デュエット・ダイエット
「光道、緋色いくじらに行くわよ」
付加疑問文でなく、強制である。
「正月でたくさん食べたから、歌って脱脂しないとね」
北伊勢市にあるカラオケ店である。
「これ前から思ってたけど、真紅のくじらとマッコウクジラを掛けてるんじゃないかな」
本物は何も赤くない。
「そんなのに気付くの、アンタくらいよ」
ダジャレ発案者に聞くと、喜んで答えてくれるだろう。不要な情報までまくしたてられてしまうが。
「僕さ、ネット社会でこそカラオケの重要性を感じるんだよ」
どちらかと言うと、平成の趣味に感じる。
「もしかして、声量的なことかしら?」
文字打ちの機会ばかりが増えて、発声が疎かになっている。
「対面の会話が苦手なんて人が増殖中だけど、本来会話は楽しいものなんだよ」
対面が苦手でも、ネット上でコミュニケーションを取る様子が窺える。人と関わり合いになりたくないわけではないのだ。
「電話が苦手って若者も依然として多いわ」
声が上手く出せるようになれば、自然と喋りたくなるはずだとの、光道の見立てである。
「自室で大きい声を出せない住宅事情も、関係してるかもね」
北伊勢市はまだマシである。
「そうね。運動部に入ってれば事情は違うでしょうけど」
デカい声を出すと、邪気を吐き出せる。ムカムカしたら、さっさと排出したほうが精神衛生上良い。
「ストレス発散にもなってるよね。音楽は薬と言われる所以だよ」
聴かせる声は、メディカルサウンドだ。
「何を歌うの?」
レパートリーは二人とも多い。
「現代って、デュエットソングが壊滅状態だよね」
全然カラオケが始まらない。
「ラブソングを二人で歌うってのが、現代っ子にはハードルが高いのよ」
では、ラブソングでないデュエットなら良いのか。
「いくらでも作れると思うんだけどね。二人組のパートが分かれてるアーティストはいっぱい居るんだし」
チャゲ&飛鳥のハーモニーは何物にも代えがたい。
「デュエットで痩せるダイエットがあるらしいわ」
意中の人と歌うために、小綺麗になろうとの意識が働く。
「沙羅は全然必要ないね。Qちゃん&U子にしよう」
《パーヤッ パーヤッ パッパヤッパヤッ パッパッパヤッパー♪》
♠「三本毛の薄毛ぐらい大目にみろよ~」
♡「ひらきなおる その態度が気にいらないのよ~」
男女のトラブルは不幸の始まり。デュエットで喜びは二倍どころか、インフィニティになる。




