ロキの行動
ローデンは、胸を締めつけるような不快感を押し殺し、その場に踏みとどまった。
ロキは泉から少し離れた場所へ行くと、前足で地面を掘り始める。
……何をしてるんだ。
湿った土が跳ね、草が乱れていく。しばらくして、ロキがちらりとローデンを見た。
まるで、手伝え、と言わんばかりの視線だった。
「ちっ」
ローデンは小さく舌打ちをしたあと、辺りを見回し、手頃な枝木を拾った。簡単に折って先を削り、即席の道具を作る。
そして、ロキの隣にしゃがみ込んだ。
二人並んで、黙々と穴を掘る。
湿った土は重く、腕にじわじわと負担がかかる。
……こんな場所で、穴掘りなんて。
剣の訓練の方が、よほど楽だ。
ローデンは、心底うんざりしながら、土を掘り続けた。
ある程度の深さに達したところで、ロキはぴたりと穴掘りをやめた。
土にまみれた前足を軽く振り、すぐにラニアの鞄のほうへ向かう。器用に頭と前足を使って口を開き、中を探りはじめた。
……何をする気だ。
ローデンは息を荒げたまま、その様子を見つめる。
やがてロキは、ひとつの物を引きずり出した。
丸い。水晶のように透き通った球体。
だが、その内部は、濁りきった色で満たされていた。澱んだ泥水のような、見ているだけで気分が悪くなる色。
ロキはそれを迷いなくくわえ、掘り上げた穴の中へと落とした。
ころり、と鈍い音がした。
……ははは。
ローデンの口から、乾いた笑いが漏れる。
もう、本当にわからない。
何が起きているのかも、何をさせられているのかも。あの、恐ろしい存在感のある球体も。
悪夢のほうが、まだ筋が通っている。
ローデンは、心底そう思った。
ローデンは、その場に崩れ落ちた。
……疲れた。気分が、悪い。ここを、離れないと。そう思い、のろのろと身体を起こして歩き出そうとした、その瞬間。
ロキが、勢いよくローデンに飛びついた。
不意を突かれ、ローデンはあっさりとバランスを崩し、地面に倒れる。ロキはそのまま、当然のようにローデンの腹の上に乗った。
「降りろ」
忌々しげに言う。だが、ロキは動かない。
そのとき、ローデンは気づいた。
……?あの、押し潰されるような空気の重さが、消えている。
はっとしてロキを見る。
ロキはローデンの上に乗ったまま、ただじっと、こちらを見下ろしている。
何も言わない。何も動かない。それでも、わかる。
「俺は、こいつよりも、下か……」
ローデンは呟いた。
そして、背中を地面につけたまま、長く、深いため息をついた。
ローデンは、ロキがまったく動こうとしないのを見て、ついに諦めて目を閉じた。
「……好きにしろ」
空気を満たしていた圧迫感は消えたはずなのに、代わりにロキから放たれる無言の圧が、容赦なくのしかかってくる。
最悪だ。そう思ったところで、意識は唐突に途切れていた。
次に目を開けたとき、ローデンの視界に入ったのは、すぐ傍らで身体を寄せるように丸くなり、眠っているロキの姿だった。
「……嘘だろ」
森の中は、いつの間にか薄暗くなり始めている。
ローデンはがばりと起き上がり、慌ててラニアの元へ向かった。ラニアは、先ほどよりも心なしか顔色が良く見えた。
「起きろ」
肩を揺すると、ラニアはゆっくりと瞳を開いた。その瞳の中に、自分の姿が映ったのを、ローデンは確かに見た。
ラニアはぼんやりと周囲を見渡し、いつの間にか近くまで来ていたロキに目を留める。
「ありがとう。助かった」
そう言って、ラニアはロキの頭を優しく撫でた。
……おい。俺に言うことは、無いのか。
ローデンは、心の中でそう思った。




