新緑の入力
「あの緑のメッセージアプリなんだけどさ」
文字通り、国民のライフラインとなっている。Twitterのアイコンと並ぶと爽やかであったが、いまは真っ黒なので、美観を損なう。
「伏せるようなことじゃないでしょ」
手紙もよく書く沙羅。
「うん。わりと長い文章を打つ時にさ、まどろっこしくてしょうが無いんだよ」
光道は長文のポエムを送りつけるような真似はしない。事務的な連絡事項で長くなる場合の話である。
「あの小窓内で長文を打つのは、苦痛以外の何ものでもないわ」
ピアニストはタイピングも速い。
「それにさ、しょっちゅう誤変換するんだよ」
「付け加えるなら、予測から確かにそれを選んだハズなのに、てんでおかしい文章が表示されたりすることがあるわ」
チャタリングも考えられる。
「やっぱりタッチパネルとは永遠に友達になれそうにないかな」
他に選択肢が用意されていない。無理矢理付き合わされている状態である。
「アタック25みたいなゲームなら、タッチパネルでやらないでもないけれど」
パズルゲーを延々とやれる、空間把握能力の高い沙羅。
「100人に聞きましたも行けるよ」
アレは9枚であった。
「クラブの伝達事項とかさ、あたしが纏めることがあるのよ。その時にさすがに気付くわよね。こんな小さな入力欄で、ちまちまやってらんないって」
修正しようとして消えたりなんてのは、ザラである。
「このアプリに限ったことじゃ無いんだよね。入力スペースで苦労して書いたことが飛んだりとかさ。ネット小説なんかでも悲惨な話を聞くよ」
フォーマットの下書き欄に認めた文章がフリーズしたり、保存できなくなってしまったり。
「ホラー小説じゃないの」
クラウドに保存してるから大丈夫なんて思っていると、とんでもない重傷を負う。
「僕も散々痛い目に遭ったからさ。長文を打つ時はデスクトップの文書作成ソフトを起動してるよ」
メッセージアプリをPCで開いて直接入力しても、改行が上手く出来なかったりする。
「それを経てからのコピペね」
文章作成にストレス無く打ち込める。
「うん。大事な文は保存もしとけるしさ」
メッセージアプリもいつテキストが見れなくなるか、分かったものではない。
「スマホ一台で完結なんて、やはり無理があるのよね」
キーボードを超える入力デバイスは、いまのところ見つかっていない。
「視野は確実に狭くなるねえ」
しやわせも目減りする。




