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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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皇国からの手紙

セリウスのもとに、皇国から手紙が届いた。

差出人は、婚約者。封を切る前から、わずかに指先が震えているのを自覚する。


セリウス様

いかがお過ごしでいらっしゃいますか。

こちらはご安心くださいませ。私の身は、少しずつではございますが、確かに良い方へ向かっております。どうかご心配なさらないでください。

けれど――やはり、貴方様のお顔を一目拝見できましたなら、どれほど心強く、どれほど嬉しく思うことでしょう。早くお帰りくださいますよう、心より願っております。

離れていても、貴方様のご無事とご健勝を、いつも祈っております。


整った文字は、どこまでも穏やかで、優しかった。セリウスはゆっくりと息を吐き、顔を上げた。

「返信をすぐに書く。少し待っていてくれ」

使者は静かに頷き、その場で待った。

やがて書き終えた手紙を手に、セリウスは戻ってくる。

「待たせたな。……彼女の薬は、まだあるのか?」

何気ない問いのはずだった。だが、使者はわずかに視線を落とし、顔を曇らせた。

それを見た瞬間、胸の奥がひやりと冷える。

「……何か、あったのか?」

使者は躊躇いながら答えた。

「……薬が、無くなりました。そして、最近、咳を少し」

その言葉で、セリウスの顔色が変わった。

それがただの風邪なのか。それとも――病の再発なのか。

どちらとも、まだ判断がつかないからこそ。


「そんな……」

セリウスは、言葉を失った。

まだ、薬は見つかっていない。アグネッタは、もういない。治療を終えてから、まだ数ヶ月しか経っていないというのに。

それなのに――?胸の奥が、重く沈む。

わずかに俯いたまま、セリウスは顔を上げた。

「もしかしたら、何か薬が探せるかもしれない。あと一日、待ってくれないか」

一日で見つかるとは、思っていない。

それでも。ほんのわずかでもいい。

可能性という言葉に、すがりたかった。


調合室には、リリアーナとラニアがいた。

扉が開き、セリウスがローデンを伴って入ってくる。二人は、いつもと様子が違った。セリウスは挨拶もそこそこに、これまで調べた棚とは違う場所へ向かい、焦るように瓶や束ねた薬草を確かめ始める。ローデンは、少し難しい顔をしていた。

その背中を見ながら、リリアーナは小声でローデンに尋ねた。

「どうしたの?」

ローデンは一瞬、言うべきか迷った。けれど、リリアーナは彼の婚約者に実際に会っていると聞いていた。婚約者のことを、伝えるべきだと判断した。

「……婚約者が、咳をし始めたそうだ」

声を落として告げる。

「……それ、は」

リリアーナは言葉を失った。あのときの彼女の姿が、脳裏に浮かぶ。

「単なる咳なのか、病の再発かは、わからない」

ローデンは言った。リリアーナは目を伏せた。

……彼女がもし、ここにいるなら。何か出来るのかもしれない。でも、今は、何もできない。

「心配なの?」

ラニアが、リリアーナに問いかける。

「それは、そうよ。一度は見たのだし。セリウスの婚約者よ」

リリアーナは静かに答えた。

「ふーん」

ラニアは、温度のない声でそう言った。


「ローデン、ちょっと付き合って」

ラニアはそう言った。

「俺、なのか?」

「だって、リリアーナはセリウスの問いに答える必要があるでしょ」

ローデンは視線を向けた。セリウスは薬草の入った瓶を手に、真剣な顔でリリアーナに次々と質問をしている。

「そうだが……」

ローデンが言い淀むと、ラニアはあっさりと続けた。

「することないなら、来て」

それだけ言って、部屋を出る。

ローデンは少し迷ったあと、調合室の二人に向かって短く告げた。

「ラニアと散歩してくる」

そして慌てて、その背を追う。

ラニアは振り返ることもなく、静かに廊下を歩いていた。

「……どこに行くんだ」

ローデンは問いかけたが、ラニアは答えなかった。ただ黙って前を歩く。その背を、ローデンは無言で追う。

やがて城を出ると、見慣れない植物が一面に育てられている場所に出た。中庭にもあった、あの植物だ。

ラニアは迷いなくその中へ分け入り、ある一点でぴたりと足を止めた。振り返り、ローデンを見る。

「誰も来ないか、見張ってて」

……どういう意味だ?

戸惑いながら周囲を見回すが、人の気配はない。

ラニアはその場にしゃがみ込んだ。ローデンは視線を逸らすふりをしながら、横目で様子をうかがう。

小さな甘甘草に、ラニアが手をかざす。

そのとき、ローデンには、かすかに“何か”が見えた。

手から、植物へ。流れるような、目に見えないはずのものが。おそらく、普通の者には見えない。

しばらくして、ラニアは立ち上がり、甘甘草の葉を数枚ちぎり取った。

「帰ろう」

そう言って歩き出そうとした、その瞬間、身体がふらつく。

ローデンは反射的にラニアの腕をつかんだ。

気づく。額に汗がにじみ、顔色が悪い。

「……大丈夫なのか?」

問いかけても、ラニアは答えない。

「何か、飲み物でも」

ラニアは小さく首を振った。

「……いらない」

顔を上げたラニアの視線は、遠くを見ていた。


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