13話 しじま作戦
音の立たない暗い、泡の昇る音のみがひびく海の底。底面ギリギリを潜水する潜水艦は、少しだけ浮上して、角度を確保する。無線からセナの声が流れる。
セナ「注意、これは事前にダウンロードされた音声ログであり、返信は不要です。これより敵レーダーの圏内の入りますので、各員、会話が禁止となります。ブリーフィングをよく思い返しながら、作戦の遂行を。本作戦で装備する銃器は、Station six、ただ一つになります。ただし、那東様の兵装には刀が許可されています。これは本来は動物を安楽死させる為の獣医用拳銃です。構造設計の全てが、イギリスの特殊作戦用ボルトアクション式消音拳銃、ウェルロッドを参考に設計されています。今回の作戦に都合が良いので、人間にも使うことになりました。特殊9mm亜音速弾を使用。防水加工は施してあり、ライフル弾のように弾頭を尖らせることで貫徹力を確保してあります。ほとんど音はなりませんが、炸薬を減らしている関係上、頭骨やプラスチックのヘルメット以上のものは貫通できません。有効射程は8m。これより、作戦開始となります」
セナからの音声が終了すると同時に、5発の魚雷が海底から発射された。極めて低速で進んでいく魚雷は、稚内北部の海岸へ接近すると弾頭が分離し、潜水艇が5隻進んでいく。潜水艇から各自離脱し、酸素ボンベを取りつけたORCAの隊員たちは海底を泳ぎ、途中で酸素ボンベを棄てると、肺活量のみで沿岸へ泳ぎきり、セナを先頭に海面へ向かう。
セナ(サーモ、起動)
稚内港の船着き場へたどり着いて、セナは海中から熱源から敵位置を把握していく。セナは海面から顔をだすと、後ろを向いている兵士の頭部に照準を合わせて射撃する。力が抜けるように倒れ、海面に落ちるのを受け止め、静かに海底へ沈めた。停泊中の船の陰から船着き場へ全員が上がると、セナは銃をコッキングする。セナを先頭に船着き場を駆け抜けて、コンテナ群へ向かった。
ベネットが先頭に立ってハンドシグナルで指示を出す。通りやすく整備されたコンテナ群にかけられたハシゴを上っては降りて、足音を頼りに敵を仕留めては角やコンテナ内へ隠す。セナと那東、ベネットとマイローとヴェロニクに分かれてコンテナ群を抜けていった。セナはナイフ、那東は刀を抜くと、上陸地点から最も近い高層建築へ視線を向ける。
那東(第一候補地点、サフィールホテル稚内。敵の将校が出入りしていることが確認されているでござる。残りの隊員は他の建物に向かっている、本命に二人というのも不可思議でござるが、街一つ探し回るならこうするしかないであろうな)
入り口に立つ2名の歩哨。セナが目視で防犯カメラをハッキングし同じ映像を繰り返し流しれ、エントランスとロビーの明かりを消した。視線を物音でそらした瞬間に、視界の外からセナが飛びかかる。残り一名の視線が向いた瞬間に那東が喉を切り裂き、玄関前に止まっていたタクシーに叩き込む。運転手は呆気に取られて無言だった。エントランス上に登ると、熱源の集中する部屋を見つける。
セナ(計算完了)
セナは那東の左手で握ると、手と爪先を壁に突き刺すようにしてホテルの壁面を登っていく。
那東(セナ殿?)
セナ(では、宜しくお願いします)
セナは両足の爪先を突き刺して身体を壁面に固定すると、最上階の部屋の窓ガラスを叩き割り、スモークグレネードと那東を順に中へ投げ入れた。那東は刀で銃を持った敵兵を腕から順に切り落とし、スモークと部屋の中の家具を利用して敵兵士たちをなぎ倒していった。最後の兵士の首に刀をかけると、その胸元に光る勲章がいくつかあった。
将校「тебя поймали」
那東(何言ってるか分からないでござる)
那東は将校の首を跳ねた。室内にある機材が、司令部を物語る。
セナは無線を起動する。
セナ(無線)「司令部を落としました。すぐに撤退します」
那東(無線)「ここから、各自撤退というのも無理難題でござるな。拙者たちはタクシーで帰るとするでござる」
セナが室内へ入った。窓から離れ、死体を確認していく。
ベネット(無線)「当たりだったか、良い運してるなぁ。OK、こっちは鹵獲された自衛隊のハンヴィーがあったぜ。すぐに」
雷撃のような銃声が一つ、弾丸がセナに弾着した。腕が吹き飛び、漏電している。セナは取れた腕を口で咥える。
セナ(おかしい、ここは室内、音響からして明らかに狙撃……抜かれた、どうやって!?)
着弾した弾頭を確認すると、窓側の壁に一つだけ穴が開いていた。
セナは飛んでいった自分の腕を頭にかざし、銃弾を防ぐ。腕に突き刺さった弾頭は、ドリルビットのようであり、まだ回転していた。壁の穴は二つの増えている。
セナ(貫徹のみに特化した狙撃用の弾頭……対人用の何らかの新兵器)
那東「遮蔽を破壊せずに相手だけを仕留める弾丸……最新の対テロ兵器か?」
セナ「ロシアにこのような兵器が……いや、もしかして日本の?」
那東「とにかくここを離れるでござる!」
セナが那東を抱えて建物から飛び出る。着地を狙った狙撃を、セナは拳銃で射撃し弾道を反らし回避。相手は視界の奥に見える建物にいた。操縦士を脅して外へ出すと、タクシーに乗車、那東がアクセルを踏んで加速するも、まっすぐ走れない
セナ「那東様、私が防御を行いますので、どうかまっすぐ」
那東「拙者、免許無しゆえ、後免」
セナ「!?」
建物から飛来する狙撃をセナが目視で確認すると、弾道を確認し、銃を撃って弾丸に当て、狙撃をそらした。立て続けに飛んできた弾丸の一発が那東に向かうと、那東は刀でそれを打ち払った。
那東「セナ殿、拙者の刀を使うでござる。相手は狙撃はかなり正確、きっとサーモか何かで、遮蔽を越えて透視しているのかもしれなでござる」
セナはナイトビジョンでカメラをズームし、相手を確認する。敵はビルの屋上から、クリップで弾丸を装填、ボルトを閉めて特大のスコープを除いていた。
セナ「サーマルスコープ、熱源で我々を確認したのですね」
その狙撃主の構える建物の陰からヘリコプターが1機接近、狙撃主を回収して、向かってくる。さらに無線が入った。
ベネット(無線)「こちらベネット、なんか俺らも見つかったっぽいから、ハンヴィー飛ばして逃げるぜ」
セナ(無線)「狙撃に警戒を、建物を貫通するスナイパーがいます」
ベネット(無線)「……OK、こっちも今撃たれた。危なねぇ」
国道に向かって走らせると、ハンヴィーと合流した。ベネットが運転している。
セナ(無線)「ヘリを落とせる武装は?」
後ろから追ってくる偵察警戒装甲車に向かって、ハンヴィーからランチャーが放たれた車両が破壊される。
ヴェロニク(無線)「今、使っちゃった……」
セナ(無線)「いいえ、無誘導で当てられるとは」
ヴェロニク(無線)「いやぁ、当てられると思う……ごめん」
ヘリコプターからミサイルが放たれ、タクシーへまっすぐ車両へ向かってくる。セナは突然帯電すると、那東を担いでハンヴィーに投げる。ハンヴィーの中に那東が投げ込まれ、ミサイルがタクシーを直撃。爆風のなか、セナは帯電しながらハンヴィーと並走する。
エメラルド(無線)「セナ、作戦がある」
セナ(無線)「了解」
ハンヴィーに向かって、またミサイルが飛んでくる。ハンヴィーが速度を上げていくも追い付かれていく。セナが道路を抉るようにしてきびすを返した。
エメラルド(無線)「ミサイルを受け止めろ!」
セナは走り込んで飛びかかり、ミサイルの側面へ片手で掴みかかる。勢いを全て乗せることでミサイルを減速し、重みでミサイルが道路スレスレで飛行。道路へ脚を着け、一気にミサイルを減速させる。脇へ走り込んでミサイルの起動を反らすと、そのまま脇道から走り込んでミサイルの起動を、弧を描くようにして反転させ、ヘリコプターに向かって飛ばす。
セナ(撃ちっぱなしのミサイルは敵味方の区別をせず、弾道上の熱源を追っていく。ヘリに向ければ、ヘリのエンジンを熱源として、誘導を開始する!)
セナが乗ったミサイルがヘリコプターへ向かっていく。ヘリは側面を向けると、狙撃主がミサイルを撃ち抜いて、ミサイルが爆発。爆発で大きくセナが飛び上がり、ヘリコプターのプロペラすれすれを通り抜け、尻尾を掴む。ヘリコプターがバランスを崩して不安定になると、狙撃主がそんな中身を乗り出してセナを狙撃した。眼球を撃ち抜かれるも、ドリルビットのような弾頭は眼球から飛び出ていて、貫通していない。
セナ(私のCPUは劣化ウランで守られている!)
セナは片腕で身体を持ち上げると帯電し、破損した腕を機体へ擦り付け、一気に放電した。ヘリコプターのローターが爆発し、ミサイルも暴発する。セナは爆発で大きく吹っ飛ぶも、着地してそのまま走り去った。落下していく燃え盛ったヘリコプターが、地面と衝突しさらに炎へ包まれた。セナが走ってハンヴィーに乗ると、いきなり速度が落ちる。
ベネット「お前重すぎないか?」
ヴェロニクがベネットに銃を向ける。
ヴェロニク「はぁ!?女の子にそれ言うかなぁ!?」
ベネット「冗談でも仲間に銃口向けるバカじゃないと思ってたんだがなぁ」
セナ「私は女ではありません」
マイロー「セナ、ハッキングした方が早かったのでは?」
セナ「それが、IFFや操縦システムに干渉できませんでした。恐らく、通信妨害やハッキングを懸念して、新ソ連はできるだけスタンドアローンで動かしているのではないでしょうか?」
マイロー「スタンドアローン、外部通信を遮断して独立して動くコンピューター……奴らがミサイルにそんな高価なものを?」
セナはドリルビットのような弾丸を引き抜く。
セナ「何か懸念がおありですか?」
マイロー「ドリルビットのような弾頭、高価な制御装置。どれも新ソ連の意向とは思えません。彼らはウクライナ侵攻時点で、兵器はできるだけ安く調達する傾向にあります。旧式の爆弾に改修キットを組み込んで擬似的にミサイルにするような国です。セナ、ブリーフィングの時点で何か問題を発見していませんでしたか?」
セナ「……現在、マザーに打診中です」
マイロー「やはり、何か思い付いたのですね?」
墜落したヘリコプターの外で、パラシュートが電信柱に引っ掛かっている。側にいる兵士は狙撃銃を持っていて、全身の包帯が目立つ。スコープから伸びるコードは背中に背負うバッテリーと接続されている。その者が無線機を繋げる。
狙撃主(無線)「データ収集完了、やはり鉄やコンクリートなら貫徹しますが、ある兵士の頭部を貫徹できませんでした。肉体ではなく、鉄や何らかの金属で構成された兵士で、放電により機材を破壊してきます。事前の情報にはありませんでしたが、UHK崩壊時に噂の流れた、例のアンドロイドと考えます……はい……了解しました。これより帰投します、書記長」




