17話 ソ連国歌
砂嵐の音が響き渡り、音が消える。羽音のような忌々しい音が鳴り、ORCAはその方向に銃を向ける。キャンプを望める崖の上に一人、女が立っていた。
艶やかな肌を所々見せる黒い装いを着たその女は、プラスチックで外装を固めたような黒いバイオリンを肩に乗せて、演奏を始めた。
その背中には、嵐のような規模のドローンの大群が、一機一機の全てが銃やロケットランチャーを携えていた。その女のは弓毛を弦に合わせる。階段から転げ落ちるような、寒気を思わせる曲を演奏し始めると、途端にドローンたちが火器を乱射し始める。
ORCAは一斉にロケットやドローン、そして女を射撃する。ドローンが束になって女を守り、女は演奏を続けている。すると、ORCAの周囲にスモークグレネードが投げられる。転がりながら発煙し、ORCAが煙に囲まれる。ヴェロニクが下がって煙から出ようとすると、銃声が響き、ヴェロニクの胸部が赤く染まる。銃弾が貫通し、口から血を吐いて倒れる。呼吸が荒くなり、溺れるような声をうめきながら、ポケットから取り出した注射器を自分にさす。すぐに立ち上がって煙から出て、見渡し、銃を構えると、出血しながら崖上の奥にいる狙撃兵に弾丸をばらまいた。狙撃兵は位置を変えて伏せる。次の狙撃があると、那東が前に出て狙撃を弾き、刀を落として銃を構え、マグニファイアで倍率を上げ、弾丸を撃った。相手の狙撃主は弾丸を弾丸に当てて相殺すると、ボルトを後退させる。
那東はトリガーをタップし続け、相手を牽制していく。マイローとベネットが交互に射撃しドローンや女を攻撃していると、スモークから兵士が現れる。
複眼のサーマルビジョンとガスマスクを備えた兵士が、斧を構えて接近してくる。振りかざしてマイローが引いた瞬間、斧がマイローの肩に突き刺さった。
マイロー「!?」
???「身長は歩幅を意味し、歩幅とは行動範囲、観察は命を繋ぐのだ」
ベネットの射撃が全身に命中するも、まったく相手は動じていない。
ベネット「はぁ!?」
マイローは肩に刺さる斧を引き抜いて相手に投げると、斧で上空に弾いて、落下してくるのをキャッチした。斧を指で回すなか、マイローとベネットは射撃を絶やさない。
狙撃がベネットと那東を襲い、またドローンの射撃がマイローたちを襲う。ORCA全員が負傷し、ヴェロニクの出血は酷く、倒れて呼吸が浅くなっていく。全員がヴェロニクをカバーする形で体勢を作ると、狙撃は止まり、演奏がやんだ。崖上にいたはずの女と狙撃兵はいつの間にかORCAのそばにいて、ガスマスクの兵士は斧を回しながら歩く。ORCAの一段の横をゆっくりと歩きながら道路の真ん中に3人が並ぶと、男と女で別れて脇へ並ぶ。その間の奥から、うっすらと段々と陰を帯びて、誰かが歩いてくる。ドローンの大群がORCAの周囲を取り囲うと着陸していった。風と、その誰かの軍靴の足音、ヴェロニクのうめき声が響く。陰が歌い始める。
???「Союз нерушимый республик свободных
Сплотила навеки Великая Русь.Да здравствует созданный волей народов.Единый, могучий Советский Союз」
その誰かは少し身長が低く、腰には大口径のリボルバーを2丁携えていた。
???「Славься, Отечество наше свободное.
Дружбы народов надёжный оплот!Партия Ленина – сила народная:Нас к торжеству коммунизма ведёт」
ベネット「ソ連国歌?貴様ら何者だ!!」
ベネットは無線を入れようとするが、繋がらない。
???「誰か……我々は誰なのだろうな?いや、誰であるかは大切ではない。誰というのは、何を考えるかによって決まるのだ」
ヴェロニクが血管を太く見せながら、拳銃を構えて放った。誰かの頬をかすめ、那東が射撃をやめさせる。
那東「動いてはいけない!」
ヴェロニク「……っ」
???「大切なのは思考を止めないこと……最も賢い者とは思考を止めない者であり、答えを得たと感じたその瞬間の賢者は、思考を止めたという点で、どのような愚者よりも劣っている」
女がバイオリンを構え音を響かせると、ドローンは再び起動し飛び立っていき、銃やロケットランチャーをORCAへ向けた。
???「事物は何処にもあって、何処にもいない。何事か、考えるなかで事物を見つめ直し、意味の比重を調律しなければ、意味は背景となり、本質は次第に霞み果てる」
ベネット「!?」
ドローンたちは一斉に射撃を行い、ミサイルと弾丸にORCAは囲われた。全員の視界は暗くなった。
マイロー「……?」
???「……ですか?……皆……起き……起きてください!!」
マイローは目を開ける。地面に倒れているのを感じ、頭がセナに起こされていた。
セナ「なぜここで全員で寝ているのですか?」
マイローは斧が刺された箇所を抑え、起き上がった。
マイロー「セナ、止血が」
マイローは、傷が痛くないことに気付いた。手にも地面にも血痕はない。周囲を見渡す。ヴェロニクは地面に伏せて嘔吐しているが、それ以外で全員に傷はない。
セナ「何があったのですか?周囲が弾痕だらけですが、激しい戦闘がこんな道路の真ん中で起きるとは思えませんよ?」
マイロー「いったい、何が?」
セナ「周囲の弾痕は全て皆さんの銃によるものです。ヴェロニクさんはモルヒネの副作用で嘔吐、ですが傷は一つもありません……どうやら長い報告書が必要なようですね」
マイロー「状況は?発射は止められたのですか?」
セナ「はい、全ての部隊が成功しています。被害は……甚大ですが」
マイロー「……このような作戦に出た時点で、覚悟はできていたはずです。あと」
セナ「?」
マイロー「……遅いです」
セナ「お待たせしました。これよりSEFと共同で、ORCAを連れ帰ります。ミッションコンプリート、皆さん、お疲れ様でした」




