19話 アンドロイドでも驚くか
上海に停泊するレーダー艦に、ORCAの面々が集合した。エメラルドは謎のジュースを持って部屋に入ると、部屋にあるデスクにパソコンを置いて起動した。若干、エメラルドは目のクマが薄まっている。
ヴェロニク「よく眠れた?」
エメラルド「まぁ、問題が起こっている訳ではないからな」
マイロー「では、今日は何を?」
エメラルド「貴様らが遭遇した幻覚の正体が、調査の結果判明した」
ベネット「実在するのか?」
エメラルド「あぁ。容貌、発言、行動から推察したまでだがな。だが、何か一つの集団という訳ではないかもしれない」
エメラルドは手持ちの機材に電源を入れると、その装置で机に3Dグラフィックを映し出しらた。
エメラルド「まずあの場にいたのは……ソ連国家を歌っていた少年、包帯を全身に巻いた狙撃兵、ガスマスクを着けた斧使い、バイオリンを引くドローン使い。本当、だな?いや、人物の特定までできているから、本当なのだが……」
セナ「戦場にいる人物とは、到底思えません」
エメラルド「アンドロイドでも驚くか」
3Dグラフィックは、ソ連国歌を歌っていた少年になる。
エメラルド「まずコイツはすぐ分かった。新ソ連書記長の息子、ヤコフ・スターリンだ」
マイロー「スターリン?」
エメラルド「書記長というのは、新ソ連設立に伴って新しく決まった、国家元首の呼び方だ。書記長は現在アガフォン・ユスーポフという人物であり、ヤコフはその人物の養子である。新ソ連のテレビなどから集めた訓練中の映像には、RSH-12を二丁使用することが確認されている」
ヴェロニク「ロシア製の50口径リボルバーね」
3Dグラフィックは、包帯を全身に巻いた狙撃兵になる。
エメラルド「次に狙撃兵、セナの記録からこの者は前にあったしじま作戦にも参加していることが分かった。ラダ・レーシン、ヤコフ・スターリンの腹心だ。常に全身を包帯で巻いている、新ソ連の自然環境のクセ、服装は基本分厚くないようだ、火傷なのか趣味なのかは想像つかん。セナのデータから奴の銃はKSVKが挙げられる。対物ライフルだ、対峙した場合は遮蔽などないと思え」
ヴェロニク「でも私が撃たれたときは……」
エメラルド「口径が小さい銃だったのか、それが幻覚故なのか……そこまでは不明だ」
3Dグラフィックは、ガスマスクの斧使いになる。
エメラルド「この者の正体は完全に不明であり、故に我々は彼をトマホークと呼ぶことにした。西側のサーマルビジョンとガスマスクを装備している。またベネットの繋がりのある大学教授とほぼ同じセリフを語ったという情報から、その大学教授を追跡しておるが、場所は不明とのこと」
ベネット「ガスマスクごしだから声は分からなかったが……まさか、な」
3Dグラフィックは、バイオリンを引くドローン使いになる。
エメラルド「最後にコイツだ。コイツについては、マザーから話があるそうだ」
全員の無線に、マザーが話しかけてきた。
マザー「久しぶりだなORCA、で本題だ……コイツは、中東で現在指名手配になっている女だ。肌や特徴からおそらくアラブ人だろうという所までは分かっている。あらゆる紛争に関与しては、攻撃用ドローンをバイオリンで操縦して敵を撃滅する。まるで嵐のような数のドローンを操作して機械化部隊までもを壊滅させることから、現地ではサーヘル、魔女と呼ばれている。我々もそう呼称している」
マイロー「ドローン……」
エメラルド「現在のところ、これらに繋がりがあるとは思えない。何より、あの幻覚はいったいなんだったのか……現場にあった唯一の手がかりは、一つだけあったフラッシュグレネード」
ヴェロニク「それの解析はどうなっているの?」
エメラルド「収穫はなし。内容物はほぼ電池と言える。最初はEMPに類する物かとも思ったが、検出された物質から出せる電圧がEMP兵器としては弱すぎる、出せて微弱な電波程度の代物だった。遠隔でテレビをつける赤外線程度のな」
エメラルドは全員の健康状態の記された紙をファイルから取り出して机に置いた。
エメラルド「ヴェロニク以外で健康状態に異常はないが、それでも気を付けろ。例えば、フラッシュグレネードに幻覚剤を混ぜた、なんてこともあり得るからな」
ヴェロニク「幻覚剤って聞くと、BZとかじゃないよね?」
エメラルド「確かにアレにはせん妄作用があるが、痛みが幻覚と同期されるような、そんな強い整合性が幻覚剤にできるとは思えん。第一あの兵器は冷戦終了あたりのタイミングで全て廃棄されている」
ヴェロニク「そっかぁ」
部屋に勢いよく兵士が入ってくる。
兵士「報告です!」
エメラルド「どうやらまた眠れなくなりそうだ……なんだ?今度はどこに向かわせれば」
兵士「イギリスのロンドンにて連続爆発テロが発生!!首謀とおぼしき組織はテレビ局や飛行機をジャックしており、現在警察が対応中とのことです!」
ヴェロニク「ロンドン……」
兵士「ORCAの皆様には、ハイジャックされた飛行機の救援へ向かえとの指示が出ています!また指揮官であるエメラルド・アップルビーは、一時的に特殊偵察連隊(SSR)に復帰していただくとのことです」
エメラルド「その場合、ORCAのオペレーターは誰になる?」
兵士「えっと、アンドロイド、に任せろ……とのことです」
セナ「了解しました」
エメラルド「それはどこからの指示だ?」
兵士「ペンタゴン、およびイギリス王室からの指示です」
エメラルド「なるほど、上はどうやらこのテロで、セナのオペレーターとしての性能をテストしようという腹図もりなのだな。王室はどうやら紅茶を飲み忘れて命の価値を間違えているようださすがは我が国。了解した、全員装備を整え至急空港へ急ぐぞ」
ベネット「おぉ、ブチギレだな」
ORCAの面々は空港から輸送機に乗り込んだ。ORCAたちが装備を整えるなか、エメラルドは無線をどこかへ繋げている。
エメラルド「こちらアップルビー、あぁそうだエメラルドだ。本題だ、間違っても中継など行わせるな。各テレビ局の社長に銃を突き付けてでも止めろ。それでも中継しようとするマスコミは問答無用で消せ、ヘリが来たら撃ち落とせ。奴らは視聴率だけが目的だ、こちらの配置や人数が中継でもされてみろ、終わるぞ……そうか、ならいい。配置、人数、交渉の情報、犯人の動機ごと、作戦内容全部渡してくれ。こっちでも分析する、あぁ、ハイジャックは任せろ、そっちより早く終わらせてみせる」
エメラルドは端末で情報を受け取ると、ORCAを召集した。
エメラルド「状況はこうだ。まずハイジャック犯を乗せた飛行機は、イギリスのロンドンを旋回している、電話への応答はなし。ただ犯人たちはそれぞれがスマホを使って、動画配信を行っているが……どうやら、かなりの人数を処刑、配信しているようだ。犯人の配置や武装は確認できた。相手は5人、拳銃で武装。配信は犯人の配置を知るために止めさせていないようだ」
ベネット「配信って、殺してるところをかよ」
エメラルド「相手の素性も分かっている。アルバタル、2039年に結成されたとされる、アルカーイダから派生した新興のイスラム過激派組織だ。特徴的なのは、構成員全員の名前が共通してムハンマドであるということだ」
マイロー「作戦はどうします?ハイジャックを強行で片付けるとなると、かなり慎重に行う必要があるのでは?」
エメラルド「よし、作戦を説明する。まず強襲の手段だが……全員、握力には自信あるか?」
イギリス、ロンドン上空。ビッグ・ベンの鐘は飛行機へ届いてはおらず、犯人たちはスマホを片手に、拳銃を片手に配信をしていた。その配信に、赤色のチャットが届いた。
犯人1「電話に出てみろだってよ、どうする?」
犯人2「いいんじゃね?求められてるならやろうや」
犯人が、機長にかかっている電話に出た。
犯人1「なんだ?」
???「こちら国家犯罪対策庁 (NCA)、現在そちらの空域に一機、直線で向かう旅客機がある」
犯人「ははぁん、それで?ぶつけるなよってことか?」
???「その飛行機には病人が乗っており、治療を優先させるため、ロンドン上空を突っ切ることになる。これはこちらからのアクションではなく、人道を優先するための処置である」
犯人1「人道だ?よし分かった、この電話は今41秒続いてる。その飛行機の軌道を変えたら、今から殺す人間の数を41から半分の22人にしてやる」
???「それも神の思し召しか?」
犯人1「そうさ」
飛行機の機体が大きく揺れた。
犯人1「おい機長!何だ!?」
機長「突風です!」
犯人1「突風だ!?これごと撃ち落とそうとしてるってわけじゃないんだな!?」
機長「はい!」
犯人1「イギリスは信用ならねぇからな……」
飛行機の上部や側面に、ラペリングの装置と強力な磁石を飛行機に取り付ける集団がいる。全員が飛行機上部にたどり着くと、ヘッドマウントしたサーマルビジョンを起動する。その5人の集団は2人と3人に別れた。2人はコックピット側へ固まって向かい、3人は座席側へそれぞれバラバラに別れていった。コックピットの真上に向かっていった2人と座席側へ向かった3人は同時に背中に背負った大型の狙撃銃を構え、サーマルビジョンで相手の位置を捉えると、銃口をそこに合わせた。
セナ「コックピット側準備完了、そちらは?」
ベネット「座席側、準備完了、カウントは任せるぜ」
セナ「5、4、3、2、1」
コックピットにいる2人と座席を占領する3人は、機体外部からの狙撃によって粉微塵に吹き飛んだ。空いた穴は柔軟性の高い磁石の板で塞ぐ。
ヴェロニク「穴塞いだよ~、これ飛行機のなかエグいことになってるよね?大丈夫なの?」
エメラルド(無線)「イギリス人の歴史は血で塗れている、臓物1つで驚くほど無垢ではない」
ベネット(無線)「お前本当に嫌いだよなイギリス」
エメラルド(無線)「カフェでアジア人に対して露骨に怪訝な態度をする国だぞ」
ベネット(無線)「つか、この作戦ほぼ前と同じだよな」
エメラルド(無線)「イギリスにまだ駐在していた日本製レールガン、不鳴雷の砲弾を使って旅客機上空へ貴様らを運搬、自力で飛行機へ着地」
那東(無線)「失敗したら旅客機のエンジンにバードストライクでござる。3秒クッキング献立人ミンチ」
エメラルド(無線)「そして、サーマルビジョンで捉えた相手に旅客機外側から大口径の狙撃銃で外郭ごとズドン。後はフライトプランに沿って旅行を楽しんでもらおうか」
マイロー(無線)「普通にイギリス内へ一度着陸するかと」
エメラルド(無線)「私はこれから元上司と通信する。帰りはエンジンに気をつけながら離脱して、パラシュートで着地しろ。指定ポイントに集合すれば問題ない。そこからセナは後方へ下がることになる」
ORCAたちは旅客機から飛び立って、空から落ちていった。
セナ(無線)「指揮官がいない間は、私がオペレーターを務めます」
エメラルド(無線)「今のうちに軍事における概論や過去の戦争や犯罪を学習しておくんだ、ではしばらく離れる」
パラシュートで空から町へ着陸したORCAたちは目立った。周囲は避難民だらけで、渋滞で車が並び、道路に乗り捨てられた車も散見される。もっとも目立った現象として、所々で、白人が肌が濃いめの橙色をした肌の人間を集団で攻撃しているところだ。
那東「警察への通達は?」
ベネット「してあるそうだ。俺たちが報告を受けた時点で相当数の爆破テロが行われ、全てが新興組織アルバタルによるものであると報道されている。この結果、イギリス人は現在疑心暗鬼となり、アラブ人らしき人物を見た瞬間に暴力に出るようになっている」
ヴェロニク「アルバタルの、活動名が全員ムハンマドっていうのも、結構尾を引いてるわよ。分かりやすいアラブ系の名前だったし、ヘイトが向かう先として、無関係の他人種になるのは、もはや必然ね」
一ヶ所へ固まって、武装を見せながら歩いていると、サイレンの鳴るパトカーが2台到着する。一人の警察が降りてきた。
???「君らがORCAか、上から回収任務を請け負っている」
ベネットが銃を向ける。
ベネット「そのような命令はない、誰だ?」
警察がため息を吐きながら、タバコに火をつけるためにジッポーを開ける。
???「先導に奉仕する」
ベネット「サンドハーストのモットー……あんた、俺の母校を知ってるのか?」
ジッポーを閉じた瞬間に逆さまに持つと、底面を指で押し込んだ。乗ってきたパトカーが爆発し、既にテロによって渋滞となっている道路の車が、連鎖するように爆破していく。爆炎のなかからスモークグレネードが投げられる。発煙が深まった瞬間、霧のなかから斧がいくつも飛んでくる。セナが斧を射撃で破壊すると、スモークのなかから声が聞こえる。
???「何事か、考えるなかで自分を見つめ直し、言葉の意味の比重を調律しなければ、意味は背景となり、本質は次第に霞み果てる」
ベネット「あんた、教授の知り合いか!?」
足音が続々と増えていき、ついにそれが暴徒であることが分かるまでになると、襲いかかる暴徒たちにORCAは応戦した。暴徒たちはアラビア語で叫び散らしながら、顔を布で覆っている。ナタや拳銃、ストックなどが木製のアサルトライフルを持って遮蔽を移動しながらORCAへ詰めよってくる。
ヴェロニク「アルバタル!?」
セナ「応戦してください!」
ORCAは装備している対物ライフルで応戦を開始する。車や遮蔽ごと敵を撃ち抜いては、弾倉を交換してボルトを前進させる。
ヴェロニク(無線)「私たち何個もマガジン持ってる訳じゃないわよ!?てか狙撃銃で対集団は無理だし!」
ベネット(無線)「すぐ弾切れになるぜ」
マイロー(無線)「相手の武器を奪いましょう!」
エメラルド(無線)「その必要はない」
付近にある建物から、弾幕がはられる。敵の側面をとったその動きが相手を片付けていく。ヘリコプターが飛んできて、車ごとミサイルで吹き飛ばして残った兵士を殲滅していった。道路の奥から、西側らしい武装をした兵士たちが走ってきた。剣と古代のギリシャ風ヘルメットで構成されたマークが付いたエメラルドグレーのベレー帽を着用していた。ミサイルでちょうどよく空いた道路にヘリコプターが着陸する。エメラルドが降りてきた。エメラルドもまた、同様も帽子を被っていた。
ベネット「似合うなそれ!」
エメラルド「いいから乗れ!まったく、さっき別れたばかりだというのに……」
ORCAたちはヘリコプターに搭乗する。セナが乗ると、若干へりが凹んだ。
エメラルド「出せ、場所は我々の拠点だ」
パイロット「了解しました」
ヘリがロンドンの上空を飛ぶなか、エメラルドはORCAの端末に情報を送る。
エメラルド「現状は最悪だ。局所的だった爆破テロは一気に過激化。どこからともなくアルバタルの連中が沸いてきて、点々と強盗殺人エトセトラ、やってない犯罪はゼロだ。今回の連続テロはアルバタルの指導者であるムハンマド・アッ=ザフラーが公式に声明を発表、奴らは従来通りの【世界の異教徒を撲滅するジハード(聖戦)】を掲げ、そして今回の標的はイギリスとなった訳だ。現状、敵は分散してイギリス全土に潜伏しているだろう。何が起こるか、検討もつかん」
ベネット「随分と過激な宗派なこって……てか、対テロの対策はどうした?」
エメラルド「あぁ、私も気になるところだ。直接責任者に会いたいが、SRRのトップは行方不明だそうで、他は戦闘員。帰ってきたばかりの私が、今何故か最高司令官になっている。アルバタルめ、十字軍のエルサレム占領という歴史に関係して、ジハードを仕掛けるならまずカトリックの国からだろうと思うのは私だけか?まぁ、イギリスはエルサレムに関して最も問題を複雑にした国であるから、敵ではあるのも仕方ないが」
セナ「テロの発端は、エルサレム問題?」
エメラルド「どうだろうか……セナ、私は別動するSRRや警察部隊の指揮を同時に執っている。お前は私のサポートをしながら、ORCAの指揮をし、指示されるテロ関係の事件を速やかに逐次鎮圧せよ。相手の数は不明、そして敵の計画全容は捉えられていない」
セナ「了解しました。ですがこうなれば私が前線に出た方が良いかと思われます。サーマルビジョンや各種センサーで敵の数を把握できますし、弾丸では倒れません」
エメラルド「あくまでも目的はデータ収集だ。きっと上の考えはこうだ……テロごときで負傷されては採算が取れない、とな。腕を直すだけでそれなりの金額が必要だったのだろう。お前はテロという、有力者ではなく一般人が犠牲になる程度の戦いではオーバースペックなのだ」
ヴェロニク「何それサイッテー、人の命なんだと思ってるの?」
ベネット「エメラルド、周りに聞かれまくってるがいいのか?」
エメラルド「構わん、ステイツマンはもう何度かぶん殴ったからな」
マイロー「誰でしたっけ……あぁ、Seven Nation Armiesの時の?」
セナ「イギリス大使館在住の、我々とペンタゴンとの仲介役の方です」
那東「中間管理職は可哀想でござる。それで、最初のミッションは?」
エメラルドが無線に集中している。
那東「……?」
エメラルド「あぁ?んなもんあるならさっさと出せ、もう人が死んでるんだぞ!!受け取りの場所は??……分かった、すぐに向かう」
エメラルドがキレながら、返事をしている。無線が終わったようで、頭を抱えていた。
ヴェロニク「どうしたの?」
エメラルド「セナ以外にも、兵器のデータを取りたい連中がいるようだ。対テロ用の兵器だそうで、狙撃ができる人材をまわして欲しいとのこと」
那東「拙者でござるか」
エメラルド「いや、この際だ全員狙撃兵として出てもらう。兵器のある場所まで直線で向かう。パイロット、ロンドン・ヒースロー空港の特設軍事キャンプへ向かえ!」




