20話 サジタリウス
ヘリコプターは急速に進路を変更し、ロンドン西側へ向かった。いくつもの遊園地や宮殿を越えた先、空港が見えてくる。
エメラルド(無線)「こちらSRR第1部隊、空港が見えた。到着まであと」
かなり遠方の空港から、弾幕が展開された。大口径の銃による連射、無誘導のミサイルが飛んでくる。ヘリコプターがロックオンされ、アラートが響く。
エメラルド(無線)「こちらSSR1、攻撃を中止しろこのバカどもが!!」
ヘリコプターは高度をかなり下げ建物の陰に入る。ミサイルが建物に命中した。
???(無線)「こちらヒースロー陸軍第2分隊長からSRRへ、現在アルバタルとおぼしき集団と交戦中!!空港を避難所としていた解放していたが、内部にかなりの数のアルバタルが混入していた!!現在アルバタルは空港の制御室を占拠、ほとんどの避難民を捕虜にしている」
エメラルド(無線)「例の兵器は!?」
分隊長(無線)「手元にある。だがうちの狙撃兵がやられた!」
エメラルド(無線)「敵は対空ミサイルすら持っている」
分隊長(無線)「こちらの武器庫を押さえられたんだ……だが兵器は無事だ、とにかく合流したい。5番ターミナル駐車場へなんとか来てくれ、駐車場ならまだ安全だ、ヘリコプターも下ろせる」
民家の高さをそのまま飛行するヘリコプターのスキッドが車に擦れ機体が揺れる。道路に沿うように移動していき、空港へ到着した。駐車場にヘリコプターをおろす。大型のトラックや車などで作られた遮蔽に到着したORCAたちは、救護をしている一団に出会う。一人の兵士が駆けつけてきた。ORCAはたちは銃を向けるも、捕虜に兵士をたちがそれを制止した。
エメラルド「すまない、奇襲を受けていてな、気付けが効いている」
分隊長「ヒースロー陸軍第2分隊長だ」
エメラルド「兵器は?使用可能か?」
分隊長は、背負った大きめの弾嚢を手渡した。
エメラルド「……兵器はどうした?」
分隊長「これが新兵器だそうだ」
ORCAたちは内容物を確認する。それは、弾頭がドリルビットのようになっている弾薬であり、口径は50と箱に書いてある。セナは記録にその弾丸があることを見つける。
セナ(私を撃った弾丸……?)
分隊長「対テロ用12.7mm特殊徹甲弾、コードネーム、サジタリウス。何でも、建物を貫通して相手を殺す弾丸だとか?ちょうど良くその銃なら装填可能だ」
那東が銃を取り出すと、マガジンを取り外し、ボルトを後退させてチャンバー内部の弾丸を排莢し捕える。
分隊長「あんたが狙撃兵か?サムライにしか見えないが……」
マガジンを空にして、手渡された特殊弾を装填する。
那東「那東晴翔、よろしく頼むでござる」
分隊長「NATO?いいじゃないか」
ORCAたちは各々が持つ狙撃銃に銃弾を込める。那東は顎に手を当てた。
那東(……この弾丸、やはり一度食らったことがある。新ソ連の真似事?いや……)
セナが那東の袖を引っ張る。那東が振りかえると、セナが首を横に振っていた。
那東(言うな、ということでござな。しかし言葉でなくジェスチャーとは……随分と性能の高いアンドロイドでござる)
ベネットやマイローも弾丸を見て疑問を浮かべるも、装備を整えた。
ヴェロニク「サーマルビジョンとかない?」
分隊長「ない。サジタリウスは、おそらくサーマルビジョンと併用する前提の兵器だが……」
セナが兵士の一人に話しかける。
ヴェロニク「壁の奥の敵やれるったって、相手の場所が分からないならどうにも……」
ORCAの端末に通信が入る。白黒の映像に、赤い人影が見えた。マイローは、その視点がセナのものであると感じる。
セナ「私の指示通りORCAの皆さんは行動し射撃ポイントへ移動、敵兵士を狙撃して下さい」
マイロー「敵の位置は……まさか?」
セナ「内蔵サーマルビジョンの映像をORCAの端末へ配信します。ちょうど預かったSMG用のレーザーポインターで、皆さんが撃つべき対象の、射撃位置を見せます」
マイロー「ポジションからレーザーポインターを狙撃すると、貫通して敵を仕留められるということですか?」
セナ「レーザーポインターはドローンに乗せて運用します。私がここから指示を出しますので、データも取れます」
セナは手渡されたドローンにレーザーポインターをテープで巻き付けると、コントローラーに映像が映し出される。
ヴェロニク「便利ねぇ~、じゃあよろしくセナ」
セナ「はい、空港を取り返しましょう。地図と映像からルートを構築、端末へ映します。では、行動を開始して下さい」
セナがドローンを動かして、さらに端末を操作する。セナを除いたORCAたちは、駐車場を抜けてターミナルを狙える位置へ向かった。ドローンはかなり遠くから周囲を警戒、敵は映ることなく、セナはドローンをかなり進めていった。武装を持った歩哨を、ベネットとマイローがサプレッサーを着けた拳銃と格闘で、先導して片付けていく。飛ぶ前の飛行機を縫うように移動していく。
ベネット(無線)「セナ、少し進んだが、狙える敵はいるか?」
セナ(無線)「座標と敵位置から狙撃ポイントを構築。10秒後ポイントを狙撃してください」
レーザーポインターの表示される場所に、那東が狙撃をした。壁を貫通して、用
ようを足している敵を仕留める。
セナ(無線)「ヘッドショット。残り敵数11。次、9秒後と12秒後、連続でお願いします。4、3、2、1」
秒数と指定ポイントをセナが指示し、隊員たちはひたすら指示通り敵を仕留めていく。
セナ(無線)「3、2、1、発射。6、5、4、3、2、1、発射」
ORCAは飛行場を囲うようになっていき、ドローンの数も増えていった。
ヴェロニク(無線)「凄い、進捗がまったく分からないわ。セナ、本当に当たってる?」
セナ(無線)「はい、残り人数5人です。ですがさすがに警戒してか、敵は人質の近くによっていっています。残弾数は?」
ベネット(無線)「全然あるぜ、残り5人か……」
セナ(無線)「このままいきましょう」
また秒数とポイントを指示、ORCAは瞬く間に敵を仕留めていく。
セナ(無線)「……任務終了、敵全員の死亡を確認、お疲れ様でした」
ベネット(無線)「おい、敵と目を合わせないでミッション終わったぜ……本当に終わったのか?」
セナ(無線)「はい、終わりました」
那東(無線)「……こんな地味に戦いが終わるでござるか」
セナ(無線)「戦いは地味なものほど強いですから。戦闘機はドッグファイトより、ミサイルで撃墜した方が強いです。戦車はドローンで爆撃するだけで十分ですし」
イギリス陸軍が空港に突撃していく様子を横目に、セナはエメラルドと同じパソコンを眺める。エメラルドは、手元に隠した紙をセナに渡した。
エメラルド【どう見る、セナ。このテロについてだ】
セナは裏面に、手近のボールペンで文字を書く。
セナ【既視感のある新型弾頭、テロリスト……答えは絞れません。返答はしばらく紙で行います。よろしければ首を縦に】
エメラルドはうなずいた。
太陽が登り、また降りる。ORCAの面々は連日ひたすら、新兵器を利用してイギリス中のテロリストを撃ってまわり、その間、セナはORCAの現場指揮を担当し続けていく。移動中のヘリコプターの中で、受け取った弾薬の残りをヴェロニクとベネットが数えている。
ヴェロニク「なんだろう、終わる気配なくない?」
ベネット「あぁ、弾薬も少なくなってきたな」
那東「そろそろ尻尾くらい掴んで欲しいでござるが……」
ヘリコプターの中にエメラルドとセナはいない。
那東「SRRは何をしているでござるか。イギリス自体、対テロに関してはかなり厳重なはずでござるが……」
マイロー「そもそも先進国の飛行機がハイジャックされるなどあり得ない、という話をこの前聞きました」
ベネット「その通り。ビザやパスポートによる検査、空港による検査……何重もの検査をくぐり抜けてなお、更に飛行機をハイジャックするとなると、コックピットを奪う必要がある。だが、コックピットは現代科学の結晶であり、内側から扉を閉じることで物理的にハイジャックができないようになっている。そして機長は当然もしハイジャックが起きても乗客よりも飛行機が奪取されないように行動する。9.11の惨劇は、飛行機がビルの突っ込んだ結果の被害者数だからだ」
マイロー「では何らかの、意図があると?」
ベネット「かもな。きっとエメラルドはそれを今追っている……」
那東「不安でござるか?」
ヴェロニク「ベネットって、指揮官の元カレなんでしょ?一緒にいればいいのに」
ベネット「今そんなことは関係ない」
ヴェロニク「へぇ~、公私混同はしないんだ」
ベネット「当たり前だ」
ヴェロニク「でも不安なんでしょ。もし問題が大きかった場合、最悪エメラルドさん消されるわよ?」
ベネット「アイツが消されるわけねぇよ」
ヴェロニク「ねぇ、ヴェロニクとはどこで出会ったの?」
ベネット「んなこと話たってなぁ」
ヴェロニク「女の子はそういう話好きなんで~す」
那東が目を細め、ヴェロニクを見る。
ベネット「ん~……まぁあれだあれ。その」
ヴェロニク「ワンナイト?には見えないけど」
ベネット「そういうんじゃなくて、その」
マイロー(ベネットさんが珍しく恥ずかしがってる。そういえば最近HAHAHA聞いてませんね)
ベネット「……うぅんなんていうかな、あまり言うのもアレなんだが……俺の生まれはアメリカなんだが、大学のタイミングでサンドハーストっていうイギリスの士官学校の転入したんだ。そのタイミングで知り合った」
ヴェロニク「うんうん、留学かぁ素敵だなぁ」
ベネット「……お互いそこまで友達ができるタイプじゃなかったんだが、それに気付いて俺から声をかけた」
ヴェロニク「頑張ったじゃん!」
ベネット「友達欲しいなぁって思って話しかけたんだが……ほら、学校ってテストとかあって、友達といる方が色々と便利だろ?お互い得意科目が違ったから、話す機会も次第に多くなっていって……」
ヴェロニク「そっからONE NIGHT!」
ヴェロニクは足をバタバタさせた。
ベネット「仲良くしてたんだが……人生観とかが違ってな、それでちょっと」
ヴェロニク「揉めたの?」
ベネット「揉める可能性があって、俺から引いたんだ」
ヴェロニク「えぇなんでぇ?」
ベネット「一緒にいてすげぇ楽しいし安心する。でもその人生観とか、今まで生きてきた環境っていうの?それが違うんだ。軋轢とかそういうのがあるわけじゃない、むしろ軋轢が生まれる前に、幸せのまま過ぎ去るくらいが、丁度いいのかなって思って……それをアイツから話してくれて、それで別れた」
ヴェロニクは足の動きをとめる。
ヴェロニク「お互い優しいんだね、いい恋してるじゃん」
ベネット「どうだろうな~。結局俺は、良い思い出よりも悪い思い出とかの方が記憶に残るから、何か問題が起きる前に、そのリスクから解放されたかったのかなぁとか、今は思ってる」
那東「でも、言い出したのはエメラルド殿でござろう?その内容次第でござるな、あぁその内容は言わずとも良いぞ?」
ベネット「そう、だよなぁ。でも……そっかぁ、内容次第かぁ」
無線が繋がり。
エメラルド(無線)「まだ生きているか?体調はどうだ」
ベネット(無線)「大丈夫だ」
エメラルド(無線)「大丈夫ではなさそうだが?最近笑っていないだろう。全員
、ソイツに何かジョークを言ってやれ」
那東(無線)「素人芸は見るに絶えないからやめといた方が吉でござる」
ベネット(無線)「大丈夫だ、HAHAHA」
エメラルド(無線)「そうか。ついさっき、アルバタルの行動方針について、若干だが動きが分かった」
マイロー(無線)「情報源は?」
エメラルド(無線)「SIS(イギリス秘密情報部)」
ヴェロニク(無線)「本当かなぁ……」
エメラルド(無線)「まず今までのテロは全て、我々のような対テロリスト部隊に疲労を与えるためだというのが結論だ。明らかに戦力として欠落していることが挙げられるところからの仮説だ。では本命はなんだということになる。相手が欲しいものは何か、アルバタルの真の目的……情報源は、ヤツらアルバタルの敵幹部とおぼしき人物の端末。目標、イギリス王室王子・王女、総勢6名の拉致だ」
マイロー(無線)「王室の子供を?」
エメラルド(無線)「ウクライナ侵攻、そしてSeven Nation Armies 。ヨーロッパの中で唯一地理的にダメージの少ないイギリスには、金が残っていると踏んだそうだ」
マイロー(無線)「アメリカよりは確かに金は引き出しやすいでしょうが……」
エメラルド(無線)「各国の有力者のなかで、教皇や天皇と同クラスで信奉がある有力者だ、金抜きでな。そして子供であるという点……もし拉致が完遂されれば、イギリス国民は多額の保釈金を出すだろうそして、その金を元にアルバタルは中東で力を持つということだ」
ベネット(無線)「……エメラルド、お前それ本気で信じてるのか?」
エメラルド(無線)「公式見解だからな」
ベネット(無線)「金を出す理由はもっと明確だ。選挙権を持つ移民によって全イギリス人の意見を無視して、強制的に金を吐き出させる。アルバタルの目的はそれだろう。イギリスにおける白人の民族的優位性は現在ゼロ。移民政策の影響で、出生する赤子の名前ランキングで、ムハンマドが1位になるレベルにイギリス人の肩身が狭いのが今のこの国だ、
例え全イギリス人が保釈金支払いに反対しても、選挙権を持つ移民の圧倒的母数によってその意見は押し潰される。拉致が完了した時点で、つまり交渉の場に引っ張り出した時点で、アルバタルは勝利だ。文化共生のこの社会じゃ、そういうセンシティブなことは言えないってことか?ていうか、今になっていきなり情報が出てくるというのもおかしな話だ。食いつきやすいエサ、ブラフである可能性だってある。前のお前ならもっと疑うはずだが?アルバタルに金が必要な理由な何だ?中東でデカイ戦争が起こそうってのか?そこも解明しろ、得意だろそういうの」
エメラルド(無線)「公式見解を疑うな、貴様らはこれより王室の警護に当たってもらう」
ベネット(無線)「……了解だ」
無線が終了し、エメラルドはコーヒーを飲む。
エメラルド(無線)「セナ、今どこにいる?」
セナ(無線)「指示通り、自室にてシステムのアップデートを行っています。あと3分で完了です」
エメラルド(無線)「終わり次第私とこい」
エメラルドは本と書類が山のように積まれた部屋にいる。その部屋の長机に座っている。エメラルドは、引き出しからキーカードとスマートフォンとStation sixを取り出す。
エメラルド(確かにおかしい、確かにあやしい。SRRだけじゃない、この国は対テロの組織を複数持っている。そんな国がここまで大がかりなテロを事前に掴めないはずがない。ベネットの言っていたことは確かにそうで……さらに都合良く確かにテロ専用の新型弾頭も開発されていた。そしてその弾頭は、日本で最初に発見されている……まさか、自国相手にこんな大胆なことをしないといけなくなるとはな)
エメラルドは鞄にそれらを入れると、部屋を出た。外には隊服やシャツを来た人々が往来しており、よくベレー帽を被っている。
エメラルド(何らか情報があるとすれば、国内情報機関MI5、だがそこも関与している可能性があるとすれば、情報がそこにあるとも限らない。敵を予測する必要がある。どんな規模の何がある?だが確証はない、まだ行動は……)
エメラルドのそばにセナが立った。
セナ「お待たせいたしまし……少々お待ちください」
エメラルド「声をかけておいてか」
セナ「……はい、分かりました。お気をつけて」
エメラルド「無線か」
セナ「ベネット隊長が一時戦線を離脱します」
エメラルドがセナの両肩を持った。
エメラルド「被弾か!?」
セナ「いえ、詳細は話すなと」
エメラルド「……信じていいんだな?」
セナ「アップデート直後です、心配はいりません」




