14話 KEEP OUT
那東は安達のパトカーに乗せられて、国道を走る。サイレンがなることはなく、後部座席で景色を眺める那東。
那東(懐かしいような、でも少し変わっているような)
ヴェロニク「故郷なんだってねぇ」
那東「どうして付いてきたでござる」
ヴェロニクが後部座席で、那東の隣に座っている。
安達「別に面白くないよって言ったんだけどねぇ、ごめんね」
那東「まぁ言って止まる方ではないので」
ヴェロニク「だってぇ、晴翔くんなんかしょんぼりしてたもん」
那東「そんな風に見えたでござるか?」
ヴェロニク「うん」
パトカーが住宅地に入り、ある平屋に止まった。玄関はKEEP OUTと書かれたテープで囲われており、手前には花が置かれていて、少し枯れている。全員がパトカーを降りると、安達が花を回収した。
安達「持っとくかい?」
那東「拙者のための花ではないでござる。放置されれば、花も可哀想というもの」
那東はKEEP OUTを越えて平屋の扉を開けると、荒れた中庭に向かった。庭は伸びて荒れており、塀が大きく破損していた。中庭の一部の砂利がひどく汚れており、そこには一本の日本刀が刺されていた。刀は錆びている。ヴェロニクは後継に首を傾げる。
ヴェロニク「……実家?」
那東「正解でござる」
ヴェロニク「……何か、あったんだね」
安達が、スコープの付いた木のストックの狙撃銃を構えて中に入ってきた。
ヴェロニク「……?」
那東「……熊、でござる」
ヴェロニク「クマ?」
那東「日本はアメリカとは違って、銃社会ではないでござる。家庭にある武器の類いは、あっても包丁や、たまに日本刀を美術品として飾っているくらいが関の山……家に妹と、小学生の頃の拙者で二人きりのとき、塀を破壊して、熊が侵入してきたでござる。妹が襲われ、拙者は慌てるふためきながら近所の狩人に助けを求め家を飛び出した。家に刀があることを忘れて……狩人は、熊の討伐を断った」
ヴェロニク「断った?」
那東「家族を守るのに銃が必要だ。警察の介入も無しに銃を使えば、国から銃と、銃を持つ免許を剥奪される……狩人の言い分を覚えているのはそこまででござる。拙者が帰ったころには、妹で腹を充たしたクマが塀から飛び出てどこかへ消えた後で、その時点で拙者は、家に刀があったことを思い出した。狩人の言い分は最もであると、後になって知ったでござる」
ヴェロニク「何がもっともよ!そんな訳」
那東「前例が、あったんでござる。熊を猟銃で射殺したら、猟銃の免許を剥奪されたという前例が。2018年砂川市、弾丸が家に当たる恐れがあったからとして、警察の介入によるクマ駆除の要請があったにも関わらず、熊を射殺した狩人本人を有罪として、猟銃携帯許可が取り消しとなったでござる」
ヴェロニク「自分たちで頼んでおいて?」
那東「今でこそ法律は整備されているが、当時の狩人は、収入源である熊の駆除すら、法律の面で止められていた。そして法律は、熊を駆除したことのない人物が作っていた。撃ったら撃ったで、職と仕事道具が奪われる。なら自分や家族を守るのために、銃を持っておきたい。そうした思いが、きっと彼にはあったのでござろう」
ヴェロニク「……」
那東「拙者は、撃たなかったその男を、家にあった刀で、怒りに任せて斬った。死なせはしなかったでござるが、今思えば攻撃する相手を間違えていたでござる。そこから森に入り、いる限りの熊を殺して、殺して、殺し回った。子供だからと見くびってのし掛かろうとする相手の自重を利用して、首を刺してまわったでござる。安達殿は、男を殺した犯人である拙者を、死んだことにしてくれて、自宅に匿ってくれたでござる」
安達「いやぁ、狩人が駆除しないってなもんで上からの命令で俺が駆り出されちまって。これ駆除したらしたで問題だろうなぁって思って森に入ったら、駆除しようとしてた熊を、君が殺っちゃってたもんで……話を聞いたらさすがにねぇ、庇いたくもなるもんさ」
那東「……あの時は、ありがとうございます」
安達「でも、君が人を傷付けたことには代わりないからね?そこはおじさんでも背負えないから」
那東「だから、こうして命をかけているでござる」
ヴェロニク「あれっ、心がないから命をかけてるんじゃ?」
那東「妹を失くしてから、何も感じなくなったでござる。正確には、熊を殺しまわっているうちに、命の価値をなんら感じなくなっていったでござる」
ヴェロニク「ごめん、変なこと聞いちゃって……」
那東「むしろ、聞いてくれてありがとうと思っているでござるよ。大抵の人は、重たい話を苦手とするでござる」
ヴェロニク「ねぇ、関係ないかもだけどさ。あなたがほら、ロリコンって言ってたじゃん。妹さんのことと関係ある?」
那東「……武器を握ると、不思議と聞こえてくるでござる、妹の悲鳴が。刀と長物の銃はより色濃く、聞こえてくるでござる」
ヴェロニク「そっ、か」
ヴェロニクは視線を落として、すると那東の耳元で囁いた。
ヴェロニク「今度、私の秘密も教えたげる」




