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SENA  作者: 雅号丸
第1章 CTBT:Comprehensive Tactics Beta Test

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15話 箸

マイローは北海道の自衛隊基地で、食堂でメニューを見ていた。


マイロー(……日本語はあまり読めませんね、あとメニュー多すぎませんか?)


マイローの隣に、那東がやってきた。


那東「オススメは……そうですね、テリヤキ丼」

マイロー「ではそれで」

那東「拙者が持っていくので、マイロー殿は席を確保しておいてくれるでござるか?」


マイローはポツンと席へ座る。食堂の外が窓ごしに見える。那東が食事を持ってくると、その後ろに一人の自衛官がいた。


自衛官「マイロー様、少しお話、宜しいですか?」

那東「食事の時間に物騒な話を持ち込んではいけないでござるよ……」

自衛官「しかし……やはり、一つだけ聞きたいことがあります」

マイロー「何か?」

自衛官「……日本は、新ソ連に勝てると思いますか?」

マイロー「……?」

自衛官「御存じかもしれませんが、日本の持つ唯一の力、自衛隊は……2040年現在、総戦力を24万となります。さらに、実戦経験を持つ自衛隊員はゼロです」

マイロー「実戦経験無し、ですか……」

自衛官「皆様のおかげで、新ソ連の軍勢に対して攻勢に出ることが可能となり、数少ない自衛隊員は奮闘、現在、北海道戦線は徐々に押し上げられ、最前線は旭川からかなり北上、稚内に迫る勢いです。ですが……これからなのです」

マイロー「稚内から、おそらく敵軍は撤退するでしょう。時間稼ぎのために、兵士を逐次投入してくるかもしれません。相手のベイトに惑わされず、前線を維持し、伏兵を常に警戒しながら侵攻していけば、大丈夫です。北海道は自然が多いでしょうから、伏兵は大変多いでしょう」

自衛官「北海道のことは御存じなのですか?」

マイロー「水が美味しいので、自然が多いのかと思いました」


自衛官は微笑んだ。


マイロー「私は……よく分かりません。死に物狂いで戦ってきはしましたが、結局、戦争とはなんなのでしょうね」


ベネットが2食分の定食を担いで、マイローの隣に突然座った。日本語を話し始める。


ベネット「……新兵は最も死なない兵士だが、同時に最も動かない兵士だ。一兵士として生きるならばそれでも良い、だが動かないとなると戦争には勝てない。だから、訓練がある」

自衛官「ベネット様」

ベネット「実戦経験が必ずしも戦力に繋がるとは限らないぜ。良い大学を出たヤツは、自ずと良い労働者や経営者になるだろう?経験が訓練より上のモノってのは、基本は不幸なんだ、持ってない方が幸せさ。それに初めから経験のあることを求めてしまえば、人は誰も何者でもなくなってしまうじゃないか。なにも攻め入ったことのある兵士だけが正しいとは限らないぞ。ライオンとワシでは、優秀さのベクトルが違うだろう」

自衛官「あまりに日本語がお上手だ……あぁ、ありがとうございます」


ベネットはマイローに肩を回した。


ベネット「マイローに言葉を求めるな。だからって俺に聞けってワケじゃないがな。アンタはきっと今、実戦経験を重視して、マイローに相談事を持ちかけている……だから

たかがネイビーシールズ崩れの俺が何を話しても……となっている」

自衛官「いえ、そんなことはありません。ですが……兵士によっては、そう思う者もいるでしょう」

ベネット「何もしていない者の言葉は信じられないが、では何か肩書きがあれば言葉は信じられるだろうか?信憑性を確かめられるほど人間は賢くないし、だがストーリーがなければ言葉は単調な記号のままだ。何事か、考えるなかで自分を見つめ直し、言葉の意味の比重を調律しなければ、意味は背景となり、本質は次第に霞み果てる。これは、俺が大学の頃に出会った教授の言葉だ。そんな具合さ。アンタたちは実戦経験がない、その事実を受けてどう立ち回る?高ぶりは滅びに先立ち、誇る心は倒れに先立つ。自衛官だからきっと前線には出ないだろう。だからこそ、指揮官として、戦果を求めすぎないで、兵士の命の重みをしっかり理解するんだ」

自衛官「……ありがとうございます」


自衛官は席を立ち、離れていった。


マイロー「ありがとうございます、正直対応に困っていました」

ベネット「だろうなぁ。食ったらブリーフィングルームに集合だ。今後の方針を説明するそうだが、どうなるんだろうな」

マイロー「ところで、セナは?」

ベネット「応急修理すらままならない状況だ。一度サウジアラビアの機関に持って帰るそうだぞ」


ベネットは箸を上手に使い、食事をとっていく。マイローは箸の使い方に戸惑う。ベネットがスプーンとフォークを、マイローのトレイに置いた。


ベネット「ほい、忘れ物」


ベネットは2食分の定食をたいらげ、すぐに立ち去った。那東はその早さに釘付けになり、マイローは箸を眺めていた。


那東「早食いにも程があるのでは?」

マイロー「箸って、使いにくいですね。SNSで見たときはもっと簡単そうに見えたのですが」

那東「今の早さを前に何も思わないとは、マイロー殿は思っていた何倍もマイペースでござる……」


自衛隊のブリーフィングルームに集まったORCAの面々のなかに、セナはいなかった。エメラルドがペットボトルのブラックコーヒーをがぶ飲みしながらブリーフィングを開始した。


エメラルド「……朗報はない、訃報と悲報だけだ」

ベネット「特殊部隊が必要なときなんてそういう状況ばっかだろ?」

エメラルド「台湾有事発生後、中国に潜伏していた我々のスパイが、アメリカ大使館に逃げ込んだ。フタを開けてみれば強硬派であった現在の中国政権は、アメリカ大使館に攻撃を開始、連絡が途絶えた。そして大使館からの最後の連絡がある。それは……」


エメラルドは溜め息を一つ吐いた。


エメラルド「風、という漢字一文字だ」


ヴェロニクは、ストローで飲み物を飲むのが止まる。


エメラルド「ヴェロニク、意味は分かったな?」

ヴェロニク「中国、風、そしてアメリカ大使館からの連絡。思い当たるのがあるとしたら、一つ」


エメラルドが、いくつもの弾道ミサイルの3Dグラフィックと、それらを上から押さえつけるように、一枚の画像貼られる。


ヴェロニク「ユニコード、U+2622」

エメラルド「核だ。中国は……核の発射を準備している」

那東「こんなタイミングで核?」

エメラルド「いや、今だからこそだろう。幸運なことに、奴らは台湾に対して劣勢の状態だ。台湾は予備役含め200万を越える軍人を動員し、尋常ではないほどの物資を、たった一つの島であることを生かした兵站速度で、その攻撃力を全て防御力に転換。あと1週間で到着する米国の援軍を、あとは待つのみとなった。そこに、新ソ連軍による日本への北海道戦線が後退しているということにもなれば……」

マイロー「自衛隊がNATOとして台湾有事へ参戦できる?まさか、日本は2正面作戦を展開するつもりですか!?」

エメラルド「新ソ連の戦力は思っている何倍も少ないことが確認された。そこでアメリカが中国に向けてその情報を流し、中国の撤退を煽ったのだが……その直前に、核の情報が入ったという訳だ」

ベネット「時系列からして、中国は新ソ連の日本侵攻をアテにしていた訳じゃないってことになるな。あくまでもタイミングが良かった、ということになるか」

エメラルド「中国はBRICS+が、旧BRIC……ロシア・中国・ブラジル・インドの4ヶ国のみでの同盟であった時期から同盟関係がある。ある程度軍事的協力関係があってもおかしくはない、と考えていたのだが、中国は新ソ連と連携ができていない。となると現状、中国は残るインドなどの他同盟国の支援を頼る他ないが、それも即効性のあるものではないし、我々イギリスやアメリカはそれを許さない」

那東「中国は政治的には完全に孤立している?孤立させれば核を発射することなど自明の理、必要以上に追い込むのは、悪手であろう……そもそもだ、どこに落とそうというのだ?中国は核による報復を恐れていないのか?」

エメラルド「事前に出されたものとして、着弾地点は日本ということになっている」

那東「根拠は?」

エメラルド「……なん、だろうな?」

那東「日本に撃ち込んでも、まさか核による報復がないとでも踏んでいるのか?日米安全保障条約を知らないのか中国は……」

マザー(無線)「それについてはうちの子から説明するよ」

無線からマザーの声が響く。

マザー(無線)「なぜ中国が日本に核をと落とせるかという話だったね、セナ、説明してやりな」

セナ(無線)「失礼します、お久しぶりです」

ヴェロニク「セナちゃん今どこ?工場とか?」

セナ「そうですね、修理を受けています。ライン生産という訳ではないので、すぐに直せる訳ではないのでようです」


ORCA各員の端末にデータが送られてきた。端末を開くと、文章が表示される。


セナ「全て憶測にしか過ぎません。ですが、こうだとすれば中国の動きも分かるということものです。まず、中国側からすれば、アメリカは日本が攻撃された場合、反撃として核を発射することはないと踏んでいるのではないでしょうか?」

那東「そこがおかしいのだ」

セナ「日本が攻撃を受けた際にアメリカが防衛に協力し、日本は常にそのためのその基地を提供する。それが日米安全保障条約です。ですが、その条約をアメリカが守る保障がないと、中国がもし捉えていたとしたら?そしてそのタイミングで同時に、日本の核武装の力が削がれていたとしたら?対価値攻撃力、カウンターバリューがゼロになっていたら?」

那東「条約を越える何か……忖度か何かでござるか?」

セナ「何度も言いますが、これは憶測です。ここ数十年、ウクライナ侵攻によって戦争それ自体に大きな注目がありました。その注目のなか、アメリカではある一点に焦点が当たります。それは、「長崎と広島への原爆投下は正しかったのか」という点です」

那東「アメリカでは教育の時点で、原爆投下は正義であると教えられる」

セナ「今の時代、教科書よりもSNSを眺める時間が多いのが人間です。そしてアメリカのなかで、原爆投下への疑問は膨らみ、長崎や広島への渡航が増え、アメリカ合衆国教育省主導で、教科書の更新及び教育者の再教育が施されました」

ベネット「デカいニュースになってたぞそれ。何人もの著名な大学教授がクビ切られて、SNSで愚痴ってた」

セナ「台頭したSNSの圧倒的拡散力により、現在のアメリカ人は日本人と同様、核に関してあまり良いイメージがありません。そして、そうした教育に日常的にアクセス・興味を持った人間ほど、やはり選挙において投票は行います」

マイロー「つまり……核を撃てば民意が現在のアメリカ政府を批判し、次の選挙で勝てなくなる。アメリカ現政権は、次の選挙に勝つために、日本への核攻撃に対する報復核攻撃を行わない……?」

ヴェロニク「そこに更に、不鳴神(ならずがみ)の喪失……でも、日本には潜水艦もフリゲートもあるわよね?核攻撃手段なんていくらでも」

セナ「戦術核の使用ならまだしも、戦略核の使用はできません。敵の戦線に穴を開ける為でしかない爆撃の延長でしかない戦術核、ですが核といえば都市を丸々一つ破壊できる程の威力を持つ戦略核になります。戦術核・戦略核はどちらも強力ですが、ほとんどの運搬方法が現在の科学では迎撃可能になっています。ですが、不鳴神は違います」

ヴェロニク「ミサイルアラートにもGPSにも引っ掛からない、砲弾である関係上熱源がないから、赤外線誘導ミサイルによる防衛も不可能なステルス核弾頭、おまけに民意からも批判されない、それが不鳴神……中国が迎撃不可能な唯一の核発射技術が、今まだイギリスにある。どれだけ急いで運搬しても、戦略的な穴は空いている」

エメラルド「中国は選択したんだ、歴史の悪人となる選択を」

那東「戦争の正義など、常に勝者によって語られるでござる。中国はやれるうち日本を破壊して、資本主義による対中貿易包囲網に風穴を開けるつもりでござるか?」

セナ「はい」

エメラルド「我々は核弾頭があると分かっている軍事基地に潜入、ミサイルを破壊する必要がある」

ヴェロニク「基地、多すぎると思うんだけど。軍事基地だけでいったら、シンガポールとかにも確か、中国の軍事基地あるよね?」

エメラルド「国連により1963年に発足した核拡散防止条約(NPT)に、中国は加盟している。加盟国は各々、核物質、核弾頭の在処はNPTの法律を利用して、相互監視を続けている。そしてペンタゴンは中国の核弾頭の在処を、かなり正確に捕捉し続けた。先人の努力は、今ここでこそ発揮される言える」

那東「されて欲しくは、なかったでござるが」

エメラルド「我々ORCAは敵軍の核弾頭発射を食い止めるため以下の拠点を、NATO加盟国にあるほぼ全ての特殊部隊と同時出撃し、制圧する」

ベネット「全て?」

ヴェロニク「特殊部隊って言っても、対テロ部隊がほとんどじゃない?核発射施設に攻め入るのって、訓練してるの?」

エメラルド「本作に参加する部隊は以下である。アメリカからデルタフォース、ネイビーシールズ、海兵武装偵察部隊、アメリカ特殊作戦軍(SOCOM)。イギリスからはSAS。ドイツからKSK」

ベネット「ドイツって、そんな余力あるのか?」

エメラルド「フランスからは空軍第10落下傘コマンドー。日本から特殊作戦群。サウジアラビアから緊急特別部隊(SEF)。以上が派兵される予定となっている。以外のNATO各国も作戦への協力申し出は多いが、作戦は必要以上に規模を設けられないため、これだけになった。またSEFによるサウジアラビアの中国ミサイル基地の強襲により、中国のミサイル制御関連のデータは入手した。何らか、端末を敵国のネットワークに接続できれば、こちらでデータを引き抜ける算段となっている」

マイロー「協力体制を設けるのは簡単ではありまでんので、それが正しいでしょう。ところで、セナは作戦に間に合いますか?」

エメラルド「SEFと同時にこちらへ派兵される予定となっている。セナは別動で動くことになり、ORCAは一名欠席状態での作戦となる」

那東「それで大丈夫なのか心配でござる」

エメラルド「むしろ好都合だ。核発射施設に突入するに際して、無線だが一人、人員が追加される」

マイロー「誰です?」

エメラルド「国際原子力機関(IAEA)からの人間だ」

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