見える。
兵士「お前……俺たちの前でその曲を、その曲を引く意味が分かるのか?その曲を作った国こそ、俺たちをぐちゃぐちゃにした国だ。」
女の引く曲は、アメージング・グレイス。
兵士「何の冗談だ、そんな曲で俺たちを弔おうってか、あぁ!?俺たちの最後すら、穢しやがって……ふざけるな、ふざけるな!」
兵士がは血液を吐いた。炎が燃料に燃え移っていき、兵士を飲み込んでいく。
兵士「俺は、俺たちは、お前を忘れない。お前たちを、俺たちから自由を、信仰を奪ったお前たちを許さない!!お前が言葉を話せないというのなら、言葉が話せるようになるほどの後悔と屈辱を味合わせてやる!!俺たちの怒りは、俺たちすら焼き付くす!!お前にも業火は来るぞ、いいや向かわせてやる!!俺たちは、俺たちはお前らを」
ドローンの数機がライフル弾を兵士に叩き込んだ。演奏は終幕し、ドローンは地上へ降り立つ。
サーヘル「うる、さい」
その声は極限までかすれていた。
元々あったはずの街は見る影もなく、そこには砂の色に崩れ荒廃しているだけだった。砂塵が肌を刺すように舞い上がり、そんな中を複数台のトラックが幌を張らずに移動している。荷台に乗る大量の兵士は全員が顔を布で隠しており、道路の脇には常に人が倒れている。
荷台に乗る布ずくめの兵士たちのなかに1人、刀を抱える兵士がおり、周辺を囲うように兵士がいる。
ヴェロニク(無線)「美味しいご飯が食べたいわ」
エメラルド(無線)「戻ったらフレンチをご馳走しよう」
ヴェロニク(無線)「もっと優しいのが欲しい」
エメラルド(無線)「スシはどうだ?」
ヴェロニク(無線)「いいわね」
那東(無線)「日本のスシ屋には、新幹線が通っているでござる」
ベネット(無線)「マジかよ、すげぇなジャパニーズ」
エメラルド(無線)「作戦内容を確認するぞ。まず数週間前、イラクやアフガニスタンを中心として活動していた国際テロ組織アルバタルは、突如として活動拠点をイスラエルに異動、現在はパレスチナ自治区、特にガザ地区を中心に戦闘行為を繰り返し、パレスチナのスンナ派イスラム原理主義、ハマスと交戦状態にある。そして数日前、ハマスが周辺諸国から購入したであろう、ソ連時代の戦車や装甲車で固められたはずの機械化部隊3つが、ドローンの嵐に見舞われ壊滅。現場に居合わせた偵察班の連絡から例の幻覚で出会ったバイオリン女、サーヘルの存在が確認された。サーヘルもまた、イラクやアフガニスタンでよく目撃されていた傭兵だ。データは1つしかない、だがあまりに時期が連動し過ぎている」
マイロー(無線)「サーヘルは、アルバタルの傭兵になっている?」
エメラルド「確証はない、だからこそ調べる必要がある。現在向かっている戦線、ガザ地区南西は、アルバタルとハマスの現在の交戦地域だ。貴様らORCAにはハマス側が雇ったPMCとして戦線へ潜入、サーヘルを探しだし生きたまま拘束、NATO加盟国いずれかに連れ帰ってもらう。そこからは、我々内勤の出番だ。NATOにくみしたくなるような豪勢なフルコースをいただいてもらう」
ヴェロニク(無線)「PMC……民間軍事会社(Private Military Company)ね。雇用主を選ばず、契約して警護や兵站支援みたいな軍事に関する業務を請け負う、営利目的の企業」
エメラルド(無線)「装備を確認しておけ、短期の訓練のみだから、扱いの慣れているとはいえない」
セナ(無線)「問題ありません」
エメラルド(無線)「データを入れるだけのアンドロイドは、その点素晴らしいな。貴様らのメインアームはAIM、ルーマニア製のコピーAKMだ。使用弾薬は7.62×39mm弾、AK-47など数々の東側製アサルトライフルで使用される、ソ連の弾薬だ。2040年現在でも中東では安価で取引されているほど量のある弾薬だ、PMCだろうと政府軍だろうと、よほど金がない限り、中東ではこの弾薬で戦う」
マイロー(無線)「実質、弾は無限にあると思えば良いですね」
エメラルド(無線)「死にたくなければアルバタルどもを殺して弾薬を奪え。位置座標は常に開けていろ。アルバタルの武装にレーダー兵器などは確認されておらず、また前線と呼べるものもない、電波を飛ばした瞬間に砲弾が飛んでくるような戦場ではないため、連絡は密に行う。ベネット、貴様は他の隊員とは武器が違う」
ベネット(無線)「ヴェープル12モロト木製ストック仕様、24発ドラムマガジン、ドローン対策だろ?12ゲージのショットシェルくらい、どこでもあるさ」
エメラルド(無線)「まもなく降車地点だ、検討を祈る」
降車地点から中距離の地点に、自分たちが向かってきた側から砲弾が降ってくる。爆発がいくつも見えるが、弾着地点は確認にできない。
ベネット「始まったな」
ヴェロニク「多分、敵機械化部隊よ。サーヘルが私たちハマス側の機械化部隊を吹っ飛ばした、その隙に一気に仕掛けて来ているんだと思う。今のアタリをつけるような砲撃、戦闘車両を狙ったのかしら?」
ベネット「罠やクレーターを用意して、敵車両が停止する場所を作ってあるんだろう。レーダーのない戦場は、どれだけ事前準備をするかだ」
車列は停車し、様々な言語を使う兵士が降車していく。明らかに連度の高い動きをするORCAに、周囲は同様しながら作戦を開始していく。前方には燃え盛る敵戦車部隊、その後ろから敵随伴歩兵が散らばっていった。互いの兵士がは脇道に入っていく。マイローとセナがどの部隊よりも先頭で走り、腰撃ちで敵を牽制しながら敵の遮蔽に突撃、そのまま射撃しながらクリアリングして、敵を凪払い、リロードをする。マガジンや薬莢が足跡のように散らばる、その様を後ろからベネットたちが追っていく。
ヴェロニク「真正面からいくってなると、あの二人だけで十分よね~」
那東「セナの敵感知能力もそうだが、それと同じくらいの索敵能力を生身でやるマイロー殿は、おかしいのでは?」
マイローの動きがセナと同時に止まる。スモークグレネードを投げて射線を切る。
セナ「ヴェロニク様」
ヴェロニクが端末でセナの熱赤外線カメラの映像を映し出す。背中からRPGを取り出して、角を曲がる。
ヴェロニク(うーん、映像の感じはこの辺かな?)
発射されたRPGの弾頭が、スモークの奥で停車している歩兵戦闘車両に命中、破壊した。
ヴェロニク「はーい先いこ~」
セナ「スモークを越えて向かい側のビル跡へ、敵が少ないので、突破できそうです」
那東がスモークへ走り入ると、刀で敵に切りかかっていった。マイローが援護し、ベネットが先頭となって走る。その先角に、また装甲車がいた、距離はかなり近い。ベネットが対戦車地雷を取り出すと、ヴェロニクがRPGを撃とうとするのを止める。
ベネット「セナ」
ベネットは端末で計算式を展開し、地雷にC4を付着させ、セナにデータを転送。セナは遮蔽裏からビル跡を越えて地雷を蹴り飛ばす。36回転して装甲車の上部装甲に激突、ベネットがC4を起爆して装甲車を破壊した。
ベネット「ランチャーはしばらく温存できるかもな。またヘリでも出てこられたら困る」
ヴェロニク「ヘリに地雷投げたらいいじゃん」
セナ「任せてください」
装甲車の煙で遮蔽を切りながら、ORCAは敵陣の奥へ抜けていった。
エメラルドは、ORCAの座標がドンドンと敵陣の奥へいくのを、作戦室から見ていた。その部屋に、誰かが入ってくる。頬にガーゼをしている壮年だった。
???「……いきなり殴ってくるのは、驚きました」
エメラルド「陰薄老害、まだそのポストにいるか」
ステイツマン「こんなヤツいたなぁ、みたいな顔やめてくれませんか?それに、陰は薄くてなんぼですよ」
エメラルド「そのうちズラになればいい、遠方から見ればキルフラッシュだろう」
エメラルドはステイツマンに視線を合わせていない。
エメラルド(信じるわけではない、だが無意味に言葉を連ねるほど敵もバカじゃないはずだ。ベネットが報告した、セナを警戒しろとはどういうことだ?あんなことを報告された以上、だがセナを怪しむということは、アメリカとサウジアラビアを怪しめということになる。それに、ペンタゴンと私を仲介するこの男も……相手を騙して、危険だな。情報網が集まるまでは、泳がせるか。これも相手の罠かそれとも……)
ステイツマン「過去を覗くというのは、随分と薄気味悪いですな」
エメラルド「?」
ステイツマン「エメラルド・アップルビーさん、まさかあなたの親が前科持ちだとは思いませんでしたよ」
エメラルド「お前、警察にも顔がきくのか」
ステイツマン「いえいえ、中間管理職として情報が渡されているだけですよ」
エメラルド「どうだか」
ステイツマンは部屋に深く入ると扉は閉じる。
ステイツマン「イングリッド・アップルビー、あなたの母。小学校襲撃および無差別殺人により即日死刑となった女……父親は名前だけで、結婚の履歴はない。そう、第三者によるドナーとしての遺伝子提供、そうしてあなたは独身女性の元に産まれた。きっと人生で困り事はいくつもあっただろう、例えば、お父さんとは仲が良いのか?という素朴な質問など。あなたは母親が裁かれる法廷で、ある書籍を提出したそうですね、名前は確か」
エメラルド「何と言える書籍ではない……あれはただ肥大化した極右の温床、他全ての人種を殺し滅ぼし、白人至上主義を全面的に肯定するという内容の、夢の中で書いたようでバカほど真面目に知識人が書いた日記。母はそんなものを愛読していた。私は……それが良いことか悪いことか、分かっていなかった。ただ、これは聖書だと言われて、だから持っていった……罪も罰も善悪も知らなかった、いや、一切教えられず欠如していたあの日から、私は罪深い母を切り捨てた」
ステイツマン「白人至上主義を持った母親は、黒人や黄色人種など他人種を殺害するために小学校へ侵入、何人もの子供や教員を殺し、警察に捕まった。大々的に報道され、マスコミはこぞって君や家族、関係者を報道し、あなたは有名人となった」
エメラルド「で、それがなんだと言うのだ?ただの趣味か?」
ステイツマン「いや、あなたが軍人になる理由が見当たらないと感じてしまって」
エメラルド「軍学校なら学費が無料だったからな。だが……まぁ、罪悪感はあった。母が殺した分、私は人を助けたい、そんな思いがあった。だがどうだろう、私の中には母の血が混ざっている影響か、私もまた民族的団結には血統も関わるだろうという発想が産まれる。脳死で多文化共生社会を受け入れることができなかった。私個人としては、国籍の違う人間をイギリス人と扱えるようになるのは怖いと感じた。実際、ヒースロー空港では民間人に混ざってテロリストが潜入してきたが、そもそも移民受け入れなど行ってしまっては、そうやって隠れ蓑を相手に渡すことに繋がる。逆もまたしかりであり、アフガニスタンやイスラエルに白人を受け入れた場合、私の母のような人間がその国に侵入するリスクが発生する。本来なら、私は他人種と関わるべきじゃない……私はこの仕事に向いていない」




