16話 上海
青森と北海道の間にかかる公海を空母がいくつも通過し、空をまっすぐ切り裂く何十の戦闘機が飛び去った。
エメラルド「しばらく前にあった、光学迷彩を装備した戦艦を覚えているか?」
ベネット「マイローとセナがミサイルに乗っかって突撃してったあれか?」
ヴェロニク「あれ成功したとき、顎外れるかと思ったわぁ」
エメラルド「バルト海を戦艦一隻で制圧できるほどの武装がアレには搭載されていた。建造されたという情報がバルト海や周辺国に周知された時点で、近海は既にあの戦艦に搭載されているビデオミサイルの驚異に晒されていた。光学迷彩だけじゃない、」
マイロー「そんな技術が?」
エメラルド「戦艦を回収し調べた結果あの戦艦は原子力艦だった、ヴェロニクの判断は正しかったようだ。そしてその電力の大半が、光学迷彩とECM、つまりジャミングに使われていた。レーダーは通常、電波を飛ばし物体にぶつけその発射を感知するものだが、この戦艦は膨大な電力で常に電波を飛ばし、全ての周波数の電波を電子的に破壊していた。電子と目視による索敵を無効化し、更にビデオミサイルには小型核弾頭が搭載されているものもあった。北欧はドイツ主導の冷戦状態になり、実質的な支配を完了し、戦略的優位性を利用して外交し情報統制を行っていた。あの戦艦はどうやら2030年頃には既に稼働していたらしく、北欧諸国はここ十年、首元にナイフがあったというわけだ、責めることはできん。そして、今回の作戦にはそのジャミング技術と光学迷彩の技術を、アメリカの金でおおいに利用させてもらう。15:00(ひとごおまるまる)、オペレーション・ジャンプスケア発動、各員の健闘を祈る」
上海、赤いガントリークレーンが地平線まで並ぶコンテナターミナルは曇り空。コンテナの隅々から空を望む対空ミサイル群や各種大砲が並ぶ。対空レーダーには何も映っていない。巡回の兵士が会話を始めた。
兵士1「聞いたか?噂じゃ台湾の戦局、かなり膠着してるらしい」
兵士2「上からは良いって報告しか……」
兵士1「だから、噂だって話だ。デカい声で言うなよ?どこに耳があるか分からないからな」
兵士2「戦況はどうなってるんだ?」
兵士1「NATOによる援軍が台湾に到着、主力の補強を全力でやってるらしいが……俺たちみたいな、重要拠点防衛の人員すら引き抜いてるとかなんとか」
兵士2「上海守らないなんてことあるのか?世界経済の中心といっても、過言じゃないだろ」
兵士1「その中心も今はあやふやだ。世界経済から孤立している今、俺たちはどうなるんだ?新ソ連との貿易だって、結局は孤立してることに変わりないだろう。狭い世界は広い世界に勝てない、自明の理だろう」
兵士2「まぁそうだが……少なくとも俺たちは生きてる、学歴もある、金だって。大丈夫さ」
曇り空の灰色な空に雷が泳ぐ。無線が入った。
無線「こちら分隊長から各員へ、蜃気楼が確認されているらしい、急激な寒暖差に留意せよ。また雨天の場合火器および銃弾の点検を入念にせよ」
ガントリークレーンの上に登った兵士の一人が、双眼鏡で海を覗く。一羽の鳥も見当たらない海の水平線が歪んで見える。
兵士「あれっ、疲れてんのかなぁ?なんか水平線がボヤけて……」
水平線のボヤけは、浮かび上がる弾けるような電流によって徐々に立体を帯びて形と色を成していった。水平線を埋め尽くす無数の艦艇から、高速で接近する戦闘艇・哨戒艇・各種ボートが発艦し、航空からは数々の戦闘機・マルチロール機・爆撃機が飛んでいる。
レーダーに無数の機体が同時に現れ、対空ミサイルが発射体制に入る。発射体制の整ったミサイルが対空・対艦ミサイルを吐き出していくが、全ての艦隊や航空機が一斉にフレアを発射し、また防衛機構による機銃掃射やカウンターミサイルで全て撃墜する。既にコンテナ群へ到達した軍隊が、続々と上陸しコンテナ群を制圧していく。
兵士1「こちら第3分隊から本部へ、敵の数はこちらが対応できる兵力を大幅に超えています!即時撤退の許可を!」
無線「可能な限り撃墜しろ、撤退は許さん」
兵士の上空を、いくつもの戦闘機が通過していった。その機体は異様なほどに黒く染まっており、また大型のミサイルが搭載されていた。いくらかの機体にミサイルが飛んでいくが、まったく追い付かない。
兵士「あれは……本当に戦闘機なのか!?」
兵士(無線)「戦闘機は哨戒中の空軍が対処する!」
空を一直線に切るいくつかの黒い戦闘機の後ろに中国の戦闘機が接近を試みる。ミサイルアラートが鳴り響くなか、黒い戦闘機は急加速していき、追撃するミサイルの速度を大幅に超えて地平線の彼方へ消えていった。
パイロット(無線)「本部、敵戦闘機が内陸へ浸透、追い付けない!ミサイルより速いぞ!」
本部(無線)「おそらくSR-72だな……防衛に加勢しろ、こちらで対処する」
エメラルドがORCAの面々に無線を入れる。
エメラルド(無線)「オペレーション・ジャンプスケア、ドイツのジャミング技術と光学迷彩を転用、米軍1万人からなる一個旅団を丸々レーダーと肉眼から不可視にした上で、上海へ向け一気に上陸する作戦……よくまぁこんな作戦が通ったものだ。光学迷彩とジャミングのために、空母やフリゲートまでも原子力艦に換装し運用、この軍事作戦には2年分の軍事予算を注ぎ込んだとか。超短期決戦仕様の軍隊だ。これにより敵の核使用を焦らせ、発射体制を整えさせる。整えさせた段階で我々ORCAなどの突入部隊が、発射場に突撃する、可能性な限り迅速に発射を停止しろ。発射された場合は展開する空軍によりミサイルを撃ち落とす。風という言葉から指し示されるのは、東風という中国の大陸間弾道ミサイルの型番である。それほどのミサイルを発射できる基地は、そもそも建設の段階で位置が顕になる。貴様らは発射された場合撃墜が困難な、内陸の発射場へ直行してもらう。最新鋭戦闘機SR-72、マッハ6まで到達するこの機体からトス爆撃の要領で、ハードポイントに搭載した貴様らの搭乗する格納ポッドをそのまま切り離して発射場へぶん投げる。あとは自由だ、やれ」
ヴェロニク(無線)「なんか、日に日に帰り辛い任務になってきてるわねぇ。最初はヘリボーン、次はレールガン人間大砲、タクシーとハンヴィー奪って……次は何で帰ればいいのかぁ?」
マイロー(無線)「車なら問題ないでしょうが、ヘリや飛行機だと操縦が難しいですからねぇ」
ヴェロニク(無線)「私一応できるよ?」
ベネット(無線)「なら問題ねぇな、HAHAHA」
那東(無線)「どうとでもなるでござる、諸行無常、諸法無我、うんぬんかんぬんどうたらこうたら」
???(無線)「これで誰も死ぬ気がないって、どうやら全員頭のネジがないようね」
ベネット(無線)「ん、誰だ?」
???(無線)「あれっ、事前に紹介って……されてないっぽいね」
エメラルド(無線)「降下5分前」
カジリエ(無線)「IAEA所属、カジリエ・ココシュカだ。音声だけですまない、帰ったら私のご尊顔を見せてあげよう。とはいっても、この作戦でまともに帰還できる部隊が果たしていくつあるのか……現場に到着した次第、とにかくまずは制御室を抑えろ、核弾頭自体の解体は難しいが、発射自体を緊急停止させることができれば問題はない。また発射体制が整っている場合に限り、C4を用いてミサイルや発射媒体の破壊を頼む」
マイロー(無線)「核に爆弾を……大丈夫なのですか?」
カジリエ(無線)「核物質同士を高速でぶつけることで核分裂が起き、核爆発が発生する。だがその装置は極めて精巧・頑強に設計された代物であり、手榴弾に銃弾を浴びせても爆発しないと同様、破壊すれば無力感できるし、火災に核物質が曝されても爆発することはなくなる。無論、破壊した場合は即時その場から離れることを推奨する」
ヴェロニク(無線)「えっと……でも中国製よ?」
カジリエ(無線)「中国は極まった競争社会と言ってもよい。その結果、人間性や優秀さで上から下まであり得ないほどピンキリなのだ。上澄みの製品・サービスは日本とタメが張れると言っても良いだろう。まぁ良く言えばの話だがな」
那東(無線)「信頼できるということでござるな?」
カジリエ(無線)「降下2分前だ、各員装備の最終チェックを」
ベネット(無線)「狭すぎて無理だな」
エメラルド(無線)「輸送機が指定ポイントに到達し次第機体は急上昇、貴様らが入った弾頭の形をしたコンテナはその勢いのまま切り離される。落下地点は敵ミサイル基地の建物だ。ピンポイントに狙える輸送手段ではない関係上、正確な落下地点は分からない。だが建物を貫いて内部に貴様らを浸透させる所までは保証する。あとは管制室を抑い端末をネットワークに接続しろ。あとは我々で管制室をハックし、他管制室やミサイル基地、各種サイロを封鎖していく。ハッキングが困難な場合にのみ、ミサイルや各種発射媒体を破壊しろ。オペレーション・ジャンプスケア、フェーズ2へ移行、各員、本気でぶちかませ!!!」
戦闘機のハードポイントから切り離されたコンテナが一つ、放物線を描いて基地に落下していく。ほぼ垂直になって落下していき、ズラリと対空設備の並ぶ、ミサイルを格納するサイロが開かれた基地に落下していき、建物を貫通して、ある階で止まる。散り散りになる椅子や書類の束のなか、軍服を来た兵士たちが銃を取って構えようとするなか、コンテナは開かれた、銃弾が兵士たちに浴びせられる。
マイロー「先行します」
マイローを先頭にORCAは室内を制圧し、ベネットが倒れた兵士の端末に接続し地図を手に入れる。
ベネット「現在地2F4号室、管制室はB26号室だ」
部屋を出て、走りながら端末を開き、階段へ走る。角待ちする兵士にマイローは、角をクリアリングするように射撃して強引に突破し、廊下で挟もうとする兵士たちはORCAの面々が仕留める。階段を降りていくなか、ヴェロニクは階段の手すりから下に見えるところに手榴弾を落として敵を撃滅。B2と壁に書かれた階にたどり着く。廊下を制圧し閉ざされた部屋にたどり着くと、ベネットが扉と、扉付近の壁に爆薬の塊を取り付ける。
ベネット「起爆!!」
ベネットは端末を操作して起爆、扉と壁を吹き飛ばし、中にフラッシュグレネードを投げた。音と同時に那東とマイローが突撃、内部を制圧した。ヴェロニクが管制室の端末に、自身の端末を接続。
ヴェロニク(無線)「管制室に到着、端末を接続したわ!」
エメラルド(無線)「こちらからクラックする、その場を制圧し続けろ」
最後尾から来たヴェロニクが満足そうに部屋に入る。
ヴェロニク「ふぅ~」
ベネット「お前何してたんだ?」
部屋の外から爆発音が響き渡り、部屋に開けられた穴から横に、兵士が吹っ飛んでいった。
ヴェロニク「仕掛けてきた~」
また、また、死体が吹っ飛んでいった。
エメラルド(無線)「データの収集が完了した。ほとんどのサイロは閉じたが、一基だけクラックできないサイロがある」
ベネット(無線)「機能がおそらく独立しているんだろう、で、やれって?」
エメラルド(無線)「あぁ」
那東(無線)「場所は?」
エメラルド(無線)「襲撃の際の敵の配置も回収できた。サイロと敵の配置を端末に送る
。任せたぞ」
部屋を出て上階に上がると、端末に記されたとおりに敵が配置されていた。相手の首から下へ照準を定めると、記された配置をなぞるようにして発砲。横なぎに射殺していきながら室外へ出る。山々と砂の背景に曇り空が映り、その上空に戦闘機が飛んでいった。乱雑な軍靴が響き渡るなか、リロードを何度もはさみながら前進していく。陰から突進してきたトラックを回避すると、運転手や幌のなかの兵士を撃ち殺す。死体を捨ててそのままトラックを奪い、ベネットが操縦、閉鎖されている鉄網の門を轢き飛ばして山を登っていく。後方からヘリコプターが飛んできた。トラックに進路に合わせて、機銃と無誘導のミサイルを掃射してくる。
ヴェロニク「車に何か積んでないかしら!?」
マイローが車載されているロケットランチャーを担ぎ上げる。
マイロー「どうやらスティンガーのようですが」
ヴェロニク「9K38イグラ、新ソ連のスティンガーね、かして!」
ヴェロニクは発射口についた蓋を取ると、照準を起こし、手元に向かうようなレバーを起こしてジリジリと鳴るバッテリーを稼働、ヘリコプターへ照準を向けた。ヘリコプターは即座に木々や山へ隠れる。
ヴェロニク「他にはない!?」
マイロー「RPGが一発」
ヴェロニク「変わって!」
マイローがイグラを構え、ヘリコプターへ向ける。ヘリコプターが急上昇して姿を表し、
姿勢を整えて無誘導ミサイルを放ってくる。マイローがイグラを発射した。ヘリコプターはフレアを炊きながら迂回するようにしてミサイルを回避する。また急減速して姿勢を整える動きをヴェロニクが見た瞬間、弾頭の安全ピンを抜いて、RPGを発射。空中で急停止した瞬間のヘリコプターに直撃し、ヘリコプターは落下していった。プロペラが吹き飛び、トラックへ向かってくる。総員の銃撃でそれを弾くと、トラックは加速した。
ベネット(無線)「ハエは!?」
ヴェロニク(無線)「落としたわ!」
ベネット(無線)「ナイスだ!」
トラックは先へ進んでいき、山を登り、警告音が響く拠点を発見した。
那東(無線)「ここでござるな」
マイロー(無線)「ベネット、降りましょう」
ベネット(無線)「俺はこのまま特攻する。お前らは兵士を相手して、制圧し次第ありったけの爆薬を運んでこい。サイロに全部投げて爆破する!!」
ベネット以外が降りて、銃撃を開始する。ヴェロニクがアンダーバレルのグレネードランチャーで幌の被ったテントを吹き飛ばし、那東はスモークを撒いて接近戦をし、煙から出てくる兵士はマイローが撃ち抜いた。
ベネットは乗る車を降りると、キャンプ内を制圧した後、弾薬や地雷に車の燃料やミサイルなど持ちうるすべての爆薬をサイロに投下していき、最後にベネットがC4をいくつか設置し、アクセルに鉄材を置いて、サイロに突っ込ませた。トラックがひしゃげる音が鳴ると同時に、ベネットが端末で操作してC4を起爆。爆薬の炎はサイロの真上に突き抜けるようにして立つ。ベネットが端末を確認すると、特に数値が上がっている訳ではない。
カジリエ(無線)「ガイガーカウンターに目立った変化はない、幸運だったな」
マイロー(無線)「他の部隊は成功しましたか?」
カジリエ(無線)「君らが一番はやく管制室に到達しいている、素晴らしいじゃないか」
エメラルド(無線)「回収したデータを元に他部隊にも情報が与えられている。順次作戦は成功しているため、貴様らは帰りの便を用意することに注力しろ」
ベネット(無線)「例えばどう帰ればいい?」
エメラルド(無線)「現在地はキャンプなのだろう?車両の一つくらいあるだろう。それを」
足元に転がったグレネードで、全員が各々遮蔽に隠れる。爆発し、周囲を観察する。エメラルドの声に砂嵐がかかったように段々と消え入っていく。
エメラルド(無線)「電波……を確、通……繰り返……」




