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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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こぼれ落ちた涙

暫くして、ローデンとラニアとロキは、城へ戻ってくる二人の姿を見ていた。森の道を並んで歩いてくる、エドモンドとリリアーナ。橇を引きながら、何かを話し、時折笑っている。

その様子は、遠目にもはっきりとわかった。

ロキが、ぱっと駆け出した。信じられない速さで、一直線にリリアーナの元へ向かう。

リリアーナはしゃがみ込み、ロキを迎え、優しく微笑んだ。何かを話しかけているようだったが、声までは届かない。

エドモンドもそれを見て、穏やかに笑っている。

そこだけ、空気が違った。まるで、日だまりの中にいるような、やわらかな幸福。ローデンは、無意識にその光景を眺めていた。

……いい光景だな。

そう思った、次の瞬間。ふと、隣の気配が気になり、ラニアを見た。ラニアは、唇をきゅっと噛みしめていた。そして、ぽろり、と。大粒の涙が、頬を伝って落ちた。

ローデンは目を見開いた。

……どうしてだ?泣く理由など、どこにも見当たらない。悲しいことは何も起きていない。むしろ、安心する場面だ。

無事に帰ってきて。笑っていて。幸せそうで。

なのに。ラニアは、音もなく、ただ涙をこぼしていた。

ローデンの頭は、完全に混乱していた。


何かを言うべきか。いや、何を言えばいい。

ローデンは固まったまま、隣のラニアを見た。

ラニアは、こぼれる涙を拭こうともしない。

ただ、遠くの二人を見つめたまま、静かに泣いている。

……ハンカチか?ローデンは慌ててポケットを探った。

指先に引っかかった布を引き抜く。出てきたのは、ぐしゃぐしゃに丸まったハンカチだった。

無言のまま、ラニアに差し出す。ラニアはそれをちらりと見て――何も言わず、視線を戻した。

受け取られなかったハンカチと、宙に浮いたままのローデンの手。

しばらくその姿勢で固まり、ローデンは気まずそうにハンカチをポケットへ押し込んだ。

「……エドモンドが、好きなのか」

口から出た言葉は、自分でも意味がわからなかった。ラニアはすぐに言った。

「違うよ」

視線は、ずっとリリアーナとエドモンドに向けられたままだ。ローデンは言葉を失った。

……わかんねぇ。

ラニアは、ゆっくりと瞳を閉じ、また開いた。その瞬間、涙がはっきりと頬を伝った。

無言で腕で顔を拭う。

そして、ふっと、小さく笑った。さっきまで泣いていたとは思えないほど、穏やかな笑み。

次の瞬間、ラニアは軽い足取りでリリアーナのもとへ駆けていった。

まるで、涙など最初から存在しなかったかのように。


ローデンは、しばらくその場に立ち尽くしていた。

ラニアの金色の瞳が、やけに綺麗だったこと。こぼれ落ちる涙が、妙に眩しく見えたこと。どちらも、はっきりと記憶に残っている。

エドモンドは好きではないらしい――その事実に、なぜか胸の奥が静かに落ち着いた。

理由は、自分でもわからない。

紫の髪を揺らしながら、ラニアが駆けていく。その後ろ姿を、ローデンはただ見送った。

ぽつりと、呟く。

「人外なのに、泣くなよ」

その声は、誰にも届かず、空気の中に溶けて消えた。


ラニアは、エドモンドとリリアーナの間へと駆けていった。いつもの顔で、いつもの声で、二人に何かを話している。笑ってさえいる。

けれど――ローデンは、見てしまった。

理由はわからない。何に対する涙だったのかも、まったく理解できない。

それでも、ひとつだけ、確かなことがある。

ラニアの中には、深く沈んだ悲しみがある。

それを、ローデンは知ってしまった。


「今夜は猪の肉だ」

橇を引きながら、エドモンドがローデンに声をかけた。

「いいな」

ローデンは短く答える。

「お肉いっぱいのシチューがいいなあ」

リリアーナが、嬉しそうに言った。

「僕も作るの手伝うよ」

ラニアが軽い調子で続ける。その横で、ロキがしっぽを大きく振っていた。夕暮れの空気はやわらかく、城へと戻る足取りも穏やかだ。

誰も急がず、誰も警戒していない。まるで、この世界には何の不安も存在しないかのように。

――平穏な世界。

その言葉が、驚くほど似合う、何気ない会話だった。

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